STUDY
2024.9.25
ディオールの元デザイナー、ジョン・ガリアーノってどんな人?彼の独自のスタイルを分析
独創的なデザインとアヴァンギャルドなセンスで圧倒し、ファッション界の革命児と言われているジョン・ガリアーノ(John Galliano)。
目次
これまでジバンシイ(GIVENCHY)やクリスチャン・ディオール(Christian Dior)など世界的ブランドのデザイナーに抜擢されるも、世界中から非難を浴びた愚行を犯して追放されましたが、メゾン マルジェラ(Maison Margiela)に迎えられ、ファッションデザイナーとしての復活を果たしました。
この記事では、ジョン・ガリアーノの紹介だけでなく、彼のクリエイティブを深掘りしたいと思います。
ジョン・ガリアーノとは?
ジョン・ガリアーノ(John Galliano)は、イギリスの植民地であるジブラルタル生まれのファッションデザイナーです。
セントマーチンズのテキスタイル科に入学し、途中テキスタイル科からモード科に移籍し、首席で卒業。卒業制作のコレクション「アフガニスタンとヨーロッパの理想」で、ロンドンのサウス・モルトン・ストリートのブティック「ブラウンズ」のショーウィンドウを飾り、そのことがきっかけとなりブラウンズのジョーン・バーンスタイン氏と5年の契約を結びました。
1985年には自身のブランドでロンドンコレクションよりファッション業界にデビューを果たし、1989年にはパリコレクションにも作品を発表しました。しかし、革新的過ぎて「売れない服」という烙印を押され、資金難でコレクションを開くことができませんでした。
当時、ファッションの主流はアメリカやイギリスのミュージシャンやモデルをイメージさせるグランジファッションとミニマリズムでした。対して、50年代風の華やかなスタイルとテーラードの技術にこだわり続けたガリアーノの服は「売れる服」という意味では受けが悪かったそうです。
しかし、彼の手法・創造力などが高く評価されて、1996年にはユベール・ド・ジバンシィ引退後のジバンシイ(GIVENCHY)のデザイナーに抜擢。(※ジョン・ガリアーノの後任にはアレキサンダー・マックイーンが就任。)1997年にはジャンフランコ フェレの後任としてクリスチャン・ディオール(Christian Dior)のデザイナーに就任。
クリスチャン・ディオールではニュールックなどを提示し、プレタポルテ部門の売上げを驚異的に伸ばすなど、メゾンの発展に大きく貢献し、人気を盛り返したという功績もあります。
ところが、2011年2月24日に酒の席で人種差別的な発言をして警察に拘束され、クリスチャン・ディオールや自身のブランドから解雇されました。世界中から非難を浴びた愚行を犯して追放されましたが、2014年メゾン マルジェラ(Maison Margiela)に迎えられ、ファッショデザイナーとしての復活を果たしました。
その後、10年にわたり同メゾンのクリエーションを牽引しましたが、ブランドのオーナーはガリアーノに契約更新を求めたものの、彼がこの要求を拒否したとの報道があり、これが事実であれば秋にクリエイティブ・ディレクターを退任し、メゾン マルジェラでの活動に終止符を打つことになります。現在、ガリアーノの移籍先については業界関係者の間でFENDI(フェンディ)が有力候補として挙げられています。
ジョン・ガリアーノの創造性とインスピレーション
ジョン・ガリアーノは独創的なデザインと革新的なセンスで、彼が生み出したものは世界に革命を起こしたアイテムばかり。
クリエイティブなデザインと独特の美的感覚で知られており、歴史、文化、ロマンティシズムからインスピレーションを得た、ドラマティックでアバンギャルドなスタイルが特徴です。
イギリス出身の彼は中世ヨーロッパと現代のテイストをミックスしたスタイルで、服飾史を覆す幻想的なデザインや目を惹きつける色使いはもちろん、トレンドや売れ線を狙わず、前衛的、挑戦的、歴史主義、近未来的といった言葉が当てはまることでしょう。
ここで彼が渡り歩いたメゾンとともに、彼の魅力的なスタイルをご紹介しましょう!
