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2022.4.18
ミステリアスな肖像画はいかにして生まれた?『モディリアーニ-愛と創作に捧げた35年-』
縦に引き伸ばされてインパクト抜群の肖像画を描いたモディリアーニ。その作風は一度見たら忘れられない印象を与え、鑑賞者の頭にモディリアーニという画家の存在を刻み込みます。
強い印象を残す画家ですが、よくよく考えてみると、何が良いのかきちんと説明できないような……。印象には残るけれど、良し悪しや好き嫌いでは語りにくい。ちょっと難しい画家なのかも?
アメデオ・モディリアーニ 《ズボロフスカ夫人》 1918年、テート
さて、大阪中之島美術館で『モディリアーニ-愛と創作に捧げた35年-』が開幕しました。世界初公開の作品を含め、国内外のモディリアーニ作品約40点が展示されています。
世界初公開となる、アメデオ・モディリアーニ 《少女の肖像》 1915年頃、グレタ・ガルボ・ファミリー・コレクション
本展では初期から晩年までのモディリアーニの絵画が展示され、いかにして「モディリアーニ流」が生まれたのかが丁寧に解きほぐされています。本展を見れば、モディリアーニ芸術のおもしろさがわかるはず。展覧会の見どころを、美術ライターの明菜が解説していきます。
モディリアーニってどんな画家?
アメデオ・モディリアーニ 《若い女性の肖像》 1917年頃、テート、Photo © Tate
20世紀前半のパリは、世界各地から芸術家が集まる芸術都市でした。モンマルトルやモンパルナスに集まった芸術家たちは「エコール・ド・パリ(パリ派)」と呼ばれ、モディリアーニもその一員でした。ほかには、藤田嗣治やシャガールなどが含まれます。(本展は同時代のほかの画家の作品や、藤田をはじめ日本との関係も紹介)
アメデオ・モディリアーニ 《大きな帽子をかぶったジャンヌ・エビュテルヌ》 1918年、個人蔵
モディリアーニの絵画の特徴といえば、顔と首が長く引き伸ばされた、なで肩の肖像画です。本物の人間の顔形とは異なりますが、モディリアーニの美意識は感じ取れます。彼の頭の中にある理想をこの世のものとするために、筆を執っているように見えます。
また、黒目と白目を分けずに眼を塗りつぶした作品も多いです。瞳を彫り込まないギリシャ彫刻を彷彿とさせます。
自分の芸術を見つけるまで
モディリアーニだって物心ついた頃から首の長い肖像画を描いていたわけではありません。いろいろな美術や文化に影響を受け、自分の美意識を磨き、モディリアーニ流に到達したのです。
1906年、パリに移ったモディリアーニはセザンヌやピカソなどの絵画に影響を受けると同時に、ブランク―シなどによる同時代の彫刻や原始的なアフリカ美術にも魅せられました。1914年頃までは彫刻の制作に没頭しています。
本展では彫刻制作のための資料が展示され、なかでも興味深いのがカリアティードです。カリアティードとは、女性の姿を模した柱のこと。古代ギリシャの神殿などによく見られるのですが、規則正しく並んだ女性像(柱)の上に重そうな天井が乗っかる様子は、日本の感覚からするとちょっと違和感が……。
アメデオ・モディリアーニ 《カリアティード》 1911-13年、愛知県美術館
モディリアーニはそんなカリアティードの制作に夢中になったようで、天井を支える女性の立ち姿のような資料が残っています。ここで注目したいのが、のちのモディリアーニ流絵画との接点です。柱として天井を支えられるだけの強度と質量を持ち、かつ簡素すぎずゴテゴテしすぎない絶妙な装飾。最小限の要素で成立する引き算の美と確かな量感というのちの絵画には、カリアティード制作が活きていると言えませんか?
アメデオ・モディリアーニ 《婦人像 (C.D. 夫人)》 1916年頃、ポーラ美術館
絵を描くとき、モディリアーニは必ずモデルを目の前にして、デッサンを重ねました。完成した絵画はモデルが丸顔でも面長になっているわけですが、制作するなかでモディリアーニは実物の人間を頭の中で彫刻に変換し、それを平面のキャンバスに定着させているのではないか。展覧会で影響関係を目の当たりにすると、そう思わずにはいられませんでした。
本展では、モディリアーニの初期から晩年までの作品が幅広く展示されています。初期はピカソなど同時代の画家の影響が強く感じられる作品が多いのですが、晩年に行くにしたがってモディリアーニらしさが確立していくのがわかります。
【まとめ】35年の伏線を回収するモディリアーニの芸術
アメデオ・モディリアーニ 《髪をほどいた横たわる裸婦》 1917年、大阪中之島美術館
初期から晩年までの作品と、同時代の美術品などの展示により、モディリアーニの芸術観を紐解く本展。彼が何からどんな影響を受け、どのように消化したのかがつながりました。随所に張り巡らされた伏線がラストで一気に回収されるミステリー小説を読んだような、爽快な内容の展覧会です。
展覧会情報
大阪中之島美術館開館記念特別展『モディリアーニ-愛と創作に捧げた35年-』
会期:2022年4月9日(土)~7月18日(月・祝)
休館日:月曜日(5/2、7/18 を除く)
会場:大阪中之島美術館 5階展示室
公式ウェブサイト:https://modi2022.jp/
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美術ブロガー/ライター。美術ブログ「アートの定理」をはじめ、各種メディアで美術館巡りの楽しさを発信している。西洋美術、日本美術、現代アート、建築や装飾など、多岐にわたるジャンルを紹介。人よりも猫やスズメなど動物に好かれる体質のため、可愛い動物の写真や動画もSNSで発信している。
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