EVENT
2025.1.3
「花器のある風景」が泉屋博古館東京で開催。新収蔵品を含む、雅やかな花器を一挙公開!
中国より寺院における荘厳の道具として伝来した日本の花器。室町時代には「座敷飾り」に欠かせない道具として発展し、茶の湯の世界でも重用されるようになります。近代には欧米からの影響も受け、和洋折衷のデザインの花器が生み出されました。
目次
東京・六本木の泉屋博古館東京にて、2025年1月25日から開催される「花器のある風景」では、住友コレクションから花器と花器の描かれた絵画が公開。同時開催として、華道家の大郷理明から寄贈された花器コレクションも展示されます。(出品点数約90点、会期中の展示替えあり)
住友コレクションに伝わる花器とは?花器の歴史をたどる
《古銅象耳花入 銘キネナリ》 元時代・14世紀 泉屋博古館東京
まず花器の歴史と住友コレクションに伝わる花器について簡単にご紹介します。
日本における花器の歴史は、中国より寺院における荘厳の道具として伝来したのがはじまりです。室町時代に入ると連歌や茶会、 生花などの室内芸能がさかんとなり、中国から輸入された唐物と呼ばれる書画、調度類や茶道具、文房具を座敷に並び立てる「座敷飾り」が発展します。
床の間の飾りには、唐物の花生、香炉、香合、天目などが飾られました。
《砂張舟形釣花入 銘松本船》 15〜16世紀 泉屋博古館東京
茶の湯の世界において花器は、清浄なる空間を演出するものとして重用されます。唐物の金属製の花器をもとにして、中世以降には陶磁器や竹など多様な素材で花器が作られ、日本独自の美意識が生まれます。
住友コレクションには、室町時代の茶人、松本珠報(まつもとしゅほう)が所持したとされる《砂張舟形釣花入 銘松本船》をはじめ、江戸時代の茶人、小堀遠州ゆかりの《古銅象耳花入 銘キネナリ》などの花器の名品が伝わっています。
「花器のある風景」の各章の見どころ
本展は、第一章:「描かれた花器」、第二章:「茶の湯の花器」、第三章:受贈記念「大郷理明コレクションの花器」、第四章:「さまざまな花器」の四章構成です。各章の見どころをご案内します。
【第一章:「描かれた花器」】
浦上春琴《蔬果蟲魚帖》江戸時代・天保5年(1834) 泉屋博古館
花を花器にいけるという行為とは…?それは花を明確な意図を持って自然の状態から切り離し、別の環境に置くことを意味します。日本では古くから仏教の影響で、仏像や仏堂を荘厳するための三具足のひとつとして、花器が用いられました。
平安時代に描かれた仏画などにも、花のいけられた花器がしばしば見られます。江戸時代に入って描かれた花車図も、元来は神聖なものとして捉えられていましたが、次第に豊かさや繁栄の象徴となり、吉祥のモチーフとして広まりました。《唐児遊図屛風》には、子孫繁栄を意味する唐子たちが、牡丹や山吹などのいけられた花籠を載せた車を曳く光景が描かれています。
椿椿山《玉堂富貴図》江戸時代・天保11年(1840) 泉屋博古館
一方の中国では宋時代に古銅器の見直しが行われると、それらを模した陶磁器がつくられ、花をいけることがはじまりました。さらに自らの表現として花がいけられるようになり、取り合わせる器にも注意が払われ、金属器やガラス器、また竹や籐で編まれた器が用いられるようになりました。
日本の椿椿山(1801〜1854年)が、「北宋人の意に倣う」として描いた《玉堂富貴図》には、凝ったつくりの釣竹籠が描かれています。
中国でつくられた花器の一部は唐物として日本へと渡り、室町時代以降、座敷飾りの欠かせない道具として珍重されます。原在中(1750〜1837年)と在明(1778?〜1844年)の合作の《春花図》にも、花器に対する関心が見て取れ、古銅器製と思われる水盤と、玉飾りの施された手籠に、春の花々が鮮やかにいけられています。
村田香谷《花卉・文房花果図巻》(部分)明治35年(1902) 泉屋博古館東京
花器に対する関心は近代に入っても続きます。村田香谷(1831〜1912年)は《花卉・文房花果図巻》において、陶磁器や古銅器、ガラス器、籠など、花器として用いられた器を描きました。
【第二章:「茶の湯の花器」】
《青磁筍花入》 南宋~元時代 13〜14世紀 泉屋博古館東京
江戸時代より歴代の住友家当主によって収集された住友コレクションの花器。住友家三代当主・友信(1647〜1706年)は、和歌、茶の湯、香道を嗜み、風雅を好んだ人物でした。
江戸時代の収集についてはまだ不明な点が多いものの、幕末期以降の十二代友親(1843〜90年)と十五代友純(号・春翠)が茶の湯との繋がりが深かった人物として知られています。
幕末から明治時代にかけて、愛媛県・別子の銅山接収による経営危機に直面した友親は、後の初代・総理事の広瀬宰平とともに難局を乗り越えます。そして友親は文芸を好み、茶の湯を愛すると、多くの茶人と交流しました。
十五代春翠は、元治元年(1864)、公家の徳大寺公純(とくだいじきんいと)の第五子として京都に生まれた人物です。明治25年(1892)に徳大寺家から住友家へ養嗣子として入ると、同家の事業を近代化させ、現在の住友グループの礎を築きました。
