STUDY
2025.1.21
染織とは?日本美術ビギナー向けに主な工芸品を解説!
自然美を取り入れた色彩や、繊細な模様、高度な技術によって生み出される布地。
日本の染織品は、単なる実用品を作る技術にとどまらず、美術品としても高く評価されてきました。着物や帯、能装束など、日本の伝統文化を彩る染織品は数多く、文化財としても大切に保存されています。
本記事ではそんな染織の基礎知識や、それらを用いた工芸品の種類をやさしく解説します。日本美術ビギナーの方も、この機会に染織の世界を覗いてみましょう。
目次
染分紗綾地蜘蛛海松貝模様小袖, Public domain, via Wikimedia Commons.
染織とは
染織(せんしょく)とは文字通り「染め」と「織り」を組み合わせた言葉で、糸や布を染めたり織ったりして、布地や製品を作り出す技術の総称です。
染めは、糸や布に色を付ける技術です。さまざまな染料や技法を用いて、多彩な色や模様を表現します。そして織りは、縦糸と横糸を交差させて布を作る技術です。織り方によって、それぞれ異なる風合いや特徴を持ちます。
染織の歴史
(参考)陣羽織, Public domain, via Wikimedia Commons.
日本における染織の歴史は、縄文時代にまで遡ります。弥生時代には技術が発達し、植物繊維や絹で織物が作られるようになりました。
白綸子地網文字散模様小袖, Public domain, via Wikimedia Commons.
その後は仏教美術や公家の襲装束(かさねしょうぞく)、武家の陣羽織や小袖などの衣服と、人々の生活や時代の流れとともにさまざまな形となって使われています。また、各地の特産品や民藝のように地域性の強いものも数多く生産されました。
染織の主な美術工芸品
染織には、日本の伝統工芸として指定を受けているものも多数あります。その中から、美術館でも見る機会の多いものをいくつかピックアップしてご紹介します。
参照:KOGEI JAPAN「染色品の一覧」
こぎん刺し|青森県
こぎん刺しは、青森県の津軽地方に伝わる刺し子の一種です。藍染の麻布に白い木綿糸で刺すのが基本で、菱形を基本とした幾何学模様が特徴です。寒冷地で、厳しい寒さから身を守るための防寒着として発達しました。
東京都六本木のサントリー美術館では、「東こぎん 着物」などこぎん刺しのコレクションを所蔵しています。
結城紬|茨城県
結城紬は、茨城県結城市の周辺で生産される高級織物です。繭を綿状にした真綿から手で紡いだ糸を使用し、手機で織り上げるのが特徴で、すべての工程が手作業で行われるため非常に手間がかかります。その繊細な技術が評価され、ユネスコ無形文化遺産にも登録されました。
紬(つむぎ)とは、生糸に比べて太くて均一ではない紬糸を使い、素朴な風合いを生み出している織物のことです。結城のほかに鹿児島県の大島や沖縄県の久米島など、日本の各地域で作られています。
江戸小紋|東京都
江戸小紋は、江戸時代に流行した着物です。型紙を使って染める型染の一種で、遠目には無地に見えるほど細かい文様が特徴です。庶民的でありながら優れた工芸美が高く評価され、重要無形文化財に指定されています。
加賀友禅|石川県
加賀友禅は石川県金沢市を中心に発展した友禅染で、京友禅と並び、友禅染の代表的な技法の一つです。石川県立美術館では、伝統加賀友禅工芸展を毎年開催しています。
友禅染(ゆうぜんぞめ)は日本の代表的な染色技法の一つで、主に着物や帯を染める際に用いられます。糊を使って色を区切り、絵画を描くように多彩で繊細な模様を表現できることが特徴です。
西陣織|京都府
西陣織は、京都の西陣地区で生産される高級織物です。先に糸を染めてから織る「先染め」の織物で、金糸や銀糸を使った豪華さが特徴です。
帯地や着物地、緞帳などに用いられ、さまざまな織技法があります。
久留米絣|福岡県
久留米絣は福岡県久留米市の周辺で生産される絣織物で、重要無形文化財に指定されています。藍染の綿糸を使ったものが代表的で、素朴で温かみのある風合いが魅力です。
絣の特徴は織る前に糸の一部を染め分けて模様を作る点で、模様の輪郭がわずかにぼやけたような仕上がりが絣独特の味わいを生み出します。久留米のほか、愛媛県の伊予や広島県の備後などでも作られています。
琉球びんがた|沖縄県
紅型裂 桜波連山仕切り文, Public domain, via Wikimedia Commons.
琉球びんがたは、沖縄県で発達した染織品です。漢字では「紅型」と書き、顔料と型紙を使って染める型染の一種で、赤・黄・青などの鮮やかな色彩と大胆な文様が特徴です。
美術館では衣服に限らず、布地だけの裂(きれ)が展示されることもあり、南国風の華やかさを楽しめます。
美術館で染織の作品を楽しむには?
染織は美術館や博物館のほか、工芸品や伝統産業を取り扱うミュージアムでも見ることができます。種類ごとの美しさや質感の違い、多様な技術を見比べてみましょう。
絵柄や文様にもぜひ注目してみてください。松竹梅をはじめとする縁起の良い吉祥文様、青海波や七宝など日本の伝統柄、花鳥風月など自然美の描写、物語の一場面を表す象徴的なモチーフなどを見てみると、その作品に込められた意味や背景をより理解できます。
藍綸子地松鎖模様振袖, Public domain, via Wikimedia Commons.
染織で日本美術にもっと親しもう!
日本の染織は、私たちの生活を彩るだけでなく、日本の美意識や文化を伝える重要な役割を担ってきました。着物や帯といった伝統的な衣服はもちろん、能装束や祭礼の衣装にも染織の技術が用いられ、日本の文化を豊かにしています。
美術鑑賞の場でも染織の数々に目を向けて、日本文化の奥深さに触れてみましょう。
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文筆家(ライター)。芸術文化を専門に取材執筆を行い、アートと社会について探究する書き手。SNSでも情報を発信する他、さつまがゆく Official Podcastでは取材執筆にまつわるトークを配信中。
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