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2024.10.1
【ギリシャ神話とアート】嫉妬深いヘラの物語・作品例を解説
ヘラはギリシャ神話に登場する重要な女神で、全能神ゼウスの妻であり姉でもあります。ヘラは結婚と家庭を司る女神として崇拝されていますが、ゼウスの数々の浮気に嫉妬深く対抗したことで知られています。
目次
Marriage of Zeus and Hera (detail) Pompeian Art, Public domain, via Wikimedia Commons.
この記事では、ヘラがアートや物語に登場するシーンを紹介し、彼女の存在がどのように古代芸術と密接に関連しているかを解説します。
嫉妬深い女神ヘラの多面性
Hera Campana Louvre Ma2283, Public domain, via Wikimedia Commons.
ヘラはゼウスと同様に多くのアート作品で描かれましたが、その性格はゼウスとは大きく異なります。家庭や結婚を守る立場にありながら、ゼウスの浮気に対して激しい怒りを持つことで、彼女の嫉妬心が物語の主要な要素となりました。
ヘラは、しばしば権威と強さを象徴する姿で描かれる一方、その表情には冷たさや復讐心が見て取れることも。それは、彼女が一度怒ると手がつけられないような蛮行に出るためかもしれません。
ヘラが夫ゼウスの不貞に対して行った数々の仕打ちは神話のなかで有名です。浮気相手の女性やその子供に対して、残酷な罰を与える姿は神話の中でも象徴的なものとなっています。
ヘラの家庭的な側面は、彼女がゼウスとの子どもたち、特にヘラクレスに対して深い愛情を持っている点に表れます。ヘラはヘラクレスの出生において、ゼウスの浮気相手であるアルクメネに嫉妬し、彼の命を狙おうとしますが、同時に子どもたちの幸福を望んでいました。
アート作品や文学作品においてヘラは嫉妬深い狂女という扱いが一般的ですが、実はヘラは女性や家庭を守る女神として、結婚や家族の調和を象徴する存在でもあります。ヘラの多面性を理解することは、作品の背景にあるストーリーを正しく把握する手掛かりになるでしょう。
ヘラが登場する主なギリシャ神話アート主題3選
ここでは、ヘラが登場するギリシャ神話の代表的な物語を3つ紹介します。
• イオの受難
• ヘラクレスの苦難
• トロイア戦争におけるヘラの策略
ヘラが登場するアート主題①:イオの受難
Italian School - Jupiter and Io, Espied by Juno - 108855 - National Trust., Public domain, via Wikimedia Commons.
ゼウスが恋をした人間の女性イオがヘラの嫉妬を受け、牝牛に変えられてしまう物語です。ヘラはゼウスの浮気を疑い、イオを牝牛に変え、100の目を持つ怪物アルゴスに彼女を見張らせます。
最終的にゼウスはヘルメスを送り、アルゴスを倒してイオを救い出しますが、イオはその後も逃げ続ける人生を送りました。ヘラの嫉妬と復讐心は物語の中心テーマとなっており、彼女の性質を象徴する主題の1つです。
アート作品では、主にゼウス、イオ、ヘラ、そして怪物アルゴスが描かれ、彼らの関係性が強調されます。作品は、ヘラの嫉妬だけではなく、ゼウスの後悔、イオの苦悩を表現し、物語の悲劇的な瞬間を描くことが一般的です。
また、牝牛の姿や目のある怪物などの象徴的な要素が加わるため、神話の知識がある鑑賞者は、複数のヒントを組み合わせて主題を楽しむことができます。神話の複雑な神・人間関係が視覚的に表現される興味深いテーマです。
ヘラが登場するアート主題②:ヘラクレスの苦難
Atlas pasa a Heracles la esfera celeste, Public domain, via Wikimedia Commons.
ギリシャ神話のなかでもトップクラスに人気のあるヘラクレスはゼウスの不貞の結果生まれた子どもです。その存在は、嫉妬深いヘラの激しい怒りを引き起こし、彼の命を脅かすような困難を仕向けます。
具体的には、ヘラはヘラクレスの幼少期に毒蛇を送り込み、成人してからも数々の困難な試練を課します。特に「ヘラクレスの十二の功業」では、ヘラの影響力が大きく、彼の苦難を象徴するテーマとして描かれることが一般的です。
ヘラクレスの苦難を描いたアート作品には、彼の超人的な力と同時に人間的な苦悩が表現されます。ヘラは、ヘラクレスの英雄としての成長に対する大きな障害でした。
ヘラが登場するアート主題③:トロイア戦争におけるヘラの策略
Hera, Athena and Iris in the Trojan War (Attributed to Jacques Réattu), Public domain, via Wikimedia Commons.
トロイア戦争では、ヘラはアキレウスをはじめとするギリシャ側を支援し、ゼウスの命令に逆らってまで戦争の行方を左右しました。ヘラがトロイア戦争に参戦したのは、主に「パリスの審判」に起因します。
この事件では、パリスがアフロディーテを選んだため、ヘラは激しい嫉妬と怒りを抱きました。ヘラは戦争を通じてトロイア側に対抗することで、アフロディーテへの復讐を果たそうとしました。このように、個人的な恨みが戦争への参戦を促す要因となったのです。
アートでは、彼女が軍神アテネや美の女神アフロディーテと共に描かれることが多く、知恵と策略を用いる彼女の姿が強調されます。ヘラは、アフロディーテに対抗するため、ギリシャ軍の勝利を望んで戦争を助ける一方で、トロイア側にも不運をもたらす神々の介入を促しました。つまり、ヘラは戦争の因果関係を複雑にしているのです。
ヘラはギリシャ神話の中で嫉妬深い妻として描かれる一方、家庭を守る強い女神としての役割も果たしています。彼女が登場する神話はアートの中でも重要なテーマとして取り上げられ、古代からルネッサンスに至るまで多くの作品に影響を与えました。
ギリシャ神話に関する作品を鑑賞する際は、ぜひヘラの多面性に注目してみてくださいね。以上、ギリシャ神話とアート・ヘラについてでした!
関連記事:【ギリシャ神話とアート】ゼウス(ジュピター)の物語・作品例を解説
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イタリア・ローマの大学の美術史修士課程に在籍中。3年半勤めた日系メーカーを退職後、2019年から2年半のスペイン生活を経てフリーライター、日英・日西翻訳として活動するかたわら、スペイン語話者を対象に日本語を教えています。趣味は読書、一人旅、美術館・教会巡り、料理。
イタリア・ローマの大学の美術史修士課程に在籍中。3年半勤めた日系メーカーを退職後、2019年から2年半のスペイン生活を経てフリーライター、日英・日西翻訳として活動するかたわら、スペイン語話者を対象に日本語を教えています。趣味は読書、一人旅、美術館・教会巡り、料理。
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