Facebook X Instagram Youtube

STUDY

2025.4.30

「ミッケ!」をアートの視点で楽しむ。写真で表現する自由な遊びの世界

「ミッケ!」の魅力がたっぷり詰まった展覧会「ミッケ!のせかいであそぼう展」が、いよいよ愛知県にやってきました。
本展は、おかざき世界子ども美術博物館で、2025年4月19日(土)~6月22日(日)まで開催中。

この記事では、親子で展覧会を楽しむ入り口として、「ミッケ!」でアートを感じられるポイントをご紹介し、誰もが引き込まれるおもちゃの世界がどのようにして生まれたのか、詳しく解説します。

写真/ウォルター・ウィック 訳/糸井重里 『チャレンジミッケ!① おもちゃ箱』小学館、2005年写真/ウォルター・ウィック 訳/糸井重里 『チャレンジミッケ!① おもちゃ箱』小学館、2005年 ©Walter Wick/小学館(画像提供:小学館)

大人気さがしっこ絵本シリーズ「ミッケ!」。ジオラマ写真に隠されたアイテムを探すというユニークな絵本で、1991年にアメリカで出版されて以来、子どもから大人まで多くの人々に愛されてきました。


日本でも絶大な人気を誇り、国内のシリーズ累計発行部数はなんと1,000万部を突破(2024年7月時点)。作者のウォルター・ウィックは、2017年以降に刊行した『チャレンジミッケ!』10〜12巻について、「日本のファンの方々のためにつくった特別なもの」と語っています。

そんな「ミッケ!」の魅力がたっぷり詰まった展覧会「ミッケ!のせかいであそぼう展」が、愛知県のおかざき世界子ども美術博物館で、2025年6月22日(日)まで開催中です。

この記事では、親子で展覧会を楽しむ入り口として、「ミッケ!」でアートを感じられるポイントをご紹介し、誰もが引き込まれるおもちゃの世界がどのようにして生まれたのか、詳しく解説します。

すでに絵本に親しんでいる方も、初めて読む方も、きっと新たな発見があるでしょう。

細部までこだわったおもちゃの世界「ミッケ!」

写真/ウォルター・ウィック 訳/糸井重里 『チャレンジミッケ!⑪ へんてこりんなおみせ』小学館、2021年写真/ウォルター・ウィック 訳/糸井重里 『チャレンジミッケ!⑪ へんてこりんなおみせ』小学館、2021年 ©Walter Wick/小学館(画像提供:小学館)

シリーズ1作目の『I SPY ミッケ!(原題:”I SPY”、1991年)』が発売された当時、写真で作られた絵本はまだ少なく、瞬く間に評判となりました。しかし、人気の背景には、単なる珍しさではなく、作者・ウィックの類まれな創造力と卓越した写真の技術があったと言えます。

彼は、手作業でセットを組み立てたり、ドールハウスを自らデザインしたりと、並外れたこだわりを持ち、細部まで徹底的に作り込んでいます。

さらに、光の当て方やカメラの角度を調整することで、独自の世界観を生み出しました。近年の作品ではデジタル技術を使用しているものもありますが、写真の修正というより効果的な演出を目的としています。

「ミッケ!」シリーズのもうひとつの魅力は、まるで目の前におもちゃがあり、実際に遊んでいるかのような感覚になることです。つい見入ってしまう写真がどのように制作されているのか、そのヒントを探ってみましょう。

「ミッケ!」でアートを感じられるポイント

写真/ウォルター・ウィック 訳/糸井重里 『チャレンジミッケ!⑪ へんてこりんなおみせ』小学館、2021年、p.24, 25写真/ウォルター・ウィック 訳/糸井重里 『チャレンジミッケ!⑪ へんてこりんなおみせ』小学館、2021年、p.24, 25 ©Walter Wick/小学館(画像提供:小学館)

ここでは、作者・ウィックの表現に注目し、「ミッケ!」でアートを感じられるポイントを3つご紹介します。

1枚の写真をじっくり見てもらう工夫

「『ミッケ!』を読み始めたら、いつの間にか1枚の写真に没頭していた」という経験をした方は多いでしょう。思わず見入ってしまうウィックの作品。その背景には、「自分の写真をできるだけ長く見つめてもらいたい」という彼の写真家としての思いがありました。

ウィックはフリーのカメラマンとして活躍し、これまでに『ニューズウィーク』『ディスカバー』など、300を超える雑誌や本の表紙を手がけてきました。

そのため、絵本のアイデアをひらめいた時も、「写真とじっくり関われるようなものを作りたい」という考えが、ごく自然に浮かんだと言います。プロの写真家としての真摯な姿勢が表れているエピソードです。

