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2026.2.27

【3.11から15年】非常口のマークはなぜ緑?命を救うデザイン #知り続ける

駅や地下街、オフィスやデパートなど、いたるところにある「非常口」のマーク。見ない日はないくらい慣れ親しんでいますが、日本で生まれたことや緑色である理由、「緑の人」の名前などは、知らない人が多いのではないでしょうか?

この記事では、身近なのに意外と知らない非常口マークの豆知識を紹介していきます。

非常口の「緑の人」は日本で生まれた!

今では世界中で使われている非常口のマーク(ピクトグラム)ですが、誕生したのは1980年代。それ以前の日本では、「非常口」という漢字3文字の標識が使われていました。約40年前まで「緑の人」はいなかったのです。

日本でかつて一般的だった非常口誘導灯(Rebirth10 • CC BY-SA 4.0)日本でかつて一般的だった非常口誘導灯(Rebirth10 • CC BY-SA 4.0), Public domain, via Wikimedia Commons.

ピクトグラムが生まれたきっかけは、相次いだデパートでの火災でした。1972年には大阪市のデパートで、1973年には熊本市のデパートで火災が発生。いずれも100人以上が亡くなった悲惨な事件です。

多くの犠牲が出た最大の理由は、「非常口がわかりにくかったこと」でした。当時、誘導灯の表示は「非常口」という漢字のみ。しかもサイズが小さく、見にくかったのです。結果として、大勢の方の避難が間に合わず、被害が大きくなりました。

避難口誘導灯(筆者撮影)避難口誘導灯(筆者撮影)

そこで持ち上がったのが、「デザインの伝わりやすさ」という課題。1979年、消防庁は公募でアイデアを募集し、全国から3000以上のデザインが寄せられました。その中から選ばれた1点を、デザイナーの太田幸夫さんが中心となって改良。そうして生まれたのが、私たちがよく知る非常口のピクトグラムです。

1980年代からは各施設にこのピクトグラムが導入され、「非常時はこっちに避難して!」というメッセージが直感的にわかりやすくなりました。

非常口ピクトグラムが緑色の理由は?

非常口のピクトグラム(筆者撮影)非常口のピクトグラム(筆者撮影)

非常口のピクトグラムは、必ず緑色ですよね。例外を見たことはありませんが、他の色ではいけない理由があるのでしょうか?

赤が使われている標識の例(筆者撮影)赤が使われている標識の例(筆者撮影)

たとえば、危険や警告を知らせる標識には赤や黄色が使われます。「警告色」といって人の目につきやすく、感覚的に「危ないぞ!」というメッセージを伝えられる色です。

これを踏まえると、非常口も赤にした方が目立って良いのでは? と思えてきますが、緑でなければならない理由がありました。それは、「火災のときに見やすいこと」。炎に包まれた状態だと、赤色はかえって目立ちにくいのです。

左:非常口のピクトグラム(消防庁告示「誘導灯及び誘導標識の基準」)、右:左の画像を筆者が加工左:非常口のピクトグラム(消防庁告示「誘導灯及び誘導標識の基準」)、右:左の画像を筆者が加工, Public domain, via Wikimedia Commons.

一方、緑は赤の補色(反対色)です。補色とは正反対の色の組み合わせで、お互いに引き立て合う色のことです。つまり、緑は炎の中でもっとも見やすい色。非常時においては、赤よりもハッキリと目立つ色なんです。

また、緑色には気持ちを落ち着ける効果が期待できる、と言われています。効果のほどはわかりませんが、非常時にも冷静な判断ができるように…といった願いも込められているのかもしれません。

実は2種類ある!非常口ピクトグラム

避難口誘導灯と通路誘導灯(筆者撮影)避難口誘導灯と通路誘導灯(筆者撮影)

