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NEWS

2023.10.2

イタリア出身のコミックアーティスト、ルカ・ティエリとキングオブポップ、江口寿史の二人展

2018年から全国各地を巡回した「彼女展」で話題となった江口寿史。今回は、イタリア出身のコミックアーティスト、ルカ・ティエリとの二人展が、靖国神社近くの九段南のイタリア文化会館にて10月29日(日)まで開催されています。

サムネール画像

今回のテーマは「トーキョー・アルテ・ポップ」。アルテとはイタリア語でアートという意味で、和訳すると東京アートポップ。

キュレーションを担当した都立大学准教授の楠見清氏は「彼女展」の監修や同展の各章の文章も担当しており、ポップ・アートとポップ・カルチャーの専門です。

この展示では、東京のポップ文化を背景に、ルカ・ティエリと江口寿史の独特な視点で描かれた東京の風景やキャラクターたちを、新作含む29点で展覧していきます。

年代も国籍も違う江口寿史(左)とルカ・ティエリ photo: Hiroki Shoji

日本文化に憧れて東京にやってきたルカ・ティエリ

1978年、イタリアのナポリ近郊に生まれたティエリは、小さいころから絵の才能を持っていた一方、音楽への関心もありました。ライブハウスへ足繁く通い、知り合った業界の関係者とのつながりから、イラストレーターとしてのキャリアをスタートさせます。

アメリカでは画集を出版するとともに、ジェイソン・ムラーズのアルバム「Beautiful Mess」のアートワーク制作など、音楽関連の仕事も手掛けました。

2004年、観光で初めて日本を訪れたティエリは、ライブハウスの魅力に惹かれて、その縁で、音楽雑誌「VAMP」のイラストにも関わるようになります。彼の日本文化への憧れは深く、2012年には拠点を東京に移します。

葛飾北斎や河鍋暁斎の展示や、大友克洋や江口寿史など1980年代のマンガ家からインスピレーションを受けて、独自の画風を築き上げていきます。2020年には、サニーデイ・サービスの「いいね!」のカバージャケットで、コマ割りマンガ風のイラストで特有のファッションセンスを表現しています。

2020年のサニーデイ・サービス「いいね!」アルバムジャケットよりルカ・ティエリ「いいね!」© 2023 LUCA TIERI

ティエリが描くキャラクターは現代のカジュアルファッションを特徴としており、その背景には音楽や現代ファッションへの愛が感じられます。このような背景を共有するイラストレーターとして、江口寿史もその名を連ねています。

ルカ・ティエリのポップな作品が並ぶ展示風景


ギャグマンガ家からイラストレーターへ、江口寿史

熊本県水俣で子供時代を過ごした江口は、14歳のときに千葉県野田市へ移住。20歳で「週刊少年ジャンプ」の新人賞を獲得し、千葉のプロ野球球団を題材にした「すすめ!!パイレーツ」や、当時としては先進的なトランスジェンダーをテーマにした「ストップ!!ひばりくん! 」などを生み出しました。

一躍トップのギャグマンガ家となります。1990年代からは、彼の描く広告や書籍のイラスト、特に魅力的な女性キャラクターは多くの人々から愛され、現代の「美人画」の系譜においても欠かせない存在にもなっています。

2021年の『東京人』(都市出版)2021年4月号表紙より江口寿史「SHIBUYA」© 2023 Eguchi Hisashi 


同時に、CDジャケットのイラストも手掛けていきます。絵を描く時にはいつも音楽をかけ、「ジャケットイラストは音楽への恩返し」という信念の元、仕事を受けているそうです。

このあたりは、自らも音楽が好きで、その繋がりでのイラスト制作をしているティエリと共通します。また、二人が住むJR中央線沿線にはレコード店、古着屋などのサブカルチャーが多いことなど、二人のアーティストの間に流れるバックグラウンドが共感や共鳴しているのかもしれません。

江口寿史の独特な視点で描かれた作品が並ぶ展示風景


二人の創造活動の源流の展示も

今回の展示には、二人それぞれの創作活動の源流となるコーナーも設けられています。ガラスケースの中には、影響を受けたとされる著作が積み重ねられて展示されています。

江口にとっての源流となるのは、アンディ・ウォーホルやロイ・リキテンスタインといったアメリカンポップアート。さらに『タンタンの冒険』のエルジェ、フランスBD界(フランス・ベルギーなどを中心とした漫画)の巨星メビウスなどの海外アーティストです。

また、意外なことに、奈良原一高や植田正治の写真集も含まれており、これらは作図時のフレーミングの参考にされているとのこと。さらに、ちばてつや、大友克洋、和田誠といった、江口の作品形成に影響を与えた日本の著名な作家たちの著作も展示されています。手塚治虫については、その影響が前提とされているため、特別に展示はされていないようです。

江口寿史が影響を受けた作品の数々

一方、ティエリのファーストコンタクトであるアメリカやヨーロッパなどのオルタナネイティブ作品、巨匠メビウスの作品は、ティエリも通ってきた道のようです。また、サブカルチャーの参考のために看板や、道を歩く人々などの書籍。

ティエリが日本への移住の契機となった、90年代にヨーロッパで登場した日本のマンガの独特な絵柄とストーリーでした。江口とティエリのそれぞれが、現在の独自の画風を確立する過程で影響を受けたルーツを知るのは興味深いです。

ルカ・ティエリが影響を受けた作品の数々


最後に

年代も国籍も違う江口寿史とルカ・ティエリの二人展。江口寿史は、67歳になった現在も気になるアーティストがいれば、貪欲に吸収しにいくという、今なお現在進行形のアーティストです。

ルカとの出会いもそのひとつで、個展ではなく、二人展ということで、それぞれ共鳴が感じ取れる展覧会かと思います。

会場のイタリア文化会館の外観

展覧会カタログの配布

お一人様につき1冊、先着順1日数量限定で展覧会カタログを配布しています。展覧会展示全画像とお二人のコメント、キュレーションの楠見清氏の本展覧会に寄せた長文の解説文も掲載されています。なお、転売を防ぐため、カタログの配布時に身分証明証の提示が必要になります。

展示会情報

TOKYO ARTE POP
トーキョー・アルテ・ポップ──江口寿史×ルカ・ティエリ展
会期:2023年9月1日(金)~10月29日(日)
会場:イタリア文化会館 エキジビションホール
入場:無料
所在地:東京都千代田区九段南 2-1-30
アクセス:東京メトロ 九段下駅2番出口 徒歩10分、
東京メトロ 半蔵門駅5番出口 徒歩12分、
JR・東京メトロ 市ヶ谷駅 徒歩15分
開館時間:11:00~17:00
休館日:月曜日
公式webサイト:TOKYO ARTE POP トーキョー・アルテ・ポップ──江口寿史×ルカ・ティエリ展

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つくだゆき

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東京美術館巡りというSNSアカウントの中の人をやっております。サラリーマンのかたわら、お休みの日には、美術館巡りにいそしんでおります。もともとミーハーなので、国内外の古典的なオールドマスターが好きでしたが、去年あたりから現代アートもたしなむようになり、今が割と雑食色が強いです。

東京美術館巡りというSNSアカウントの中の人をやっております。サラリーマンのかたわら、お休みの日には、美術館巡りにいそしんでおります。もともとミーハーなので、国内外の古典的なオールドマスターが好きでしたが、去年あたりから現代アートもたしなむようになり、今が割と雑食色が強いです。

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