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2021.8.11
世界に知ってほしいアイヌ民族の作家!リアルすぎる熊や狼の彫刻展
アート作品の見どころのひとつに、「本物より本物らしい表現」があります。写実的な作品は、一目でわかる本物らしさが大きな見どころになるので、アート初心者にとっても親しみやすいですよね。
東京ステーションギャラリーで開幕した『木彫り熊の申し子 藤戸竹喜 アイヌであればこそ』には、写実を極めた木彫りの作品が並んでいます。熊や狼、人間をテーマにした作品で、真に迫った表現は本物を超えています。
作家の藤戸竹喜さんは、実は美術界ではほとんど知られていない人物。とてつもないスゴ腕の作家が歴史に埋もれてしまうところでした。どんな人物だったのか、なぜあまり知られていないのか、作品の写真とともに美術ライターの明菜が紹介していきます。
スパルタ教育で彫刻を身につける
藤戸竹喜(ふじと・たけき、1934-2018)さんは、北海道美幌町で生まれ、旭川市で育ちました。父が木彫り職人で、12歳の頃から熊彫りを始めます。
手取り足取り教えてもらえたわけではありません。父が気に入る作品でなければ、火にくべられてしまいました。
厳しい環境で熊彫りを習得した藤戸さんの作品は、本物と見間違えるレベル。視界の端で作品が動いたような気がして、何度も振り返ってしまいました。
《全身を耳にして》(部分)、2002年、鶴雅リゾート(株)蔵
特に毛並みが素晴らしいです。木彫りなのに柔らかそうで、撫でたくなってしまいます。
躍動感あふれる狩りのシーンでも、住処でくつろぐシーンでも、説得力のある真に迫った作品に仕上げた藤戸さん。しかし美術業界ではあまり知られていません。彼が職人として生きてきたからです。
本展は、東京で初めて開催される藤戸さんの大規模な展覧会。このレベルの作家が……知られてこなかった!? と驚かれるはず。
狼、人間、水の生き物にも広がる関心
藤戸さんはあるとき狼に興味を持ち、狼を作りたいと話しました。しかし、父からは「熊も一人前に彫れないのに何を言っているのか」と厳しい返答。それから狼を作ることは藤戸さんの目標となり、本展でも狼の作品が熊と並んで多く展示されています。
80歳を過ぎて制作したのが《狼と少年の物語》の連作です。両親とはぐれたアイヌ民族の幼い子どもが狼の家族に助けられ、狼とともに成長していく物語を表現しました。藤戸さんのアイヌ民族としての誇り、絶滅したとされるエゾオオカミへの思いが込められているように思います。
他にも、アイヌ民族の人々をモチーフにした作品や、水の生き物の作品も作っています。エビやカニは関節が本物同様に動く「自在置物」だそうです。木彫り熊のような置物から自在置物まで、守備範囲が広すぎます。
ちなみに、エビやカニの作品を作った理由について、おいしかったから、と本人がおっしゃっていたそうです。
まとめ
藤戸さんはひたすら動物や人間を彫り、神業のレベルまで技術を高めていきました。そのストイックさは作品からも伝わってきます。お父様も厳しいですが、それ以上に本人が自分に厳しかったのではないでしょうか。
本物そっくりな彫刻たちは、感情さえも訴えかけてきます。今、世界に知ってほしい作家です。
『木彫り熊の申し子 藤戸竹喜 アイヌであればこそ』
会場:東京ステーションギャラリー
会期:2021年7月17日(土) - 9月26日(日)
休館日:8/10(火)、8/16(月)、8/23(月)、9/6(月)、9/13(月)
開館時間:10:00 - 18:00
※金曜日は20:00まで開館
※入館は閉館30分前まで
http://www.ejrcf.or.jp/gallery/exhibition/202107_fujito.html
画像ギャラリー
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美術ブロガー/ライター。美術ブログ「アートの定理」をはじめ、各種メディアで美術館巡りの楽しさを発信している。西洋美術、日本美術、現代アート、建築や装飾など、多岐にわたるジャンルを紹介。人よりも猫やスズメなど動物に好かれる体質のため、可愛い動物の写真や動画もSNSで発信している。
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