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2023.11.16
モザイク画の都イタリア・ラヴェンナで芸術好きが訪れるべき場所5選!
イタリア西北部に位置するラヴェンナは、古代ローマ末期に帝国の首都が置かれたことで知られます。「イタリア語の父」とも言われる中世の作家ダンテが一時期住んでいたことも有名です。
ヴェンナの街の最大の特徴は、街中に現存するたくさんのモザイク画作品でしょう。5~6世紀に制作されたモザイク画の作品群は、徒歩ですべて見て周れる範囲に点在しています。
目次
『テオドラの行列』, サン・ヴィターレ教会, ラヴェンナ, Public domain, via Wikimedia Commons
この記事では、イタリアの大学院で美術史を専攻する筆者が、芸術好きが必ず訪れるべきラヴェンナのモザイク作品5選を紹介します!
ラヴェンナのモザイク画①:サン・ヴィターレ教会
サン・ヴィターレ教会, ラヴェンナ, Public domain, via Wikimedia Commons
サン・ヴィターレ教会は6世紀前半に建立されました。カトリックの多くの教会とは異なり、八角形の中央集中式(放射状の建築デザイン)が特徴です。質素な見た目の外観に反し、内部の主祭壇部分は豪華絢爛なモザイク画に覆われています。
サン・ヴィターレ教会のモザイク画は、主祭壇の両側、奥(後陣)、天井を全体的に囲んでいます。豪華絢爛で豊かなサン・ヴィターレ教会のモザイクのなかでももっとも有名な部分はユスティニアヌス帝と妻デオドラの行列です。
『ユスティニアヌス帝の行列』, サン・ヴィターレ教会, ラヴェンナ, Public domain, via Wikimedia Commons
ユスティニアヌス帝の隣に立つ司教マクシミアヌスは、行列のなかで唯一碑文が残されています。これはおそらく、マクシミアヌスがラヴェンナの初代大司教を任命され、作品の監督権を握っていたからでしょう。
ラヴェンナのモザイク画②:ガッラ・プラキディア廟堂
ガッラ・プラキディア廟堂, ラヴェンナ, Public domain, via Wikimedia Commons
ガッラ・プラキディア廟堂はサン・ヴィターレ教会に隣接する廟堂です。廟堂とは、死者の魂をまつる場所です。ガッラ・プラキディア廟堂はサン・ヴィターレ教会よりも古く、425年頃に建立されました。
女帝ガッラ・プラキディアのために建てられたと考えられるためこの名前がついていますが、別の人のための廟堂だったという説もあります。内部のモザイクは、コンスタンティノープルへの滞在が多かったガッラ・プラキディアのためにビザンツ人芸術家が担当したようです。
ガッラ・プラキディア廟堂モザイクの最大の特徴は、星空で覆われた天上です。ドームにある「青い背景×上部にいくにつれ小さくなる星」のデザインは、中世を通じて長く用いられたものでした。
ガッラ・プラキディア廟堂, ラヴェンナ, Public domain, via Wikimedia Commons
天井が低いためモザイクに用いられるテッセラ(色のついた石やガラスなどの破片)がよく観察できます。こじんまりした小さなスペースですが、全体を覆いつくすモザイクは圧巻です。
ラヴェンナのモザイク画③:ネオニアーノ洗礼堂
ネオニアーノ洗礼堂, ラヴェンナ, Public domain, via Wikimedia Commons
ネオニアーノ洗礼堂は、5世紀に建立された洗礼堂です。イタリアにある多くの洗礼堂と同じように中央集中式の建築で、ドームにはモザイク画残っています。
中央の縁には黄金の背景のなかにキリスト洗礼のシーンが描かれています。中心にいる3人の人物は、左から洗礼者ヨハネ、イエス、ヨルダン川の擬人化です。水のなかにあるイエスの身体は、色の濃いテッセラ(破片)で陰影を作ることで見事に表現されています。
ネオニアーノ洗礼堂, ラヴェンナ, Public domain, via Wikimedia Commons
中心円の外側には十二使徒が配置されており、絢爛な装飾が印象的です。濃い青の背景と使徒の金色の衣装のコントラストは、洗礼堂に足を踏み入れた者を圧倒する迫力があります。高価な配色と細やかなディテールで構成されたモザイクは、当時のラヴェンナの権威の強さを現代に伝えていますね。
ラヴェンナのモザイク画④:アリアーニ洗礼堂
アリアーニ洗礼堂, ラヴェンナ, Public domain, via Wikimedia Commons
アリアーニ洗礼堂は、西ゴート族の王テオドリックの時代(5世紀末)に建立が開始した洗礼堂です。アリウス派(キリスト教の宗派)の洗礼堂として建てられたことから、この名前がつきました。
外部には装飾は一切なく、内部は天上のモザイク以外非常にシンプルな作りです。アリアーニ洗礼堂の天上モザイクはネオニアーノ洗礼堂のモザイクより小さいものの、テーマは同様にキリストの洗礼と十二使徒です。
同じテーマと構図であるにもかかわらず、ネオニアーノ洗礼堂よりもややシンプルな装飾が特徴で、色味も落ち着いた調和があります。シンプルな建築と優しいモザイクの色調で、気持ちが穏やかになる洗礼堂です。
ラヴェンナのモザイク画⑤:サンタポリナーレ・ヌオヴォ教会
サンタポリナーレ・ヌオヴォ教会, ラヴェンナ, Public domain, via Wikimedia Commons
サンタポリナーレ・ヌオヴォ教会は、505年に建立されたバシリカ(教会)です。8世紀の自身や20世紀の爆撃により大きな打撃を受けたものの、身廊の側壁にはモザイク画残っています。
モザイクは左右の側壁にほどこされており、それぞれ3つの帯で構成されています。 一番大きい範囲を占める最下層のテーマのなかには、初期キリスト教美術に一般的に『東方三博士の礼拝』のほか、でテオドリック宮殿やクラッセ港(ラヴェンナに隣接する港)が描かれています。
サンタポリナーレ・ヌオヴォ教会, ラヴェンナ, Public domain, via Wikimedia Commons
もっとも大きな範囲を占めるテーマは、聖人(殉教者)の行列です。一方に男性聖人、反対に女性聖人の行列が描写されており、捧げものを持って草原を歩んでいます。聖人の多くはビザンツの伝統に従い手を服で覆って捧げものを運びます。身分の高い人への捧げものを直接触らないためです。
ラヴェンナにあるモザイクは、宗教だけでなく政治的な思惑に大きな影響を受けたテーマが多い点が見どころです。ラヴェンナを訪れた際には、古代ローマ文化、ビザンティン文化、ゲルマン文化の融合が感じられる作品群をぜひ楽しんでくださいね。
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イタリア・ローマ在住美術ライター。2024年にローマ第二大学で美術史の修士を取得し、2026年からは2つめの修士・文化遺産法学に挑戦。専攻は中世キリスト教美術。イタリアの前はスペインに住んでいました。趣味は旅行で、訪れた国は45カ国以上。世界中の行く先々で美術館や宗教建築を巡っています。
イタリア・ローマ在住美術ライター。2024年にローマ第二大学で美術史の修士を取得し、2026年からは2つめの修士・文化遺産法学に挑戦。専攻は中世キリスト教美術。イタリアの前はスペインに住んでいました。趣味は旅行で、訪れた国は45カ国以上。世界中の行く先々で美術館や宗教建築を巡っています。
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