EVENT
2022.12.20
女の子を描くことが苦手だった!?イラストレーター・中村佑介の大回顧展が開催中。
イラストレーター中村佑介の20年の活動を振り返る大回顧展が、文京区・東京ドームシティGallery AaMoで2023年1月9日まで開催されています。
目次
完成イラストと彩色前の原画もセットで見られる構成、CDジャケットから始まり、書籍の表紙、学生時代のオリジナル作品、商品や別キャラクターとのコラボ作品など、多岐にわたるイラストの数々、500点以上の展示は、過去最大数の原画展示に偽りがない内容となっています。
「四畳半神話大系」からファンになった筆者目線で、いくつかポイントを絞って紹介していきます。
アジカンとの運命的な出会い
ブレイクしたきっかけのひとつがASIAN KUNG-FU GENERATION(以降アジカン)との運命的な出会い。メンバーの後藤正文からのオファーでデビューミニアルバム「崩壊アンプリファー」のCDジャケットを担当。当時、大阪芸術大学助手だった中村先生の学校外からの依頼案件でした。
そこから一部を除く全てのアジカンのアルバムを担当、アジカンの人気が上がるとともに、中村先生の知名度も上がっていきます。会場では、アジカンの楽曲が響く中、そこここで「このジャケット懐かしい」という声が聞こえ、“アジカン=中村佑介の絵”と言えるほど、音と絵が同期している空間から展覧会は始まります。
森見登美彦作品でのキャラクター設定
もうひとつのブレイクが「四畳半神話大系」、「夜は短し歩けよ乙女」などの森見登美彦作品。「四畳半〜」はTVシリーズ、「夜は短し〜」はアニメ映画とそれぞれ映像化され、キャラクター原案を担当。森見先生のシュールなストーリーと小気味のいいテンポで、作品は人気を博します。
この夏には、2つの作品の脚本を担当した上田誠の戯曲「サマータイムマシン・ブルース」と「四畳半〜」がコラボした森見先生原作「四畳半タイムマシンブルース」の映画も公開され、原画のほか、劇中で登場するタイムマシーンも特別展示。関連の作品で言えることは、どの人物もキャラが立っているということ。得意な女の子だけではなく、その愛すべきキャラクターも見どころ。グッズコーナーのアクリルスタンドの一番人気は明石さんを抑えて樋口師匠なのも分かる気がしました。ちなみに、「四畳半タイムマシンブルース」は、現在、一部の映画館、またディズニープラスで見ることができます。(2022年12月17日現在)
アニメ映画「四畳半タイムマシンブルース」のタイムマシーン復元模型
念願だった月刊雑誌の表紙
和田誠の「週刊文春」、谷内六郎の「週刊新潮」と、やはりイラストレーターとしてはやってみたい雑誌の表紙絵。「文芸雑誌 きらら」で思いを叶え、以降5年半に渡り担当。月刊誌を描き始めてから、その月々の印象を注意深く観察するようになったそうで、ちょっとした季節の小物が散りばめられています。
また、中村先生が描いた「きららちゃん」に、アーティストが詩をつけるというイラストブックも後に販売され、中村先生の絵がいかに愛されていたかが伝わってきます。
文庫本、そして教科書の表紙
多岐にわたる活躍はとどまるところを知らず、文庫本や教科書の表紙も手掛けます。中村先生の表紙イラストは、平積み時のアピール度が高く、客の興味をひくには好都合なのかもしれません。
書籍で取り上げたいのは、与謝野晶子の「俵万智訳・ みだれ髪」。晶子が与謝野鉄幹と不倫関係だった時の歌集を、現代の歌人・俵万智が、31文字の現代の短歌で詠み直しています。明治に刊行されたとは思えないほど、内容はなかなか赤裸々。表紙を飾ったノスタルジックなイラストは下着にこだわっているそうです。俵先生の現代語訳とも相性がよい装幀です。ちなみに、与謝野晶子のお孫さんと中村先生は同級生だったそうで。
最近、学生だった方は覚えているかもしれませんが、中村先生のイラストが、高校生の音楽の教科書にも使われています。音楽に関するものが散りばめられて、細かく見ていくと、くるりの楽譜などもあり、「ばらの花」はもうクラシックなのかと感慨深くなりました。
オリジナルのセーラー服の絵
中村先生の学生時代の話ですが、描いたイラストを褒められても、イラストのファッションを褒められるのは少し心外だったようで、だったらファッション性を排除して、絵のセンスで勝負と、色数も抑えたセーラー服を描くようになります。そのあたりのセーラー服の絵が並びます。いまの垢抜けている女の子のイラストと比べると、少し青臭いですが、版画のようなノスタルジックさが魅力です。
数々のキャラクター、商品とのコラボ
「浅田飴」や「チョコパイ」、「ビックリマン」などのコラボ商品でも世間を賑わす中村先生のキャラクター。2020年に発売された「浅田飴糖衣」のレトロモダン缶は、SNSでも話題になり、当時、取り扱い店舗数が2倍以上になる人気ぶり。以来、限定缶も発売し、2023年度版として「白桃」×「2023年の干支・卯」を発売、過去の商品とともにグッズコーナーで購入可能。もちろん筆者も3種類買ってきました。