ジョン・ガリアーノ(John Galliano)
ジョン・ガリアーノ、1985年秋コレクション「The Ludic Game」写真:エディ・コーリ overduemagazine
1985年に、ロンドンコレクションでデビューしたジョン・ガリアーノは、創業者であるジョン・ガリアーノ(John Galliano)という自身の名をつけたファッションブランドを立ち上げました。
デビュー当初から、ジャケットをボトムとして使用した「さかさまの服」や、ジャケットを逆さまにして裏返しに着るジャケットなど、アヴァンギャルドなデザインで注目されます。
ロンドンのデビューコレクションでは、デリケートな素材として扱われていたバイアスカット(型紙に対して生地を斜めに取る方法)のドレスを発表、またオーダーメイド・スーツは好評を得ました。
その後は投資者とのデザイン問題によってトラブルを起こしたり、革新的過ぎるデザインは「売れない服」の烙印を押されたり、資金難によりコレクションが発表できないこともありました。
それでも50年代風の可憐なスタイルとテーラリングというテーラードの技術にこだわりを持ち続けたガリアーノは、手法や想像力を高く評価されたことで、ジバンシィの後継デザイナーとして大抜擢されました。
ジバンシイ(GIVENCHY)
女優のゼンデイヤがメットガラ2024にジバンシィを着用して登場。ジョン・ガリアーノがデザインした1996年春夏オートクチュールコレクションのオフショルダーガウンを身にまとい、観客を沸かせました。@Zendaya #givenchy #MetGala pic.twitter.com/KwmYs5TPeH
— GIVENCHY Japan (@givenchy_JP) May 8, 2024
1995年、ユーベルト・ジバンシィ(Hubert de Givenchy)の引退後、ジョン・ガリアーノが就任してセンセーショナルな話題となりました。このことはガリアーノにとってデザイナーとして初抜擢された大きな機会でした。
当時、50年代風のスタイルとテーラードの技術に非常にこだわりを持っており、この手法や想像力が高く評価され、ジョン・ガリアーノはブランドの発展に大きく貢献し、斬新なアイデアで作品を生み出しつづけました。
惜しくもデザイナー就任から2年で退任となりましたが、ガリアーノの功績は相当なものといえるでしょう。
近年では、女優のゼンデイヤがメットガラ2024にて、ガリアーノがジバンシイ(GIVENCHY)でデザインした、1996年春夏オートクチュールコレクションのオフショルダーガウンを身にまとい、観客を沸かせました。
クリスチャン・ディオール(Christian Dior)
クリスチャン ディオール(DIOR) 2003年春夏オートクチュール コレクションより。Photo: Getty Images VOGUE JAPAN
1997年、クリスチャン・ディオール(Christian Dior)のデザイナーに就任し、ジョン・ガリアーノの創造力は、ここで最初の絶頂期を迎え、一時代を築きました。
従来より古典的エレガンスと女性らしさをテーマとしていたクリスチャン・ディオールは、ジョン・ガリアーノによりアヴァンギャルドでエネルギッシュなブランドへ変貌を遂げます。
ガリアーノは、歴史を重んじてクラシカルな要素を持っている一方で、ポップカルチャーやストリートウェアといった要素以外にも、ロココ調の優美なドレス、日本的な着物の表現、マサイ族やアメリカ先住民、エジプトイメージなどの歴史や文化、内的な世界を最大限にまで誇張し、それらの要素を融合させて芸術として落とし込んだ大胆なコレクションを生み出しました。
また、ディオール時代の彼のショーは単なるファッションショーを超えて、舞台セット、メイク、音楽などが一体となり、演劇的な要素を取り入れた総合的なアートパフォーマンスとしても注目されました。
そして、クリスチャン・ディオールではニュールックなどを提示し、プレタポルテ部門の売上げを驚異的に伸ばすなど、メゾンの発展に大きく貢献し、人気を盛り返したという功績もあり、ビジネス的にもサクセスをつかみ取りました。
メゾン マルジェラ(Maison Margiela)
