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2026.7.27
【ゾッとする】なぜ足がない?日本の幽霊の秘密を名画で読み解こう【夏】
夏になると怪談やホラー映画、お化け屋敷など、背筋がひんやりするものに惹かれる人も多いのではないでしょうか。実は日本美術にも、思わず目を奪われる「幽霊画」が数多く残されています。
長い黒髪に白い着物、宙に浮かぶ姿、そして足がない…。私たちが思い浮かべる「幽霊」のイメージには、おなじみの特徴があります。それらはいつ、どのように生まれたのでしょうか。
幽霊画にはただ怖いだけではなく、日本人の死生観や信仰、時代背景、画家たちの美意識が詰まっています。
この記事では日本を代表する幽霊画を紹介しながら、誰もが一度は気になった「幽霊画の秘密」を探っていきます。
目次
なぜ人は幽霊画に惹かれるの?
『化物屋敷百物語の図』(葛飾北斎), Public domain, via Wikimedia Commons.
「怖いもの見たさ」という言葉があるように、人は昔から不思議なものや恐ろしいものに心を惹かれてきました。その代表的な文化のひとつが「百物語」です。
百物語とはその名の通り100本のろうそくを灯し、怪談をひとつ語るごとに火を消していく日本の伝統的な怪談会です。100話を語り終えると本物の物の怪が現れると信じられ、鎌倉時代から江戸時代にかけては、武家の肝試しとして楽しまれていたと伝えられています。
やがて江戸時代になると、1677年に怪談集『諸国百物語』が刊行されたことをきっかけに、怪談は武家だけでなく町人にも楽しまれるようになります。百物語は一大ブームとなり、その人気は絵の世界にも広がっていきました。
例えば葛飾北斎が勝川春朗を名乗っていた頃には、百物語を題材にした浮絵『化物屋敷百物語の図』を制作しています。怪談を語って楽しむだけでなく、絵として鑑賞する文化も生まれました。
足がない幽霊はここから始まった?
日本の幽霊といえば「足がない姿」を思い浮かべる人がほとんどではないでしょうか。しかし、この特徴がいつ生まれたのかははっきりと分かっていません。足がない姿で幽霊が描かれる理由には、主に二つの説があります。
一つは「反魂香(はんこんこう)」という伝説上のお香に由来するという説です。反魂香は、焚くと煙の中に亡くなった人の姿が現れると伝えられる不思議な香で、中国・前漢の武帝が亡くなった李夫人を偲び、道士に作らせた霊薬を香炉で焚いたところ、立ち上る煙の中に夫人の姿を見たとされています。
『今昔百鬼拾遺』より「返魂香」(鳥山石燕), Public domain, via Wikimedia Commons.
煙の中から姿が浮かび上がるため、下半身が煙に隠れて足が見えず、その表現が幽霊画にも取り入れられたのではないかと考えられています。
もう一つは、円山応挙が描いた『幽霊図(お雪の幻)』の影響によるという説です。応挙の作品は、日本で最も有名な幽霊画として知られています。一説では病弱だった妻の姿を障子越しに見た際、その影が足元まで見えなかったことから、足のない幽霊を描いたといわれています。
『幽霊図 お雪の幻』(円山応挙), Public domain, via Wikimedia Commons.
また、妻を亡くした後に幽霊画の制作を依頼され、思い悩むなかで現れた妻の霊の姿をそのまま絵に描いたとも伝えられています。
どちらも確かな史実ではないものの、反魂香や応挙の逸話が受け継がれたことで「幽霊には足がない」というイメージが広く定着していったのかもしれません。
幽霊の白い着物にも意味があった
『幽霊図』(河鍋暁斎), Public domain, via Wikimedia Commons.
足がないことと並んで、日本の幽霊の特徴として挙げられるのが白い着物です。この装いは単に「怖く見せるため」の演出ではありません。
幽霊の白い着物の起源とされるのが、亡くなった人に着せる「死装束」です。古くから白は清らかさや穢れのない状態を表す色とされ、死者があの世へ旅立つ際の正式な装いとして用いられてきました。幽霊が白い着物を着た状態で描かれるのは、死者であることを示す象徴的な表現です。
白い着物の幽霊は、多くの幽霊画に見ることができます。例えば河鍋暁斎の『幽霊図』にも、白い着物を着た女性の幽霊が描かれています。
『画図百鬼夜行 幽霊』(鳥山石燕), Public domain, via Wikimedia Commons.
見る者をぞっとさせる一方で、生前の美しさや気品も感じさせる作品です。モデルは暁斎の亡き妻だったという説もあり、恐ろしさと愛情の両方が感じられる不思議な魅力があります。
また、鳥山石燕の『画図百鬼夜行』に登場する女の幽霊も額に額烏帽子(ひたいえぼし)を付け、白い着物を着た姿で描かれています。夜の墓場で枝垂れ柳の間から現れる様子は、現代の私たちが思い描く、日本の幽霊のイメージそのものです。
幽霊画の主役は、なぜ女性なのか
日本の幽霊画を見ていると、描かれているのは女性であることに気づかされます。怪談でも、『東海道四谷怪談』のお岩さんや『番町皿屋敷』のお菊など、語り継がれる幽霊の多くは女性です。
『百物語 提灯お化けのお岩さん』(葛飾北斎), Public domain, via Wikimedia Commons.
