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INTERVIEW

2024.6.19

夢見た日本でハッピーを届けるイラストレーター、ビオレッティ・アレッサンドロとは?

特徴的な“丸”いフォルムで描かれるのは、どれも明るく楽しいイラスト。1986年に北イタリア・トリノにて生まれたビオレッティ・アレッサンドロ氏は、イラストレーターとして日本の様々な企業の広告や挿絵のほか、書籍装画、アニメーション、絵本など幅広い媒体にて活躍しています。
今回、ビオレッティ氏のアーティストとしての生い立ちやアートへ向き合う姿勢について伺いました。

夢を抱いたきっかけは7歳の時

吉村(インタビュアー):まずは、初めてビオレッティさんを知る人に対してどんな人なのか、アーティストになろうと思ったきっかけを伺いたいです。
ビオレッティ:まず僕は7歳の時、絵描きになりたいと思っていました。同時に日本画、日本の写真集がおじいちゃんの本棚にあって。それを見つけたきっかけで日本が好きになって、日本で絵描きができないかって7歳で思ったわけです。


吉村:7歳でそんな具体的な夢を持ったのは、絵を褒められたとか、そういうきっかけがあったのですか?
ビオレッティ:それもあったのですけれども。絵が描くのが本当に好きで。イラストレーターとか漫画家とかアーティストとか、全然そういう区別はなかったんですけど。自然に絵を描いて仕事したいと思っていました。


ビオレッティ:16歳の時に日本語を勉強し始めて、自分で稼いで貯めたお金で、18歳頃から1年に1回は必ず日本に来ていました。日本を旅して色々な経験をして、色々なおしゃべりをできたことが、僕にとって一番の良い学校だった。
その中でTIS(東京イラストレーターズ・ソサエティ)というメディアを通じて、日本のイラスト業界はイラスト1枚でもたくさんのスタイルがあるということに気づいて。


ビオレッティ:イタリアで漫画ブームがあって、18歳、19歳の時にはイタリアの有名な漫画家のアシスタントになったけど、やっぱり自分の絵を描きたいと思い2ヶ月後に辞めました。今も漫画が好きで時々描いていますけれど、一枚の絵で表現をしたいっていう気持ちが強かったです。

自然にあふれ出るハッピーを伝える

吉村:第一印象で、ハッピーではあるけれど主張が強すぎない、そのバランスが素敵だと感じました。それはフォルムなんですか?それとも色味なんですか?
ビオレッティ:フォルムは「丸」っていう特徴があって、できる限り角を丸くするっていう姿勢や性格が出ている。あと色味も意識はしていますね。生まれもった感性と、失敗しながら経験を重ねてちょっとずつ進化して。最近ではちょっと計算もしています。


吉村:自分の作品の特徴を表現するとしたら何になりますか?
ビオレッティ:とにかく僕は、一枚一枚「楽しい気持ち」に向き合って作る。やっぱりそれを伝えたい。どっちかっていうと暗い世の中を、ちょっとハッピーな気持ちにしたいなって、やっぱりコロナ後も思った。あとはたくさんの人に遊び心を思い出してもらいたい。


ビオレッティ:2022年にあったBookmarcのギャラリーでちょっと規模が大きな個展をやらせていただいて。その時実験的に、「バッドボーイ」って悪そうなキャラクターを作ろうとしてたんです。結局、聞いたコメントが「可愛い」。
吉村:はははは。悪くなりきれない。
ビオレッティ:そう。そういうのも特徴だなって思っていて。

吉村:個展をやるにしても、自分のやりたいことをまっすぐに伝えられるのがすごいですよね。
ビオレッティ:そうですね。誰でも通じ合うテーマは別に描けるけど、僕の世界観のためなので。逆に何も考えずに自然にやっています。
今よりペーペーの頃は、自信がないからこそ余計な緊張があったんですね。これが本当にいいのかなって。でもどんどん経験を積むと、クライアント枠でもなんでも、自然に描けるようになりますよね。今はもう楽しいことしかない。
ずっと家にこもって仕事していることが多いので。ミュージシャンのライブみたいに、自分のライブがこれ(展覧会)なんだって、昔からそういうイメージでやっています。

アートの文化的な違いとアーティストとしての使命

吉村:日本とイタリアでアートの関わり方に違いはあると思いますか?
ビオレッティ:日本はあまりないと思うけれど、イタリアでは家に人を呼んで、買った絵や部屋のアレンジを自慢する文化がある。またイタリアはフレスコ画や油絵で描いた絵とか、日常的にアートがあって。建築的にも何百何千年前のものが残っていて。でも僕らにとっては普通の日常。そういう日常的な違いは確かにあります。


吉村:近年アートはどんどん自由になっていると思いますが、それについてはいかがですか?
ビオレッティ:そうですね。まあもう遅いかもしれないけど、それは怖いです。
僕は写真から出発して。昔は技術がある人しか写真ができなかったじゃないですか。今、特にこの数年はスマホで誰でも写真家になれる。ただ写真も絵も同じだけど、強い土台があるアーティストと、ないアーティストは、関係者として目に見えてきます。


