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2023.12.19
ムンクの『叫び』はどんな絵?作品の特徴や見どころをわかりやすく解説!
『叫び』はノルウェー人画家エドヴァルド・ムンクが1893年に制作した作品です。日本では一般的に「ムンクの叫び」の名で親しまれ、もっとも有名な西洋画の1つといえます。
ムンク『叫び』, Public domain, via Wikimedia Commons
『叫び』に表現される複雑で独特な色遣いは、叫んでいる人物の表情と相まって不思議な印象を与えます。美術史研究者の間でも、さまざまな解釈が唱えられる作品です。この記事では、謎多きムンクの『叫び』の特徴や見どころをわかりやすく解説します!
ムンクの『叫び』概要
ムンク『叫び』, Public domain, via Wikimedia Commons
『叫び』は最初に発表された際、ドイツ語の作品名「Der Schrei der Natur(自然の叫び)」と題されていました。(現在はノルウェー語「Skrik(叫び)」)
作品手前中央に位置する人物は、不安に耐えられず叫び声をあげているかのような表情をしています。口と目を大きく開き、両手を頬にあて、身体はぐにゃぐにゃと曲がった状態です。『叫び』の人間の苦悩を体現した直接的な表現は、表現主義芸術(芸術家の心情を作品に反映する芸術)に影響を与えました。
『叫び』が生まれる背景には、ムンクが散歩中に目にした不思議な情景がありました。ムンクはこの体験について、日記「ニース 1892年1月22日」に次のように記しています。
“ある晩、私は小道を歩いていた。片側は街で、下はフィヨルドだった。疲れて気分が悪くなった。立ち止まってフィヨルドを見渡すと、太陽が沈み、雲が血のように赤く染まっていた。私は自然の中を通り過ぎる悲鳴を感じた。私はこの絵を描き、雲を実際の血に見立てた。色は悲鳴をあげた。これが『叫び』となった。”
参照:Stanska, Zuzanna (12 December 2016). "The Mysterious Road From Edvard Munch's The Scream". Daily Art Magazine. Retrieved 23 October 2019.
ムンクが見た空が「血のように赤く染まった」とまで表現されるのは、1883年から1884年にかけて起きたクラカトア火山の噴火の影響であったとする説があります。実際に作品が制作されたのはクラカトア火山噴火の10年後であるものの、画家の記憶に強く残っていたため作中に赤い空を描いたのかもしれません。
ほかには、絵が描かれた場所の近くにあった屠殺場から「血」のインスピレーションを得たとする説も。絵が制作された当時、ムンクの妹が精神病院の患者であったため、人間の苦悩と「血の空」のイメージがリンクして本作が生まれたとも考えられます。いずれにせよ、「赤い空」を見た体験は画家に多大な影響を与え、独特な色遣いの本作の構想至ったようです。
ムンクの『叫び』の特徴:渦巻く背景
ムンク『叫び』, Public domain, via Wikimedia Commons
ムンクの『叫び』の特徴は、背景の流動的な表現です。渦巻くような空の様子は、作品の不安や苦悩をより引き立てています。
『叫び』では空の部分が暖色で描かれているのに対し、下部は暗い色味が中心です。いずれの部分もうねうねとした流動的な線が情景を構築しており、世界がゆがんでいるような印象を受けますね。
ムンクは散歩中に赤い空を目撃した際、不安に震えながら立ち尽くしていた、と記しています。自然の驚異を目にした驚きや恐怖が、もともとムンクが抱えていた精神的な不安定さに強烈にリンクしたのでしょう。
背景には2人の人物が描かれているものの、はっきりとした輪郭は見えません。強烈な色のコントラストと渦巻く情景、はっきりしない背景の人物は、苦悩によって周辺の世界から確立された主観を表現するようにも感じられます。
ムンクの『叫び』の見どころ:ドキドキする不安感
ムンク『叫び』, Public domain, via Wikimedia Commons
ムンクの『叫び』の見どころは、感情に焦点を当てた表現です。『叫び』は表現主義芸術に影響を与えたことでも知られており、写実性や形式性よりも感情を重視している特徴があります。
作品の主人公である人物は、鑑賞者に向かってまっすぐ視線を向けています。一方で背景の2人の人物は、存在していることはわかるものの、実在をはっきり理解することができません。
「赤い空を見た」と日記に記した体験から、ムンクは自然の大いなる力に対する恐怖と内側に抱えていた不安が混ざりあった瞬間が表現されているとわかります。作品の最初のタイトルが『自然の叫び』であったことからも、ムンクは内面的な不安だけではなく自然によって呼び起こされる恐怖も表現しようとしたことが想像できます。
『叫び』をじっくり観察すると、世界が自分を覆いこむような、一方で世界が自分から隔離されていくような印象を受けますね。ムンクが作品に込めた明確な意図は定かではないものの、鑑賞者は彼が体験を通じた得た強烈な不安を感じられるでしょう。
ムンクの『叫び』はどこにある?
そんなムンクの『叫び』はどこの美術館にあるのでしょうか?実は、ムンクの『叫び』には様々なバリエーションがあり、いずれもノルウェーの美術館であるオスロ国立美術館とムンク美術館に所蔵されています!
「『モナ・リザ』『ひまわり』…あの名画はどこの美術館にある?意外な調査結果もご紹介」を読む
ムンクの『叫び』は紙や段ボールに描かれているため、光や湿度、温度などの環境要因に非常に敏感であり、なかなか日本で鑑賞する機会に恵まれません。なので、現地に行った際にはぜひ鑑賞してみてくださいね。
また、ムンクの『叫び』鑑賞の際は、本記事で述べた感覚的な印象を大切にしてください。
以上、『叫び』の特徴と見どころ紹介でした!

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イタリア・ローマの大学の美術史修士課程に在籍中。3年半勤めた日系メーカーを退職後、2019年から2年半のスペイン生活を経てフリーライター、日英・日西翻訳として活動するかたわら、スペイン語話者を対象に日本語を教えています。趣味は読書、一人旅、美術館・教会巡り、料理。
イタリア・ローマの大学の美術史修士課程に在籍中。3年半勤めた日系メーカーを退職後、2019年から2年半のスペイン生活を経てフリーライター、日英・日西翻訳として活動するかたわら、スペイン語話者を対象に日本語を教えています。趣味は読書、一人旅、美術館・教会巡り、料理。
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