その背景には、当時の社会のあり方が関係していると考えられています。江戸時代をはじめとする昔の日本は男性中心の社会で、女性は結婚や仕事、生活にさまざまな制約を受けながら暮らしていました。
『新形三十六怪撰 皿やしき於菊乃霊』(月岡芳年), Public domain, via Wikimedia Commons.
理不尽な扱いを受けても、自分の思いを自由に表に出すことは簡単ではありません。女性たちの抑圧された感情や深い執着が、死後に怨霊となって現れるという発想は、人々の間で自然と生まれていきました。
一方で、恨まれる側である男性の心理も影響したと考えられています。女性に対しての負い目や罪悪感が「いつか恨みを晴らしに来るのではないか」という恐れにつながり、それが女性の幽霊というイメージを強めたという見方もあります。
『清姫日高川に蛇躰と成る図』(落合芳幾), Public domain, via Wikimedia Commons.
女性の執念深さを象徴する存在として知られるのが「清姫」です。落合芳幾の『清姫日高川に蛇躰と成る図』では僧・安珍への思いが募った挙句、急流を渡ってまで追い続ける清姫の姿が描かれています。
道成寺の鐘に隠れた安珍を、大蛇となった清姫が焼き殺すというのが物語の結末です。本作の清姫は人間に近い姿をしているものの、その表情や姿勢からは恋心が怨念に変わる様子がうかがえます。
怖いだけじゃない。思わず見惚れる幽霊画
幽霊画というと恐ろしい絵を想像するかもしれません。しかし実際には怖さだけでなく、どこか儚く美しい作品も数多く描かれています。
その代表例が、月岡芳年の『源氏夕顔巻』です。本作は『源氏物語』をもとにした能『半蔀(はしとみ)』『夕顔』を題材としています。夕顔が命を落とした屋敷を訪れた僧の前に、その霊が静かに姿を現す場面が描かれており、恐ろしさよりも幻想的でどこか切ない雰囲気があります。
『源氏夕顔巻』(月岡芳年), Public domain, via Wikimedia Commons.
夕顔は光源氏に愛されながらも、嫉妬に狂った六条御息所の生霊に取り憑かれ、若くして命を落とした薄幸の女性です。原作では生霊の正体は明言されていませんが、後世では六条御息所の怨念によるものと解釈されることが多くなっています。
幽霊画に描かれているのは人を驚かせるための怪物ではなく、愛や嫉妬、後悔、未練といった人間の感情です。だからこそ恐怖だけでは語れない魅力があります。
幽霊と妖怪、何が違う?
「幽霊」と「妖怪」はひとまとめに語られることもありますが、実は異なる存在です。一般的に、幽霊とは亡くなった人の魂がこの世に現れたものを指します。一方で妖怪は人間には説明できない不思議な現象や、それを引き起こす超自然的な存在のことです。
妖怪は「あやかし」や「物の怪」とも呼ばれ、古くは神が姿を変えたものや、自然への畏れを形にしたものだという説もあります。つまり幽霊は「人」、妖怪は「自然や未知の力」に由来すると考えると違いが分かりやすいでしょう。
妖怪たちも江戸時代の画家たちによって個性豊かに描かれ、多くの名作が生まれました。なかでも歌川国芳は、迫力ある妖怪画を数多く残したことで知られています。
『相馬の古内裏』(歌川国芳), Public domain, via Wikimedia Commons.
代表作の『相馬の古内裏』では、平将門の娘・滝夜叉姫が妖術で呼び出した巨大な骸骨が、見る者を圧倒する迫力で描かれています。父の遺志を継ごうと廃屋に仲間を集める滝夜叉姫と、それを討伐に訪れた大宅太郎光国が対峙する場面を描いた作品で、日本を代表する妖怪画のひとつです。
『東海道五十三對 岡部』(歌川国芳), Public domain, via Wikimedia Commons.
また『東海道五十三對 岡部』では、鶴屋南北の戯作をもとにした化け猫騒動が題材となっています。猫の怨霊に取り憑かれた老婆が、若い女性へ襲いかかろうとする緊迫した場面が描かれ、その背後には巨大な化け猫が不気味な姿をのぞかせています。
【まとめ】怖さの先に見えてくる、幽霊画の魅力
日本の幽霊画は、ただ人を怖がらせるために描かれたものではありません。足がない理由や白い着物の意味、女性の幽霊が多い背景には、その時代の信仰や社会、人々の価値観が反映されています。一見すると恐ろしい作品の中にも、切なさや美しさ、画家ならではの表現が光るのも大きな魅力です。
怪談やホラーが好きな人はもちろん、美術にあまり馴染みがない人でも、幽霊画の「ひみつ」を知ってから作品を見ると、新しい発見があるはずです。今年の夏は、日本の幽霊画の奥深い世界をのぞいてみてはいかがでしょうか。
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アートの美しさや面白さを身近な視点で伝えます。お気に入りの絵画はミレーの『オフィーリア』。フリーランスのライターとして幅広いジャンルで執筆経験あり。趣味は観劇と洋画/海外ドラマ鑑賞。ヴァイオリンを習っています。
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