Facebook X Instagram Youtube

STUDY

2025.3.6

ルノワール『ムーラン・ド・ラ・ギャレットの舞踏』はどんな絵?見どころを解説

『ムーラン・ド・ラ・ギャレットの舞踏』は、ピエール=オーギュスト・ルノワールの最も有名で象徴的な絵画の1つです。1876年に制作されたこの絵画は、パリのモンマルトル地区にあった人気のダンスホール、ムーラン・ド・ラ・ギャレットでの賑やかなシーンを描いています。

ルノワール1ルノワール『ムーラン・ド・ラ・ギャレットの舞踏』, Pierre-Auguste Renoir, Le Moulin de la Galette, Public domain, via Wikimedia Commons.

『ムーラン・ド・ラ・ギャレットの舞踏』は、印象派的な光や色の特徴だけではなく、当時のパリの社交の様子を残したことでも価値が認められています。

この記事では、印象派の代表的な芸術家であるルノワールの代表作『ムーラン・ド・ラ・ギャレットの舞踏』について、制作背景や技術などを通じて見どころを解説します!

ルノワールはどんな芸術家?

ルノワール2ピエール=オーギュスト・ルノワール, Renoir, Pierre-Auguste, by Dornac, BNF Gallica , Public domain, via Wikimedia Commons.

ピエール=オーギュスト・ルノワール(1841年2月25日 - 1919年12月3日)は、フランスの画家です。モネやドガなどとともに第一回印象派展に出展するなど、印象派を牽引した人物の1人でもあります。

ルノワールは、生涯のなかで作風が大きく変化したことで知られます。伝統的な芸術教育を受けていたこともあり、サロンに積極的に出展していた1863年 から1870年までは、ロマン派的な暗い絵も印象派的な革新的な絵も描いていました。

1874年に第1回印象派展が開催されたのちルノワールは、モネ、マネ、シスレーなどと集まって制作することもあり、ほかの画家たちと互いに影響し合います。

1870年代後半から次第に伝統的サロンに再挑戦するようになり、1879年には『シャルパンティエ夫人とその子どもたち』などが入選。その後1880年代後半からは、とくにイタリア旅行で見たラファエロの作品に影響を受け、古典主義へ回帰しました。

ルノワール3ルノワール『シャルパンティエ夫人とその子どもたち』, Madame Georges Charpentier (Marguérite-Louise Lemonnier, 1848–1904) and Her Children, Georgette-Berthe (1872–1945) and Paul-Émile-Charles (1875–1895) MET DT49FXD , Public domain, via Wikimedia Commons.

印象派時代の作品においては、ルノワールはモネらの影響を受け、瞬間的な光や色の表現に注力しています。印象派の特徴は、「物体が持つそのものの色」よりも、その場で見られる光や影の効果を重視した点です。つまり、目に見える色彩をそのまま表現することが大切でした。

モネとは異なり、ルノワールは人物への関心が高く、人物が主役となる作品を多く残しています。この記事で紹介する『ムーラン・ド・ラ・ギャレットの舞踏』に描かれている人物は、ルノワールの友人たちがモデルになっている点も興味深いです。

『ムーラン・ド・ラ・ギャレットの舞踏』の絵画的特徴

『ムーラン・ド・ラ・ギャレットの舞踏』の絵画的特徴は、主に以下の3つの点です。
1. ルノワールがこだわった光の表現
2. パレットで絵の具を混ぜない筆触分割
3. 屋外での絵画を制作

絵画特徴①:ルノワールがこだわった光の表現

ルノワール4ルノワール『ムーラン・ド・ラ・ギャレットの舞踏』, Pierre auguste renoir, ballo del moulin del la galette, 1876, 04, Public domain, via Wikimedia Commons.

ルノワールは、他の印象派画家たちと同様に「光」の表現を重視していました。『ムーラン・ド・ラ・ギャレットの舞踏』では、楽しそうに踊る人々に降り注ぐ木漏れ日がとくに印象的です。

踊っている人物の身体には、いくつかの白いもやが映っていますね。全体的に明るいシーンですが、黒いスーツに明るい色でスポット的な光を表現することで、人々が木陰にいることが伝わります。

絵画特徴②:パレットで絵の具を混ぜない筆触分割

ルノワール5ルノワール『ムーラン・ド・ラ・ギャレットの舞踏』, Auguste Renoir - Dance at Le Moulin de la Galette - Google Art Project-x0-y1 , Public domain, via Wikimedia Commons.

