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2025.2.5
子どもがアートを感じられる絵本7選!対象年齢・作品の魅力も解説
お子さんの感性を育むアート教育は、想像力を養い、自己肯定感を高める効果が期待できる手法として、近年注目されています。しかし、「興味はあるけれど、子どもに教えるのは大変そう」と悩んでいる親御さんもいらっしゃるでしょう。
この記事では、ご家庭で気軽に始められるアート教育の方法として、「子どもがアートを感じられる絵本」をご紹介します。
主に0〜3歳のお子さんを対象とした絵本を7冊厳選し、それぞれの特徴や作者の表現を分かりやすく解説します。絵本の対象年齢やアートを感じられるポイントもお伝えしますので、お子さんの興味に合わせて絵本を選んでみてくださいね。
1.『はらぺこあおむし』
エリック・カール作、もりひさし訳『はらぺこあおむし』偕成社、1976年(画像提供:偕成社)
『はらぺこあおむし』は、「あおむし」が生まれてから蝶になるまでの過程を、豊かな色彩とリズミカルな言葉で表現した絵本です。発売から50年近く経った今でも世界中で愛される、記録的なヒット作です。
①『はらぺこあおむし』の特徴
この絵本の特徴は、シンプルではっきりした形と色とりどりの表現です。ほとんどのページが白い背景で、キャラクターや食べ物など、メインの要素が目立つよう構成されています。
②作者の表現
小さなお子さんの目を引く明快な表現は、作者のエリック・カールがデザイン的な視点で制作していることに由来します。カールはグラフィック・デザイナーでもあり、30代まで広告を中心にデザインの仕事をしていました。
できる限り無駄を削ぎ落とし、物語のテーマや意図をシンプルに伝える彼の手法には、当時の経験が活かされています。
③アートを感じられるポイント
この絵本は、お子さんの観察力を高めるという点でも魅力的です。『はらぺこあおむし』のモチーフはキアゲハで、種類を特定できるほどリアルに描かれています。カールは子どもの頃から虫が大好きで、細かい関節や体毛まで観察し、見事に描写しています。お子さんが虫に興味を持ち、観察するきっかけにもなる一冊です。
様々な色彩を使いながらも、シンプルな表現を追究した『はらぺこあおむし』の世界。本書の対象年齢は3歳からですが、はっきりした色と形は、0歳のお子さんにも認識しやすいでしょう。乳幼児の幅広い年齢のお子さんが関心を持てる絵本です。
2.『だるまさんが』
かがくい ひろし『だるまさんが』ブロンズ新社、2008年(画像提供:ブロンズ新社)
『だるまさんが』は、親しみやすい遊びのフレーズを織り混ぜながら、予想外に展開していくユニークな絵本です。0歳から読めるファーストブックで、瞬く間にミリオンセラーを達成しました。
①『だるまさんが』の特徴
作者のかがくい ひろしが描く意外性に富んだキャラクターは、本書の大きな特徴です。登場するだるまは、手足を動かしたり、意表を突く動作をしたりと、本物のだるまとはまったく異なる姿で表現されています。
「知っているはずのものが、普通とは違う動きをしている」という点が、多くの子どもたちに新鮮な驚きを与えています。
②作者の表現
読者が思わず笑ってしまうユーモラスな表現は、かがくいの「子どもを喜ばせたい、笑わせたい」(※)という思いから生まれました。28年にわたり障がい児教育に携わった彼は、オリジナルの人形劇を作るなど、子どもたちに喜んでもらう技術を磨きました。かがくいの絵本には、当時の経験が大いに活かされているのです。
(※参考:石川真紀子編『月刊モエ 2023年7月号 巻頭特集 かがくいひろしと「だるまさん」』白泉社、p.11)
③アートを感じられるポイント
『だるまさんが』のキャラクターの生き生きとした表現は、卓越したデッサン力に裏付けられていると言えます。だるまが目の前で動いているかのような迫力があるので、ページをめくるたび、お子さんが絵本に引き込まれるでしょう。また、この絵本は、パステルを使った優しい色合いが特徴です。あっと驚く展開でお子さんの発想力を育てるとともに、色彩に興味を持つきっかけとなる作品です。
3.『ねないこだれだ』
せな けいこ 作・絵『ねないこだれだ いやだいやだの絵本4』福音館書店、1969年(画像提供:福音館書店)
『ねないこだれだ』は、夜中を「おばけの じかん」と表現し、夜更かしする子どもの元におばけが現れるというストーリーです。一見怖いお話に思えますが、作者のせな けいこが描くおばけはどこか憎めない魅力があり、50年以上にわたって子どもたちに人気を博しています。
①『ねないこだれだ』の特徴
この絵本は、影絵を連想するシンプルな形が特徴です。これは、せなが用いる貼り絵の技法に関係しています。彼女は武井武雄のもとで学んだ際、影絵を制作する兄弟子に出会い、貼り絵の技法を習得しました。この技術を用いて、小さなお子さんにも分かりやすいシンプルさを追究した表現が生まれました。
