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2024.9.2

【大正ロマン】100年経っても人気を誇るその魅力とは?激動の時代が生み出した西洋と日本の融合文化

「大正ロマン」は、生誕から100年以上経った今でも、アニメや朝ドラ、音楽など幅広い分野で取り入れられています。

激動の時代に、わずか15年で花開いた「大正ロマン」は、西洋の華やかさと日本の美意識を折衷した独特な文化です。美しくもどこか儚く、和と洋が複雑に絡み合った雰囲気は多くの人を惹きつけています。

二面性を持ち合わせた「大正ロマン」の魅力を、絵画や建築、音楽、ファッションなどの作品を通して解説していきます!

大正ロマンとは?

「大正ロマン」とは、約100年前の大正時代(1912-1926)に花開いた、独特の文化やその時代の情景を指します。

File:TakehisaYumeji-1926-FujinGraph April 1926.png

時代背景:西洋文化の影響と新しい価値観の台頭

明治維新後、大正時代に入ると、日本に西洋の文化が流入してきます。近代化が推し進められ、文化的な生活様式が広まっていきます。第一次世界大戦による好景気も相まって、都市部を中心に活気あふれる時代を迎えます。
また、文明開化と同時に、個人主義や自由主義のような新しい価値観が人々の思想にも影響を与えました。文学や芸術の分野においても、個人の内面や主観を自由に表現することが試みられました。

「大正ロマン」の誕生:西洋と日本の文化の融合

「大正ロマン」は、西洋文化の影響を受けながらも、日本の伝統的な美意識と融合し、独自の文化として花開きました。西洋の新しい文化を模倣するだけではなく、日本の昔からの文化と融合させたところに日本人らしさを感じます。
それは、新しい時代への希望と不安、自由への憧れと伝統への郷愁が複雑に絡み合い、どこか儚くも美しい文化を生み出したのです。

TakehisaYumeji-1914-Minatoya Ezōshi Ten-Minatoya.png


多彩な芸術表現に見る「大正ロマン」

「大正ロマン」は、絵画、文学、建築、音楽、ファッションなど、様々な分野で独自の表現を生み出しました。ここでは、「大正ロマン」を代表する作品や作家、そして当時の文化を象徴する出来事などを紹介します。

竹久夢二:抒情的な「夢二式美人画」とデザインの先駆者

「大正ロマン」を語る上で欠かせない存在が、イラストレーター、グラフィックデザイナー、あるいはアートディレクターの先駆者と言える竹久夢二です。日本画や水墨画、油彩画、木版画、デザイン、さらには童謡や詩の分野においてマルチな才能を発揮し、多くの作品を残しました。また、絵画と詩を合わせた作品を花開かせた人物でもあります。

竹久夢二についてこちらの記事でも読めます!
関連記事:「生誕140年 YUMEJI展 大正浪漫と新しい世界」

■代表作:「女十題」(1921年)

File:TakehisaYumeji-1921-Ten Themes of Woman Dancing Girl.png

1921年に完成させた、10人の女性を描いた連作です。当時の最先端のファッションやメイク、娯楽を楽しんだ都会的な女性である「モダンガール」が描かれています。大正時代に「モダンガール」の図像はメディアや広告で多用されました。


■代表作:「宵待草」(1917年)

Yumeji Takehisa, Public domain, via Wikimedia Commons

「まてど暮せど来ぬひとを 宵待草のやるせなさ こよひは月も出ぬさうな」
夢二の詩に曲が付けられ、大ヒットした歌謡曲です。タイトルは、マツヨイグサ(宵待草)の「待つ」と「宵」を入れ替えた造語です。夢二の失恋の思いが込められた大正ロマンを代表する曲の一つです。


夢二は、従来の日本画の枠にとらわれない、独自の画風を確立しました。
「夢二式美人画」 と呼ばれるその画風は、伏し目がちで物憂げな表情で女性の心情や内面性を描き、多くの女性の心を掴みました。
また、夢二は、本の装丁、雑誌の挿絵、広告デザインなど、デザインの分野でも先駆的な役割を果たしました。自身の小物の作品を“かあいい”という言葉を用いて紹介し、「可愛い」文化の先駆け的存在としても知られています。

高畠華宵:華やかでスタイリッシュな女性像と挿絵芸術

竹久夢二と並び称される、大正ロマンを代表する画家の一人が高畠華宵です。

■代表作:「金魚」(1927年)

高畠華宵 「金魚」 (少女画報1927年6月号より)

雑誌「少女画報」の表紙を飾った作品です。あでやかな着物とモダンなヘアスタイルが印象的な女性を描いています。「モダンガール」は職を持って自立しており、一部の女性に限られていたとも言われています。


