STUDY
2025.1.13
着られるアート!織や染めなど着物のファッションとしての魅力を解説
日本の伝統美を象徴する「着物」は、その優雅なデザインと深い歴史で世界中から注目を集めています。本記事では、初心者の方でも理解しやすいように、着物の成り立ちと歴史、織や染めの技法に触れ、芸術・ファッションとの結びつきについても詳しくご紹介します。
特別な日の装いとしてはもちろん、現代ではファッションの一部としても楽しまれている着物。その魅力をぜひご一緒に探ってみましょう。
目次
着物を着た女性の絵, Art Institute of Chicago (@artchicago) より, Public domain, via Unsplash.
着物とは?
赤、白、青の花柄テキスタイル, Beth Macdonald (@elsbethcat) より, Public domain, via Unsplash.
着物("着るもの"の意味)は、日本の伝統的な衣装で、直線的な布を縫い合わせて作られるシンプルな構造が特徴です。このシンプルさが、動きやすさや再利用のしやすさを兼ね備えた設計となっています。現代では主に特別な場で着用されますが、その歴史は非常に古く、日常着として親しまれていた時代もありました。
着物の成り立ちと歴史
着物の歴史① 中国文化の影響(飛鳥〜奈良時代)
「聖徳太子二王子像」(模本)江戸時代 天保13年(1842)狩野(晴川院)養信筆 東京国立博物館蔵, Public domain, via Wikimedia Commons.
6世紀は、日本が中国(隋や唐)の文化を積極的に取り入れた時代です。この頃、日本の貴族たちは中国風の衣装を着用し、これが後の着物文化の基礎となりました。特に「小袖(しょうそで)」と呼ばれる短い袖の衣服が、現在の着物の原型とされています。
着物の歴史② 日本独自の進化(平安時代)
佐竹本三十六歌仙 伊勢 36.7cm 高, Public domain, via Wikimedia Commons.
8世紀から12世紀にかけて、着物は日本独自の文化を反映したものに進化します。特に女性の正装である「十二単(じゅうにひとえ)」は、多層に重ねた衣装で、色彩の美しさや季節感を表現しました。この時代、着物は身分や地位を示す重要な要素でもあります。
着物の歴史③ 実用性の追求(鎌倉〜室町時代)
12世紀以降、武士が台頭し、より動きやすい実用的な衣服が求められるようになりました。この頃から「小袖」が一般化し、庶民にも広まりました。また、染色技術が進化し、華やかな模様や柄が登場します。
着物の歴史④ 豪華絢爛な時代(安土桃山時代)
喜多川歌麿 秀吉と家来の女性, Public domain, via Wikimedia Commons.
16世紀後半、織田信長や豊臣秀吉の時代には、権力者が自らの威厳を示すために豪華な着物を身につけるようになりました。金襴や刺繍が施された贅沢なデザインが流行しました。
着物の歴史⑤ 現代の形が完成(江戸時代)
17世紀から19世紀にかけて、着物の形やスタイルが現在のものに近い形に整います。この時代、「友禅染(ゆうぜんぞめ)」などの技術が発展し、自由なデザインが可能になりました。また、庶民の間でもおしゃれとして着物を楽しむ文化が広がったようです。
着物の歴史⑥ 西洋文化との融合(明治時代以降)
千佳慕(1887)『日本貴族鑑』, Public domain, via Wikimedia Commons.
明治時代になると、西洋の衣服が一般的な日常着として広まり、その一方で着物の着用機会が減少していきました。それでもなお、着物は特別な場での衣装へと役割を変えていき、冠婚葬祭や伝統行事の場での重要な存在として残り続けています。
着物の特徴
1.四季を楽しむデザイン
着物の柄や色は季節ごとに異なります。春は桜、夏は流水、秋は紅葉、冬は松など、自然の美しさを取り入れたデザインが魅力です。
2.再利用が可能な構造
着物は直線的に布を裁つため、解いて仕立て直すことが簡単です。このため、一枚の着物を長く大切に使うことができます。
3.用途に応じた種類
振袖(ふりそで)、訪問着(ほうもんぎ)、小紋(こもん)、浴衣(ゆかた)など、シーンや用途に応じてさまざまな種類があります。
アート・ファッションとしての着物の「織」と「染め」
UnsplashのAleksei Zaitcevが撮影した写真, Public domain, via Unsplash.
