NEWS
2023.9.29
富山、青森から最後の巡回地、東京へ。『棟方志功展 メイキング・オブ・ムナカタ』の見どころとは?
青森市に生まれ、一心不乱に版木に向かいながら制作を続けた版画家の棟方志功(1903〜1975年)。自ら「板画」(はんが)と称した木版画をはじめ、「倭画」(やまとが)と呼ばれる肉筆画や油彩画などを描きながら活動すると、「世界のムナカタ」として国際的に高い評価を得ました。
その棟方志功の生誕120年を記念して開かれているのが、『生誕120年 棟方志功展 メイキング・オブ・ムナカタ』です。すでに富山県美術館と青森県立美術館での会期を終え、10月6日より最後の巡回地となる東京国立近代美術館での展示がスタートします。
10代にして画家を志した棟方。版画家への歩みとは?
いかにして棟方志功は版画家の道を志したのでしょうか?青森市内の鍛治職の家に生まれた棟方は、10代にして画家を志すと写生に明け暮れ、雑誌で見たゴッホの「ひまわり」に感銘を受けて油絵の画家になろうとします。
そして1924年、21歳の時に絵の修行のために上京するも、4年連続で帝展に落選するなど、油絵に対して疑問を感じるようになりました。
一方で1926年に国画会へ出品された川上澄生の版画『初夏の風』に感動すると、版画への興味を深めていきます。25歳の時には日本創作版画協会展に7点の版画を出品。1932年には『亀田・長谷川邸の裏庭』にて国画会奨励賞を受賞し、本格的に版画家として生きることを決意しました。
棟方志功『善知鳥版画巻』「鉄嘴」 1938年 棟方志功記念館
1936年、33歳の棟方は第11回国画会展に『大和し美し』を出品すると、これを機に民藝運動の創始者である柳宗悦や陶芸家の河井寛次郎らの知遇を受けるようになります。そして1942年には初の随筆集『板散華』の中で、自らの作品を「板画」と表記することを宣言しました。
青森、東京、富山の3つの地域と棟方芸術との関係をたどる
棟方志功『門舞男女神人頌』「木花之佐久夜妃」 1941年 個人蔵
今回の展覧会で重要なのは、棟方が芸術家として大成していく過程のなかで大きな影響を与えた3つの地域に着目していることです。
その地域とは、棟方がこよなく愛した故郷の青森と芸術活動の中心地だった東京、それに疎開先であった富山です。終戦の年の4月、棟方は戦禍を逃れて富山県西礪波郡福光町(現在の南砺市)に疎開します。
そして疎開後、まもなくして東京・代々木の自宅が空襲にて焼失すると、家財はおろか、戦前に制作した作品や版木のほとんどを失ってしまいました。
再起を余儀なくされた棟方は、結果的に6年8ヶ月にわたって福光町に住み続け、版画や肉筆画の重要な作品を制作しました。
時代のメディアを縦横無尽に駆け抜けた棟方芸術のすべてが明らかに。
棟方志功『ホイットマン詩集抜粋の柵』「Perfections」 1959年(1961年摺) 棟方志功記念館
展覧会の見どころを整理しましょう。まず展示では国際展受賞作から書、本の装画、商業デザイン、壁画まで「世界のムナカタ」の全容を紹介。代表的な「板画」作品はもちろん、最初期の油画や生涯にわたって取り組み続けた倭画に加え、人気を博した本の装幀や、長く大衆に愛された包装紙の図案など、優れたデザイナーとしての一面も取り上げます。
棟方志功『幾利壽當頌耶蘇十二使徒屏風』 1953年 五島美術館
久々に公開される棟方畢生の超大作も見逃せません。縦3メートルの巨大な屛風『幾利壽當頌耶蘇十二使徒屛風』(五島美術館蔵)を実に約60年ぶりに展示。またほとんど寺外で公開されることのなかった倭画の名作『華厳松』(躅飛山光徳寺蔵)を、通常、非公開の裏面とあわせて展示します。
板画、倭画、油彩画といったさまざまな領域を横断しながら、装幀やデザイン、さらに映画・テレビ・ラジオ出演にいたるまで、時代の「メディア」を縦横無尽に駆け抜けた棟方の多岐にわたる活動を紹介する『生誕120年 棟方志功展 メイキング・オブ・ムナカタ』。