印象派が用いた代表的な絵画技法の1つに、筆触分割が挙げられます。筆触分割とは、パレット上で絵の具を混ぜてからカンバスに塗るのではなく、カンバス上で自然色を隣り合わせに配置して色を表現する技法です。

筆触分割は複数の色が知覚に配置されたときに、それらを組み合わせて別の色と認識できる現象を利用しています。絵の具は混ぜ合わせて使うと彩度が下がってしまうため、より明るい作品に仕上げるために印象派が好んで使いました。

たとえば、紫色を表現するために赤と青の絵の具をあらかじめパレットで混ぜておくのではなく、カンバス上に赤と青を隣り合わせに配置するイメージです。印象派の特徴でもある細かく大胆なストロークとともに、独特の躍動感を生んでいます。

『ムーラン・ド・ラ・ギャレットの舞踏』においてもルノワールは色彩の最大限の輝きを表現しようとしました。ピンクや水色など明るく目立つ色がカンバスに加わることで、キラキラ照らすパリの光を感じられます。

絵画特徴③:屋外での絵画を制作

ルノワール6ルノワール『ムーラン・ド・ラ・ギャレットの舞踏』, オルセー美術館, Auguste Renoir - Bal du moulin de la Galette (52257008226) , Public domain, via Wikimedia Commons.

他の多くの印象派画家たちと同じように、ルノワールも屋外で絵画制作を行っていました。目の前の光の色味や即興性を大切にした印象派画家にとって、対象物を観ながら描くことはとても大切でした。

しかし、『ムーラン・ド・ラ・ギャレットの舞踏』は131×175 cmの大作であり外で直接描くことが難しかったため、ルノワールは78 × 114 cmの小さめバージョンも制作しています。

2つの作品は大きさ以外はほとんど同じで、小さいバージョンはオルセー美術館に所蔵される作品よりもやや流動的です。実際、ルノワールにとっての「原画」がどちらであったかは定かではありません。

印象派の屋外での絵画制作についてより詳しく知りたい方は、以下の記事をどうぞ!

『ムーラン・ド・ラ・ギャレットの舞踏』が描かれた時代背景

『ムーラン・ド・ラ・ギャレットの舞踏』に描かれているのは、華やかなパリの社交界です。19世紀後半のパリは芸術・文化の中心でもあり、芸術家を含めた様々な人が交流する都市でした。

パリの社交事情とムーラン・ド・ラ・ギャレット

ルノワール7ムーラン・ド・ラ・ギャレットの舞踏の正面入り口, Le Moulin de la Galette, ou moulin Radet, entrée principale, angle de la rue Girardon. Montmartre, 18eme arrondissement,, PH10664 , Public domain, via Wikimedia Commons.

タイトルにも含まれている「ムーラン・ド・ラ・ギャレット」とは、パリのモンマルトルの丘の頂上にあるカフェです。もとは2つの風車であり、改修して社交場となりました。

店名になっているムーラン・ド・ラ・ギャレットとは、当時25フランだった入場料に含まれていた、飲み物として提供された素朴なパンケーキのこと。

とくに日曜日には、パリの芸術家や若者はムーラン・ド・ラ・ギャレットに集まり、お酒を飲んだり、踊ったりしていました。真面目な社交場の一面もあり、芸術や文化に関する熱い議論が交わされることもあったそうです。

ムーラン・ド・ラ・ギャレットの舞踏での芸術家たちの交流

ルノワール8ムーラン・ド・ラ・ギャレットの入場チケット, Ticket d'entrée au moulin de la Galette, Public domain, via Wikimedia Commons.