②作者の表現
せなが貼り絵で絵本を制作したのは、息子が好きなディック・ブルーナ「うさこちゃん」の続編を自分で作ろうと思い立ったのがきっかけです。「わが子を喜ばせたい」という思いが、彼女の創作の原点となっています。
③アートを感じられるポイント
せなは、包装紙や封筒の裏など、様々な紙を使って制作しています。「既製品の折り紙や千代紙だけを使っても絵がつまらない」(※)と言い、身の回りの素材に常に目を向けています。本書を通してあらゆる紙の表現に触れることで、お子さんの素材に対する関心を引き出せるでしょう。
また、シンプルなフォルムなので、紙をちぎっておばけを作るなど、簡単に工作ができます。絵本の対象年齢は1歳からなので、小さなお子さんも読み聞かせや工作を楽しめますよ。
(※参考:別冊太陽編集部 編『絵本の作家たち 3』平凡社、2005年、p.37)
4.『しろくまちゃんのほっとけーき』
わかやまけん作『しろくまちゃんのほっとけーき』こぐま社、1972年(画像提供:こぐま社)
『しろくまちゃんのほっとけーき』は、しろくまちゃんが自分でホットケーキ作りに挑戦するお話です。ロングセラーの絵本シリーズ「こぐまちゃんえほん」の一冊で、特に0〜3歳のお子さんに人気があります。
①『しろくまちゃんのほっとけーき』の特徴
この絵本は、子どもが絵だけで物語を理解できるよう、工夫されています。フォルムが明快なだけでなく、キャラクターに動きがあるため、何をしているのか分かりやすいのが特徴です。
なお、6色の特色で印刷されているのも、特筆すべきポイントです。スミ(墨)、アイ(藍)、グレー、ミドリ、オレンジ、キイロという、日本らしい落ち着いた色が使われています。
②作者の表現
作者のわかやま けんは、グラフィックデザイナー出身の絵本作家です。無駄を削ぎ落とした表現を追究し、キャラクターのフォルムにもこだわっています。フォルムはこけしを参考にし、洋服にはポンチョのデザインを取り入れました。
③アートを感じられるポイント
わかやまには、「子どもたちに濁っていない美しい色を届けたい」(※)という思いがありました。
リトグラフという版画の技法で制作されたこの絵本は、専用の特色インクを使ったり、1色ごとに版を描き分けて刷り重ねたりと、美しい色を表現するための工夫が凝らされています。
また、絵だけでお話を理解できるため、乳幼児期のお子さんが自ら興味を持ち楽しめる絵本です。子どもたちの日常生活に沿ったストーリーなので、お子さんが感情移入しやすい作品でもあります。キャラクターに自分の体験を重ねるなど、想像力を育める一冊です。
(※参考:世田谷美術館、北九州市美術館、ひろしま美術館、中日新聞社編『こぐまちゃんとしろくまちゃん 絵本作家・わかやまけんの世界』中日新聞社、2021年、p.49)
5.『すてきな三にんぐみ』
トミー・アンゲラー作、今江祥智訳『すてきな三にんぐみ』偕成社、1969年(画像提供:偕成社)
『すてきな三にんぐみ』は、3人組の泥棒が一人の少女と出会い、悪事よりも素敵な行いに目覚めるというストーリーです。出版から50年以上が経っても世界中で愛される、ロングセラーの作品です。
①『すてきな三にんぐみ』の特徴
この絵本は、色の数を限定し、視覚的な効果を生んでいる点に特徴があります。黒、白、黄の3色で描かれた泥棒は、背景の青に溶け込むように描かれ、夜の恐ろしさを印象付けます。また、暗い色と明るい色を対比させており、強調したいポイントが明確です。たとえば、赤色は「おどしの どうぐ」や孤児たちの服に使用され、読者の目を引く効果を生み出しています。
②作者の表現
作者のトミー・アンゲラーは、広告やグラフィックアートも手がけていました。そのため、人々の興味を引く表現力に長けていると言えます。もうひとつ、アンゲラーの作品で特徴的なのは、独創的な物語です。アンゲラーは自身で物語を創作し、ストーリーを絵でどのように伝えるかを突き詰めました。
③アートを感じられるポイント
物語を伝える表現として着目したいのが、ストーリーを転換する際色彩に変化を付けている点です。中盤までは暗い色を基調に展開しますが、少女ティファニーと出会った後は白や緑の背景が登場し、鮮やかな色彩に変わります。少女が泥棒たちの心を変えていく様子が色で示されているのです。
この絵本の対象となる3歳以上のお子さんは、相手の気持ちを考えられるようになる時期でもあります。本書の豊かな色彩表現に触れることで、観察力や共感する力を養うことができます。
6.『かいじゅうたちのいるところ』
モーリス・センダック作、じんぐうてるお訳『かいじゅうたちのいるところ』冨山房 、1975年(画像提供:冨山房)
『かいじゅうたちのいるところ』は、少年マックスの心の動きを、「かいじゅうたちの国」というファンタジーを通して表現している作品です。
子どもの内面を繊細に描きながらも、ドラマチックに展開するストーリーが魅力で、20世紀の絵本の最高傑作と言われています。
①『かいじゅうたちのいるところ』の特徴
