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2024.9.11

【太田記念美術館】『浮世絵お化け屋敷』の後期展示の見どころレポート!幽霊と妖怪を描いた浮世絵の名品が大集合

祟る怨霊や怒れる亡霊、それに鬼や河童、天狗に土蜘蛛など、浮世絵に登場するさまざまな幽霊や妖怪たち。そうしたお化けを描いた浮世絵を展示する『浮世絵お化け屋敷』が、東京・神宮前の太田記念美術館にて開催中です。

歌川国芳『日本駄右エ門猫之古事』 太田記念美術館蔵 弘化4年(1847)

9月6日にスタートした後期展示から、一推しの作品をご紹介します。

骸骨がリアル?!歌川国芳の代表作『相馬の古内裏』の圧倒的な迫力

歌川国芳『相馬の古内裏』 個人蔵 弘化2〜3年(1845〜46)

まずは山東京伝・歌川豊国画の読本を題材にした、歌川国芳の『相馬の古内裏』に注目してください。相馬の古内裏とは平将門の造営した屋敷で、国の転覆を企む遺児の瀧夜叉姫が隠れ住む場所。そこで瀧夜叉姫は妖術で妖怪を出現させ、退治にやって来る武士の中から、仲間になりそうな豪胆な者を探しています。

その物語を国芳は巨大な骸骨を登場させてダイナミックに表現。左に巻物を広げる瀧夜叉姫を、下には骸骨を睨み返す大宅太郎光国の姿を描いています。

ぬっと現れる大きな骸骨と、斜めに画面を分割するような構図に圧倒されますが、お化けなのに骸骨がリアルに描かれていることに気づきませんか?細部こそ実際とは違うものの、西洋の解剖学の本を参照した可能性も指摘されています。

歌舞伎の演出を浮世絵の紙面で再現。歌川国貞(三代豊国)の『東海道四谷怪談』

歌川国芳『五十三駅 岡崎』 太田記念美術館蔵 弘化4年(1847)頃

国芳の『五十三駅 岡崎』とは、古寺に棲む十二単の年老いた化け猫を描いた作品です。歌舞伎の演目でも人気を集め、浮世絵にも多く登場する主題の一つですが、御簾を破る巨大な化け猫の頭部や、手ぬぐいを頭に被って踊る猫又を巧みに描いています。手前の猫又がまるでキャラクターのようにかわいいのも魅力です。

歌川国貞(三代豊国)『東海道四谷怪談』 太田記念美術館蔵 文久元年(1861)7月

「浮世絵をめくって楽しむ?!」と思わず驚いてしまうような、歌川国貞の『東海道四谷怪談』も見逃せません。

歌川国貞(三代豊国)『東海道四谷怪談』(部分) 太田記念美術館蔵 文久元年(1861)7月

民谷伊右衛門の前に流れて来たのは、お岩と小仏小平の死骸を打ちつけた戸板。歌舞伎では小仏小平がくくりつけた戸板をひっくり返すと、裏側に不気味なお岩が現れる「戸板返し」という演出が行われますが、それを紙面で再現しているのです。

同じ主題の浮世絵を見比べよう。国芳と貞秀の描いた平家の亡霊たち

歌川国芳『大物浦平家の亡霊』 個人蔵 嘉永2〜4年(1849〜51)

怒れる亡霊の描かれた同じ主題の浮世絵を比べてみましょう。まず一つが国芳の『大物浦平家の亡霊』です。源頼朝に疎まれて都落ちをした源義経が、大物浦から船出をするものの暴風雨となり、壇ノ浦で滅ぼされた平家の亡霊が行く手を阻む光景が描かれています。しかし亡霊がどこにいるのかよく分かりません。ヒントは後ろの黒雲です。国芳は亡霊をあえてはっきりと描かずに、大きく迫り上がる海面や、怨霊のシルエットが浮かぶ黒雲で表現することで、不気味さを演出しています。

歌川貞秀『大物の浦罔像の図』 太田記念美術館蔵 弘化元〜3年(1844〜46)

一方の歌川貞秀は『大物の浦罔像の図』において、平家の亡霊たちの姿を国芳よりもリアルに表現しています。ただ良く見ると、義経らの武士の身体は肌色で描かれているのに対し、亡霊たちは青色の身体をしているなど、生身の人間と描き分けています。同じ物語を引用した作品でありながら、それぞれに異なった絵師の個性が感じられるのではないでしょうか。

中国から天竺、そして日本へ。キツネの妖怪「九尾の狐」とは?

