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EVENT

2024.2.21

【東京2/27〜】今あらためて見つめる日本の美『日本の山海』

東京都港区の松岡美術館にて、『日本の山海』という展覧会が開幕します。会期は2月27日(火)〜6月2日(日)です。

下村観山《富士》大正7~8(1918~1919)年頃 絹本着色 後期展示

日本では古来より信仰の対象とされ、身近でありながら特別な存在だった山や海。多くの芸術家たちが題材に取り上げ、多彩な作品が誕生してきました。本展では「山と海」を切り口に、日本の画家たちによる絵画の名品が展示されます。

青磁象嵌雲鶴菊花文盒子 高麗 14世紀

また、同時開催の『アジアのうつわ』、通年企画として開催される『古代エジプトの美術 平穏と幸せへの願い』も、あわせて鑑賞できます。ぜひ同館を訪れて、多様な背景を持つ美術やアートに触れる1日を楽しんではいかがでしょうか。

見どころ①志賀重昴の流麗な文章とともに絵画を紹介

横山大観《黎明》昭和4(1929)年頃 絹本墨画淡彩 後期展示

日本の山と海は私たちに恵みをもたらす一方、猛威をふるうこともあり、古くから信仰の対象とされてきました。現代のように調査研究やレジャーとして山に登る人が出てきたのは、近代化が進んだ明治時代。いわゆる西洋式登山が輸入されてからのことでした。


1894年には、明治の地理学者である志賀重昂による『日本風景論』が出版され、ベストセラーに。学術的な目線で日本の地理を解説する科学的な書籍でありつつも、詩情豊かな流麗な文章により日本の自然の美しさが述べられています。

山下新太郎《黒部峡谷鐘釣附近》昭和7(1932)年 油彩・カンヴァス 通期展示

本書は日本人の景観意識を変革し、芸術家たちにも影響を与えました。本展では、同館の初代館長であり創設者である松岡清次郎氏も影響を受けたのではないかという仮説のもと、志賀の文章とともに日本の画家が描いた山と海の作品が展示されます。美しい文章と日本の豊かな自然の美の共鳴を、うっとりと堪能できる機会となりそうです。

見どころ②日本一の名峰、富士の絵

狩野常信《富士三穂図》(右幅) 江戸時代 絹本淡彩 前期展示

日本の山といえば、日本最高峰の名山である富士山です。本展では、狩野常信、橋本雅邦、下村観山、横山操、小松均などによる、江戸時代から昭和時代にかけて描かれた9点の富士の絵が展示されます。


今では言わずと知れた名峰ですが、実は「富士山が日本一の名山である」という認識は、明治以前には無かったそうです。

橋本雅邦《春景富岳図》 明治26(1893)年頃 絹本着色 後期展示

古来より霊山として崇敬され、和歌や物語の題材となってきましたが、日本一の名山とされるようになったのは、明治の頃から。『日本風景論』で「『名山』中の最『名山』を富士山となす」と表した志賀重昴の論調が学校教育の教科書に取り込まれるなど、富士山を日本のシンボルとする考えが国民の間に広まっていきました。


社会の変化とともに、人々が富士山に投影する思いも変わっていきます。しかしいつの時代も変わらずそこにあるのが、富士山という大いなる存在。芸術家たちが描いた山を通して、当時の暮らしに思いを馳せたり、現在の自分を見つめ直したりできるのではないでしょうか。

見どころ③東西の名匠が描く海景画

本展では竹内栖鳳が描いた一幅の海景画と、寺崎廣業による浜松図屏風が展示されます。よく栖鳳と横山大観を並び立てて「西の栖鳳、東の大観」と言いますが、廣業も近代の日本画壇を牽引した人物で、「西の栖鳳、東の廣業」とも言われるのだとか。

竹内栖鳳《晴海》 大正7(1918)年頃 絹本着色 後期展示

栖鳳は日本画の近代化を目指し、日本の伝統的な絵画表現と西洋美術の表現の両方を取り入れた画家です。青い色が印象的な《晴海》では、モチーフの数を絞って小さく配置し、抽象度を高め、海の美しさを際立たせています。

寺崎廣業《春海雪中松図(右隻)》大正3(1914)年 絹本着色 後期展示

廣業は狩野派や四条派などさまざまな画派の技法を学び、写生を重視しつつ自身の目で捉えた自然の印象を反映させ、新たな風景画を模索しました。《春海雪中松図》では地面から太い根を露出させた「根上がり松」が描かれ、自然をよく観察して描く写生と廣業独自の装飾性が調和しています。

寺崎廣業《春海雪中松図(左隻)》大正3(1914)年 絹本着色 後期展示

同時開催の展覧会も要チェック

また、同時開催の『アジアのうつわ』、通年企画の『古代エジプトの美術 平穏と幸せへの願い』も、『日本の山海』とあわせてお楽しみいただけます。

青花鯰藻文輪花盤 ベトナム 14~15世紀

『アジアのうつわ』では、中国の影響を受けて発展し、独自の文化や美意識へと展開したアジア各地の陶磁器を展示。注目したいのは、カワセミの羽色にたとえて翡色と称賛された高麗青磁や、日本人が安南とよび親しんだベトナムの青花と五彩、安土桃山時代の志野焼、江戸時代の古伊万里をはじめとする日本のやきものなど。北宋時代から明時代の中国陶磁とともに約50点紹介されます。

バステト女神像 紀元前664~紀元前332年頃

『古代エジプトの美術 平穏と幸せへの願い』では、冥界の神オシリス、猫の頭を持つバステト女神など、人々の心を支えた神々の小像が展示されます。厳しい自然環境、病気や戦争といった試練を受けながら、多くの神を拠り所とした古代エジプト人の暮らしと文化に触れることができるでしょう。

展覧会情報

日本の山海

会場:松岡美術館

会期:2024年2月27日(火)~6月2日(日)
◎前期:2024年2月27日(火)〜4月14日(日)
◎後期:2024年4月16日(火)〜6月2日(日)
※絵画作品の一部入れ替えあり

開館時間:
10:00〜17:00(最終入場時間 16:30)
毎月第1金曜日:10:00~19:00(最終入場時間 18:30)

休館日:月曜日 
※祝日の場合は翌平日

美術館公式ウェブサイト:松岡美術館

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明菜

明菜

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美術ブロガー/ライター。美術ブログ「アートの定理」をはじめ、各種メディアで美術館巡りの楽しさを発信している。西洋美術、日本美術、現代アート、建築や装飾など、多岐にわたるジャンルを紹介。人よりも猫やスズメなど動物に好かれる体質のため、可愛い動物の写真や動画もSNSで発信している。

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