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2023.2.23
【見どころ徹底リポート】ヒグチユウコワールド 集大成の大展覧会が開催中!
緻密な猫のモチーフ、空想と現実を行き交う自由な発想とタッチで知られる画家・絵本作家ヒグチユウコの大回顧展が、港区・森アーツセンターギャラリーで2023年4月10日まで開催されています。
目次
2019年に東京で開幕した展覧会「ヒグチユウコ展 CIRCUS」も、全国を巡回し、いよいよ10ヶ所となる最終巡回地に。予定点数の1000点を大きく上回る実に総数1500点に迫る、画業を余すことなく展示した大回顧展となっています。世田谷文学館(以降、世田文)と今回の森アーツセンターギャラリーの展覧会の両方に行ってきた筆者がいくつか見どころをピックアップしました。
おなじみの猫のキャラクターがお出迎え
入場すると絵本の原画、装画、プロダクトデザインなどが壁一面を占める、立体造作と一緒に、大小の作品群に圧倒されます。おなじみの猫のキャラクターも迎えてくれます。顔は猫なんだけど、体は幼児体型、そういうカワイイ×カワイイが、ヒグチ作品がカワイイと言われる由縁かもしれません。
過去の美術作品をオマージュした作品も見逃せません。2017年に刊行された画集「BABEL Higuchi Yuko Artworks」の原画。16世紀の奇想の画家ヒエロニムス・ボスとピーテル・ブリューゲル。二人をオマージュした作品に、ひょっこりヒグチユウコのキャラクターが参加。緻密なペン画だからこそ、16世紀の絵画にも違和感がなく溶け込めます。
画集「BABEL Higuchi Yuko Artworks」の原画
ケシの花を持った大天使に扮した猫も美術文脈で見るとほっこりさせてくれます。また、ポケモンとのコラボ企画では、イーブイも描いていて、現代のカワイイもぬかりはないです。
展覧会サーカスの中核
本展「サーカス」の中核とも言える「CACAO CAR RACING」の立体展示。テディベア作家・今井昌代がつくる同名のビジュアルブックに、ヒグチユウコが背景画を担当。実際にその本に登場するキャラクターが展示されていて、各々が螺旋状のコースを登っていきます。
さらに、周りの壁面を飾る「サーカス」にちなんだ原画たち。各巡回に向けた大判の描き下ろし原画も見どころのひとつです。
ストーリーが追える絵本の原画も
このエリアでは、デビュー作の「ふたりのねこ」や、下半身はタコ、手はヘビ、頭はネコの謎のキャラクター「ギュスターヴくん」など、数々の絵本の原画が揃います。
世田文の時も、特に絵本展示が印象に残ったのですが、童話の命は挿絵と言えるほど、物語の印象は挿絵で左右されます。イソップ童話原作「卑怯な蝙蝠」では、ずる賢いコウモリが、夢野久作原作の「きのこ会議」では、毒キノコのキャラが立っています。絵本はストーリーを追えると没入感が増します。このふたつの話は、この場で最後まで読めるので、ぜひ読んでいってください。また、画中の文字も彼女のオリジナルで、この少しおどろおどろしい文字込みでヒグチ作品だということが分かります。
日本画との違和感ないヒグチキャラたち
日本画のエリアでは、キャンバスが屏風や掛け軸に変わっただけで、画風は変わっていません。逆に言うとあのキャラクターは古今東西どこにでも親和性のあるキャラクターなのかもしれません。
掛け軸には、俳句の下で佇んでいる猫や、中央では伊藤若冲のオマージュと思われるニワトリの足にギュスターヴくんの足(タコ)が戯れあったり、琳派の代表的なモチーフの風神雷神では、今風な背景デザインの上で、両神が見つめあって、微笑ましい屛風絵となっています。
オルタナティブポスターやその原画たち
かわいいだけじゃない一面を見られるのがこのコーナー。ずらりとオルタナティブポスターや、元になる原画が展示されています。
