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STUDY

2024.7.10

ウィリアム・モリス:アーツ・アンド・クラフツ運動の旗手、その生涯と革新的なデザイン

19世紀後半、ヴィクトリア朝時代の英国を代表するデザイナー、ウィリアム・モリス。彼はアーツ・アンド・クラフツ運動の旗手として、装飾美術、テキスタイル、壁紙、家具など幅広い分野で活躍しました。自然主義的なデザインと伝統工芸への回帰を唱え、大量生産による画一的な装飾品に抗議したモリスは、独自の思想に基づいた美しい作品群を残し、現代のデザインにも大きな影響を与え続けています。

Tissu d'ameublement (V&A Museum) (9483000084) Public domain, via Wikimedia Commons.

英国デザイン界の巨匠、ウィリアム・モリスとは

William Morris age 53Public domain, via Wikimedia Commons.

ウィリアム・モリスは、1834年、ロンドン郊外の裕福なブルジョア家庭に生まれました。19世紀イギリスでは、産業革命によって社会経済が資本主義へと移行し、中世から培われてきたギルドによる手工業は衰退していきました。大量生産が可能になったことで、消費者は必要な品物を安く手に入れられるようになりましたが、熟練の技や手仕事の美しさは失われていきました。

モリスは、このような状況を憂い、中世の手工業に理想を見出しました。彼は「生活に必要なものこそ美しくあるべき」という理念のもと、1861年、仲間たちと装飾美術工房「モリス・マーシャル・フォークナー商会」(後のモリス商会)を設立しました。モリス商会では、壁紙やステンドグラス、家具の制作など、デザインから製作までを一貫して請け負い、クラフトマンシップの復活を目指しました。

モリスの歩み:理想社会を求めた波乱万丈な人生

William Morris 23Public domain, via Wikimedia Commons.

モリスは裕福な家庭で育ち、オックスフォード大学で建築を学びました。

1848年、ダンテ・ゲイブリエル・ロセッティ、ウィリアム・ホルマン・ハント、ジョン・エヴァレット・ミレイらの7人の画家が「ラファエル前派兄弟団」を結成し、
19世紀中盤の古典的な芸術ではなく、ラファエル以前の自然をありのままに映し出す描き方を尊重しました。

この活動を見たウィリアム・モリスやその盟友のバーン=ジョーンズらは影響を受け、芸術を志すことを決意します。

さらに、「ラファエル前派兄弟団」に影響を受けたモリスは、大学時代に、同人誌オックフォード・アンド・ケンブリッジ・マガジンの創刊を行っていました。
同人誌は人数も7人に限定し、当初の雑誌名か「兄弟団」にする予定だったそうです。
その後、芸術を志すことを決めたモリスは、大学を辞めて、画家のロセッティに弟子入りをします。

Jane Morris 1865Public domain, via Wikimedia Commons.

1857年、ジェーン・バーデンと出会ったモリスは、彼女に一目惚れし、結婚を申し込みました。二人の新居として建てられた「レッドハウス」は、設計から家具、壁紙、カーペット、タペストリーに至るまで、モリスと仲間たちの手によるもので、「世界で最も美しい家」と呼ばれています。

モリスは、レッドハウスでの生活を通して、理想的な社会を実現するためには、芸術と生活を一体化させる必要があることを確信しました。彼は、アーツ・アンド・クラフツ運動を牽引し、人々の生活空間を豊かにする作品を次々と生み出して行きます。

1871年、モリスはロセッティとオックスフォード近郊に理想のコミュニティ「ケルムスコット・マナー」を共同貸借し、自然と共生する生活を送りました。彼は、自然の美しさを取り入れたデザインを追求し、伝統的な工芸技術を駆使して、人々の生活空間を彩る作品を制作し続けました。

1880年代には、モリス商会と同じ理想を持つ工房やアトリエが次々と生まれました。
1888年に開かれた美術工芸協会の展覧会の名をとって、彼らの運動は「アーツ・アンド・クラフツ運動」と呼ばれるようになりました。
この運動は、芸術と工芸を融合させ、手仕事の美しさを再認識させることを目的としていました。

1896年、モリスは62歳で亡くなりました。彼の死後も、モリスの思想と作品は世界中の人々を魅了し続けています。

モリスのデザイン哲学:自然主義と伝統工芸への回帰

自然の美しさを表現するモリスのデザイン
モリスのデザインの特徴は、自然の植物や動物をモチーフにした、写実的で生き生きとした表現です。彼の作品には、花、鳥、木、昆虫など、自然界の様々なモチーフが用いられています。
特に、自然界に見られるフラクタル構造が頻繁に取り入れられており、これが彼のデザインの一貫した美しさの源となっています。

フラクタル構造を持つ自然のモチーフ

「フラクタル」とは、部分が全体の縮小版となる自己相似形の構造を持つパターンのことです。モリスはこのフラクタル構造に強くインスパイアされ、デザインに取り入れました。
例えば、彼の代表作『ウィローボウ』では、柳の枝が繰り返しパターンとして配置されており、自然のフラクタル美学を体現しています。

自然の美しさを表現するモリスのデザイン

Morris Peacock and Dragon Fabric 1878 v2Public domain, via Wikimedia Commons.

