STUDY
2025.4.10
『しましまぐるぐる』(Gakken)の絵の魅力とは?子どもがアートを感じられる絵本
「子どもがアートを感じられる絵本」を紹介する連載企画。今回は、累計発行部数150万部を超えるベビーブック『しましまぐるぐる』を、アートの視点から解説します。
目次
かしわらあきお絵『しましまぐるぐる』Gakken、2009年(画像提供:Gakken)
この絵本は、生後6か月未満のお子さんが注目する色や形をもとに制作されているのが特徴です。赤ちゃんが生まれながらに興味を示すコントラストの強い配色や、反応が良いとされるくり返しの模様が描かれています。
『しましまぐるぐる』は、8年連続で「赤ちゃん認識絵本」部門の売上ランキング1位(※)を獲得しており、0〜2歳のお子さんやその親御さんが楽しめる絵本として人気を博しています。
(※)2023年丸善ジュンク堂書店調べ(Gakken 学研出版サイト「驚異の150万部突破! 赤ちゃん向け絵本1位の『しましまぐるぐる』豪華プレゼントキャンペーン開催!!」より)
この記事では、『しましまぐるぐる』の色彩やデザインに注目し、なぜ小さなお子さんが夢中になるのか、その魅力を解説。作者のかしわらあきおが絵本作りで大事にしているポイントや、本書が生まれた背景もご紹介します。
記事の最後では、読み聞かせに留まらない『しましまぐるぐる』の楽しみ方にも触れていますので、ご家庭で気軽にアート教育を始める参考にしてくださいね。
絵本の特徴
かしわらあきお絵『しましまぐるぐる』Gakken、2009年、p.9, 10(画像提供:Gakken)
カラフルな色調と黒・白の組み合わせが印象的な『しましまぐるぐる』。鮮やかでコントラストが強い配色が使われているのは、赤ちゃんの認識のしやすさに関係しています。
生後6か月未満の赤ちゃんは、視力が発達する過程にありますが、赤、白、黒といった色に関心を示すそうです。
また、目と口がある<かお>や「しましま柄」と「ぐるぐる柄」も、幼いお子さんの反応が良いとされています。
編集者が何人もの赤ちゃんに途中経過を見てもらい、かしわらへフィードバックしながら、絵本を制作しました。子どもたちが楽しめる表現を追求したからこそ、15年以上にわたり親しまれる作品が誕生したと言えるでしょう。
アートを感じられるポイント
かしわらあきお絵『しましまぐるぐる』Gakken、2009年、p.23, 24(画像提供:Gakken)
ここでは、作者のかしわらのデザインや色彩表現にフォーカスし、『しましまぐるぐる』でアートを感じられるポイントを3つご紹介します。
楽しさと分かりやすさを追求したデザイン
作者のかしわらは、キャラクター開発・動画制作・ブックデザイン・商品企画など、幅広い分野で活躍するクリエイターです。自らのイラストを素材にデザインを展開し、ひとつの世界観を作ることを得意としています。
『しましまぐるぐる』をはじめとする「いっしょにあそぼ」シリーズが累計350万部を突破するなど、大人気の絵本を数多く手がけるかしわら。『しましまぐるぐる』は彼が初めて制作したベビーブックですが、最初は試行錯誤だったと言います。
しかし、様々な表現を模索するうちに、楽しくて分かりやすく、心が弾むような絵本を作るには、これまで培ってきたデザイナーの経験が活かせると気づいたそうです。
そして、幼いお子さんが一目でモチーフを認識できるような作品に仕上がりました。また、白や黒をベースにした見開きの後に、カラフルな色調の絵が広がるなど、好奇心をくすぐる演出が施されています。
かしわらは、まず自分が楽しめるかを基準にしながら、思い切った表現や柔軟な発想力を駆使して、子どもたちがワクワクできる作品を生み出しているのです。
絵と言葉のリズム感
かしわらは、心地良いリズム感で絵本が展開することを重視しているそうです。絵本のテキストはもちろん、イラストをどのように配置するか、どんな順番でページを構成するかなど、細部まで考え抜かれています。
『しましまぐるぐる』では、「しましま」と「ぐるぐる」が交互にくり返されるというパターンがあるため、読者が馴染みやすい構成になっています。
テキストも、「しましましま こんにちは」の次の見開きで「ぐるぐるぐる こんにちは」と同様のあいさつを続けるなど、ページ同士につながりを持たせているのが特徴です。
また、ヘビやハムスターなど、同じ動物が何匹も描かれている賑やかな見開きもあります。
キャラクターのサイズや空間の取り方が工夫されているため、窮屈さを感じさせず、カラフルで楽しい印象を与えます。
このように、気持ちの良いリズム感が生まれるよう意識した絵本だからこそ、幼いお子さんが夢中になるのでしょう。
意外性から生まれた表現
作者のかしわらは、始めから面白いものを考えようとするのではなく、身の回りからインスピレーションを受けることを大事にしていると言います。ふとした瞬間に浮かんだ言葉を書き留めておき、キャラクターの設定やストーリーの展開を膨らませていきます。
