EVENT
2022.12.6
紡がれた言葉と描かれた描線は、もはやアート。漫画家・楠本まきの回顧展の見どころ10カ所を紹介!
去年、京都で開催され話題となった「線と言葉・楠本まきの仕事」展が東京に巡回。文京区・弥生美術館で2022年12月25日まで開催されています。漫画家・楠本まきの原画を中心に38年にわたり制作された作品を通観、また、今回は仕事展ということもあり、仕事の流れを追いながら完璧主義者とも言われる彼女の仕事ぶりも垣間見られる展覧会となっています。見どころの多い展覧会ですが、見るべき10カ所を取り上げてみました。
目次
展覧会で見るべき10カ所
世界観に浸れる会場構成
まず目を引くのは壁が黒く塗られた室内。原画の展示とともに、作中から抜き出した印象的な言葉が、天井から垂らされた布幕や、展示ガラスに張り出されています。会場のアートディレクションは楠本作品のデザインを手掛けてきた秋田和徳。楠本先生の実の妹である楠本亜紀もゲストキュレーターとして参加。楠本先生本人も全面監修を行っており、楠本作品の世界観に浸れる会場構成となっています。
アートと呼ぶべき原画の数々
一定の線を描くためにこだわった製図用ペンで作画した緻密な原画。「Kの葬列」の作中の墓地のシーン。引き伸ばされた原画を見ると、描線をいかにこだわっているかが分かります。また、色の検証のために作られた習作や、違う質感での試し刷り。色々試していくプロセス、試行錯誤の跡も見どころのひとつ。
画中に登場した私物の展示
画中に登場する実物アイテムの展示は、全て楠本先生の私物。「Kの葬列」に登場する「八端十字架」、「KISSxxxx」に登場するカノンの「ブレスレット」、かめののゴスロリをイメージさせる「ヘッドドレス」、「エッグノッグ」のモチーフになった大理石の卵など、貴重な品々が点在します。
指定紙から、驚愕の校正紙へ
原画の上に貼られたトレペ(トレーシングペーパー)に、細かい指示が入った指定紙。モノクロだった原画から色などの色々な指定が入り、書籍になります。その過程がわかるところにも苦労の跡が垣間見られます。
版下が完成するまでに編集者、印刷所と楠本先生の間でやりとりが繰り返された8校目の校正紙。0.15mm移動などの細かい修正指示など、やりとりの跡が残る校正紙は完全主義者、楠本まきを物語ります。展覧会の企画の段階で、周りの反応が薄い中、楠本先生は、校正紙を展示したいと言って実現したこだわりのセクション。
書籍、こだわり抜いた装幀
初期の単行本から、愛蔵版、海外版を展示。本になったものが作品の完成形という考えの下に、本の装幀にも細心の注意が注がれます。「楠本まき第一画集」特装版はの表紙は、ステンレスケースに十字のレザーカット、赤いサテンのリボンをつけたり、「いかさま海亀のスープ」の表紙では、イメージするローズピンクの色がなく、布の色を染めるところから開始したりとこだわりが伝わってきます。
2020年に刊行された「赤白つるばみ・裏/火星は錆でできていて赤いのだ」も、コロナ禍の進行遅れで妥協しかかった時も、編集の秋田さんの「徹底的にやった方が良いですよ」の一言で思い直し、時間ギリギリまで使って仕上げた、秋田さんとの名コンビぶりを伺えるエピソードもあります。
80年代の告知フライヤー
色とりどりのフライヤーが3階への階段壁を占拠。貼られたのは、「KISSxxxx」に登場するバンド「DIE KUSSE」の告知フライヤーで、アートディレクターの秋田さんの力作。80年代当時のライブハウス感が演出された空間です。1Fショップのグッズ購入で1枚だけもらえました。(10月16日現在)
「KISSxxxx」に登場するバンド「DIE KUSSE」の告知フライヤーが壁を占拠
Twitterアイコンのエッチング作品
イギリスに行き来し始めた2001年あたりからエッチングを学んだそうで、「ドはドリーのド」はエッチング作品。ちなみに、楠本先生のTwitterアイコンはこのエッチング作品です。
3階の展示
音を立てながら切り替わる「KISSxxxx」の場面スライドのレトロ感もいいです。「KISSxxxx」の中から、1話分の原画展示もあり、12月はクリスマスの話を展示。また、漫画の中でのジェンダーバイアスの問題提起が話題になっていた「赤白つるばみ・裏」の原画も見られます。
ファン垂涎のグッズ、通販も
現在、発売されている書籍は全て購入可能。展覧会オリジナルグッズも充実していて、「KISSxxxx」からは、100部限定の「リソグラフ」、会期中に売り切れ後、再発売された人気の「アクリルスタンド」、「Kの葬列」からは楠本先生が色監修に入った原画の「4枚組ポストカード」、「戀愛譚」からは、楠本先生デザインでフェアトレードのオーガニックコットンにこだわった「トートバッグ」、3Fに展示してあった「赤白つるばみ・裏」の「ステッカー」などレアな商品が並びます。
・グッズ一覧(PDF)
https://www.yayoi-yumeji-museum.jp/wordpress391/wp-content/uploads/2022/10/778b2887361b2ac3394fd45a48f8e149.pdf
11月頭まで展覧会コラボ企画が開かれていた銀座の「Cafe & Bar十誡」。通販で一部のグッズはまだ取り扱っていますので、会場に行けない方は、のぞいてみてください。
・十誡Online Store
https://zikkai.shop/
コラボカフェメニュー
建物に併設されている「夢二カフェ 港や」では、2つの展覧会コラボメニューを取り扱っており、「特製カプチーノ」、「琥珀の蠱惑(こわく)」(エッセイコミック『耽美生活百科』に登場するロイヤルミルクティー)の注文で、一品にひとつずつ展覧会オリジナルコースターが付いてきます。
最後に
最後まで読んでいただきありがとうございました。筆者は10月に足を運びましたが、幅広い年齢層で、みなさん熱心に作品、解説に見入ってました。閉幕も近づき、混んでくることも予想されますが、楠本まきファンはもちろん、本の制作に携わっている人、携わりたい人が見ても楠本先生のこだわりは勉強になるかと思いますので、おすすめの展覧会です。
楠本まきとは
1984年、高校在学中に「週刊マーガレット」でデビュー。「KISSxxxx」がブレイク、その後も「Kの葬列」、「致死量ドーリス」などを発表。耽美的、退廃的な世界観、艶麗な絵柄が特徴。2001年あたりからイギリスと日本を行き来し始め、イギリスをテーマにした『A国生活』。2009年『赤白つるばみ』。2019年『続・火星は錆でできていて赤いのだ』を発表。現在イギリス在住。
アーティスト、ファッション関係者や、様々な業界にもファンが多いことで知られ、フランス、イタリア、アメリカ、韓国などでも翻訳本が出版され、世界で熱狂的なファンを抱える漫画家です。
展覧会情報
「線と言葉・楠本まきの仕事」展 Maki Kusumoto: lines, words, between and beyond
会場:弥生美術館
開催期間:2022年10月1日(土)~12月25日(日)
所在地:東京都文京区弥生2-4-3
アクセス:
・東京メトロ千代田線 根津駅「1番出口」より徒歩7分
・東京メトロ南北線 東大前駅「1番出口」より徒歩7分
・JR上野駅「公園口」より徒歩25分
開館時間:10:00~17:00 ※入館は閉館の30分前まで
休館日:月曜日 ※ただし10月10日(月・祝)開館、10月11日(火)は休館
入館料:一般1,000円/大学・高校生900円/中学・小学生500円
特設サイト:
https://www.yayoi-yumeji-museum.jp/yayoi/exhibition/now.html
画像ギャラリー
あわせて読みたい
-

