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2022.4.21
着眼点の意外さを楽しもう!『ミニマル/コンセプチュアル』
兵庫県立美術館で『ミニマル/コンセプチュアル:ドロテ&コンラート・フィッシャーと1960-70年代美術』が開幕しました。1960-70年代に展開したミニマル・アートとコンセプチュアル・アートを紹介する展覧会です。
これらの美術は伝統的な絵画や彫刻と違い、「どこが美術なの?」「どうやって楽しめば良いの?」と疑問に思われがちなジャンルでもあります。作家たちは従来の美術の常識を覆したので、いわゆる美醜の感覚や感性では理解できなくても仕方ありません。
カール・アンドレ《雲と結晶/鉛、身体、悲嘆、歌》(部分)1996年 ノルトライン=ヴェストファーレン州立美術館
本展はミニマル・アートとコンセプチュアル・アートの代表的な作家とその作品を紹介するとともに、「どこがおもしろいのか」という鑑賞のポイントもわかるようになっています。当時の美術や現代アートに対して苦手意識のある方におすすめの展覧会なので、見どころを美術ライターの明菜が紹介していきます。
ミニマル・アート、コンセプチュアル・アートとは?
展覧会の会場をざっと眺めればわかるとおり、心を癒してくれる美しい絵画や彫刻はありません。金属の塊や真っ白な絵画、観光地で売っている大量の絵葉書、真っすぐに並べられた短い枝……。なぜ美術館で展示されているのか不思議で、首をひねってしまうものばかりが展示されています。
これこそが、ミニマル・アートやコンセプチュアル・アートの真価。美術の常識を打ち破る表現なので、「なぜこれが美術館に?」と疑問を持つのは当然のことなのです。
ミニマル・アートは、主に1960年代のアメリカを中心に展開しました。工業用素材や既製品を用い、幾何学的な形やその反復によって作品が作られたため、完成した作品からは作家の手仕事らしさがほとんど感じられません。美術品には、「作家が手作りした一点もの」というイメージがありますが、その常識を覆したのです。
コンセプチュアル・アートは、完成した作品以上に、制作の源となるコンセプトやアイディア、また制作プロセスを重視する美術の潮流です。完成品だけでなく、言葉で記された日記や書簡も意味を持つようになりました。
本展では、ドロテ&コンラート・フィッシャー夫妻旧蔵の作品と資料を中心に、日本国内に所蔵される作品が展示されています。フィッシャー夫妻は、1967年にデュッセルドルフにギャラリーを開き、ミニマル・アートやコンセプチュアル・アートをいち早く紹介した人物です。ギャラリーでの展示に向けて夫妻と作家がやり取りした書簡なども本展で見られるので、作品のみならず「コンセプト」もしっかり学ぶことができます。
美術における新しい「おもしろさ」
例えば河原 温(かわら おん)は、キャンバスに制作した日の日付だけを描く《Today》シリーズでよく知られています。当日中に書き終わらなかったら破棄する、というルールのもと、作家が亡くなる前年まで続けられました。
非常に単純なルールで毎日同じことを繰り返すのですが、滞在する場所の言語に日付の書き方を合わせたり、当日の新聞を箱に添付したりしており、社会にとっては全く同じ日など1日もないことも、作品に織り込まれています。概念としての「時間」と、人それぞれの主観的な「時間」という概念が作品の上でぶつかっているのです。
ギルバート&ジョージ《アーチの下で(ボックス)》1969年 ノルトライン=ヴェストファーレン州立美術館© 2021 Gilbert & George; Foto: Achim Kukulies, Düsseldorf
ギルバート&ジョージは、自分たちを「生きる彫刻」として提示し、人生そのものを作品としました。二人は肌に金属粉を塗ってブロンズ像のような風貌になり、歌をうたうなどの作品を発表しました。
美術館で彫刻を見ているとき、動き出すのではないかと感じることがありますが、その発想を突き詰めると、動く彫刻は人間なのかもしれません。芸術と日常の境界をわからなくしてしまうギルバート&ジョージの発想、おもしろくないですか?
ミニマル・アートやコンセプチュアル・アートの名作に共通するのが、「着眼点のおもしろさ」です。伝統的な絵画や彫刻には、人目を引く作品の美しさが必要だったかもしれません。しかし、ミニマル・アートやコンセプチュアル・アートで重視されるのは視覚というより、常識を覆す発想のほうなのです。
【まとめ】発想を楽しむアート
リチャード・ロング《コンラート・フィッシャーのための彫刻》1968年 ノルトライン=ヴェストファーレン州立美術館
本展を見ていると、作家の発想の豊かさや常識に疑問を呈する鋭い切り口に驚かされます。固定観念を覆されてスッキリする感覚は、ミニマル・アートやコンセプチュアル・アートならではと言えるでしょう。
こうした美術に対し、「どうやって楽しめば良いのかわからない」と感じている方にこそ、ご覧いただきたい展覧会です。展覧会では、作品のコンセプトが丁寧に解説されています。
展覧会情報
展覧会名:ミニマル/コンセプチュアル:ドロテ&コンラート・フィッシャーと1960-70年代美術
会場:兵庫県立美術館 企画展示室
会期:2022年3月26日[土]-5月29日[日]
休館日:月曜日
開館時間:10:00~18:00(入場は閉館30分前まで)
公式HP:http://www.artm.pref.hyogo.jp/exhibition/t_2203/
画像ギャラリー
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明菜

美術ブロガー/ライター。美術ブログ「アートの定理」をはじめ、各種メディアで美術館巡りの楽しさを発信している。西洋美術、日本美術、現代アート、建築や装飾など、多岐にわたるジャンルを紹介。人よりも猫やスズメなど動物に好かれる体質のため、可愛い動物の写真や動画もSNSで発信している。
美術ブロガー/ライター。美術ブログ「アートの定理」をはじめ、各種メディアで美術館巡りの楽しさを発信している。西洋美術、日本美術、現代アート、建築や装飾など、多岐にわたるジャンルを紹介。人よりも猫やスズメなど動物に好かれる体質のため、可愛い動物の写真や動画もSNSで発信している。
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