ビオレッティ:僕が自分に思うのは、好きなことで食べることができている今が嬉しい。自分にとってはサクセスしているんです。他人がどう思っているかはまた別ですよ。また、有名になりたいという気持ちはあんまりない。そこは僕がコントロールできないものなので。
大事にしているのはできる限り、死ぬまでこの仕事を続けていけること。それが僕の思う本物の絵描きだと思います。


ビオレッティ:でもある面で、いいなと感じて「これは家に飾りたい」と単純に思えば、それで終わっていいと思う。販売する人にとっては、やっぱりクオリティは大事にしなきゃいけないなとは思いますけどね。
やっぱり音楽にしても料理にしても映画にしても、見て「あ、いいね」って気持ちを忘れたくないなって思いますね。例えば、雑誌を見て「あ、ビオレッティだ」「これビオレッティだ」って見て思い出してもらえる存在を目指した方が良いのかな。


吉村:最近、心が動いて購入したものはありますか?
ビオレッティ:僕は結構アートの本が好きなんですね。最近買った本ですごく動いたというのが、ロボットとか戦隊もの。これは70年代から2000年の始まりぐらいかな。村上さんっていうロボットデザイナー。この本はたまたま見つけたんですけど、僕が子供の頃にイタリアでもこれを見て日本がさらに好きになった。


ビオレッティ:アートといえるかはわかんないんですけど、僕はとにかく作家が作った絵っていうよりは、伝統のものが好きで。民族的な、ルーツがあるものが好きです。


吉村:今日本で活動されていますが、ベースはイタリアっていう思いはあるんですか?
ビオレッティ:ないです。日本もないです。僕は全部興味があります。できる限り視野が狭くならないような自分のスタンスが活きています。すべてにオープンで、できる限り固く苦しくならず。

アーティスト自身を作るのは発信の力

吉村:例えば名もなきデザイナーが一人のアーティストとして認知されるにはどうすればいいんでしょうか?
ビオレッティ:発信の力。語らない作家はなかなか出てこない。この仕事をやっているみんなはエゴが大きいから。それで食っていっている、生きていっている、自分自身をつくる。自分はできるぞっていう自己アピールが必要です。


吉村:待っているだけじゃ、アーティストにはなれないですよね。
ビオレッティ:やっぱりまず自分の力で動かないと。「一緒に仕事したいんです」って、好きなアートディレクターがいたら連絡するんです。最近はおかげさまで動かずに仕事はできています。明日はわかりませんけど(笑)けれど苦しいこともあったので、大きな顔はしたくないというか、真っ直ぐしかしたくない。この仕事をやり続けて年取ったとしてもね、僕はできる限り若者と同じスタンスっていうか、同じ軽さで生きたいなって思っています。
何かアイディアがあるんだったら自分でやる、っていうのは大事です。もしかして僕が最初何かの行動をしてなければ、見つかることもなかったかもしれないし、だからお互いにやっぱり“丸”。つながっていくからこそ成り立っていく。

表現への貪欲さ

吉村:ありがとうございます。最後に未来のことをあんまり考えないタイプかもしれないんですけど、将来的な大きな目標を教えてほしいです。
ビオレッティ:多分死ぬまで絵を描かせてくれるのであれば、死ぬまで描くと思う。年金もらう……年金もらえるかな?
吉村:はははは。
ビオレッティ:とにかくそういう年になった時に、自分で彫刻と音楽を作りたい。今はなかなか時間がなくてできないけど、自分の表現力をもっと広げたいなと思っています。

最後に

吉村:ビオレッティさんとお会いして本当に素敵な第一印象でした。
ビオレッティ:この仕事は割と特別な仕事じゃないですか。当たり前にできる仕事じゃない。もちろん自分の力で実現できたものもあるけど、仕事を依頼してくれる人たち、絵を買ってくれる人たち、興味を持ってくれる人がいるって当たり前なことじゃないと思う。それを、できる限りずーっと忘れずに仕事をしたいんです。


吉村:コミュニケーション能力も高いですよね。
ビオレッティ:僕はアートディレクションとかアイデアを出す側でもあるので。あとはおしゃべりするのが好きだから仕方がないです。
吉村:本当にこういう個展をやられている理由がわかる気がします。作品もそうですが、ご本人に会ったらよりファンになりやすいと思います。
ビオレッティ:かもしれないです。ここに座っていたら夜までしゃべれると思う。

「初心忘るべからず」という言葉がぴったりなビオレッティ氏。アートへのひたむきな想いと、まっすぐで柔軟な姿勢が非常に魅力的でした。今後より多くの人に彼の作品が届き、さらなる活躍への期待が寄せられます。

プロフィール
ビオレッティ・アレッサンドロ (Alessandro Bioletti)
1986/8/21 生まれ
イタリア、トリノ出身
2015年5月に日本に移住し、2019年よりイラストレーターとして独立

【写真7枚】夢見た日本でハッピーを届けるイラストレーター、ビオレッティ・アレッサンドロとは? を詳しく見る
イロハニアート編集部

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アートをもっと自由に、もっとたくさんの人に楽しんでもらいたいという想いから生まれたメディア。日々、アートのイロハが分かるコンテンツを配信しています。アイコンは「イロハニくん」。アートのそばに、ひっそりと棲んでいます。

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