レオン・デイム、コレット・カンザ、エメリン・オアロー、ルル・テニー、イーラン・フウ、オルガ・シェレールといったモデルが、高級娼婦が闊歩したかつてのパリの街を再現。コート ドレス トップ スカート バッグほか/すべてMAISON MARGIELA ARTISANAL DESIGNED BY JOHN GALLIANO シューズ/すべてCHRISTIAN LOUBOUTIN FOR MAISON MARGIELA(マルジェラ ジャパン クライアントサービス)VOGUE JAPAN
2011年、カフェでの差別発言で逮捕されたことにより、担当していたブランド全てを解雇されたガリアーノでしたが、2014年、ジョン・ガリアーノがクリエイティブ・ディレクターに就任。2015年1月、ブランド名を「メゾン マルジェラ(Maison Margiela)」に改名しました。
ガリアーノは、旧ディレクターであったマルタン・マルジェラのクリエーションを大切にしながらも、独自の創造性で新たな作品を続々と誕生させていきます。
5ACやタビブーツなど、マルジェラがブランドとして大事にしてきた伝統的なフォルムの重要なアイテムを、大胆に再解釈して独創的なアイデアを展開するだけでなく、男女の性別(ジェンダー)を超えて着られるアイテムを誕生させたのです。
最後に
© 2023 KGB Films JG Ltd
自身の名を冠したジョン・ガリアーノ(John Galliano)にはじまり、ジバンシィ(GIVENCHY)、クリスチャン・ディオール(Christian Dior)、メゾン マルジェラ(Maison Margiela)と渡り歩いてきたガリアーノ。
彼がデザイナーに就任した際には、ブランドの歴史を丁寧に紐解きながら、異文化から着想を得た民族的な衣装、ストリートファッションから着想を得て、各要素を組み合わせた現代的な作品を生み出していきました。
多様に変化していく社会において、ガリアーノがどのように社会と対峙し、どのような表現をしていくのか…今後も尽きないアイデアで驚くべき作品を展開してくれる、決して目が離せないデザイナーの一人といえるでしょう。
そんな本人が語るドキュメンタリー映画作品『ジョン・ガリアーノ 世界一愚かな天才デザイナー』(9月20日公開)の公開と彼が生み出した作品がご覧になれる企画展「LOVE ファッション̶私を着がえるとき」(会期 2024年9月13日(金)~ 11月24日(日)@京都国立近代美術館)が開催されます。
ぜひこれをチャンスにジョン・ガリアーノのクリエイティブに触れてみてはいかがでしょうか。
【映画情報】
『ジョン・ガリアーノ 世界一愚かな天才デザイナー』
9月20日(金)新宿ピカデリー、ヒューマントラストシネマ有楽町ほかロードショー
配給:キノフィルムズ ©️2023 KGB Films JG Ltd
ジョン・ガリアーノ 世界一愚かな天才デザイナー
【展覧会情報】
「LOVE ファッション̶私を着がえるとき」
会期 2024年9月13日(金)~ 11月24日(日)
会場 京都国立近代美術館(岡崎公園内)
〒606-8344 京都市左京区岡崎円勝寺町
開館時間 午前 10 時~午後 6 時(金曜日は午後 8 時まで)
※入館は閉館の 30 分前まで
休館日 月曜日
※ただし 9 月 16 日(月・祝)、9 月 23 日(月・休)、10 月 14 日(月・祝)、11 月 4 日(月・休)は開館。
翌日火曜日は休館。
公式ホームページ LOVE ファッション─私を着がえるとき Love Fashion
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アート・カルチャーの架け橋になりたい。やれることならなんでもやるフリーランス。日々の暮らしを豊かにしてくれるアート・カルチャー系記事の執筆業以外に、作詞家、仲介・紹介業、対話型鑑賞会のナビゲーター、アート・映像ディレクターとして活動中。
アート・カルチャーの架け橋になりたい。やれることならなんでもやるフリーランス。日々の暮らしを豊かにしてくれるアート・カルチャー系記事の執筆業以外に、作詞家、仲介・紹介業、対話型鑑賞会のナビゲーター、アート・映像ディレクターとして活動中。
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