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STUDY

2024.9.9

話題沸騰『ゴールデンカムイ』から紐解くアイヌアート 刺繍・木彫り・織物などに込められたカムイとは?

近年、爆発的な人気を誇る漫画『ゴールデンカムイ』。日露戦争直後、明治末期の北海道を舞台に、金塊をめぐるサバイバルとアイヌ文化が織りなす壮大な物語は、多くの読者を魅了しています。現時点で累計発行部数は2900万部を突破しており、2023年には実写映画化されました。そして、2024年10月には後編の配信が予定されており、その人気は留まる所を知りません。

作中では、アイヌの伝統的な生活様式や風習、言語、神話、そして食文化が描かれています。本記事では、『ゴールデンカムイ』を糸口に、アイヌアートの深淵なる世界を紐解いていきます。


『ゴールデンカムイ』が切り拓く、アイヌ文化の扉

主人公の杉元佐一は日露戦争の英雄ですが、アイヌの少女・アシリパと出会い、金塊争奪戦に巻き込まれていきます。アシリパは、狩猟の腕が立ち、アイヌの知識や文化に精通した少女です。杉元と行動を共にする中で、アイヌの文化や知恵を彼に教えていきます。
作品内では、アイヌの伝統的な住居である「チセ」が登場したり、狩猟の際にカムイ(神)に感謝を捧げる儀式が描かれたりと、アイヌの文化や精神性が丁寧に表現されています。アシリパの纏う伝統的な衣装、マタンプシ(鉢巻)やテクンペ(手甲)、そして狩猟に欠かせない弓矢もアイヌの文化の特徴です。


カムイから始まるアイヌ文化

『ゴールデンカムイ』のタイトルにもある「カムイ」はアイヌ民族の信仰における重要な概念です。アイヌの人々は、動物、植物、山、川、海など、私たちを取り巻く自然界のあらゆるものにカムイ(神)が宿ると考え、自然と共存する生活を送ってきました。狩猟で動物の命をいただく際には、カムイに感謝を捧げ、その魂を丁重に扱う儀式を行っていました。
カムイは人間のような姿で現れることもあれば、風や雷などの自然現象として姿を現すこともあります。アイヌ民族にとって、カムイは単なる信仰の対象ではなく、生活に深く結びついた存在と言えるでしょう。

カムイ(アイヌ文化)について詳しくは
こちらの動画でわかりやすく解説されています!
▼参考

作中でも、狩猟のシーンでアシリパがカムイに祈りを捧げる場面や、丁寧に食材を捌いていく様子が描かれています。「ヒンナヒンナ」は食事の際にカムイや食材の命に感謝の気持ちを込めて発する言葉であり、自然の恵みへの感謝の気持ちを表現しています。
作中で度々登場するアシリパさんの「ヒンナヒンナ~」というセリフはとても印象的ですね!


アイヌアートとは:自然への畏敬の念を込めた伝統

アイヌアートは、厳しい自然と共に生きてきたアイヌ民族の精神性や世界観を表現したものです。木彫りや織物、刺繍など、自然素材を活かした作品が多く、幾何学模様や動植物をモチーフとした文様が特徴的です。これらの作品に施されているアイヌの文様には、単なる装飾だけではなく、魔除けや豊穣を祈る意味があり、アイヌの人々の自然への畏敬の念が込められています。
また、アイヌの子供たちは、幼いころから文様を描く練習をし、大人になり彫刻や刺繍に文様を施していきます。このように、アイヌの文化は親から子へと受け継がれてきた伝統的なものであり、暮らしの中に自然に溶け込んでいる、生きたアートと言えるでしょう。

代表的なアイヌアート:木彫り 「マキリ」

日常生活で使われる道具や、儀式に用いられる道具などに、魔除けや家族の幸福を願う文様が刻まれます。「マキリ」と呼ばれる木彫りが施された小刀は、狩猟、採集、調理など、アイヌの暮らしに欠かせない大切な道具でした。男性が好意を寄せる女性に、求愛の意味を込めて自分で文様を彫ったマキリを贈る風習もありました。

Haa900, CC BY-SA 3.0 , via Wikimedia Commons

代表的なアイヌアート:刺繍 「マタンプシ」

衣服や小物は、魔除けの意味だけでなく、地域や性別、年齢によって様々な種類があり、一族や地域を表す役割も持っています。衣服や小物に施される刺繍はモレウ(渦巻紋)アイウシ(棘紋)シク(目紋)などの基本モチーフを組み合わせて作られます。それぞれの模様は、一般的に自然を抽象化したデザインと言われています。文字文化のないアイヌ民族はこういった文様で、アイヌとカムイのつながりを表現していたのです。
アシリパが頭に巻いている「マタンプシ」にもアイヌ文様の刺繍が施されています。「マタンプシ」は現代でも女性が民族衣装になった時に使用していることが多いです。

