EVENT
2025.4.25
『酒呑童子ビギンズ』がサントリー美術館にて開催!酒呑童子の知られざる歴史と展開とは?
日本で最も名高い鬼ともいわれる酒呑童子(しゅてんどうじ)を知っていますか?
平安時代、都で貴族の娘や財宝を次々と略奪し、人々を震え上がらせていた酒呑童子が、武将・源頼光(みなもとのよりみつ)とその家来によって退治される物語は、14世紀以前に成立し、次第に絵画や能などの題材となって広まりました。
目次
その酒呑童子に関する絵巻や屏風、また日記などの資料を一堂に集めた『酒呑童子ビギンズ』が、東京・六本木のサントリー美術館にて2025年4月29日から開催されます。
酒呑童子にまつわる二つの《はじまり》とは?
重要文化財 酒伝童子絵巻(部分) 狩野元信 三巻のうち下巻 大永2年(1522) サントリー美術館 【通期展示】
まず展覧会の大まかな趣旨をご紹介します。
さまざまな絵画に描かれた酒呑童子。その中でもサントリー美術館が所蔵する重要文化財・狩野元信筆「酒伝童子絵巻」(以下、サントリー本)は、後の世に大きな影響を与えた室町時代の古例として知られています。
本展では、解体修理を終えたサントリー本を公開するとともに、酒呑童子にまつわる二つの《はじまり》を紹介します。
酒呑童子の住処といえば、物語によって丹波国(現在の京都府北部)大江山、あるいは近江国(現在の滋賀県)伊吹山として描かれ、サントリー本は伊吹山系の最古の絵巻として位置付けられます。
そして以降、サントリー本が《図様のはじまり》となり、江戸時代を通して何百という模本や類本が作られました。また近年注目されるのは、サントリー本とほぼ同じ内容を含みながらも、酒呑童子の生い立ち、つまり《鬼のはじまり》を大胆に描き加える絵巻が相次いで発見されていることです。
これらの《はじまり》に焦点を当てつつ、酒呑童子の知られざる歴史と展開を紐解いていきます。
『酒呑童子ビギンズ』の構成と出品作品(一部)
それでは展覧会の構成と出品作品の一部を見ていきましょう。
【第1章 狩野元信筆「酒伝童子絵巻」の大公開】修理後の「酒伝童子絵巻」を同館史上最大規模で展示!
重要文化財 酒伝童子絵巻(部分) 狩野元信 三巻のうち上巻 大永2年(1522) サントリー美術館 【通期展示】
サントリー美術館が所蔵する重要文化財「酒伝童子絵巻」(以下、サントリー本)は、成立時期や経緯が明らかになっている点で貴重な絵巻です。大永2年(1522)、小田原の北条氏綱の依頼によって制作がはじまり、絵は狩野元信が手がけたことが知られています。
狩野派の祖の正信の子で、確立者・元信によって描かれた酒呑童子絵巻は、以降、同派を代表する画題のひとつとなり、江戸時代を通して、さらに流派も超えて繰り返し描き写されました。よってサントリー本こそが《図様のはじまり》といえるのです。
またサントリー本の図様は、能の演出にも影響した可能性が指摘されています。例えば、能「大江山」(替之型)では、酒呑童子が初めて登場する場面で、まるでサントリー本の絵を見るかのように、童子が二人の童(わらわ)を両脇に従えて現れます。
このようにサントリー本は重要な作例でありながら、これまでは状態が悪く、十分に展観することができませんでした。
そこで本章では、2020年に解体修理を終えたサントリー本を、同館史上最大規模に広げて展示し、物語の全容を紹介するとともに、その伝説の始まりや歴史、絵画や演劇における多様な展開をたどります。
【第2章 エピソード・ゼロ ― 展開する酒呑童子絵巻】ライプツィヒ本が約140年ぶりに里帰り
酒呑童子絵巻(部分) 住吉廣行 六巻のうち第一巻 天明6〜7年(1786〜87)頃 ライプツィヒ・グラッシー民族博物館 【通期展示】 OAs 04826, GRASSI Museum für Völkerkunde zu Leipzig, Staatliche Kunstsammlungen Dresden, Foto: Shirono Seiji
源頼光とその家来による鬼退治の物語は、室町時代から江戸時代に人気を博し、『伊吹童子』や『羅生門』、『土蜘蛛』などの本編から派生した作品、つまりスピンオフ作品が誕生しました。
さらに近年、サントリー本「酒伝童子絵巻」とほぼ同じ内容を含みながらも、その前半に《鬼のはじまり》ともいうべき、酒呑童子出生の秘密を大胆に描き加える絵巻が相次いで発見されています。
すなわちスサノオノミコトによって酒に酔わされ退治されたヤマタノオロチの亡魂が、伊吹山に飛んで伊吹明神となり、その息子として生まれたのが酒呑童子だというのです。
なかでもライプツィヒ・グラッシー民族博物館(GRASSI Museum für Völkerkunde zu Leipzig) が所蔵する住吉廣行(すみよしひろゆき)筆「酒呑童子絵巻」(以下、ライプツィヒ本)は、明治10~15年(1877~82) の間に来日していたドイツ人お雇い医師ショイベ(Heinrich Botho Scheube)が祖国へ持ち帰ったもので、 これまで日本ではその存在がほとんど知られていませんでした。
酒呑童子絵巻下絵(部分) 住吉廣行 六巻のうち第二巻 天明6年(1786)頃 大阪青山歴史文学博物館 【通期展示(場面替あり)】
2章では、ドイツに渡って以降初めて日本で公開されるライプツィヒ本(六巻のうち二巻)、さらに展覧会初出品となるライプツィヒ本の下絵などを通して、酒呑童子絵巻《エピソード・ゼロ》の世界を案内します。本邦初公開の下絵はもちろん、実に約140年ぶりの里帰りを果たすライプツィヒ本に大きな注目が集まることでしょう。
【第3章 婚礼調度としての酒呑童子絵巻】酒呑童子絵巻が婚礼調度として好まれた背景とは?