EVENT
2026.02.08
【札幌】「藤田嗣治 絵画と写真」写真から読み解く創作の秘密!4月29日から開催
イロハニアート編集部
-

EVENT
2026.02.07
【京都】浮世絵で楽しむ猫づくし!「Ukiyo-e猫百科 ごろごろまるまるネコづくし」展 4月4日~
イロハニアート編集部
-

EVENT
2026.02.06
【京橋】川端健太 個展「document / skin」──触れること、感じること、その手前にある感覚へ。
イロハニアート編集部
-

EVENT
2026.02.06
アトリエが展示会場に!若手アーティストの滞在制作・展示プロジェクト「Unis in Unison 2025: Kyoto Rising Artists Project」始動
明菜
-

EVENT
2026.02.05
大阪で開催中「動き出す浮世絵展」|名作に入り込む没入型アート体験
ケイ
-

EVENT
2026.01.29
【国立国際美術館】絵画を「装置」と呼んだ男。中西夏之が問い直す「描くこと」の真理と震災15年目の記憶
イロハニアート編集部
このライターの書いた記事
-

EVENT
2026.01.26
倉庫でクリムトに包まれる。ウィーン世紀末芸術「美の黄金時代」展―THE MOVEUM YOKOHAMA
つくだゆき
-

STUDY
2025.12.26
クリスマス休暇がミュシャを出世させた?名作《ジスモンダ》は偶然生まれたのか
つくだゆき
-

STUDY
2025.12.04
誇りをまとった裸身、ジョン・コリア《ゴダイヴァ夫人》が語る静かな反逆
つくだゆき
-

EVENT
2025.11.20
没後40年、いま出会うシャガール──「花束」が語る愛と祈り【ギャルリーためなが】
つくだゆき
-

EVENT
2025.11.13
見えない人を描く──「諏訪敦|きみはうつくしい」に宿る、沈黙の物語【東京・天王洲 WHAT MUSEUM】
つくだゆき
-

STUDY
2025.11.12
クリムト《アデーレ・ブロッホ=バウアーの肖像 I》―奪われた名をめぐる、芸術を超えた“人間の尊厳”の物語
つくだゆき

東京美術館巡りというSNSアカウントの中の人をやっております。サラリーマンのかたわら、お休みの日には、美術館巡りにいそしんでおります。もともとミーハーなので、国内外の古典的なオールドマスターが好きでしたが、去年あたりから現代アートもたしなむようになり、今が割と雑食色が強いです。
東京美術館巡りというSNSアカウントの中の人をやっております。サラリーマンのかたわら、お休みの日には、美術館巡りにいそしんでおります。もともとミーハーなので、国内外の古典的なオールドマスターが好きでしたが、去年あたりから現代アートもたしなむようになり、今が割と雑食色が強いです。
つくだゆきさんの記事一覧はこちら