モリスのデザインの特徴は、自然の植物や動物をモチーフにした、写実的で生き生きとした表現です。彼の作品には、花、鳥、木、昆虫など、自然界の様々なモチーフが用いられています。これらのモチーフは、単なる装飾ではなく、自然への深い愛情と敬意を表すものであり、モリス自身の思想を反映したものです。

手仕事へのこだわり

モリスは、大量生産による画一的な製品に批判的でした。彼は、手仕事による丁寧な制作こそが、真の芸術であると考えていました。
彼の工房では、熟練の職人たちが、伝統的な技法を用いて、一つひとつ丁寧に作品を作り上げていました。

伝統的な技法と新しいデザインの融合

モリスは、伝統的な工芸技術を尊重しながらも、新しいデザインに挑戦し続けました。
彼は、中世の伝統的なデザインを現代風にアレンジしたり、新しい素材や技法を取り入れたりすることで、時代の変化に対応した作品を生み出しました。

モリスのデザイン:壁紙、テキスタイル、家具

モリスは、壁紙、テキスタイル、家具など、生活空間を彩る様々な作品を生み出しました。

壁紙

モリスの壁紙は、自然のモチーフを大胆に配した、鮮やかで個性的なデザインが特徴です。代表作には、『いちご泥棒』『ウィローボウ』『ひなぎく』などがあります。
これらのデザインは、自然界のフラクタル構造を反映しており、見る者に自然との一体感を与えます。


■いちご泥棒 (Strawberry Thief)

Tissu d'ameublement (V&A Museum) (9483000084)Public domain, via Wikimedia Commons.

モリスの最も有名な壁紙デザインの一つであり、彼の別荘の庭で、ツグミがイチゴをついばむ様子を描いたものです。
このデザインは、自然のフラクタルパターンを取り入れており、左右対称の構図と鮮やかな色彩が特徴です。


■ウィローボウ (Willow Boughs)

Willow Bough MET DP306734Public domain, via Wikimedia Commons.

テムズ川岸に茂る柳の木から着想を得たデザインで、繊細な柳の枝と葉が、風に揺れる様子を表現しています。優美で落ち着いた雰囲気を持つデザインは、上品な空間作りに最適です。


■ひなぎく (Daisy)

Daisy MET DP306732Public domain, via Wikimedia Commons.

初期に手がけたデザインの一つで、素朴で優しいヒナギクをモチーフにしています。可憐な花々が咲き乱れる風景が、壁紙全体に広がり、明るく優しい雰囲気を演出します。

テキスタイル

モリスのテキスタイルは、壁紙と同様に、自然のモチーフを多く取り入れたデザインが特徴です。代表作には、「ブラックトーン」「フルーツ」などがあります。

・ブラックトーン (Blackthorn)
モリスの弟子であるジョン・ヘンリー・ダールが描いたデザインで、モリスが好んだ英国の花であるブラックトーン、バイモ、スミレをモチーフにしています。これらの花々は、英国の自然の美しさを象徴するものであり、繊細で美しいデザインが特徴です。

・フルーツ (Fruit)
初期に手がけたデザインの一つで、葉や果物をモチーフに、自然の魅力を描いています。大胆で力強いデザインは、個性的な空間作りに最適です。

家具

モリスの家具は、シンプルで機能的なデザインが特徴です。彼は、無駄な装飾を省き、素材の美しさを最大限に引き出すことを目指しました。代表作には、「サセックス・シリーズの肘掛け椅子」などがあります。

- サセックス・シリーズの肘掛け椅子 (Sussex Armchair)
シンプルな構造でありながら、美しい曲線が特徴の椅子です。座り心地も良く、様々なインテリアに合わせやすいことから、現在でも多くの人々に愛されています。
モリスの友人のエドワード・バーン=ジョーンズも、同じ椅子を愛用していました。

ウィリアム・モリスをもっと知るために

ウィリアム・モリスに興味を持った方は、ぜひ彼の作品を実際に見てみてください。美術館や博物館での展示はもちろん、彼のデザインを取り入れたインテリアショップなども数多くあります。また、彼の著作を読むことで、彼の思想や芸術に対する情熱に触れることができます。
モリスの作品を通して、自然の美しさ、手仕事の大切さ、そして真の豊かさとは何かについて考えてみてはいかがでしょうか。

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ウィリアム・モリスの世界
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emma

emma

1996年群馬県生まれ、東京都在住。
フリーランスのグラフィックデザイナー。趣味は海外旅行。
日々デザインと旅に情熱を注ぐ。
大きな犬と暮らすのが夢。

1996年群馬県生まれ、東京都在住。
フリーランスのグラフィックデザイナー。趣味は海外旅行。
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