さらに、この絵本には、1枚の写真を最大限に楽しめるよう、数々の工夫が凝らされています。積み木をアルファベット順に辿る迷路や視覚のトリックを使った謎解きなど、「ミッケ!」には探す以外の遊びもたくさん盛り込まれています。

また、『チャレンジミッケ!』シリーズのすべての見開きに登場する「シーモア」は、”see more(もっと見て)”とかけ合わせたネーミングで、「絵本をもっと見て、たのしいことをいっぱい探してね」というウィックのメッセージが込められています。「ミッケ!」には、好奇心を刺激するしかけが詰まっているのです。

自らの手で創造する「非現実的な空間」

「ミッケ!」にはたびたびドールハウスが登場しますが、市販のものは一切使わず、ウィックが自らデザインしているそうです。ドールハウスに限らず、手作業でセットを組み立てるなど、細部までこだわってそれぞれのシーンを制作しています。

彼は、楽しく探してもらいたいという思いや洗練された表現を突き詰めていくと、おのずと「非現実的な空間を作ることになる」と語ります。イメージに合うドールハウスを購入してアイテムを配置するのも可能ですが、退屈な写真になってしまうとウィック。

「非現実的な空間」という言葉は、「ミッケ!」のオリジナリティを探るヒントになります。

たとえば、記事の冒頭に掲載した『チャレンジミッケ!① おもちゃ箱』の表紙は、サイコロや積み木が無造作に並べられ、子ども部屋の棚を思わせます。

しかし、中央の鏡には青空と雲が映っており、普通の室内ではないことを暗示しているのです。棚の手前にはいったいどんな空間が広がっているのか、想像を掻き立てられますね。

ただおもちゃを並べるのではなく、ファンタジックな要素を織り交ぜることで、独自の表現が生まれていると言えるでしょう。

写真ならではの表現を追求

「ミッケ!」の大きな特徴は、モチーフへの光の当て方やカメラの角度を工夫して、それぞれの作品を撮影している点です。

こうしたウィックの表現は、ニューヨークでフォトグラファーとして活躍していた時から培ってきた技術力に裏付けられていると言えます。彼は「『目の前にあるものを使って何かを作れる』ことが自身の能力だと思う」と語っており、当時から他の写真家にはできないような表現を探究していたそうです。

そして、1985年にアメリカの雑誌『Games』に写真のパズルゲームを発表すると、たちまち大人気となりました。人気の理由は、ウィックのオリジナリティ溢れる世界観と、視覚のトリックを使った新感覚のゲーム性にあったと言えるでしょう。

たとえば、彼の作品には、鏡の反射を使ったトリックがたびたび登場します。「ミッケ!」でも、鏡に映るモチーフが手前と異なるなど、パッと見てどこか違和感を覚えるようなしかけが施されています。

このような錯覚を利用した作品も、多くはデジタル技術の力を借りずに制作されているそうです。鏡の部分にパソコン上で別の写真をはめ込むことはありますが、写真自体には手を加えていません。

カメラの特性や目の錯覚への深い知識が、ウィックならではの表現を生み出しているのです。

遊びの自由さを伝える絵本

写真/ウォルター・ウィック 訳/糸井重里 『チャレンジミッケ!① おもちゃ箱』小学館、2005年、p.26, 27写真/ウォルター・ウィック 訳/糸井重里 『チャレンジミッケ!① おもちゃ箱』小学館、2005年、p.26, 27 ©Walter Wick/小学館(画像提供:小学館)

「ミッケ!」の創作の背景を深く知るほど、この絵本が決められた見方ではなく、自由な遊びを促していることに気がつくでしょう。アイテム探しを入り口に遊びが広がっていき、子どもたちが独自に楽しめるよう工夫されています。

ここでは、作者のウィックが大切にしている「没入感」と「古典的」というキーワードに注目し、時代が移り変わっても「ミッケ!」が愛される理由を探ります。

遊びに没頭する感覚

ウィックは幼かった頃、手元にあるおもちゃを使って、時間を気にせず延々と遊んでいたそうです。彼が幼少期を過ごした1960年代は、今よりおもちゃの数は少なかったものの、目の前にあるもので何かを創造する遊びに没頭できたと振り返ります。

しかし、現代の多くの子どもたちは、学校から帰宅した後も勉強や習い事で忙しい日々を送っています。それでも、遊びに没頭する感覚は世界中の子どもたちと共有できるとウィックは感じており、それを体現できるような絵本を作り続けているのです。