月岡芳年『和漢百物語 華陽夫人』 太田記念美術館蔵 慶応元年(1865)2月

中国で姐己、天竺にて華陽夫人、そして日本では玉藻前といった美女に変身して権力者に近づいた、九尾の狐と呼ばれるキツネの妖怪も見どころの一つです。

月岡芳年の『和漢百物語 華陽夫人』は、天竺に渡って華陽夫人となった九尾の狐を描いたもの。王をたぶらかし、千人もの首を刎ねたという暴虐の限りを尽したとされますが、本図では生首を手にした夫人が、槍に刺さった2つの首を冷ややかな目で見る様子を表現。まるでオスカー・ワイルドの制作した「サロメ」の一場面を思わせる光景が広がっています。

月岡芳年『新形三十六怪撰 奈須野原殺生石之図』 太田記念美術館蔵 明治24年(1891)

日本で玉藻前として正体を表した九尾の狐は、下野の那須野が原で討伐されると、殺生石という石になります。殺生石は毒を発し、人や動物が近づくと命を落としたとされますが、その様子を芳年は玉藻前が殺生石に寄りかかる姿にて描いています。また空には雁も飛んでいますが、しばらくすると、毒によってやられてしまうのかもしれません。

あの水木しげるが作品を取材!芳年の『百器夜行』から芳員の『百種怪談妖物双六』まで

月岡芳年『百器夜行』 太田記念美術館蔵 慶応元年(1865)9月

最後に少し変わり種と言える2つの浮世絵をご紹介しましょう。芳年の『百器夜行』とは三味線や琵琶、木魚、瀬戸物などに魂が宿った付喪神を描いた一枚。妖怪を描く絵師として有名な鳥山石燕の『画図百器徒然袋』に登場する妖怪たちをほとんど敷き写ししています。

石燕は後世の画家にも大きな影響を与え、現代では漫画家の水木しげるが作品を取材するなど、妖怪のイメージを作った人物の一人とも言えますが、不思議なことに浮世絵ではあまり引用されていません。よってレアな作品と言えるでしょう。

歌川芳員『百種怪談妖物双六』 太田記念美術館蔵 安政5年(1858)9月

歌川芳員の『百種怪談妖物双六』とは、妖怪をコマとした子ども向けの双六です。百物語をする子どもたちのふり出しから、古御所の化け猫の上りを目指して遊びますが、ろくろ首や一本足、猫又に河童など、さながら妖怪図鑑のようにさまざまな妖怪が登場します。「こんな妖怪がいたの?!」と目を丸くするばかりでした。

月岡芳年『不知籔八幡之実怪』 太田記念美術館蔵 明治14年(1881)

展示では、歌川国芳や月岡芳年の作品をはじめ、妖怪や幽霊を描いた浮世絵を約170点ほど紹介。ここ10数年の間に収集した作品がメインで、今回は新たに収蔵した初公開の作品38点が含まれています。

重丸『鬼娘退治』 太田記念美術館蔵 慶応3年(1867)2月

怖いだけではない、可愛くてユーモラスなお化けたちも大集合した『浮世絵お化け屋敷』。後期展示では前期展示から作品の全てが入れ替わりました。よってすでに一度見た方も、これから初めて見る方もともに楽しめる展覧会です。あなたのお気に入りのお化けを見つけに、太田記念美術館へとお出かけください。

※作品は全て後期展示。写真の撮影は主催者の許可を得ています。

展覧会情報

『浮世絵お化け屋敷』 太田記念美術館
開催期間:2024年8月3日(土)〜9月29日(日)
 前期:8月3日(土)〜9月1日(日)、後期:9月6日(金)〜9月29日(日) ※前後期で全点展示替え
所在地:東京都渋谷区神宮前1-10-10
アクセス:JR山手線 原宿駅(表参道口)より徒歩5分。東京メトロ千代田線・副都心線 明治神宮前駅(5番出口)より徒歩3分。
開館時間:10:30~17:30
 ※入館は17時まで
休館日:9/9(月)、9/17(火)、9/24(火)
観覧料:一般1200円、大高生800円、中学生以下無料
 ※リピーター割引:会期中2回目以降にご鑑賞の方は半券のご提示にて200円割引
展覧会HP:『浮世絵お化け屋敷』 太田記念美術館

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千葉県在住。美術ブログ「はろるど」管理人。主に都内の美術館や博物館に出かけては、日々、展覧会の感想をブログに書いています。過去に「いまトピ」や「楽活」などへ寄稿。雑誌「pen」オンラインのアートニュースの一部を担当しています。

千葉県在住。美術ブログ「はろるど」管理人。主に都内の美術館や博物館に出かけては、日々、展覧会の感想をブログに書いています。過去に「いまトピ」や「楽活」などへ寄稿。雑誌「pen」オンラインのアートニュースの一部を担当しています。

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