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EVENT

2023.7.19

愛らしい化け猫から、空想の生き物まで想像力豊かな絵本作家・石黒亜矢子の原画展。

化け猫や妖怪、想像上の生き物を、日本画を想起させる流麗な筆致で描きだす絵描き・石黒亜矢子。彼女の画業の全貌とその奔放な想像力の源に迫る初めての大規模展覧会「石黒亜矢子展 ばけものぞろぞろ ばけねこぞろぞろ」が、2023年9月3日(日)まで世田谷文学館で開催されています。

本展では、最初期の妖怪絵をはじめ、『いもうとかいぎ』『えとえとがっせん』『ねこまたごよみ』などの絵本原画を中心に、描きおろしの新作約20点を含む500点あまりを展示。また、ぬいぐるみ作家・今井昌代とのコラボ作品、雅太郎玩具店による『いもうとかいぎ』のキャラクターの立体作品も合わせて楽しめる展覧会となっています。

世田谷文学館エントランス

石黒亜矢子とは?

1973年、千葉県生まれ。日本の絵本作家・絵描き・イラストレーター。妖怪や創造上の生き物、動物を題材とした作品が多く、日本国内で個展も精力的に開催しています。愛猫家としても知られ、猫を溺愛しつつ爬虫類にも夢中のようです。ちなみに、夫はホラー漫画家として知られる伊藤潤二です。

絵本作品に『ばけねこぞろぞろ』(あかね書房)、『いもうとかいぎ』(ビリケン出版)、『えとえとがっせん』(WAVE出版)他。2016年、玄光社より画集『石黒亜矢子作品集』出版。『豆腐小僧双六道中ふりだし』京極夏彦/著(講談社)、『現代版 絵本御伽草子付喪神』町田康/著(講談社)などの挿絵・装画も手がけます。そのほか企業とのコラボレーション作品を発表するなど活動は多岐に渡ります。

『いもうとかいぎ』(ビリケン出版 2016年)

エントランスに登場する猫は飼い猫がモデル

建物のエントランスには、頭上に赤い月が輝いています。妖怪たちが現れる百鬼夜行に出現すると言われており、展示の内容を暗示しています。

階段を上がって会場のエントランスに到着すると、やぐらの両脇に立つ猫の姿が目に入ります。これらの猫は、石黒亜矢子の飼い猫である"てんまる"と"とんいち"がモデルになっており、彼女の猫への愛情深さが感じられます。

会場入口の両脇の猫は石黒亜矢子の飼い猫である"てんまる"と"とんいち"がモデル

入口のやぐらをくぐると、まず目に飛び込んでくるのは、最新作『ねこまたごよみ』の絵本原画。この作品では、しっぽが途中から2本に分かれている猫の妖怪「ねこまた」一家の一年間の行事が細かく描かれています。特に、「ひにゃまつり」や「くりすにゃす」といった行事名が、少しずつかわいらしく変化しているところが微笑ましいです。

≪ねこまたごよみ 霜月≫ 2021年

猫で表現された、どこかユーモラスな地獄絵図

展覧会のメインビジュアルとしても使用されているのは、猫又の《地獄十王図》という作品。この作品は、展覧会の目玉のひとつであり、地獄絵図の要素を含んでいます。

作品には閻魔大王を含む10人の王や、地獄に堕ちた亡者や罪人などが、すべてねこまたとして描かれています。原画の下には、「しょにゃのか」や「ふたにゃのか」などの説明があり、それぞれのキャラクターを理解しながら絵を楽しむことができます。

地獄絵図は、日本画などでおなじみのものですが、この作品では猫が対象となっているため、どこかユーモラスな雰囲気があります。右から順番に作品を見ていくと、地獄を追体験するような感覚でご覧いただけます。

新作≪地獄十王図≫2022年(部分)

なお、《地獄十王図》の原画の2/3の大きさの巻物も販売(受注生産)されています。これは展覧会限定のアイテムであり、世田谷文学館の一階ショップで申し込むことができます。展覧会を後にする際には、ぜひチェックして忘れずに見てみてください。

会場風景

アナログへのこだわりが感じられる細かい下絵

展示されている作品の下絵も、本作品と同様に見どころのひとつです。石黒亜矢子自身は、曾我蕭白や河鍋暁斎といった日本画家を好んでおり、その影響が画風にも反映されています。