着物の技法的種類として「染の着物」と「織の着物」の二種類に大別されます。
織の技術
着物の生地は、さまざまな織の技法で作られます。代表的なものには以下のようなものがあります。
・大島紬(おおしまつむぎ)
鹿児島県を中心に生産される織物で、軽く滑らかな肌触りと光沢が特徴です。
・結城紬(ゆうきつむぎ)
茨城県や栃木県で生産される紬(つむぎ)生地で、柔らかくて丈夫な質感が特徴です。
カジュアルな場面で着用されます。
・牛首紬(うしくびつむぎ)
石川県の白石市で生産される紬(つむぎ)生地で、 独特の光沢と気品のある美しさが特徴です。
染めの技術
染めの技術は、着物に個性や美しさを与える重要な要素です。
・友禅染(ゆうぜんぞめ)
友禅は江戸時代に発展した手描き染めの技法。
繊細な模様や鮮やかな色彩が特徴で、訪問着や振袖などに多く使われます。
・型染(かたぞめ)
型染は鎌倉時代から続く日本の伝統的な技法。
型の持つキレの良さや鋭さ、くり返しの模様のおもしろさが特徴です。
・絞り染め(しぼりぞめ)
布を部分的に縛って模様を作る染色法です。
「鹿の子絞り(かのこしぼり)」など、立体感のあるデザインが魅力です。
着物とアート・ファッションの結びつき
「フェンディ」2022年秋冬オートクチュールコレクション, Public domain, via PRtime.
左は日本製の着物生地をパッチワークのように配したドレス。ジョーンズは京都の着物職人に生地を発注し、モダンな解釈を加えています。
美術品としての着物
特に江戸時代以降、着物のデザインは絵画や工芸の影響を受け、多彩な模様が描かれるようになりました。「友禅染」は絵画のような繊細な表現が可能で、まるでキャンバスの上に描かれたアート作品のようです。また、美術館やギャラリーで展示されることも多く、文化遺産としての価値が認められています。
舞台芸術との関係
歌舞伎や能などの伝統芸能では、衣装としての着物が物語やキャラクターを表現する重要な要素となっています。豪華絢爛な衣装は、観客を魅了する視覚的な芸術でもあります。また、着物の色や模様には特定の意味が込められており、物語の背景や登場人物の心情を象徴する役割も果たしています。
現代ファッションとの融合
近年、着物の要素を取り入れた現代ファッションが国内外で注目を集めています。帯や和柄を使った洋服や、着物生地をリメイクしたバッグやアクセサリーなど、伝統とモダンを融合させたアイテムが人気です。
また、パリやニューヨークのファッションショーでは、日本の着物文化からインスピレーションを得たデザインが発表され、国際的な影響力を持つファッションアイコンとして位置づけられています。
「着られるアート」の着物をもっと楽しもう
お寺の人々 Yoav Aziz (@yoavaziz) より, Public domain, via Unsplash.
現在、着物は日常的に着られることは少なくなりましたが、成人式、結婚式、茶道や華道のイベント、観光地でのレンタルなど、特別な場で愛用されています。また、若い世代の間では、着物を普段のファッションに取り入れる動きも見られます。
近年では、NHKの大河ドラマなどで着物が登場する場面が増え、その魅力が改めて注目されています。また、2025年には国内外の着物文化をテーマにした大規模な展覧会が予定されており、着物の芸術性と歴史的価値がさらに広く発信される機会となるでしょう。
初心者の方でも、観光地でのレンタル着物や浴衣体験から気軽に始めることができます。着物を着ることで、日本の伝統文化に触れ、その魅力を体感することができます。ぜひ一度、着物を通じて日本の美を味わってみてはいかがでしょうか。
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アート・カルチャーの架け橋になりたい。やれることならなんでもやるフリーランス。日々の暮らしを豊かにしてくれるアート・カルチャー系記事の執筆業以外に、作詞家、仲介・紹介業、対話型鑑賞会のナビゲーター、アート・映像ディレクターとして活動中。
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