STUDY
2022.3.31
【マドリードとフィレンツェ】フランジェリコ『受胎告知』の見どころ解説!
フランジェリコは初期ルネッサンスの重要な画家として知られ、特に多くの素晴らしい宗教画を残したイタリア人画家です。
フランジェリコの作品の中でも最も有名なものの一つが『受胎告知』で、後世の芸術家に大きな影響を与えたと言われています。
そんなフランジェリコの『受胎告知』ですが、実は同じテーマの別の作品がいくつか存在します。
今回の記事では、スペイン・マドリードとイタリア・フィレンツェにある2作品について解説します。
フランジェリコの『受胎告知』は複数ある
Fra Angelico, Public domain, via Wikimedia Commons ※画像はコルトーナにある『受胎告知』
フランジェリコが活躍した15世紀前半には、ルネッサンスの先駆けとして芸術界全体に大きな変革が興った時期でした。
遠近法を絵画や彫刻などに取り入れる潮流があり、フランジェリコも作品の中で建造物に奥行きをもたせるなど、ルネッサンス芸術の担い手として大きな役割を果たしました。
フランジェリコは修道会に属しており、キリスト教の祈りのための装飾写本などの依頼を受けて芸術家活動を行っていました。
修道会でのキリスト教信仰に関する業務をこなしつつ、祭壇画やフレスコ画を制作するまでに至り、現在でもその内いくつかの作品が残っています。
『受胎告知』をテーマにした彼の作品は、フィレンツェのサン・マルコ美術館、マドリードのプラド美術館に所蔵されているもののほかに、イタリアのコルトーナやサン・ジョヴァンニ・ヴァルダルノなどの街にも現存しています。
【マドリード】フランジェリコ『受胎告知』
Fra Angelico, Public domain, via Wikimedia Commons
マドリードに所蔵されている『受胎告知』は、1425年頃、つまりフランジェリコが30歳前後の頃の作品です。
元はサン・ドメニコ修道院に飾られていましたが、スペイン王室に売却されたことから現在ではマドリードのプラド美術館に所蔵されています。
作品の右側に描かれているのは、懐妊を告げる大天使ガブリエルと聖母マリアです。
左側の奥には、このシーンとは全く異なる『楽園追放』の場面となっており、アダムとイブが「エデンの園」から去る様子が描かれています。
意見関連性の低い2つのシーンですが、これはアダムとイブから始まった人間の原罪が、イエスの降誕(聖母マリアの懐妊)を通じて救済されるという運命を示した構図です。
穏やかで優しい天使と聖母マリアは建物の中に描かれ、遠近法を用いた絵画表現への取り組みを感じることができます。
マドリードの『受胎告知』では天使も聖母も比較的重厚感のある服装を身に着けており、豪華な色調が作品全体を締めているのが特徴です。
外にあたるアダムとイブのシーンでは、自然への丁寧な観察と細かい描写がフランジェリコの精密な作風を際立たせています。
【フィレンツェ】フランジェリコ『受胎告知』
Fra Angelico, CC BY 2.0, via Wikimedia Commons
フィレンツェの『受胎告知』は、1440年から1445年にサン・マルコ修道院のために制作された作品です。
作品が修道院の寮にあたる建物に配置されていることもあり、「清貧」という修道会のモットーを思い出させるための作品でもありました。
その印に、マドリードの『受胎告知』と比べると大天使ガブリエルも聖母マリアも質素な服装をしていることがわかります。
マドリードの『受胎告知』のようにアダムとイブは作中に含まれておらず、登場人物は2人だけとなっています。
サン・マルコ修道院内の作品の設置場所には光が届きにくいため、芸術作品としての美しさを表現する目的というよりは、暗い場所で聖母マリアを想起するための作品でした。
シンプルで落ち着いた色合いと構図でありながら、聖母マリア信仰の強いメッセージが伝わる作品です。
よく見ると全然違う2つの『受胎告知』
フランジェリコのこの2つの受胎告知は、作品の構成(建物、大天使、聖母マリア)も似ているため、あまり違いがないように感じる人も多いかもしれません。
しかし、作品には『楽園追放』の有無、登場人物の服装、色遣いなどいくつもの違いがあります。
同じ芸術家の同じテーマの作品がこれほど異なるのは面白いですよね。
以上、フランジェリコの『受胎告知』の見どころ解説でした。
▼関連記事
どこに注目する?主題『受胎告知』鑑賞を楽しむためのポイント3つ
https://irohani.art/study/6575/
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イタリア・ローマ在住美術ライター。2024年にローマ第二大学で美術史の修士を取得し、2026年からは2つめの修士・文化遺産法学に挑戦。専攻は中世キリスト教美術。イタリアの前はスペインに住んでいました。趣味は旅行で、訪れた国は45カ国以上。世界中の行く先々で美術館や宗教建築を巡っています。
イタリア・ローマ在住美術ライター。2024年にローマ第二大学で美術史の修士を取得し、2026年からは2つめの修士・文化遺産法学に挑戦。専攻は中世キリスト教美術。イタリアの前はスペインに住んでいました。趣味は旅行で、訪れた国は45カ国以上。世界中の行く先々で美術館や宗教建築を巡っています。
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