重要文化財 酒伝童子絵巻(部分) 狩野元信 三巻のうち中巻 大永2年(1522) サントリー美術館 【通期展示】
サントリー本「酒伝童子絵巻」とライプツィヒ本「酒呑童子絵巻」には共通点があります。それはいずれも姫君の所持品であったということです。
徳川家康の娘・督姫(良正院)は、初め小田原の北条氏直に嫁いでいましたが、氏直との死別後 、文禄3年(1594)に池田家へ再嫁し、その際に北条家伝来のサントリー本を持参したと伝わっています。
一方のライプツィヒ本は、第10代将軍徳川家治の養女であった種姫が、天明7年(1787) に紀州徳川家へ輿入れした際の嫁入り道具であったことが明らかになっています。
ではなぜ、若い娘たちが誘拐されるという血なまぐさい場面を描いた絵巻が、おめでたい婚礼調度として選ばれたのでしょうか。 江戸時代を通して、サントリー本の模本や類本が盛んに制作されたことも、婚礼調度としての需要と無関係ではなかったと考えられ、その人気の《はじまり》もサントリー本であった可能性があります。
そこで3章では、サントリー本の伝来に注目し、酒呑童子絵巻が婚礼調度として好まれた意外な背景に迫ります。単なる物語や絵巻の一画題にとどまらない、酒呑童子絵巻に込められた政治性が浮かび上がります。
リレートークで酒呑童子絵巻を深掘りしよう
大江山縁起図屛風 六曲一双のうち左隻 江戸時代 17世紀 池上本門寺 【通期展示】
最後に関連プログラムなどのイベント情報です。
酒呑童子絵巻リレートーク「三人寄れば、鬼退治」
講師:江村知子氏(東京文化財研究所 文化財情報資料部長)、小林健二氏(国文学研究資料館 名誉教授) 、並木誠士氏(京都工芸繊維大学 名誉教授)
日時:5月18日(日) 14時~16時
会場:6階ホール
料金:700円(別途要入館料)
定員:95名
※同館ウェブサイトよりお申込みください。応募者多数の場合は抽選。
またこども日に当たる5月5日(月・祝)の10~13時の間は、「ファミリータイム」と題し、中学生以下のお子様をお連れの方は入館料が割引になります。鑑賞支援ツールやレクチャーなどを利用して、子どもから大人まで気軽に鑑賞するのもおすすめです。
重要文化財 酒伝童子絵巻(部分) 狩野元信 三巻のうち下巻 大永2年(1522) サントリー美術館 【通期展示】
常人離れした体躯を持ち、豪放で酒好きゆえに、いつも赤ら顔で酒に酔っていたとされる、都を脅かした鬼の王、酒呑童子。その知られざる《はじまり》をたどりながら、現代のマンガやアニメにも息づく、日本人が古来より親しんできた鬼退治の物語を楽しんでください。
展覧会情報
『酒呑童子ビギンズ』 サントリー美術館
開催期間:2025年4月29日(火・祝)〜6月15日(日)
※作品保護のため、会期中展示替を行います。
所在地:東京都港区赤坂9-7-4 東京ミッドタウン ガレリア3階
アクセス:都営地下鉄大江戸線六本木駅出口8より直結。東京メトロ日比谷線六本木駅より地下通路にて直結。東京メトロ千代田線乃木坂駅出口3より徒歩約3分。
開館時間:10:00~18:00
※金曜日および5月3日(土・祝)〜 5日(月・祝)、6月14日(土)は20:00まで開館
※いずれも入館は閉館の30分前まで
休館日:火曜日(4月29日、5月6日、6月10日は18時まで開館)
入館料:一般1,700円(1,500円)、大学生1,200円(1,000円)、高校生1,000(800)円、中学生以下無料。
※( )内は前売券。販売期間:4月28日(月)まで
美術館HP:『酒呑童子ビギンズ』

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千葉県在住。美術ブログ「はろるど」管理人。主に都内の美術館や博物館に出かけては、日々、展覧会の感想をブログに書いています。過去に「いまトピ」や「楽活」などへ寄稿。雑誌「pen」オンラインのアートニュースの一部を担当しています。
千葉県在住。美術ブログ「はろるど」管理人。主に都内の美術館や博物館に出かけては、日々、展覧会の感想をブログに書いています。過去に「いまトピ」や「楽活」などへ寄稿。雑誌「pen」オンラインのアートニュースの一部を担当しています。
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