まとめ
最後まで読んでいただきありがとうございます。かわいい女の子のイラストで知られる中村先生ですが、大学生時代、女の子のイラストは得意ではなかったそうで、ゲーム会社に就職したいがために描き始めたのだとか。
中村先生本人も敬愛しているチェコ出身のイラストレーター 、アルフォンス・ミュシャ。ミュシャはよくバックに円形を使って、その前に女性を立たせる「Q型方式」と言われますが、中村先生もその構図を意識したものも多く、背景の少しごちゃごちゃしたあしらいも、かわいい女の子が映える方程式なのかもしれません。
寒くなってきましたが、足を運んでいただく甲斐がある展覧会かと思いますので、まだの方にはぜひオススメします。
中村佑介プロフィール
1978年兵庫県生まれ。イラストレーター。
ASIAN KUNG-FU GENERATIONや、さだまさしなど、様々なアーティストのCDジャケットをはじめ、小説「謎解きはディナーのあとで」、「夜は短し歩けよ乙女」、教科書「高校生の音楽」など数多くの書籍カバー・挿画を手がけるほか、アニメーションのキャラクターデザイン 「四畳半神話大系」、「夜は短し歩けよ乙女」など、その表現活動は多岐にわたります。 画集『Blue』と『NOW』はイラストレーターの作品集としては異例の累計13万部を記録中。
展覧会情報
中村佑介20周年展
会場:東京ドームシティ内 Gallery AaMo(ギャラリー アーモ)
開催期間:2022年11月9日(水)~2023年1月9日(月・祝)
所在地:東京都文京区後楽1-3-61
アクセス:
・JR水道橋駅「東口」より徒歩3分
・都営地下鉄三田線 水道橋駅「A3出口」より徒歩3分
・東京メトロ丸ノ内線・南北線 後楽園駅「2番出口」より徒歩9分
・都営地下鉄 大江戸線春日駅「A1出口」より徒歩10分
開館時間:11:00~19:00 ※金曜日は20:00まで開場
※入場は閉場の30分前まで
休館日:月曜休館(12月26日(月)、1月2日(月)、1月9日(月)は開館)
通常入場券:
一般1,200円/学生900 円/小学生以下無料
グッズ付入場券:
一般1,500円/学生1,200 円
特設サイト:
https://www.yn-ex.com/
画像ギャラリー
あわせて読みたい
-
EVENT
2025.02.15
【東京駅】「ちびゴジラの逆襲 & おでかけ子ザメ」コラボPOP UP SHOPが期間限定オープン!
イロハニアート編集部
-
EVENT
2025.02.14
『miffy café tokyo』が名古屋に期間限定オープン♡ディック・ブルーナの芸術性が息づく特別な空間
イロハニアート編集部
-
EVENT
2025.02.13
【東京】「みんなでつくる未来の公園 ヘラルボニーと宮沢賢治」アートでひらく共生社会の目指す社会
イロハニアート編集部
-
EVENT
2025.02.11
森美術館「マシン・ラブ:ビデオゲーム、AI と現代アート」の見どころ紹介!現実と仮想空間が重なりあう
新 麻記子
-
EVENT
2025.02.10
すみっコぐらしが京都・奈良で国宝仏像に変身!? 二大美術館で異例のコラボ展が開催
イロハニアート編集部
-
EVENT
2025.02.09
【横浜】車窓からアートを楽しむ新体験!「THE DRIVE-THRU MUSEUM」横浜市内で開催
イロハニアート編集部
このライターの書いた記事
-
STUDY
2025.02.13
【東洲斎写楽の正体?】阿波の能役者、斎藤十郎兵衛のもう一つの顔
つくだゆき
-
STUDY
2024.12.30
【スラヴ叙事詩】ミュシャが描いたスラヴ民族の希望と独立の物語
つくだゆき
-
EVENT
2024.12.09
すみだ北斎美術館『読み解こう!北斎も描いた江戸のカレンダー』江戸の粋な暦の世界―隠された「大小」を解読する江戸の楽しみ
つくだゆき
-
EVENT
2024.11.13
【世田谷文学館】漫画家・森薫と入江亜季展|アナログの手描きにこだわる二人の漫画家展
つくだゆき
-
STUDY
2024.10.28
フェルメールブルーと広重ブルー?理想の青への長い道のり
つくだゆき
-
EVENT
2024.09.28
【蕗谷虹児展】少女たちを魅了したモダンガールと詩情あふれる美の世界
つくだゆき

東京美術館巡りというSNSアカウントの中の人をやっております。サラリーマンのかたわら、お休みの日には、美術館巡りにいそしんでおります。もともとミーハーなので、国内外の古典的なオールドマスターが好きでしたが、去年あたりから現代アートもたしなむようになり、今が割と雑食色が強いです。
東京美術館巡りというSNSアカウントの中の人をやっております。サラリーマンのかたわら、お休みの日には、美術館巡りにいそしんでおります。もともとミーハーなので、国内外の古典的なオールドマスターが好きでしたが、去年あたりから現代アートもたしなむようになり、今が割と雑食色が強いです。
つくだゆきさんの記事一覧はこちら