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2023.3.29
【レポート】全国巡回した江口寿史の個展・彼女展のスペシャル版が日比谷で開催中!
2018年から2023年1月まで全国を巡回し、全会場合計12万人を越える動員を記録した江口寿史の展覧会「彼女」が、「東京彼女」として日比谷の地に登場。「江口寿史イラストレーション展 東京彼女」は東京だけで開催されるスペシャル版で、これまでにない切り口で作品を厳選しています。
目次
東京ミッドタウン日比谷 BASE Q HALLで2023年4月23日まで開催される本展の見どころをいくつか絞ってご紹介します。
イラストのお仕事
「週刊少年ジャンプ」連載の「すすめ!!パイレーツ」ではナンセンスなギャグ漫画を、「ストップ!!ひばりくん!」では女装をした美少年を描き、作品は大ヒットし、人気漫画家の仲間入りをしますが、やがてその美少女の描写力から、本の装画や広告の仕事がだんだん増えていきます。
Shiggy Jr.「ALL ABOUT POP」CDジャケット
会場の壁には、いろいろなポーズをとる女の子のイラスト。あざとさがうかがえる女の子から、何気ない一場面、違いは紙一重なのでしょうが、この作り出されたポーズが、江口寿史の引き出しの多さ、洞察力の深さ、40年以上の経験を感じさせます。
江口寿史の重要なモチーフとして登場するのが、ヘッドフォンをかけた女の子。それもいま流行りのインナータイプではなく、大きいオーバーイヤータイプ。絵的にバランスがとれてるということなのでしょうが、自分の世界に入り込めるという面もオーバーイヤーヘッドフォンにはあるようです。そう考えると音楽を聴きながら自分の世界に入り込んでいる女の子の姿にも見えてきます。
lyrical school「date course」CDジャケット/Shiggy Jr.「LISTEN TO THE MUSIC」CDジャケット
ワインボトルと女性
創刊号から担当している季刊「リアルワインガイド」の表紙。モチーフとしては、当然ワインを持った女性、しかもワインが飲める年齢。ワイン雑誌だけあって実在するワインを毎回描いています。ワイン好きの人は、銘柄まで見つけられそう。お酒と美人の組み合わせは、昔からテレビCMでも見るお馴染みの組み合わせ。この黄金の組み合わせを日常の無邪気な姿で昇華させています。ちなみに、毎年この表紙を集めたカレンダーが発売されていて、筆者の玄関を飾っています。
街頭の女の子をモデルに
「Weekly 漫画アクション」の表紙を飾るための街頭の写真取材でのイラスト。それまでの理想の「かわいい女の子」と違い、市井の「リアルな女の子」。少々写実的なタッチで特徴を描いていきます。一人一人の表情が個性として表現されていて、江口寿史の奥行きの深さを感じられます。ちなみに、会場ごとに「ライブスケッチ」という事前に申し込んだ一般の方をその場で江口寿史がデッサンしていくというイベントもありました。(本展のライブスケッチは3/21に終了しています)
「Weekly 漫画アクション」表紙「美少女のいる街風景」シリーズ
「Weekly 漫画アクション」表紙「美少女のいる街風景」シリーズ
サポーターコーデの女の子
今年はWBCで盛り上がりましたが、野球女子も描いています。厳密にはファンのチームのユニフォームを着た女の子。少し前から「カープ女子」と言う赤いユニフォームコーデで広島カープの応援をする女の子が人気になりましたが、基本どこのチームでも、いやどこのサッカーチームでも応援はひいきチームのユニフォームを着ていくことが多いです。
そんなゲレンデマジックに似たスタジアムマジックが彼女らのかわいさを割増しさせてくれます。ちなみにタイガースを応援する女性は「トラジョ」、ホークスの場合は「鷹ガール」と言うそうです。
「Number」939号(野球女子)、936号(カープ女子)、932号(トラジョ)、9/15 臨時増刊号
西洋美術へのオマージュ
ポップアートの旗手で知られるアンディ・ウォーホルの「エルヴィス」をモチーフにした作品があります。エルヴィスと同じポーズをとったカウガールになっています。ひばりくんにはロイ・リキテンスタインばりのドットも。また、オランダの画家フェルメールの絵で見られる女性が持つリュートをエレキギターに変えて描いていたりします。今の女の子を描いてはいますが、西洋美術へのオマージュも感じられますし、そもそも、女性を描くことは現代における美人画でもあります。
楠見清「ロックの美術館」カバー/銀杏BOYZ「君と僕の第三次世界大戦的恋愛革命」CDジャケット
「パントーン・オーバーレイ」の原画
ここ日比谷会場では、「パントーン・オーバーレイ」を使用した原画も巡回で初めて展示されています。現在は、PCでのデジタル彩色も、80〜90年代では画材「パントーン・オーバーレイ」というカラーシートによる彩色でした。ベースとなる輪郭線を黒で描き、絵の具の代わりに、着色部分ごとに中を切り抜きいて、一色ずつのカラーシートを切り貼りして彩色します。当時は大変手のかかる作業だったようですが、当時を振り返る貴重な作品となってます。
