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2023.3.2
京都人の感性で表現を越境する『甲斐荘楠音の全貌』
京都国立近代美術館で開館60周年を記念する展覧会『甲斐荘楠音の全貌―絵画、演劇、映画を越境する個性』が開幕しました。会期は4月9日(日)までで、東京ステーションギャラリーに巡回予定です。
甲斐荘楠音(かいのしょう・ただおと)とは……と説明する前に、とにかく作品をご覧ください! 言葉での説明が要らないくらい、パワーのある作品がたくさんあります。
絵画を中心に、演劇や映画の領域でも才覚を発揮した甲斐荘。本展は画業のみならず、甲斐荘の多岐にわたる活動を俯瞰する展覧会です。見どころを美術ライターの明菜が解説していきます。
甲斐荘にしか描けない美
甲斐荘は女性を題材に多くの絵を描きました。ジャンルにくくるなら「美人画」かと思いますが、万人が「美人」と判断するとは言いきれないでしょう。熱狂的なファンになる人と、真逆の人にはっきりと分かれそうな作風です。(私は大好きな側!)
例えば東京で活躍した鏑木清方などの美人画を思い浮かべると、まったく違う目標を志していたのだと感じました。東京の洗練された美とは違う、人間の裏面まで描き出すような恐ろしさがあります。
京都の洛中に生まれ、御所周辺で優美な文化に囲まれて育った甲斐荘。幼い頃は体が弱く、女の子が遊ぶおもちゃや女の子向けの華やかな着物に親しんだそうです。
その様子を父親が見て可愛がっていたというエピソードもあり(男の子らしくしなさい、と言われなかったのは当時にしては珍しい)、「女」を見る独特の目は幼少期から養われたのではないでしょうか。
こうした美しくも恐ろしい女たちには、私も覚えがありまして……。
前時代的かもしれませんが、本音と建前を使い分けたり、権力のある男性を手のひらの上で転がしたりと、体力で男に勝てない女たちにはさまざまな知恵がありました。私も女性のひとりとして感じている「女の恐ろしさ」が、甲斐荘の絵には克明に描き出されていると思います。
美醜の両方が生々しく描き出された作品を通し、甲斐荘がいかに鋭い目を持ち、人の内面を見抜いていたかを感じました。
映画や演劇への功績
幼少期から歌舞伎の観劇を好んだ甲斐荘は、絵画のみならず演劇・映画の領域でも活躍しました。自ら女形として舞台に立つこともあったそうです。
さらに、時代劇の風俗考証や衣裳のデザインも手がけました。本展では、太秦の東映京都撮影所に保管されていた衣裳がずらりと展示されています。
「旗本退屈男」などの代表作で知られる市川右太衛門の衣裳を中心に、華やかかつ斬新なデザインの衣裳が並んでいます。いずれも物語やキャラクターの醸し出す雰囲気を掴んでおり、衣裳からも甲斐荘の人を見る目を感じました。
名家に育った甲斐荘は、もともと華やかな世界の水が合う人だったのでしょうか。美男美女の集う映画界で、のびのびと活躍した様子がわかります。
まとめ
表面的な綺麗さや癒しに留まらない、怖さを兼ね備えた絵は、近年人気が高まっているように思います。2021年に東京国立近代美術館などで開催された「あやしい絵展」もその火付け役のひとつで、同展で甲斐荘を知った人もいるのでは。
『甲斐荘楠音の全貌』では、絵画のみならず映画や演劇での活躍も紹介されます。甲斐荘の「全貌」を知ることで、彼の作品が持つ独特のあやしさと魅力に耽溺(たんでき)できるのではないでしょうか。
展覧会情報
甲斐荘楠音の全貌―絵画、演劇、映画を越境する個性
会場:京都国立近代美術館
会期:2023年2月11日(土・祝)~4月9日(日)
開館時間:午前10時~午後6時(金曜日は午後8時まで開館)
*入館は閉館の30分前まで
休館日:月曜日
特設サイト:https://kainosho.exhn.jp
美術館ウェブサイト:https://www.momak.go.jp
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美術ブロガー/ライター。美術ブログ「アートの定理」をはじめ、各種メディアで美術館巡りの楽しさを発信している。西洋美術、日本美術、現代アート、建築や装飾など、多岐にわたるジャンルを紹介。人よりも猫やスズメなど動物に好かれる体質のため、可愛い動物の写真や動画もSNSで発信している。
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