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2025.2.14

『はらぺこあおむし』の絵の魅力とは?子どもがアートを感じられる絵本

「子どもがアートを感じられる絵本」を紹介する連載企画。今回は、世界中で愛されるロングセラー『はらぺこあおむし』を、アートの視点から解説します。

エリック・カール作、もりひさし訳『はらぺこあおむし』偕成社、1976年(画像提供:偕成社)エリック・カール作、もりひさし訳『はらぺこあおむし』偕成社、1976年(画像提供:偕成社)

『はらぺこあおむし』は、「あおむし」が蝶へと成長する過程を、鮮やかな色彩とリズミカルな言葉で描いた絵本です。お子さんがページをめくるたびに、カラフルな世界に引き込まれ、楽しみながら感性を育むことができます。

また、お子さんが「あおむし」の成長に自身を重ねることで、「自分も成長できる」というポジティブな思考力を培うきっかけになるでしょう。

この記事では、『はらぺこあおむし』の特徴や作者の表現に触れながら、アートを感じられるポイントを詳しくご紹介します。気軽に取り組めるアート教育のファーストステップとして、ぜひ参考にしてみてください。

絵本の特徴

エリック・カール作、もりひさし訳『はらぺこあおむし』偕成社、1995年(初版1976年)、p.12,13.エリック・カール作、もりひさし訳『はらぺこあおむし』偕成社、1995年(初版1976年)、p.12,13.

『はらぺこあおむし』の特徴は、豊かな色彩とシンプルではっきりした形です。ほとんどのページが白い背景で、キャラクターや食べ物など、メインの要素が目立つよう構成されています。

こうした表現には、作者のエリック・カールのグラフィック・デザイナーとしての経験が活かされています。23歳の時、彼はドイツから故郷のニューヨークに戻り、ニューヨークタイムズ紙のアートディレクターを務めました。

彼自身も、「わたしのイラストや本の表紙などは、ポスターのように見えるかもしれません」(※)と語っています。

※参考:エリック・カール絵本美術館ほか著『ARTIST to artist 未来の芸術家たちへ 23人の絵本作家からの手紙』東京美術、2017年、p.28.


この絵本の対象年齢は3歳からですが、はっきりした色と形は幼いお子さんも認識しやすいでしょう。乳幼児期の幅広い年齢のお子さんが関心を持てる絵本です。

また、カールの明快な表現は、物語のテーマや意図をシンプルに表現するための手法でもあります。できる限り無駄を削ぎ落とし、絵の配置やストーリーの展開を熟考して制作しているそうです。

彼は、シンプルさを追求すると同時に、筋道が通っていて矛盾がないようにすることにも注意を払っていると言います。

『はらぺこあおむし』は、「あおむし」が成虫になるというストーリーが単純明快で、カールの研ぎ澄まされた表現力が感じられます。

加えて、彼が「あおむし」の成長の過程を丁寧に描いていることにも注目してみましょう。「あおむし」が食べたものを1日ごとに紹介し、少しずつ大きくなる様子を描写することで、読者が成長を追体験できるよう構成されています。

このように、『はらぺこあおむし』は、小さなお子さんにも分かりやすいシンプルさと、読者が「あおむし」に感情移入できる魅力を兼ね備えています。

アートを感じられるポイント

エリック・カール作、もりひさし訳『はらぺこあおむし』偕成社、1976年、p.10, 11(画像提供:偕成社)エリック・カール作、もりひさし訳『はらぺこあおむし』偕成社、1976年、p.10, 11(画像提供:偕成社)

ここでは、作者のカールの制作方法や表現を解説し、『はらぺこあおむし』でアートを感じられるポイントを3つご紹介します。

『はらぺこあおむし』のアート①:鋭い観察力によるリアルな表現

作者のカールは、幼い頃から虫が大好きだったそうです。『はらぺこあおむし』のモチーフはキアゲハで、種類を特定できるほどリアルに描かれています。

カールの絵本には虫が登場する作品がいくつもあり、細かい関節や体毛、羽の模様や動きまで鋭く観察し、見事に描写しています。お子さんが虫に興味を持ち、観察力を養うきっかけにもなる絵本です。

『はらぺこあおむし』のアート②:カラフルなティッシュペーパーによる作画

カールは、特殊なティッシュペーパーにカラフルな抽象画を描き、それをカミソリで切って貼り付けて制作しています。複数の素材を組み合わせるコラージュという技法を使い、ティッシュペーパーを組み合わせたり重ねたりしながら、絵を作っているのです。

『はらぺこあおむし』は鮮やかな色が印象的ですが、透明感や奥行きのある表現はカールならではのものと言えるでしょう。色や模様の重なりに注目して絵本を読んでみると、今まで気づかなかった色彩が見えてくるかもしれません。

『はらぺこあおむし』のアート③:オリジナリティに溢れた色彩

「あおむし」の顔には赤色、蝶の羽には何種類もの色を使うなど、現実とは異なる色彩を自在に扱うカール。

実は、子どもの頃に絵を見てくれた先生のおかげで、自由な画風で制作を続けられたそうです。

カールは6歳の時にドイツに渡りましたが、当時はナチス政権下にあり、絵を描くことは固く禁じられていました。そんな中、カールの絵を評価してくれた先生が、ピカソやマティスなどの作品を密かに見せてくれたそうです。

カールは、特にフランツ・マルクの《青い馬Ⅰ》(1911年)に影響を受け、デビュー作の『くまさんくまさんなにみてるの?』(偕成社、1984年)や、『えをかくかくかく』(偕成社、2014年)で青い馬を描いています。

現実にとらわれない色彩に触れることで、お子さんの柔軟な発想力を育めるでしょう。

『はらぺこあおむし』の子どもたちに寄り添う表現

エリック・カール作、もりひさし訳『はらぺこあおむし』偕成社、1995年(初版1976年)、p.16,17.エリック・カール作、もりひさし訳『はらぺこあおむし』偕成社、1995年(初版1976年)、p.16,17.

