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2024.7.25
【モナリザの秘密】作者レオナルド・ダ・ヴィンチの天才技法と驚きのエピソードとは?
目次
モナ・リザPublic domain, via Wikimedia Commons.
謎めいた微笑み!「モナリザ」ってどんな絵?
「モナリザ」といえば、ミステリアスな様子で微笑む婦人をすぐにイメージできるほど有名ですね。「世界で最も有名な絵画」「世界で最もパロディが作られた絵画」ともいわれ、500年以上経った今でも私たちを魅了し続けています。
モナリザの作者はルネサンス期の巨匠レオナルド・ダ・ヴィンチです。歴史の教科書にも出てくるほど有名ですが、どのような人物かはモナリザほどは詳しく知られていません。
レオナルド・ダ・ヴィンチはどのような人物だったのでしょうか?
この記事では、レオナルド・ダ・ヴィンチについて、モナリザで発揮された天才的な技法、モナリザにまつわるエピソードをお届けしようと思います。
レオナルド・ダ・ヴィンチPublic domain, via Wikimedia Commons.
モナリザ 作者「レオナルド・ダ・ヴィンチ」の意外な人生
芸術の中心・ローマでは活躍できず
レオナルド・ダ・ヴィンチは1452年にイタリア北部のフィレンツェ共和国(当時)で生まれました。
生前から芸術・科学・哲学など幅広い才能が評価されていましたが、美術の中心地・ローマで活躍することはできず、フィレンツェ、ボローニャ、ヴェネツィアなどで活動しました(ローマで活動した時期がまったくなかったわけではありません)。
芸術以外に、科学者・哲学者の顔も
レオナルド・ダ・ヴィンチは「万能の天才」といわれ、ヘリコプターや戦車の概念をまとめたり、太陽エネルギーや計算機の理論を確率したり、二重船殻構造の研究を行ったりもしていました。
どれも現代で欠かせない技術ですが、そのおおもとが15世紀に発想されていたことに驚きます。
出身地のフィレンツェはルネサンスの中心地だった
レオナルド・ダ・ヴィンチが幼少期~青年期を過ごしたフィレンツェは、ルネサンス人文主義における思想、文化の中心地でした。
レオナルド・ダ・ヴィンチは14歳のときにフィレンツェで最も優れた工房の一つを主宰していた芸術家・ヴェロッキオに弟子入りすることで絵画を制作しますが、ルネサンス人文主義では、科学と芸術をかけ離れた両極端なものと考えずお互い関連していると考えていました。
レオナルド・ダ・ヴィンチが芸術以外に多くの分野で才能を発揮したのは、科学と芸術に壁を設けなかったルネサンス人文主義が影響していると言えます。
芸術の都・ローマで活躍しなかったのは残念ですが、フィレンツェに生まれてむしろ良かったのかもしれません。
現存する絵画はわずか15点
レオナルド・ダ・ヴィンチが制作したことが確実だとわかっている作品は15点のみです。「モナリザ」以外には「最後の晩餐」「岩窟の聖母」が有名です。
どれも顔料の塗り方、人物の表情やポーズで感情を表現する方法、レイアウトなどが革新的と言われています。
プライベートはベールに包まれたまま
レオナルド・ダ・ヴィンチの幼少期、成人後の私生活は今でもベールに包まれたままです。仕事で大活躍した記録は残されているのですが、私生活はわかっていません。
芸術活動と研究活動にストイックなまでに打ち込んでいたことは想像できるのですが、今後の研究で明らかになるかもしれません。
17~18世紀は埋没。19世紀に評価が急上昇
レオナルド・ダ・ヴィンチの博識さや素晴らしい芸術作品は、存命時から高い評価を受けましたが、17~18世紀はミケランジェロやラファエロ、ティツィアーノなどの他の芸術家の方が有名でした。
この時代は「ほぼ無名だった」と表現しても良いくらいです。
レオナルド・ダ・ヴィンチは19世紀になり再評価され始めました。
スイス人の画家であるヨハン・ハインリヒ・フュースリーが1801年に「レオナルド・ダ・ヴィンチの登場は、現代美術の夜明けといえる出来事だった」と評したのがきっかけです。
同時に19世紀にはレオナルド・ダ・ヴィンチが書き残した科学・生物・建築などの分野の膨大な手稿が知られるようになり、「万能の天才」として評価が急上昇しました。
ルーブル美術館に展示されている「モナリザ」パブリックドメインQ.