また、下描きなしで制作することも多く、自分の想像を超えるような、意外性のある絵に仕上がるよう、心がけているそうです。
『しましまぐるぐる』にも、意外性に富んだ表現がたくさんあります。たとえば、カラフルな魚が登場するシーンでは、一見すると同じサイズと模様のキャラクターが並んでいるように思えます。
けれども、よく観察すると、サイズや形に違いがあったり、しま模様の幅が異なっていたりと、キャラクターそれぞれの個性が表れているのです。
かしわらの作品は明快な表現が魅力ですが、細部に注目すると、動物たちのユニークさが見えてきます。読み聞かせの際、お子さんに「どの動物が好き?」と尋ねてみると、さらに絵本に愛着がわくかもしれません。
親子の関係を豊かに育む表現
かしわらあきお絵『しましまぐるぐる』Gakken、2009年、p.3, 4(画像提供:Gakken)
「赤ちゃんが泣き止んだ」「絵本に興味を示してくれた」という親御さんの声が多く寄せられている『しましまぐるぐる』。実は、双子のママである編集者が、「赤ちゃんに泣き止んでもらいたいと願うママ・パパたちを絵本で助けたい」という思いから生まれました。
作者のかしわらは、彼女の思いを形にするとともに、親子でコミュニケーションを取る大切さを、絵本を通して伝えていると言えるでしょう。
『しましまぐるぐる』は、2019年に、“親が子どもに与えるべき良質な商品に与えられる” 北米の権威ある賞「ナショナル・ペアレンティング・プロダクト・アワーズ」を受賞しました。
海外でも高い評価を得ていることからも、彼の作品は親子の関係を豊かに育んでいると言えます。
ここでは、絵本が制作された背景や、『しましまぐるぐる』の様々な楽しみ方をご紹介します。
双子のママの思いを形にした絵本
『しましまぐるぐる』を企画した編集者は、双子の男の子を育てるママ。育児の大変さを痛感し、「0歳の赤ちゃんが泣きやんで笑顔になる絵本を作りたい!」と考えたことから、この作品が誕生しました。
『しましまぐるぐる』の公式ホームページでは、赤ちゃんが夢中で絵本を見たり、自らページをめくったりする様子が紹介されています。
幼いお子さんが関心を示す色や模様に、柔軟な発想力を組み合わせたかしわらのこだわりによって、子育ての悩みに寄り添った作品が生まれたと考えられるでしょう。
親子のコミュニケーションを促す作品
『しましまぐるぐる』は、読み聞かせに限らず、様々な楽しみ方ができるのが魅力です。
たとえば、穴が空いているページのしかけ部分を使って、感触を確かめたり指を通したりして遊べます。しかけ穴は手作業で紙の断面をつぶし滑らかになっているため、小さなお子さんも安心して使えますよ。
また、厚紙で作られた絵本は、耐水コーティングが施されており、安全で丈夫な構造です。濡らしたり叩いたりしても破れにくいので、お気に入りのおもちゃのように遊ぶことも可能です。
『しましまぐるぐる』にはオリジナルのテーマソングがあり、歌ったり身体を動かしたりと、親子で一緒に楽しめます。
絵本のテキストが歌詞になっているので、読み聞かせをしながら歌ってあげると、お子さんが喜んでくれるでしょう。テーマソングは、『しましまぐるぐる』公式ホームページの「ムービー」から視聴できますよ。
このように、お子さんが好きなものに合わせて、色々な遊び方を考えられます。一冊の絵本をきっかけに、親子のコミュニケーションが広がることでしょう。
まとめ
この記事では、『しましまぐるぐる』をアートの視点から解説し、なぜ幼いお子さんが夢中になるのかをひも解きました。
鮮やかでコントラストが強い配色やくり返しの模様が特徴ですが、実際に赤ちゃんの反応を見て取り入れていったことが分かりますね。
また、描かれているものが明快なだけでなく、細部に注目すると、キャラクターの表現の違いも見えてきます。読み聞かせをしながら、好きな動物や色を尋ねてみると、お子さんの個性も発見できるかもしれません。
さらに、絵本のしかけやテーマソングなど、読むことに限らず幅広い遊び方ができます。『しましまぐるぐる』をきっかけに、幼い頃から色彩や形に親しむことで、豊かな感性が育まれるでしょう。
ぜひ本書を手に取って、お子さんとコミュニケーションを深めながら、アート教育の第一歩を踏み出してみてくださいね。

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アートと文化のライター。アーティストのサポートや、行政の文化事業に関わった経験を活かし、インタビューや展覧会レポートを執筆しています。難しく考えがちなアートを解きほぐし、「アートって面白い」と感じていただける記事を作成します。
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