華宵は、夢二とは対照的に、華やかな女性の作品を多く残しています。
そのハイカラな画風は、当時の女性誌の表紙を飾り、同世代の多くの女性から支持を集めました。

少女雑誌:夢と憧憬を詰め込んだ少女たちのバイブル

明治末期から大正期にかけて、少女を対象とした「少女雑誌」が次々と創刊されました。
代表的な少女雑誌には、「少女界」(1902年創刊)「少女の友」(1908年創刊)「少女画報」(1912年創刊)「少女倶楽部」(1923年創刊)があります。

■「少女画報」(1912年創刊)

Original publisher: Tokyo-shaScan by : Kikuyo Town Library, Public domain, via Wikimedia Commons

■「少女倶楽部」(1923年創刊)

講談社, Public domain, via Wikimedia Commons


これらの雑誌には、夢二や華宵をはじめとする人気画家が描く挿絵が掲載され、当時の少女たちの心を掴みました。
当初は江戸時代の美人画を受け継いだようなカバーガールでしたが、次第に大きな瞳や二重まぶた、白めの肌の少女が主流になっていきました。
恋愛、友情、おしゃれなど、少女たちの夢や憧れが詰まった少女雑誌は、大正ロマン文化を語る上で欠かせない存在です。

建築:西洋と日本の融合が生むモダンな空間

大正時代には、西洋の建築様式を取り入れた、モダンな建築物が数多く建てられました。


■東京駅丸の内駅舎

Yuya Sekiguchi, CC BY 2.0 , via Wikimedia Commons

辰野金吾の設計による、赤レンガ造りの壮麗な駅舎です。国の重要文化財にも指定されています。


■大阪中之島図書館

Mc681, CC BY-SA 4.0 , via Wikimedia Commons

ルネサンス様式を踏襲しつつ、他の建築方式を合わせたネオ・ルネサンス様式を基調とし、重厚感あふれる図書館建築。天井の円形アーチとステンドグラスが特徴的です。国の重要文化財に指定されています。

ルネサンスについてこちらから読めます!
関連記事:西洋美術史を流れで学ぶ(第8回) ~初期ルネサンス編~

■旧朝香宮邸(東京都庭園美術館)

Fukumoto, CC BY-SA 4.0 , via Wikimedia Commons

アール・デコ様式を取り入れた、優美で華麗な邸宅建築。国の重要文化財に指定されています。

東京都庭園美術館については詳しくはこちらから読めます!
関連記事:アール・デコの館に花の楽園が出現!『蜷川実花「瞬く光の庭」』展レポート

これらの建築物は、西洋の様式と日本の伝統的な技術が融合し、独自の美しさを生み出しています。

ファッション:和洋折衷の着こなしと「モダンガール」の登場

大正時代には、西洋のファッションの影響を受け、和洋折衷の着こなしが流行しました。

Kineo Kuwabara, Public domain, via Wikimedia Commons

自由主義の時流にのり、女性たちも社会的立場や自由を獲得し始めました。「モダンガール」と呼ばれる、新しい時代を生きる女性たちは、ショートヘアにフィンガーウェーヴ、帽子に、ハイヒール、といった斬新なファッションを身にまとい、強い女性の象徴として当時の社会に大きな影響を与えました。

音楽:「セノオ楽譜」に見る夢二のデザインと大衆文化

大正時代には、洋楽が輸入され、レコードやラジオといった新しいメディアが登場し、音楽は大衆文化として広く親しまれるようになりました。
「セノオ楽譜」 は、当時人気の高かった楽譜シリーズで、夢二が数多くの表紙絵を担当したことでも知られています。夢二のデザインは、楽譜という身近な存在を通して、多くの人々に影響を与えました。

File:TakehisaYumeji-1917-Senowo-Evening in Spring.png

まとめ:今も色褪せない大正ロマンの魅力を再発見

「大正ロマン」は、明治維新を経て西洋文化が流れ込み、日本独自の文化と華やかに融合し、自由と不安が交差する、儚くも魅力的な時代が生み出した文化でした。

大正ロマンは、古き良き時代のノスタルジーを感じさせるだけでなく、現代社会においても新鮮な魅力を放っています。
例えば、国民的人気を誇るアニメ『鬼滅の刃』は大正時代の日本を舞台に描かれています。作中に出てくる服装や歴史風情は、懐かしさを感じさせ物語のムードを醸し出します。

また、現代の音楽シーンを牽引するYOASOBIも、時を超えた恋を歌った「大正浪漫」を発表しました。小説投稿サイトとのコラボレーションにより生まれたこの曲は、令和の時代に大正ロマンブームを再燃させました。


今回紹介した作品、作家、そして当時の文化に触れることを通して、「大正ロマン」の魅力を再発見してみてはいかがでしょうか?

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Lily

Lily

1997年生まれ。観光学部出身の東京都在住のライター。
イロハニアートを通じて、芸術の美しさや楽しさを多くの人に伝えられるように日々精進しています。
猫と漫画が好き!

1997年生まれ。観光学部出身の東京都在住のライター。
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