ダ・ヴィンチの天才技法!「モナリザ」の見どころを解説
モナリザといえば、不思議な微笑をたたえた女性の絵だと多くの人がすぐにイメージできます。しかし、モナリザの魅力はそれ以外にもいくつもあります。
輪部をぼかす「スフマート技法」
モナリザの絵をよく見ると、顔の輪郭や両手が重なっている部分などはクッキリした境界線が無いことがわかります。
極めて精巧な陰影がついていることで「顔と首」「左手と右手」が分かれていると理解できます。これは当時としては革命的な新しい技法でした。
レオナルド・ダ・ヴィンチが生み出した「スフマート技法」は北イタリアを中心に広まり、中でもヴェネツィア派と呼ばれる色彩を重視する芸術家たちに大きな影響を与えました。
笑っているのか真顔なのか? 謎の微笑は解剖学の成果だった
わずかに笑っているのか、それとも真顔なのか? 非常に繊細な表情を描けたのは、モナリザの製作期間中にレオナルド・ダ・ヴィンチがサンタ・マリア・ヌオーヴァ病院の死体安置所で解剖学を学んでいたからなのです。
美術史上では、モナリザは「解剖学に基づいて書かれた、最初の微笑の絵」と位置づけられています。
まつ毛と眉毛は、最初はあった
微笑んでいるものの、何となくミステリアスと感じる人もいるモナリザですが、その理由は「まつ毛と眉毛」です。
まつ毛と眉毛は最初ははっきりと見えていたものの、絵のクリーニングをし過ぎたことで消えてしまったことが超高解像度スキャンによる調査でわかっています。
16世紀の芸術家記録者であるヴァザーリは、モナリザの眉毛が素晴らしいと記録に残しています。まつ毛と眉毛があるモナリザも見てみたいものです。
よく見ると背景がおかしい
女性の背景ですが、よく見ると女性の右側の木々と左側の木々の高さが合っていません。違う場所の景色をむりやり繋ぎ合わせたようにも考えられます。
専門家の中でも議論がなされ、「後世に書き加えられた」「レオナルド・ダ・ヴィンチが今までに見た景色をいくつか合成した」など、いくつかの説が唱えられています。
モナリザの魅力については、以下の記事でも解説しています。
関連記事:レオナルド・ダ・ヴィンチ『モナ・リザ』を理解する3つのポイント【名画解説】
モナリザイラストAC.
盗難事件からパロディまで!「モナリザ」にまつわる衝撃エピソード
多くの人を惹きつける魅力がある「モナリザ」。エピソードもたくさんあります。中には驚くような事件も!
フランス・パリのルーブル美術館でしか見られない
イタリア(現在)で制作されたモナリザですが、現在はフランス・パリのルーブル美術館に所蔵されています。フランスの王・フランソワ1世が購入したためフランスに渡り、その後ルーブル美術館に所蔵されました。
最初は不人気。盗難を機に一躍有名に
モナリザがルーブル美術館に置かれたのは1804年でしたが、当時はまったくといってよいほど注目されませんでした。
1860年代に評論家が「ルネサンスの傑作」として賞賛しはじめたことで少しずつ有名になりましたが、1911年の盗難事件がきっかけに圧倒的なほどの知名度を得るようになりました。
関連記事:ピカソがモナ・リザを盗んだ?|キュビズム創始者ピカソのスキャンダラスな人生って?作品の特徴と見どころも
パロディ、歌詞に登場、商品名…誰もが知る絵に
モナリザ以外にも有名な絵はたくさんありますが、これほどまでにパロディされたり、歌詞に登場したり、商品やブランドの名前になったりした絵は他にありません。
マーケティングが本格化し、インパクトある広告が求められるようになった1960年代以降、モナリザは広告の素材やモチーフとしてあらゆるところに登場しました。
アメリカでは1970年代に年間平均23回、80年代には年間平均53回も広告に使われたという記録があり、誰もが知っている芸術作品という地位を確かにしました。
破壊事件にも遭い、現在は防弾ガラスケースの中に
ルーブル美術館ではガラスケースに収められているモナリザですが、これは作品の格が高いからというわけではなく「破壊活動から守るため」であるからです。
第二次世界大戦中、戦火を避けるためにルーブル美術館からいろいろな所に避難して無事だったモナリザですが、1956年には観客から酸を浴びせられ、画面下部に大きな傷ができてしまいました。同じ年には石を投げつけられる被害にも遭っています。
ガラスケースで保護されたあともスプレー塗料をかけられる(1974年、東京国立博物館に貸し出しされた際)、コップが投げつけられる(2009年)、クリーム菓子が投げつけられる(2022年)、スープをかけられる(2024年)など度々被害に遭っています。
ガラスケースのお陰で損害は出ていませんが、それほどまでに注目を集める芸術作品であることがあらためてわかると思います。
時代を超えて愛される名画「モナリザ」からダ・ヴィンチの想いを辿る
芸術活動と研究活動にストイックなまでに打ち込んだレオナルド・ダ・ヴィンチが、革新的な技法を使って生み出したモナリザ。レオナルド・ダ・ヴィンチの生存時から高い評価を集め、時代を超えて愛される名画です。
最新技法を使った渾身の力作が、こんなにも多くの人に知られるようになるとはレオナルド・ダ・ヴィンチも予想していなかったと思います。
人類の大切な財産であるモナリザが、今後も大切にされて未来の人たちにも楽しんでもらえることを望みます。
[ 出典 ]
イロハ二アート
レオナルド・ダ・ヴィンチ『モナ・リザ』を理解する3つのポイント【名画解説】
wikipedia
レオナルド・ダ・ヴィンチ
レオナルド・ダ・ヴィンチの作品は15点
レオナルド・ダ・ヴィンチの生涯を読み解く全15作品を解説!
モナリザのエピソード (wikipedia)
モナ・リザ
モナリザについて
《モナリザ》は、なぜこんなにも人気? 5つのワードで理由を検証!
モナ・リザ
画像ギャラリー
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