Jessie Tarbox Beals, Public domain, via Wikimedia Commons

代表的なアイヌアート:織物 「アットゥシ」

オヒョウやハルニレ、シナノキなど、植物の繊維を織って作られる「アットゥシ」と呼ばれる織物は、アイヌの伝統衣装に欠かせないものです。「アットゥシ」の文様は人間に悪さをする霊から身を守る意味合いがあると言われています。アイヌの冬は氷点下20℃という過酷な環境のため、防寒着として使われました。
作中で秋田出身のマタギ・谷垣源次郎がもらったアイヌの着物が「アットゥシ」です。フチの谷垣ニシパを想う気持ちが込められた贈り物だと知るとより一層胸が熱くなります。


現代に息づくアイヌアート~伝統の継承と新たな表現~

二風谷:アイヌ工芸の聖地

北海道沙流郡平取町二風谷は、アイヌ工芸の聖地として知られています。古くから伝わる伝統的な技法を守りながら、木彫りや織物、刺繍などの作品が今もなお生み出されています。
「二風谷アットゥシ」は北海道の工芸品としては初めて、経済産業大臣指定伝統的工芸品に追加されました。樹皮をはいで、茹でて糸を作るところから全て手仕事で作られています。現在では、アイヌの衣服のほか、和服の帯や財布、コースターなども作られています。

「二風谷アットゥシ」の製造工程はこちらの記事から読めます!
▼参考
https://www.nibutani-ainucraft.com/attus/

北海道立近代美術館「AINU ART―モレウのうた」展:渦巻く文様に込められたアイヌの魂

2023年に北海道立近代美術館で開催された「AINU ART―モレウのうた」展は、アイヌの伝統文様「モレウ(渦巻き文様)」に焦点を当て、その歴史と魅力、そして現代に受け継がれるアイヌアートの多様性を紹介した展覧会です。
10名の現代アイヌアート作家による作品約100点が展示され、伝統的な技法と現代的な感性が融合した作品の数々は、多くの来場者を魅了しました。

「AINU ART―モレウのうた」展の公式サイトはこちらです!
https://2024.siaf.jp/event/upaste-03/index.html

漫画:「ゴールデンカムイ」の世界観を作るアイヌアート

『ゴールデンカムイ』のヒットは、アイヌアートへの関心を高める大きなきっかけとなりました。
入念な取材をもとに制作され、工芸品の精巧な描写や伝統的な家屋(チセ)などのアイヌアートが作品の世界観を引き立てています。
また、作品を通して、アイヌの精神に触れることができます。作中で日露戦争後の兵士である主人公・杉本が戦争前の自分には戻れないと落ち込む場面があります。杉本がアシリパと出会い、アイヌのカムイの文化と触れることで少しずつ心境が変化していく様子が描かれており、アイヌの文化には生きる知恵を与えてくれるような力があるのではないかと感じました。
さらに、アイヌ文化への深い理解に基づいたストーリー展開に加え、強烈なキャラとギャグでエンターテイメント性を兼ね備えた漫画でもあります。
『ゴールデンカムイ』は、アイヌ文化への理解を深めるための教材でもあり、読めば読むほどその奥深さに引き込まれていくような魅力的な作品です。

©野田サトル/集英社・ゴールデンカムイ製作委員会, Public domain, via Wikimedia Commons

【まとめ】知れば知るほど面白いアイヌアートと『ゴールデンカムイ』

アイヌ民族は、感謝の気持ちを大切に自然と共存してきました。アイヌアートには、そんなアイヌ民族の文化・歴史、そして精神が凝縮されています。
『ゴールデンカムイ』の中でも、文様や装飾などアイヌアートが多く紹介されており、物語の重要な役割を果たしています。
この作品を通して、アイヌアートに触れ、アイヌの文化の豊かさを体感してみてください!


【写真3枚】話題沸騰『ゴールデンカムイ』から紐解くアイヌアート 刺繍・木彫り・織物などに込められたカムイとは? を詳しく見る
Lily

Lily

1997年生まれ。観光学部出身の東京都在住のライター。
イロハニアートを通じて、芸術の美しさや楽しさを多くの人に伝えられるように日々精進しています。
猫と漫画が好き!

1997年生まれ。観光学部出身の東京都在住のライター。
イロハニアートを通じて、芸術の美しさや楽しさを多くの人に伝えられるように日々精進しています。
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