展示は「プロローグ:出発地・青森」、「第1章:東京の青森人」、「第2章:暮らし・信仰・風土―富山・福光」、「第3章:東京/青森の国際人」、「棟方志功のデザイン」、「第4章:生き続けるムナカタ・イメージ」の順に続きます。
板画を「板から生まれる板による画」、「板の声を聞き、板の生命を彫り起こす」と志した棟方の魂の創作を展覧会にて体感してください。
展覧会情報
『生誕120年 棟方志功展 メイキング・オブ・ムナカタ』 東京国立近代美術館 1F 企画展ギャラリー
開催期間:2023年10月6日(金)~12月3日(日)
所在地:東京都千代田区北の丸公園3-1
アクセス:東京メトロ東西線竹橋駅1b出口より徒歩3分
開館時間:10:00~17:00
※金・土曜は午後8時まで
※入館は閉館30分前まで
休館日:月曜日。但し10月9日は開館、10月10日(火)。
観覧料:一般1800(1600)円、大学生1200(1000)円、高校生700(500)円。
※( )内は前売および20名以上の団体料金。
※本展の観覧料で入館当日に限り、同時開催の所蔵作品展「MOMAT コレクション」も観覧可。
公式サイト:生誕120年 棟方志功展 メイキング・オブ・ムナカタ
画像ギャラリー
あわせて読みたい
-
NEWS
2023.11.14
20年ぶりの回顧展「生誕120年 安井仲治―僕の大切な写真」が兵庫県立美術館にて開催!
イロハニアート編集部
-
NEWS
2023.11.08
世界的ファッションデザイナーのコシノジュンコの活動の全貌を紹介する「コシノジュンコ 原点から現点」
新 麻記子
-
NEWS
2023.11.03
「111年目の中原淳一展」がそごう美術館にて開催!中原淳一の多彩なアートを紹介。
イロハニアート編集部
-
EVENT
2023.11.02
自分“ごと”として考えよう!森美術館開館20周年記念展「私たちのエコロジー:地球という惑星を生きるために」
新 麻記子
-
NEWS
2023.10.31
世界を席巻するアーティストたちの貴重な作品60点以上が集結!『MUCA(ムカ)展 ICONS of Urban Art 〜バンクシーからカウズまで〜』
新 麻記子
-
NEWS
2023.10.25
個性派ぞろいの民間仏!「みちのく いとしい仏たち」展が東京ステーションギャラリーにて開催
イロハニアート編集部
このライターの書いた記事
-
EVENT
2023.12.01
【12月のおすすめ展覧会5選】『癒やしの日本美術』から『みちのく いとしい仏たち』、それに荒木悠の個展まで。
はろるど
-
EVENT
2023.11.15
グラフィックデザイン本来の楽しさや豊かさを再発見!『もじ イメージ Graphic 展』の見どころ
はろるど
-
NEWS
2023.11.10
アートはみんなのために!『キース・ヘリング展 アートをストリートへ』が森アーツセンターギャラリーにて開催。
はろるど
-
NEWS
2023.11.09
アジアで最大規模のアートブックフェア、「TOKYO ART BOOK FAIR 2023」が東京都現代美術館にて開催!
はろるど
-
NEWS
2023.11.01
【11月のおすすめ展覧会5選】大巻伸嗣の個展から、新たにオープンする皇居三の丸尚蔵館や麻布台ヒルズギャラリーの展示まで
はろるど
-
NEWS
2023.10.26
圧倒的な没入感に浸る。現代美術家、大巻伸嗣の個展が国立新美術館にて開催!
はろるど

千葉県在住。美術ブログ「はろるど」管理人。主に都内の美術館や博物館に出かけては、日々、展覧会の感想をブログに書いています。過去に「いまトピ」や「楽活」などへ寄稿。雑誌「pen」オンラインのアートニュースの一部を担当しています。
千葉県在住。美術ブログ「はろるど」管理人。主に都内の美術館や博物館に出かけては、日々、展覧会の感想をブログに書いています。過去に「いまトピ」や「楽活」などへ寄稿。雑誌「pen」オンラインのアートニュースの一部を担当しています。
はろるどさんの記事一覧はこちら