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INTERVIEW

2024.9.14

世界をシンプルに捉えたい!アーティスト、田村久美子の抱く夢とは?【イロハニ作家対談コラム】

よりアートを身近に感じてもらうために、アートという共通点を持った二人が語り合う「イロハニ作家対談コラム」。この度、アーティストの田村久美子と、ギャラリーを経営する画商の吉村健(株式会社エドム代表取締役社長)が対談しました。田村の人と作品をこよなく愛する吉村は、どのようなきっかけで田村と出会ったのでしょうか。

田村と吉村の出会いのきっかけとは…画商の視点で語る田村の作品の魅力。

対談の際に笑顔で話す田村久美子。 撮影:加納典弘

吉村

吉村

今回は画商の僕が大好きな田村さんを紹介したいと思います

田村

田村

最初の大役にご指名いただいて光栄です(笑)

吉村

吉村

田村さんとの出会いは、お互いに贔屓にしていたお店なんですよね。そこで知り合ったらたまたま同い年。はじめはお互いに何をやっているか知らなかったけど、友達になったら実は田村さんはアーティストだったという…

田村

田村

ちゃんと作品を見てもらったのは、数年後に丸の内のギャラリーで個展をした時でした。半オープンスペースだったので、いろんな人や吉村さんも見に来てくれたんですけど、15分くらい見ただけで帰ってしまうという…。まさかこんなちゃんとやっていたとは、て(笑)

意図せず出会ったふたり。この後、画商としての吉村が田村の作品をどう見ているのかに話は移りました。

吉村

吉村

シンプルなのに、とても個性的なのが田村さんの作品。一度、絵に惹かれると、どこかで偶然に見かけても、田村久美子の作品だときちんと分かるんだよね。温かい中にポジティブな印象を受ける

田村

田村

そう言われると嬉しいですね。ありがとうございます

吉村

吉村

あと田村さんの絵は画商の立場として薦めやすいんですよね。日本のマーケットで仕事をしていると、人物画や個性の強すぎる絵は売りにくい。
だけどすぐにこの人の絵だって分かる作品や風景画が人気。

田村さんの絵はその辺のバランスが良くて、画家としての個性も出ているのに、場所を選ばずに掛けやすく、風景画としても美しい。そこが一番の魅力ではないかな

ロンドンへ留学した田村が経験したさまざまなエピソード。

田村久美子のアトリエ。 撮影:吉村健

個展やグループ展などで精力的に作品を発表するだけでなく、アートプロジェクトなどに参加して活動の幅を広げてきた田村。美大で感じたことや海外に目を向けたこと、そしてロンドンへ留学した時のエピソードなどを語ってもらいました。

吉村

吉村

作家になりたいと思ったきっかけって何だろう?

田村

田村

絵を描きながら生きていたいという思いが今、実現しているのは不思議な気がします。ずっと同じ気持ちで走っているだけなので(笑)。

長野で生まれ育って、絵描きになるためには美大に行くんだ!と上京して、東京の美大に入ったんですけど、全然思い描いていた世界とは違っていて…うつうつとした日々の中で色んな現実に接しているうちに、ここはゴールじゃない、もっと勉強できるところに行きたい、と思うようになりました。

吉村

吉村

その思いが強くなって、別の環境を見出そうと、留学を志したのかな?

田村

田村

正直、アーティストとして目標になることや人に出会えずに毎日が過ぎていて、どこか消化不良な気持ちでいました。
そんな時に交換留学できる機会を得て、約1ヶ月、アメリカの大学で美術の授業を受けたんですよね。
そしたら日本と全然違う!自分がいかに狭い世界の中で悩んでいたかに気づかされました。
それから海外で学びたい!将来自分の作品を英語で語れるように行くなら英語圏だと決めて、ロンドンに留学することが目標になりました。

『the distance between you&I 2003』

「シェアメイトのカップル(今は御夫婦)が、私が帰国する際に購入してくれました」(田村) 提供:田村久美子

吉村

吉村

なるほどロンドンで“水をえた魚”になったと(笑)

田村

田村

大学を卒業した一週間後には早くもロンドンに居ました(笑)
ロンドンでの暮らしは、人とアートが身近な暮らしで、シェアハウスで一緒に暮らす彼らの方が先に美術展を見ていたり、誰もが日常会話にアートが出てくることが当たり前。
自分の知性や教養を磨くために美術館やギャラリーに行っているのです。

小さな学校に入ったんですけど、海外から学びに来ている人や年齢もさまざまで、とにかくアートを共通項としてクラスメイトの距離が近い

吉村

吉村

日本とアートに対する環境が全然違うんだねえ…あと『私、あれ好き!』って、自分の趣味の好き嫌いをストレートに言えるのも良いよね

田村

田村

そう、個性の塊同士が遠慮なく発言したり表現していて、黙っていたら損しちゃうみたいな…英語もそこで鍛えられました(笑)。

あの時にしか出来なかったエネルギーで出会ったんだな、と。
今でも繋がっている彼らとの思い出やご縁は宝物です

世界をシンプルに捉えたい。セント・ポール大聖堂の屋上から見た景色。

田村久美子のアトリエ。 撮影:吉村健

充実したロンドンでの生活ながらも、自身の描いていた絵については納得できなかったと言います。そこで大きくターニングポイントになったこととは?とある場所から見た風景の印象という意外な出来事でした。

吉村

吉村

今の田村さんの作品は『田村さんらしさ』がきちんとあると思うけど、この作風はいつからなんだろう。初期の頃の作品も見させてもらっているけど、かなり印象が違う。何か変わるきっかけってあったのかな?