ここでは、『はらぺこあおむし』の創作のプロセスに焦点を当て、お子さんが楽しめる作品がどのように誕生したのかを解説します。

作者のカールが表現に込めた思いや背景を知ることで、作品の奥深い魅力に触れられます。

子どもたちが楽しめるアイデア

カールは、パンチで紙の山に穴を開けていた時、『はらぺこあおむし』の原型となる本を食べる虫のアイデアが頭に浮かんだそうです。

その案をもとに作ったのが『A Week with Willi the Worm(虫のウィリーの1週間)』というお話でした。緑色の小さな幼虫が、いくつものフルーツを食べては穴を開け、最後にはチョコレートケーキにまで穴を開けるというストーリーです。

カールは、絵の描き方やストーリーの展開を突き詰めている時も、ひらめきや偶然生まれたことを大事にしているそうです。『はらぺこあおむし』は、まさに彼の柔軟な発想力を活かした作品と言えます。

また、彼は「自分のなかにいる『子ども』を楽しませ、ときにはその子の心をゆたかにしてあげることを目指しています」(※)と語っています。

※参考:エリック・カール絵本美術館ほか著『ARTIST to artist 未来の芸術家たちへ 23人の絵本作家からの手紙』東京美術、2017年、p.28

幼少期を思い出し、まずは子どもの頃の自分に向けて創作するプロセスがあるからこそ、多くの子どもたちが楽しめる作品が生まれるのでしょう。

子どもたちが共感できる『はらぺこあおむし』のストーリー

『はらぺこあおむし』で印象深いシーンといえば、「あおむし」が蝶になる場面です。

しかし、最初の案では、「あおむし」がさなぎになるところでお話は終わっていました。編集者とカールで話し合ううちに、蝶になるシーンが生まれたそうです。

最後の場面が加えられたことで、ちっぽけな「あおむし」が成長するという一貫性のあるストーリーが完成しました。

この絵本は、出版からおよそ50年が経った今も世界中で愛されていますが、人気の理由は、子どもたちが「あおむし」に共感できるからだと言えます。

カールは、この作品がなぜこれほど人気があるのか長い間考え続け、「時がたつにつれ、私は『はらぺこあおむし』は希望についての本なんだと思うようになったのです」(※)と語っています。

子どもたちが、小さな「あおむし」に感情移入して成長を追体験することで、蝶になった時に喜びを感じられるのでしょう。

また、カールは、「家庭生活から学校生活に移る過渡期にいる子どもたちのために本をつくることは、私にとって特別に深い意味を持っています」(※)とも話しています。

彼自身、6歳の時に故郷のアメリカからドイツに移住したため、大きな変化を体験したと言います。そうした経験から、過渡期を少しでも楽にしようと試み、何作ものしかけ絵本を手がけ、「遊べる本」や「読むことのできるおもちゃ」を作ってきたそうです。

※参考:「エリック・カール『はらぺこあおむし』」、白泉社『月刊モエ 2015年11月号 巻頭大特集 100万冊売れた絵本のはなし』、2015年10月、p.24.

特に、『はらぺこあおむし』の対象年齢である就学前のお子さんは、成長に対して不安を感じる時期でもあります。この絵本をくり返し読むうちに、自分も「あおむし」のように成長できるとポジティブなイメージがわいてくることでしょう。

まとめ

この記事では、『はらぺこあおむし』の魅力をアートの視点から解説し、色彩や表現、ストーリーの奥深さを紹介しました。

この絵本は、鮮やかな色やオリジナリティに溢れる表現を通じて、お子さんの観察力や色彩感覚を育むだけでなく、成長する喜びを伝える作品でもあります。

エリック・カールの表現に込められた思いや背景を知ることで、読み聞かせの時間がより豊かになるでしょう。

しかけで遊んだり、外で虫を観察したりと、お子さんの興味に合わせて絵本の世界を広げながら、アートに触れてみてくださいね。

《参考文献》
・エリック・カール作、もりひさし訳『はらぺこあおむし』偕成社、1995年(初版1976年)
・エリック・カール絵本美術館ほか著『ARTIST to artist 未来の芸術家たちへ 23人の絵本作家からの手紙』東京美術、2017年
・門野隆編『月刊モエ 2017年8月号 巻頭大特集「はらぺこあおむし」はなぜ売れたのか?』白泉社、2017年7月
・「エリック・カール『はらぺこあおむし』」、白泉社『月刊モエ 2015年11月号 巻頭大特集 100万冊売れた絵本のはなし』、2015年10月、p.24,25

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浜田夏実

浜田夏実

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アートと文化のライター。アーティストのサポートや、行政の文化事業に関わった経験を活かし、インタビューや展覧会レポートを執筆しています。難しく考えがちなアートを解きほぐし、「アートって面白い」と感じていただける記事を作成します。

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