STUDY
2023.10.23
「フォーマリズム」って?アートを理解するための基礎を学ぶ【芸術理論③】
芸術が芸術とみなされるために必要な要素は何でしょうか?これまでの芸術理論解説①②では、ものごとや物体を模倣する写実主義や、芸術家の感情を示す表現主義を紹介してきました。
モデルナ美術館,ジャクソン・ポロックの絵画展, Public domain, via Wikimedia Commons
「フォーマリズム(形式主義)」は、芸術作品の「フォーム(形)」に焦点を当てた芸術理論です。この記事では、フォーマリズムについて、イタリアの大学院で美術史を専攻する筆者がわかりやすく解説します!
写実主義と表現主義の解説については、こちらの記事をどうぞ。
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芸術理論「フォーマリズム(形式主義)」とは
ショーン・スクリー『Wall Of Light』, Public domain, via Wikimedia Commons
「フォーマリズム」は、芸術を語る上で重要なものは「形」であると考える芸術理論です。フォーマリズムは作品にある抽象的で構成的な特質に注目します。「抽象的で構成的な特質」とは具体的に、線、形、色などの視覚的要素です。
芸術を芸術たらしめる要素は「形」のみで十分であり、表現内容は問題ではありません。そのため、フォーマリズムは「芸術のための芸術」というスローガンが用いられています。
フォーマリズムの特徴は、芸術の形だけを重視し、作品に含まれうる感情や物語を無視する点です。フォーマリストにとっては芸術をとおして物語を伝えることは重要ではなく、「重要な形」を提示することが真の目的であるためです。
20世紀でもっとも影響力のあった美術評論家であるグリーンバーグ(1909-1994)は、「芸術の背景には意味があってはならない」「芸術は純粋に芸術についてでなければならない」と主張しています。
グリーンバーグは絵画作品における視覚効果(遠近法や陰影など)の装置を不要とし、結果的に「平面性」を高く評価しました。形にのみフォーカスするフォーマリズムでは、ほかのものを排除する代わりに材料の物質性が探求される特徴があります。
哲学者カントとフォーマリズム芸術理論
カントの肖像, Public domain, via Wikimedia Commons
フォーマリズムの芸術理論の基礎を気づいたのは、18世紀を代表するドイツの哲学者カント(1724-1804年)です。カントが執筆した『判断力批判』では、「ある対象を美しいとみなすためには何が必要か?」の問いをかかげています。
カントは「美の判断」は、形状によってのみ下されると主張しました。カントにとっての美の判断は、快・不快の判断であり、利害関係はありません。そして「美」の感性は普遍的なものであり、美しいものはすべての人が美しさを共有できると主張します。
カントは、芸術が目的になしに抽象的なパターンを示しているにもかかわらず、あたかも目的があるかのように感じられる点についても言及しています。込められた想いや物語性がない芸術にでも、「重要な形(significant form)」があれば見る人に喜びをもたらすとカントは考えました。
カントの考え方からもわかるように、フォーマリズムの芸術理論が注目する点は「形」です。重要な形(素材や色を含む)を作ることができれば、そのほかにはなにもなくとも鑑賞者は美しさを感じるのです。
フォーマリズムの問題点
カジミール・マレーヴィチ『シュプレマティズムの構成(黄色、オレンジ、緑の長方形付き)』, Public domain, via Wikimedia Commons
フォーマリズムは、対象物の模倣を追求した写実主義、芸術家の感情の発露を重視した表現主義に続いて登場した芸術理論です。ほかの理論同様、いくつか問題点があります。
最大の問題点は、「形のみが重要」であり、「それ以外はどうでもいい」と考える点です。芸術が美しく重要な形であれば、倫理的に正しくない作品であっても認められるべきでしょうか?
また、フォーマリズムは単純に理解されづらい難点があります。芸術理論に馴染みのない一般的な鑑賞者にとって、フォーマリスト芸術家の作品はときに不可解にうつります。
平面を覆う白い絵の具や、ランダムに見える線は、鑑賞者を困惑させます。このようなフォーマリスト作品は、芸術家に技術がないかのように見えたり、視覚的に魅力がないと感じさせたりするかもしれません。
現代アートの美術館で、無地の作品や形・線だけの作品を見たことがありませんか?「これが芸術?」と感じるかもしれませんが、芸術理論をたどってみると深い芸術理論のうえに成り立つ芸術だとわかりますね。
この記事が芸術理論を理解する助けになれば幸いです。以上、芸術理論フォーマリズムについてでした!
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イタリア・ローマの大学の美術史修士課程に在籍中。3年半勤めた日系メーカーを退職後、2019年から2年半のスペイン生活を経てフリーライター、日英・日西翻訳として活動するかたわら、スペイン語話者を対象に日本語を教えています。趣味は読書、一人旅、美術館・教会巡り、料理。
イタリア・ローマの大学の美術史修士課程に在籍中。3年半勤めた日系メーカーを退職後、2019年から2年半のスペイン生活を経てフリーライター、日英・日西翻訳として活動するかたわら、スペイン語話者を対象に日本語を教えています。趣味は読書、一人旅、美術館・教会巡り、料理。
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