また、最近ではデジタルで作品を描く画家も増えてきていますが、石黒亜矢子はアナログに強いこだわりを持っていて、下絵にも強く現れています。さらに本絵の完成度にも大きく影響を与えています。展覧会を通じて、作品制作のプロセスにも注目してみてください。

『えとえとがっせん』下絵

『えとえとがっせん』原画

ぬいぐるみ作家・今井昌代とのコラボ作品

展示室の中心には、目を引く犬小屋のようなオブジェ。中は悪いくま達の溜まり場になっているレストラン。この作品は、ぬいぐるみ作家の今井昌代と石黒亜矢子とのコラボ作品で、最新作『クマの食事会』が展示されています。

作品は、石黒亜矢子の絵を今井昌代がぬいぐるみ化し、さらに石黒亜矢子のアイデアも加えられて、まさに二人のアイデアが重なり合って完成したコラボ作品です。また、『いもうとかいぎ』のてふちゃんやねえねを雅太郎玩具店がぬいぐるみに変身させてくれました。

会場風景

ぬいぐるみ作家の今井昌代とのコラボ作品、新作《くまの食事会》2023年

雅太郎玩具店による布人形《妖精てふちゃん、ねえね、いもちゃん》

他にもいろいろな生物や、オマージュ作品の展示

会場では、猫だけでなく、干支の動物や百鬼夜行の妖怪、UMA(未確認生物)など、さまざまな生き物の作品も楽しむことができます。映画のシーンを猫でオマージュするなど、幅広い展示が行われています。

特に注目すべきは、古い絵を思わせる汚れの技法。石黒亜矢子は、コーヒーを使ってわざと紙を汚しています。これにより、作品に妖怪っぽさが漂い、独特のおもむきが生まれています。

《鉱》2021年

関連展示「どっせい ! ねこまたずもう~夏場所~」

7月22日~8月31日(予定)、無料・予約不要
人気絵本『どっせい!ねこまたずもう』の世界を体感できるメディアアート作品が1階文学サロンに出現します。参加者の動きに映像が連動し、絵本のなかのキャラクターと相撲をとることができます。

『どっせい!ねこまたずもう』原画と絵本

最後に

最後のコーナーは展覧会のタイトルにもなっている『ばけねこぞろぞろ』の絵本の紹介です。主人公の男の子が、いじめていた猫に襲われるところを飼い猫に救われるという内容。

最後は教訓的なオチもついていて、絵本展示で終わる原点回帰も絵本作家・石黒亜矢子ならではとも思いました。原画が数多く展示されている会場では、原画と並んでその最終形である絵本も置かれており、実際にその場で絵本を読むことができます。

夏休み期間を含んだ9月までの展示は、ぜひ、お子さんにも来て欲しい展覧会になっています。

会場を出るとカエルが最後にお見送りをしてくれます

開催概要

石黒亜矢子展 ばけものぞろぞろ ばけねこぞろぞろ
会場:世田谷文学館
開催期間:2023年4月29日(土・祝)〜2023年9月3日(日)
所在地:東京都世田谷区南烏山1-10-10
アクセス:京王線 芦花公園(ろかこうえん)「南口(右側)」徒歩5分
開館時間:10:00~18:00
(展覧会入場、ミュージアムショップは午後5時30分まで)
休館日:月曜日(月曜が祝日の場合は開館し、翌平日休館)
料金:一般1,000円、65歳以上・大学・高校生600円、小・中学生300円、障害者手帳をお持ちの方(ただし大学生以下は無料)500円
公式webサイト:石黒亜矢子展 ばけものぞろぞろ ばけねこぞろぞろ

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つくだゆき

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東京美術館巡りというSNSアカウントの中の人をやっております。サラリーマンのかたわら、お休みの日には、美術館巡りにいそしんでおります。もともとミーハーなので、国内外の古典的なオールドマスターが好きでしたが、去年あたりから現代アートもたしなむようになり、今が割と雑食色が強いです。

東京美術館巡りというSNSアカウントの中の人をやっております。サラリーマンのかたわら、お休みの日には、美術館巡りにいそしんでおります。もともとミーハーなので、国内外の古典的なオールドマスターが好きでしたが、去年あたりから現代アートもたしなむようになり、今が割と雑食色が強いです。

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