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2023.3.17

一石三鳥の展覧会「吉野石膏コレクション」展が開催中。本と絵画の繋がりを紐解こう!

近代フランス絵画と日本画、洋画を中心としたコレクションで知られる吉野石膏コレクションの展覧会「本と絵画の800年 吉野石膏所蔵の貴重書と絵画コレクション」が、2023年4月16日まで練馬区立美術館で開催されています。

最近でいうと2019年に三菱一号館美術館で開催された「印象派からその先へ―」展で“吉野石膏”の名を覚えている方も多いと思います。

今回は、本との繋がりというキーワードで、吉野石膏美術振興財団のアートライブラリーが有する貴重書のコレクションと吉野石膏株式会社が長年収集してきた絵画コレクションを通じ、12世紀から20世紀まで、本と絵画の800年の歩みを紐解いていく展示となっています。

また、純粋に絵画の巨匠たちの名画コレクションとしても十分楽しめる内容の濃い展覧会になっています。

制作に手間ひまがかかる「写本」

15世紀半ばに活版印刷術が誕生するまで、本はすべて人の手によって作られていました。鳥の羽でつくったペンにインクをつけ、動物の皮を薄く削って加工した羊皮紙の上に一文字ずつ書いていくという、気が遠くなるような手間と時間がかかりました。

鳥の羽でつくったペンにインクをつけて一文字ずつ書いていました

『時祷書 零葉:聖セバスティアヌス』インク、彩色、羊皮紙。たくさんの職人の手によって作られた装飾写本

手で写すということで、「写本」と呼ばれ、1冊の写本ができるまでには、羊皮紙を準備する人、文字を書く写字生(しゃじせい)、挿絵と装飾を描く画家、できたものを製本する職人が必要でした。

羽ペンへインクが流れるのに最適な60度の角度をつけた写字台のレプリカ

鎖付き聖書と書見台のミニチュア。当時貴重だった写本は盗まれないように鎖で繋がれていました

古くは、神の言葉を書写し、広めるということで、修道者たちが従事していましたが、各地に大学が誕生し、書物の需要が増大するに伴い、写本制作は民間の工房へと移ります。さらに読者層になる富裕層の商人などが増えると、都市部に工房がどんどん増えていきます。

1000年以上作られてきた「写本」、なかでも様々な色や金で装飾や挿絵を施した「彩飾写本」は、限られた人だけが所有できる特別なものでした。

『時祷書 零葉:ダヴィデ王』インク、彩色、羊皮紙。色とりどりの顔料、金で飾られた「装飾写本」

活版印刷の登場によって変わったもの

手書きだった写本が活版印刷に変わり、文字は金属活字、挿絵も初めは写本に似せようと手書きの装飾でしたが、やがて版画へと移り変わっていき、それまでとは比べようのないスピードでの本づくりが可能になりました。

なかでも、ルネサンスの印刷本『ヒュプネロトマキア・ポリフィリ』は、独創的なレイアウトに優美な挿絵、洗練されたローマン時代の活字が美しく調和され、書物史上で最も美しい印刷本とも評されました。

フランチェスコ・コロンナ『ポリフィロのヒュプネロトマキア、すなわち夢の中の愛の闘い』木版

中世・ルネサンスへの回帰

19世紀になると産業革命に伴い、社会の急激な変化を迎えます。その反動として、中世的な社会のあり方への関心が英国で高まり、中世趣味の書物が見られるようになります。

カリグラフィーの流行や中世・ルネサンス期の写本を模した豪華な印刷物がつくられ、その風潮は他国にも広がっていきます。書物の原点回帰ともいえるこの現象の中で、ウイリアム・モリスの出版活動は重要と位置付けされました。

19世紀後半のイギリスでつくられた手彩色木版や写字・装飾の書籍

さらにプライベート・プレスと呼ばれる小規模で良質な書籍制作を行う出版所が次々に誕生しました。その中でも、他にない豊かな色彩が特徴を持つエラニー・プレスは印象派の画家カミーユ・ピサロの長男、リュシアン・ピサロによって設立されました。英国の多色刷りに魅了され、フランスで木版を学んだ後、英国に渡り、理想の本づくりに取り組みました。
製本以外は、自分と妻のエスターで手がけ、自分の作品としてじっくりと作り上げられたエラニー・プレスは、真の意味での「芸術家の本」といえるでしょう。

キャプション:中世への回帰が見られるエラニー・プレスの木版表現

20世紀に入ると、フランスでは芸術家が挿絵を描き、本との結びつきが密接になっていきます。日本でも同様に挿絵や本の装幀など絵画だけでない、画家の表現の分野が広がっていきました。後半は、このような本との結びつきとの関連で、絵画も多数展示されていました。純粋に、絵画コレクションとしてみても見応えのある展示かと思います。

ピカソ、マティス、ゴッホ、カンディンスキー、藤田嗣治などのヨーロッパの絵画。さらには、伊藤若冲、横山大観、渡辺省亭、鏑木清方、伊東深水、川端龍子などの日本画。岸田劉生、安井曽太郎、梅原龍三郎、小磯良平などの洋画を満喫できます。

クロード・モネや、ジャン=フランソワ・ミレーの展示風景

上村松園など日本の美人画の展示も充実しています

東山魁夷など日本画の巨匠まで展示されていました

さいごに

最後までお読みいただきありがとうございます。いままで、吉野石膏といえば、印象派近辺のコレクションのみしか見たことがなく、これほど日本画が充実、さらには、本の歴史の展覧会が開催できるほどの貴重本のコレクションが充実していたとは知りませんでした。1つの展覧会で、2度楽しめる欲張りな展覧会、いや、ヨーロッパ絵画と日本画で分ると3度楽しめる、アート初心者向けの展覧会かと思います。

参考文献:本と絵画の800年 吉野石膏所蔵の貴重書と絵画コレクション図録

展覧会情報

本と絵画の800年 吉野石膏所蔵の貴重書と絵画コレクション
会場:練馬区立美術館
開催期間:2023年2月26日(日)~4月16日(日)
所在地:東京都練馬区貫井1-36-16
アクセス:西武池袋線 中村橋駅より徒歩3分
開館時間:10:00~18:00 ※入場は閉場の30分前まで
休館日:月曜日
観覧料:
一般1,000円
高校/大学生および65~74歳 800円
中学生以下/75歳以上 無料
障害者(一般)500円、障害者(高校・大学生)400円、
団体(一般)800円、団体(高校・大学生)700円

※一般以外のチケットをお買い求めの際は、証明できるものをご提示ください。(健康保険証・運転免許証・障害者手帳など)
※障害がある方の付き添いでお越しの場合、1名様までは障害者料金でご観覧いただけます。
※団体料金は、20名様以上の観覧で適用となります。
※当館は事前予約制ではありません。当日、チケットカウンターでチケットをお求めください。

特設サイト:
https://yoshino-gypsum.com/special/collection_202302/index

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つくだゆき

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東京美術館巡りというSNSアカウントの中の人をやっております。サラリーマンのかたわら、お休みの日には、美術館巡りにいそしんでおります。もともとミーハーなので、国内外の古典的なオールドマスターが好きでしたが、去年あたりから現代アートもたしなむようになり、今が割と雑食色が強いです。

東京美術館巡りというSNSアカウントの中の人をやっております。サラリーマンのかたわら、お休みの日には、美術館巡りにいそしんでおります。もともとミーハーなので、国内外の古典的なオールドマスターが好きでしたが、去年あたりから現代アートもたしなむようになり、今が割と雑食色が強いです。

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