文化活動にも熱心で、青銅器の収集家として名を馳せるとともに、茶事や書画、能楽に親しむ数寄者として美術品を広く収集し、多くの文化人を自らの邸宅に招いては、交友関係を広げました。
春翠が大正時代に催した茶会は合計20回にも及んでいて、その際に披露された道具類が現在の住友コレクションの中核となっています。
春翠が特に好んだのが、江戸時代前期の茶人・小堀遠州ゆかりの茶道具でした。小堀遠州が活躍した寛永年間(1624〜1644年)の宮廷には、後水尾天皇のもと、皇族から公家、武家、僧侶、町人まで、階層を超えて芸術家が集ったと言われています。
王朝復興の高まりとともに、宮廷を中心とした雅な文化が花開き、小堀遠州や千宗旦らによって、侘び茶にも新しい風が吹き込まれました。そして唐物だけでなく和物にも美意識を見いだした遠州の功績によって、様々な道具類が後世へ残されます。春翠によって収集された花器は、唐物と和物を問わず、清淡で典雅な趣が感じられるのが特徴です。
【第三章:受贈記念「大郷理明コレクションの花器」】
横河九左衛門《紫銅牛形薄端》19世紀 大郷理明コレクション 泉屋博古館
古流のいけばな団体「心の花」を主宰する華道家の大郷理明は、自らの創作活動で使用するために蒐集した花器を600点以上も蒐集しました。
そして大郷は近年、泉屋博古館へ94点の花器を「大郷理明コレクション」として寄贈します。同館が受贈した花器の中核をなすのは銅花器69点。これらは大郷の蒐集品のなかでも、近世から受け継がれた近代の伝統的鋳金工芸を語るうえで特に重要な作品です。
東京、埼玉、京都、金沢、高岡など各地で製作された作品が揃うなか、目立っているのは関東で活躍した鋳金家による作品です。
大島如雲や岡崎雪聲によって創設された東京美術学校鋳金科(現東京藝術大学工芸科鋳金研究室)出身者のほか、在地の工房で鋳造業を営んだ鋳金家など様々な顔ぶれが揃っています。
大島如雲《松竹梅図寸筒》19〜20世紀 大郷理明コレクション 泉屋博古館
そのなかには現在、業績が忘れ去られた鋳金家も少なくないもの、当時の蠟型鋳造技術と表面着色技術を駆使した極めて出来の良い作品が多くみられます。これらは伝統的総合芸術のなかで使用される道具として製作された「鋳物」とされ、過去に美術館ではほとんど顧みられることがありませんでした。しかし本展において近代の鋳金工芸を見直す機会とすべく、一同に公開されます。
【第四章「さまざまな花器」】
近代に入ると日本の花器はどのような進化を遂げたのでしょうか。明治時代は、欧米に日本の高い技術の精緻さなどをアピールするために、万国博覧会に向けて、たくさんの美術工芸品が制作されました。そして自由な貿易のもと、日本のやきものは世界各国で開催された博覧会を中心に大きな人気を誇ります。
一方で国内においても、近代日本初の迎賓施設である延遼館(えんりょうかん)、鹿鳴館(ろくめいかん)や明治宮殿など、国内外の賓客をもてなす場に花器が飾られ、饗宴に華を添えたのでした。京焼の名工・幹山伝七は、花器や洋食器にて延遼館を飾ります。
そして欧米から花瓶という新たな形が伝わると、日本の花器もより多様な形のものが誕生しました。また生花や盆栽に用いられる薄端や水盤花器などの器形は、伝統を継承しつつも、欧米からの影響を受け、和洋折衷の華やかなデザインへと昇華するのです。
まとめ
椿椿山(つばきちんざん)から梅原龍三郎まで、華やかでおめでたい絵画を紹介しながら、住友コレクションの茶の湯の名品花入が集結する『企画展 花器のある風景』。さらに新規収蔵品の「大郷理明コレクション」をまとめて鑑賞できる貴重な機会となります。
2022年3月にリニューアルオープンし、新たに2つの展示室が作られ、最新の照明など展示環境がますます向上した泉屋博古館東京にて、華やかで雅やかな花器の世界を存分に堪能してください。
展覧会情報
『企画展 花器のある風景』 泉屋博古館東京
開催期間:2025年1月25日(土)〜3月16日(日)
所在地:東京都港区六本木1丁目5番地1号
アクセス:東京メトロ南北線「六本木一丁目」駅下車。北改札正面 泉ガーデン1F出口より屋外エスカレーターで徒歩3分。
時間:11:00〜18:00
※金曜日は19:00まで開館
※入館は閉館の30分前まで
休館日:月曜日、2月25日(火) ※2/24(月・祝休)は開館
入館料:一般1,200円(1,000円)、学生600円(500円)、18歳以下無料
※学生および18歳以下のかたは証明書の呈示が必要
※20名様以上の団体は( )内の割引料金
公式HP:『企画展 花器のある風景』 泉屋博古館東京
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千葉県在住。美術ブログ「はろるど」管理人。主に都内の美術館や博物館に出かけては、日々、展覧会の感想をブログに書いています。過去に「いまトピ」や「楽活」などへ寄稿。雑誌「pen」オンラインのアートニュースの一部を担当しています。
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