田村

田村

せっかくロンドンに来て学んでいるのに、作品は殻を破れないもどかしさを抱えていて…なんだか晴れない気持ちを払拭したくて、気分転換にセント・ポール大聖堂の屋上に登った時のことでした。ロンドンの街を360度眺望できるんですよね。山がまったく見えない。だから視線の先がフェードアウトする。山の中で育った私には初めて見るようなとても不思議な世界で、その時、世界に繋がるような感覚を得たんです。
自分はこんな広い世界で何を遠慮しているんだ、と。がんじ絡めな気負いがふっと解けた感じがして…色々なことをもっとシンプルに捉えられるんじゃないかと気づきました。

吉村

吉村

すごい経験だよね。それでシンプルだけど、空間に奥行きがあるというか、世界観が広い、今の田村さんの作品が生まれたんだ

田村

田村

描く絵ももっとシンプルでもいい。それまでは手数を増やすことで安心しちゃう癖があって、少し力むというか描き過ぎていたところがあったんですけど、一回削ぎ落としてシンプルな構図で絵を描いてみてもいいんじゃないか、と思ったんです

『@katherine house 2005』 「初めて描いた作品から1年後の発展バージョンで、ロンドンの友人が購入してくれました」(田村) 提供:田村久美子

田村はロンドンで見た風景から着想を得て、絵をシンプルに描いていくことに取り組みます。そうした制作スタンスについて吉村は「自分の意思をしっかり持っている」と賞賛しました。

吉村

吉村

田村さんは色々なことをシンプルに捉えながら作品を出しつつ、自分がしたいことをアーティストとして切り拓きながら活動している。
誰から言われたからではなくて、あくまでも自分の意思をしっかりもっている。そこがいいですよね。

ランドマークになるような作品を作りたい!田村の未来への展望とは?

「黒島・福浦アートプロジェクト」 提供:田村久美子

ロンドンでアーティストとして活動しはじめ、日本へと帰国。自らの感性を大切にしながら多くの作品を生み出してきました。最後に今後の展望について語ってもらいました。

吉村

吉村

今後どういう作家になりたいというか、夢はあるのかな?

田村

田村

ここ数年は作品を発表する機会をいただくようになり、絵を購入してくださる方も増えてきたんですけど、日本の住宅は絵を飾ることに対して優しくない。そもそも家が狭くて飾る場所がなかったり、たとえば賃貸だと釘を打ったり、ピクチャーレールをつけるのが難しかったりと…お客さまから相談を受けることもあります。

吉村

吉村

そう、絵が欲しくとも、飾るところに困って諦めてしまうお客さまも少なくない

田村

田村

逆にホテルや公共施設とかアートプロジェクトになると大きな作品の依頼が多いんです。そういうパブリックな場所に飾らせてもらうことは、人々の記憶に深く刻まれるランドマークになることにもつながると思うんです。昨年参加した能登でのアートプロジェクトにて、自分が描く風景画が街の風景になることを経験させてもらって、まさにこれだ!と思いました

吉村

吉村

なるほど、大きなコミッションワークには自分の夢を託せる面もあると…

田村

田村

渋谷駅に岡本太郎の大きな作品がありますよね。そうした『あの作品の下で待ってるね!』って言われるような作品を生み出したいと思ってます

吉村

吉村

それは夢があって素晴らしいですね!未来を明るく切り開こうとする田村さんがますます好きになりました

田村のアトリエにて仲良く撮影に応じる吉村健と田村久美子。 撮影:加納典弘

岡本太郎の『明日の神話』を引き合いにして自らの夢を語る田村。
笑顔で語る表情はとても明るく、たとえ初対面であってもフレンドリーでありながら、アーティストとして生きていくプライドを持っている様子にも強く魅了されます。

アートが好きで、アートと深く接する二人が和やかな雰囲気にて語り合った「イロハニ作家対談コラム」。
例えばアーティストが紹介したい人や、会ってみたい人など、色々なシチュエーションでの対談も面白いかもしれません。「次は誰が登場するの?」そんな声もちらほら聞こえてきそうですが、今後の展開にもどうぞご期待ください!

田村久美子 Artist/美術作家 
一枚の絵から広がる活動を求めて、自らEnoR(エノアール)を設立し活躍の幅を広げている。

ホームページ:https://www.kumikotamura.com/
インスタグラム:https://www.instagram.com/enor.tokyo/
フェイスブック:https://www.facebook.com/kumiko.tamura.90/

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千葉県在住。美術ブログ「はろるど」管理人。主に都内の美術館や博物館に出かけては、日々、展覧会の感想をブログに書いています。過去に「いまトピ」や「楽活」などへ寄稿。雑誌「pen」オンラインのアートニュースの一部を担当しています。

千葉県在住。美術ブログ「はろるど」管理人。主に都内の美術館や博物館に出かけては、日々、展覧会の感想をブログに書いています。過去に「いまトピ」や「楽活」などへ寄稿。雑誌「pen」オンラインのアートニュースの一部を担当しています。

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