非常口のピクトグラムは2種類あるのですが、気づいていた方は…多くはないと思います。

その2種類とは、背景が緑の「避難口誘導灯」と、背景が白の「通路誘導灯」です。デザインをアレンジしたバージョンが2つあるのではなく、それぞれ意味が異なるんです。

避難口誘導灯(筆者撮影)避難口誘導灯(筆者撮影)

背景が緑の「避難口誘導灯」は、非常口そのものに掲げられます。たとえば、屋外に通じる出口や避難階段の出入口などにあります。

通路誘導灯(筆者撮影)通路誘導灯(筆者撮影)

一方、背景が白の「通路誘導灯」は、非常口までの経路を示しています。曲がり角など迷いやすい箇所などに設置され、矢印にしたがって進むと、非常口にたどり着けます。

つまり、「通路誘導灯」の矢印が示す方向に進んでいくと、「避難口誘導灯」のある非常口に到達できる、ということ。万が一に備えて、職場のオフィスや自宅のマンションなどで、避難経路と非常口の位置を確認しておくと良さそうです。

もしかしたら、非常口だと思っていた場所にあるのは通路誘導灯で、実際の非常口までは意外と距離があった…なんてことがあるかもしれません。

世界中に広がった非常口のピクトグラム

通路誘導灯(筆者撮影)通路誘導灯(筆者撮影)

日本で生まれた非常口のピクトグラムは、今では世界中のあらゆる施設で見られます。これは、ピクトグラムが国際規格ISOに採用されているからです。

ですが、国際規格となるまでにはドラマがありまして…。1980年代、先に国際規格として非常口のピクトグラムを提出していたのはソ連でした。ソ連の案で決まりかけていたところ、遅れて日本が案を提出。ソ連からは抗議されますが、デザインが優れていたこともあって、日本の案も議論されることとなりました。

ソ連が提出した案ソ連が提出した案, Public domain, via Wikimedia Commons.

こうして、自国の案を採用してほしい両国が中心となって熱い議論が交わされることに。

「そっちの案はここがわかりにくいよ!」(意訳)
「なんだと!? そっちこそ、ここがわかりにくいじゃないか!」(意訳)

のように議論は平行線へ…。決め手となったのは、視認テストによる検証でした。見やすさで日本案に軍配が上がり、ソ連が案を取り下げ。そして一部を修正したうえで、日本案が国際基準となりました。

非常口のピクトグラム(ISO 7010)非常口のピクトグラム(ISO 7010), Public domain, via Wikimedia Commons.

このような経緯があり、非常口のピクトグラムは世界中で見られるものになりました。日本で生まれた「非常口の緑の人」は、世界を股にかけて人々を救っているのですね。

※場所によっては違う標識を使っていることもあります。国際規格を採用していなかったり、古い標識がそのまま使われていたりするケースもあるので、海外では現地の情報をご確認ください。

緑の人の名前は「ピクトさん」?

避難口誘導灯(筆者撮影)避難口誘導灯(筆者撮影)

そんな頼もしい「非常口の緑の人」には、実は名前があるんです。その名も「ピクトさん」。絵や図形で情報を伝える「ピクトグラム」に由来します。

名前をつけたのは、日本ピクトさん学会会長の内海慶一さん。非常口だけでなく、他のピクトグラムに登場する人たちもまとめて「ピクトさん」と呼ぶそうです。

内海さんは、

「自らの体を犠牲にし、無言のメッセージを投げかけるピクトさん。その姿から、我々は多くの事柄を学び取ることができます。」

と語っています。非常口のサインはありふれていて珍しくないですが、非常時には1つ1つが生き延びる道を示す星になります。この機会によく使う施設の避難経路を見直し、防災について一緒に考えてみませんか?

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明菜

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美術ブロガー/ライター。美術ブログ「アートの定理」をはじめ、各種メディアで美術館巡りの楽しさを発信している。西洋美術、日本美術、現代アート、建築や装飾など、多岐にわたるジャンルを紹介。人よりも猫やスズメなど動物に好かれる体質のため、可愛い動物の写真や動画もSNSで発信している。

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