本書は、クロスハッチングというペンの技法を使った、細やかな描写が特徴です。線を異なる方向に引いて交差させ、陰影や立体感を表現しています。また、絵や余白のサイズを変化させているのも注目したいポイントです。マックスが異世界に引き込まれ、再び現実の世界に戻って来る様子を、ダイナミックに表しています。
②作者の表現
作者のモーリス・センダックは、卓越した表現力に加えて、瞬間を捉える描写力を持ち合わせています。幼い頃から病気がちだった彼は、10代になると、近所の子どもたちが遊ぶ様子を何時間もスケッチして過ごしました。瞬間を描き出す技術力は、『かいじゅうたちのいるところ』にも活かされ、キャラクターの表情や動きなどを生き生きと伝えています。
③アートを感じられるポイント
この絵本は、子どもたちがファンタジーの世界を通じて、怒りや葛藤に折り合いを付けていく様子が、繊細に表現されています。
本書の対象となる3〜5歳のお子さんは、自分の感情に向き合う機会が増える時期です。作品を通して、お子さんがキャラクターに心情を重ねたり、想像力を膨らませることで、自分の感情への理解を深めることができます。
7.『しましまぐるぐる』
かしわらあきお絵『しましまぐるぐる』Gakken、2009年(画像提供:Gakken)
『しましまぐるぐる』は、生後6か月未満の赤ちゃんが注目する色や形をもとに制作されたベイビーブックです。赤ちゃんが生まれながらに反応する<かお>や、反応がいいとされる「しましま柄」と「ぐるぐる柄」がいっぱいです。
①『しましまぐるぐる』の特徴
本書は、赤ちゃんが認識しやすい色彩や特徴的な形でデザインされています。黒、白、赤などコントラストの強い配色を使ったり、目や口がある「顔」を付けたりと、細かな部分まで工夫されています。
②作者の表現
作者のかしわらあきおは、キャラクター開発・動画制作・ブックデザイン・商品企画など、幅広い分野で活躍するクリエイターです。手に取った人がワクワクできるような作品を制作しています。『しましまぐるぐる』は、双子のママだった編集者が「赤ちゃんに泣き止んでもらいたいと願うママ・パパたちを絵本で助けたい」と思い、作った絵本です。
『しましまぐるぐる』の制作では、赤ちゃんにイラストを何度も見てもらい、反応してくれた色やデザインを絵本に取り入れました。試行錯誤を重ねて、子どもたちが喜ぶ作品に仕上げていった様子がうかがえます。
③アートを感じられるポイント
『しましまぐるぐる』は、赤ちゃんが認識しやすいデザインなので、乳児期から色彩感覚や形を捉える力を養います。
なお、本書は数カ国で翻訳版が出版されているほか、北米で権威ある賞「ナショナル・ペアレンティング・プロダクト・アワーズ」を受賞するなど、海外でも高く評価されています。
幼い頃から質の高い作品に触れることで、お子さんの感受性を豊かに育めるでしょう。
まとめ
この記事では、お子さんがアートを感じられる絵本7作品をご紹介しました。シンプルな形を追究した表現から細やかな描写まで、様々な作品がありましたね。
幼い頃から絵本に親しむことで、形や色に対する感覚を養い、感性を豊かに育む効果が期待できます。
赤ちゃん向けの絵本も紹介していますので、お子さんの興味に合わせて選んでみましょう。
読み聞かせや親子で感想を話すなど、実践しやすい方法から始めて、アート教育を日常に取り入れてみてくださいね。
《参考文献》
・石川真紀子編『月刊モエ 2023年7月号 巻頭特集 かがくいひろしと「だるまさん」』白泉社、2023年6月
・今田由香『トミ・ウンゲラーと絵本 その人生と作品』玉川大学出版部、2018年
・絵本学会機関誌編集委員会『絵本BOOKEND 2019 通巻16号』絵本学会、2019年
・エリック・カール絵本美術館ほか著『ARTIST to artist 未来の芸術家たちへ 23人の絵本作家からの手紙』東京美術、2017年
・門野隆編『月刊モエ 2017年8月号 巻頭大特集「はらぺこあおむし」はなぜ売れたのか?』白泉社、2017年7月
・世田谷美術館、北九州市美術館、ひろしま美術館、中日新聞社編『こぐまちゃんとしろくまちゃん 絵本作家・わかやまけんの世界』中日新聞社、2021年
・福音館書店母の友編集部 編・著『絵本作家のアトリエ2』福音館書店、2013年
・別冊太陽編集部 編『絵本の作家たち 3』平凡社、2005年
・吉田新一『連続講座〈絵本の愉しみ〉 1 アメリカの絵本―黄金期を築いた作家たち―』朝倉書店、2016年
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アートと文化のライター。アーティストのサポートや、行政の文化事業に関わった経験を活かし、インタビューや展覧会レポートを執筆しています。難しく考えがちなアートを解きほぐし、「アートって面白い」と感じていただける記事を作成します。
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