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2025.3.4
『ダ・ヴィンチ・コード』《最後の晩餐》の謎を追う異端の映画
美術の授業で習った内容のうち、今でも覚えていることはありますか?レオナルド・ダ・ヴィンチ《最後の晩餐》は、そんな記憶に残る作品のひとつかもしれません。謎めいた構図や象徴に満ちたこの絵は、映画『ダ・ヴィンチ・コード』でも重要な鍵を握っています。
この記事では、レオナルド・ダ・ヴィンチの人生と《最後の晩餐》を解説した後、作品に独自解釈を与えた異端の映画『ダ・ヴィンチ・コード』をご紹介します。
※映画のネタバレを含みます。
レオナルド・ダ・ヴィンチ《受胎告知》(1472-75年頃)/ウフィツィ美術館蔵, Public domain.
レオナルド・ダ・ヴィンチ(以下レオナルド)は、フィレンツェ共和国(現在のイタリア)に生まれた芸術家です。科学や数学、人体解剖学、天文学などにも精通し、「万能の天才」と称されます。
1466年頃、14歳のレオナルドは、フィレンツェの画家・彫刻家、アンドレア・デル・ヴェロッキオに弟子入り。ミラノ公ルドヴィーコ・スフォルツァに仕えながら、画家キャリアを積み上げはじめました。
「万能の天才」だったとされるレオナルドですが、やはり最も有名なのは絵画作品でしょう。初期であればヴェロッキオとの合作《キリストの洗礼》《受胎告知》(ともに1472-75年頃)、晩年であれば《最後の晩餐》(1495-1498年頃)、《モナ・リザ》(1503-1519年頃)が知られていますね。
レオナルド・ダ・ヴィンチ《ウィトルウィウス的人体図》(1485-1490年頃)/アカデミア美術館蔵,Public domain, via Wikimedia Commons.
ドローイングも、レオナルドの得意分野でした。例えば《ウィトルウィウス的人体図》(1485-1490年頃)は構図が特徴的で、今では医学のシンボルとして用いられています。
キリストによる裏切りの予言
レオナルド・ダ・ヴィンチ《最後の晩餐》(1495-1498年頃)/サンタ・マリア・デッレ・グラツィエ修道院蔵 , Public domain.
ここでは、レオナルドの代表作《最後の晩餐》を解説します。
描かれたのは、キリスト教の新約聖書に登場するワンシーン。イエス・キリストの処刑前夜、十二使徒(キリストが選んだ弟子たち)とともに夕食をとっています。
晩餐の最中、キリストは「このなかの1人が私を裏切る」と予言し、弟子たちを驚かせます。裏切り者とはイスカリオテのユダ(画面左から4番目)。ローマの官憲にキリストの情報を売り、対価として銀貨30枚を得たとされています。
次は構図の観点から見てみましょう。消失点を決め、すべてのモチーフが収束するように描く「一点透視図法」も作品の特徴です。釘の跡が残っていたことから、キリストの右のこめかみに消失点が置かれたと考えられています。
『ダ・ヴィンチ・コード』ヨーロッパ史の常識を覆す異端の事実?
《最後の晩餐》に独自解釈を与えた異端の映画があることをご存知ですか?
2006年に公開された『ダ・ヴィンチ・コード』は、ダン・ブラウンの同名小説を原作とするミステリー作品です。
ルーブル美術館で殺害された館長と、その周辺に残された謎の暗号。容疑者となってしまった宗教象徴学者ロバート・ラングドンは、無罪を証明するため暗号解読官のソフィー・ヌヴーとともに逃亡の旅を始めます。
事件解決のカギとなるのは「聖杯」。2人は助けを求めて、聖杯に詳しいラングドンの旧友、リー・ティービングを訪ねます。そこで聞かされたのは、ヨーロッパ史の常識を覆す異端の物語でした。
聖書上でキリストは独身だったとされています。しかし、実はマグダラのマリアと呼ばれる女性と結婚しており、それは12使徒の1人であるヨハネだったというのです。しかも、キリストの処刑時、ヨハネは子どもを宿していたとのこと。
マリアが産んだ女児はキリストの継承者となりますが、「男性こそが権威の根源」とするカトリック教会がその存在を否定。血縁を断絶するために魔女狩りをおこなったと、リーは語りました。
そこからは、逃げるラングドンたち・追う警察・聖杯を狙う秘密組織が入り乱れ、「何を信じ、何を守るか」の闘いが繰り広げられます。
『ダ・ヴィンチ・コード』は、知的好奇心が強く、要素の多い作品が好きな方にぜひ観てほしい映画です。ただし、暴力的なシーンもあるため、苦手な方は避けることをおすすめします。
刺激的な映画が描く名作の新たな謎
知っているはずの作品でも、解釈の違いで世界観は一変します。「アートを刺激的に味わいたいな」と思ったら、ぜひアート映画を鑑賞してみてくださいね。
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ライター。若手社会人応援メディアや演劇紹介メディアを中心に活動中。ぬいぐるみと本をこよなく愛しています。アート作品では特に、クロード・モネ《桃の入った瓶》がお気に入りです。