オルタナティブポスターとは、映画公開時のメインポスターの代替ポスターで、メインのポスターより凝った表現手法で作られたポスターのこと。たしかに、構成が大胆や緻密な描写が、よりアーティスティックに仕上げられています。「IT」、「サスペリア」等ホラーが飾られていますが、インパクトがあるのは「悪魔の首飾り」の少女。ヒグチユウコが10代の頃に見た、エドガー・アラン・ポー原作のオムニバス映画「世にも怪奇な物語」の三話目に登場する幻影の少女がモチーフになっていて、以降のヒグチユウコが描く少女に影響を与えたそうです。
そのほかにも、よーく見ると「風の谷のナウシカ」や、筆者の個人的に名高いファンタジー人形劇の「ダーククリスタル」、是枝裕和監督の「誰も知らない」など、身近な映画も取り上げられていました。元のポスターを知っていると、こういう切り口もあるんだなという印象でした。セクション的にも、それまでのかわいいとは違う、どこか不穏な空気を漂わせる雰囲気となっていました。
右側2点が「風の谷のナウシカ」、上段左が「ダーククリスタル」、下段左が「誰も知らない」のポスター
最後に
最後までご覧いただきありがとうございました。画像のみの紹介になりますが、書籍や陶器、服飾系など多岐にわたる画業の一部を紹介します。展覧会全体では、ヒグチユウコワールドが満喫できる内容になっていました。
展示最後に2本の動画展示が、展覧会用の描き下ろし作品を描くまでのタイムラプス動画と、もう1本は、「リラックマとカオルさん」のストップモーションアニメで有名な、制作会社ドワーフによる、ギュスターヴくんのストップモーションアニメが流れています。シュールな世界が展開していますので、お見逃しなきよう。
世田文(他の会場も?)では、作品をじっくり見て欲しい意向もあり、撮影ができませんでしたが、本会場では、一部の作品、1点撮りを除き、写真撮影が可能となっています。濃さは世田文の方が濃かったかもしれませんが、ボリュームは圧倒的に増えていますので、世田文やその他の会場に行かれた方にも十分にオススメできる展覧会となっていると思いますので、是非。
ヒグチユウコプロフィール
画家・絵本作家。
絵本『せかいいちのねこ』シリーズ、『ギュスターヴくん(今井昌代と共著)』『ラブ レター』(白泉社)、『ふたりのねこ』(祥伝社)『すきになったら』(ブロンズ新社)、装画『絵草紙波風露草玉手箱(著・日和聡子)』(講談社)、画集『ヒグチユウコ画集 CIRCUS』『BABEL Higuchi Yuko Artworks』(グラフィック社)など 多数の著書を出版。近年ではGUCCIとのクリエイションも行っている。
展覧会情報
ヒグチユウコ展 CIRCUS FINAL END
会場:森アーツセンターギャラリー
開催期間:2023年2月3日(金)~4月10日(月)
所在地:東京都港区六本木6-10-1 六本木ヒルズ森タワー52階
アクセス:
・東京メトロ日比谷線 六本木駅「1C出口」より徒歩3分
・都営地下鉄大江戸線 六本木駅「3出口」より徒歩6分
・都営地下鉄大江戸線 麻布十番駅「7出口」より徒歩9分
・東京メトロ南北線 麻布十番駅「4出口」より徒歩12分
・東京メトロ千代田線 乃木坂駅「5出口」より徒歩10分
開館時間:10:00~18:00 ※金曜・土曜日は20:00まで開場
※入場は閉場の30分前まで
休館日:会期中無休
入場券:
一般/大学生・専門学校生2,000円
中高生1,600 円
小学生600 円
※事前予約制(日時指定券)を導入しています。
※未就学児は無料。日時指定券のご購入は不要です。
※障がい者手帳をお持ちの方および付き添い者1名までは、2/6(月)以降は無料で入場いただけます。チケットカウンター(森タワー3階)にお越しください(当日分のみ可)。
特設サイト:
https://higuchiyuko-circus.jp/

画像ギャラリー
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東京美術館巡りというSNSアカウントの中の人をやっております。サラリーマンのかたわら、お休みの日には、美術館巡りにいそしんでおります。もともとミーハーなので、国内外の古典的なオールドマスターが好きでしたが、去年あたりから現代アートもたしなむようになり、今が割と雑食色が強いです。
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