「ミッケ!」のページを開くと、目の前のおもちゃで遊んでいるような感覚になりますが、その秘密はモチーフの撮影方法にあります。

ウィックは、撮影した時にほぼ原寸になるモチーフをピックアップしたり、時には人形を手作りしたりと、サイズにもこだわって制作しているそうです。改めて「ミッケ!」シリーズを見返してみると、おもちゃの大きさが原寸に近いことを発見できるでしょう。

こうしたしかけを違和感なく取り入れているのが、「ミッケ!」の魅力です。

時代に流されない古典的な遊び

ウィックは、子どもたちが没入感を楽しむのは、今も昔も変わらない「古典的なもの」だと表現しています。シリーズ1作目が出版された1991年から、30年以上もの間世界中の子どもたちに愛されてきたのは、彼が幼い頃の感覚を大切にしながら制作してきたからだと言えるでしょう。

さらに、ウィックが昔ながらのおもちゃを使って「ミッケ!」を作っていることも、「古典的」というテーマに通じています。

たとえば、シリーズで最もよく使われている木のブロック。誰もが目にしたことがあるシンプルなおもちゃだからこそ、組み立て方次第で街や庭などを自在に表現できます。想像力を使えば様々なものに見立てられるという考え方は、この絵本のコンセプトである「遊びの自由さ」にもつながります。

子どもたちの遊びの本質に寄り添った「ミッケ!」。その制作プロセスのひとつひとつに、ウィックの「遊びに没頭する感覚を大事にしたい」という思いが込められていると分かりました。

時代が移り変わっても、彼の作品は世界中の子どもたちに愛され続けることでしょう。

まとめ

写真/ウォルター・ウィック 訳/糸井重里 『チャレンジミッケ!⑫ おばけだよ』小学館、2024年、p.4, 5写真/ウォルター・ウィック 訳/糸井重里 『チャレンジミッケ!⑫ おばけだよ』小学館、2024年、p.4, 5 ©Walter Wick/小学館(画像提供:小学館)

この記事では、「ミッケ!」でアートを感じられるポイントを紹介し、ウォルター・ウィックのこだわり抜かれた表現や遊びの自由さに注目しました。

カメラの特性や光の当て方、視覚のトリックを駆使して作られたオリジナリティ溢れる「ミッケ!」の世界。読むたびにきっと新たな発見があるでしょう。

おかざき世界子ども美術博物館で開催される「ミッケ!のせかいであそぼう展」では、幅3メートルを超える特大サイズにプリントされた写真や、「リアルジオラマミッケ!」を楽しむことができます。子どもから大人まで、絵本とは一味違う臨場感を味わえるはず。

ぜひ会場を訪れて、お子さんと一緒に絵本の世界を体感してみてくださいね。

《参考文献》
・写真/ウォルター・ウィック 訳/糸井重里 『チャレンジミッケ!① おもちゃ箱』小学館、2005年
・写真/ウォルター・ウィック 訳/糸井重里 『チャレンジミッケ!⑪ へんてこりんなおみせ』小学館、2021年
・写真/ウォルター・ウィック 訳/糸井重里 『チャレンジミッケ!⑫ おばけだよ』小学館、2024年
・ウォルター・ウィック 写真と文/林田康一 訳『視覚ミステリーえほん』あすなろ書房、1999年

《参考ウェブサイト》
「世界中の子どもたちと共有できるはずの、普遍的で、古典的なもの。『ミッケ!』は私の、美しい冒険。」(ほぼ日刊イトイ新聞)
「大人気さがしっこ絵本シリーズ「ミッケ!」 シリーズ国内累計 1,000万部突破!」(小学館、2024年7月23日公開)
『ちょっとやさしいチャレンジミッケ! シーモアのともだち』(小学館)

【写真5枚】「ミッケ!」をアートの視点で楽しむ。写真で表現する自由な遊びの世界 を詳しく見る イロハニアートSTORE 50種類以上のマットプリント入荷! 詳しく見る
浜田夏実

浜田夏実

  • instagram
  • twitter
  • note

アートと文化のライター。アーティストのサポートや、行政の文化事業に関わった経験を活かし、インタビューや展覧会レポートを執筆しています。難しく考えがちなアートを解きほぐし、「アートって面白い」と感じていただける記事を作成します。

アートと文化のライター。アーティストのサポートや、行政の文化事業に関わった経験を活かし、インタビューや展覧会レポートを執筆しています。難しく考えがちなアートを解きほぐし、「アートって面白い」と感じていただける記事を作成します。

浜田夏実さんの記事一覧はこちら