80〜90年代に「パントーン・オーバーレイ」で制作していた原画
さいごに
最後までお読みいただきありがとうございます。千葉の巡回展の壁にいろいろな語録が貼られていた中のひとつを紹介します。
「女の人のある時期の『無敵さ』をなんとか絵に定着したい。そう思いながら描いている。」
そういうふうに言われてみてみるとどれも女の子の「無敵さ」が感じられる絵だなって思いました。筆者が訪れた時も男性より断然女性が多く、その理由がこれかと思いました。もちろん男性も性別関係なく楽しめる展示になっていますので、ぜひ。
so nice・RYUTist「日曜日のサマートレイン」CDジャケット/TOKYO MIDTOWN HIBIYA 5TH ANNIVERSARY 江口寿史イラストレーション展「東京彼女」
参考文献:展覧会キャプション等
作家プロフィール
江口寿史(えぐち ひさし)
1956 年熊本県水俣市生まれ。1977 年「週刊少年ジャンプ」にて『恐るべきこどもたち』で漫画家デビュー。代表作に『すすめ‼パイレーツ』(77年)、『ストップ‼ひばりくん!』(81年)、『「エイジ」』(84年)など。斬新なポップセンスと独自の絵柄で漫画界に多大な影響を与える。80年代中盤からはイラストレーターとしても多方面で活躍。漫画連載当時のファンから、イラスト作品や CD ジャケット画で知った若い世代まで、幅広い支持を集めている。1992年 短編集『江口寿史の爆発ディナーショー』で第38回文藝春秋漫画賞受賞。2015年9月画集『KING OF POP』(玄光社)を出版。それにあわせてキャリア初となる巡回展『江口寿史展 KING OF POP』を全国8ヶ所で開催。2018年4月女性画に焦点を当てたイラストレーション展 『彼女』を金沢21世紀美術館で開催。同展は2019年に明石、しもだて(筑西市)、2021年に青森、旭川、2022年に長野、盛岡、千葉を巡回し、全会場あわせて12万人を越える動員を記録した。近著に画集『step』(2018 年 河出書房新社)。LP レコードサイズの大判画集『RECORD』(2020 年 河出書房新社)。美人画集『彼女』(2021 年 集英社インターナショナル)など。
展覧会情報
Tokyo Midtown Hibiya 5th Anniversary 江口寿史イラストレーション展「東京彼女」
会場:東京ミッドタウン日比谷 6階 BASE Q HALL
開催期間:2023年3月14日(火)~4月23日(日)
所在地:東京都千代田区有楽町1-1-2
アクセス:
東京メトロ千代田線、日比谷線、都営地下鉄三田線「日比谷」駅直結
東京メトロ有楽町線「有楽町」駅 徒歩4分
東京メトロ丸の内線、日比谷線、銀座線「銀座」駅 徒歩5分
JR山手線、京浜東北線「有楽町」駅 徒歩5分
開館時間:11:00~19:00
休館日:会期中無休
料金:
一般 1000円(税込)
大学生・高校生 800円(税込)
中学生以下 無料
※すべて当日券、事前販売はなし
公式サイト:https://www.hibiya.tokyo-midtown.com/anniversary/tokyo-kanojo/
関連イベント
ワークショップ
開催日:4月2日(日)
時間: ①13:00~14:30 ②16:00~17:30
会場:東京ミッドタウン日比谷 9F カンファレンス ROOM6
即興スケッチの極意を江口先生が直接指導する特別な機会。
※申し込みは終了しました。
江口先生によるサイン会
開催日: 4月9日(日)、16日(日)、23日(日)
時間:午後1時~午後7時
会場:東京ミッドタウン日比谷 6F BASE Q STUDIO(展覧会場入り口・横)
対象:当日、時間指定サイン券を取得の上、6階特設ショップにて江口展グッズ3,000円(税込)以上を購入の方、各日限定120人。
注意事項:
※サイン入れは1人1点まで、当日購入されたグッズのみとします。色紙はご遠慮ください。
※イラストの個別注文は御遠慮ください。江口氏にお任せください。
※写真・動画の撮影は自由ですが、サイン入れの時間枠内でお願いします。別撮りのツーショットはお受けできかねます。
画像ギャラリー
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東京美術館巡りというSNSアカウントの中の人をやっております。サラリーマンのかたわら、お休みの日には、美術館巡りにいそしんでおります。もともとミーハーなので、国内外の古典的なオールドマスターが好きでしたが、去年あたりから現代アートもたしなむようになり、今が割と雑食色が強いです。
東京美術館巡りというSNSアカウントの中の人をやっております。サラリーマンのかたわら、お休みの日には、美術館巡りにいそしんでおります。もともとミーハーなので、国内外の古典的なオールドマスターが好きでしたが、去年あたりから現代アートもたしなむようになり、今が割と雑食色が強いです。
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