ルノワールはムーラン・ド・ラ・ギャレットで繰り広げられるパリの華やかな社交の様子に、強く心を惹かれていました。

「独自の典型的な外観を持つあの小さな世界」に触れようと、ルノワールは半年間ムーランに通いました。1875年頃には、モンマルトルのコルトー通りに大きなアトリエと2つの大きな部屋と絵を保管する倉庫を借りています。

絵の中に登場するのはルノワールの友人や知人で、彼らにポーズをとらせて構図を決めました。『ムーラン・ド・ラ・ギャレットの舞踏』に描かれているのは、当時のルノワールが大切にしていた場所と人々のそのままの姿なのです。

『ムーラン・ド・ラ・ギャレットの舞踏』の見どころ

『ムーラン・ド・ラ・ギャレットの舞踏』の見どころは、「後ろで踊っている人たち」と「パリの昼下がりのきらめく木漏れ日」です。

見どころ:後ろで踊っている人たちに注目

ルノワール8ルノワール『ムーラン・ド・ラ・ギャレットの舞踏』, Pierre auguste renoir, ballo del moulin del la galette, 1876, 05 , Public domain, via Wikimedia Commons.

『ムーラン・ド・ラ・ギャレットの舞踏』の作品を一目見ると、主役は手前で話し込んでいる人のグループに感じられるかもしれません。しかし、タイトルには「舞踏」が含まれていることからも、実際にはダンスシーンを描こうとしていたことがわかります。

構図の左後ろで踊っているカップルたちに注目してみましょう。楽しそうに手を取り合う姿は、いかにもパリらしい洗練された美しさがあります。

とくに女性たちのドレスは明るい色の上にさらに明るい木漏れ日が描かれていることから、暖かく穏やかな昼下がりの空気が伝わりますね。細かい筆のストロークで乗せられた絵の具は、ひらひらと揺れるドレスの柔らかさを際立てています。

踊っている人々のさらに奥には、より多くの人が描かれている点にも注目しましょう。当時のムーランがパリの若者を惹きつけ、豊かな時間を提供していたことが伝わる背景です。

見どころ:パリの昼下がりのきらめく木漏れ日

ルノワール9ルノワール『ムーラン・ド・ラ・ギャレットの舞踏』, Pierre auguste renoir, ballo del moulin del la galette, 1876, 08 , Public domain, via Wikimedia Commons.

ルノワールが描いた『ムーラン・ド・ラ・ギャレットの舞踏』において個人的にもっとも注目したい点は、人々の身体や地面に反射する「木漏れ日」です。

ルノワールは「影は黒ではない。影は常に色を持つ。自然は色しか知らない――黒や白は、色ではない。」と残しています。その哲学が反映されているのが本作です。

一つ一つの光の反射に注目してみましょう。影は、平坦な黒一色で塗られているのではなく、色味の変化で影の強さに強弱があります。もちろんそれらは黒ではなく、青や紫など、様々な絵の具が塗られて構成された影です。

影と同様に、「光」も単純な決して白ではありません。反射する対象の色に呼応し、柔らかく広がる太陽。電気照明やろうそくのような小さく強い光ではなく、木の葉を通してふんわりと当たる光を表現するために、ルノワールは輪郭が不明瞭なグラデーションを作りました。

まとめ:ルノワールが愛したムーランの雰囲気を「体験」できる名作

印象派画家たちは目の前にある瞬間的な光景を描くことを重視しており、ルノワールの『ムーラン・ド・ラ・ギャレットの舞踏』にもその哲学は反映されています。

本作は、ルノワールが足しげく通い、他の芸術家との交流を深めたパリの社交の場を体験できるほど生き生きとしています。鑑賞の際は、後ろで踊る人々や木漏れ日に着目するとより深く作品を楽しめるでしょう。

以上、ルノワールの『ムーラン・ド・ラ・ギャレットの舞踏』の解説でした!

【写真10枚】ルノワール『ムーラン・ド・ラ・ギャレットの舞踏』はどんな絵?見どころを解説 を詳しく見る イロハニアートSTORE 50種類以上のマットプリント入荷! 詳しく見る
はな

はな

イタリア・ローマの大学の美術史修士課程に在籍中。3年半勤めた日系メーカーを退職後、2019年から2年半のスペイン生活を経てフリーライター、日英・日西翻訳として活動するかたわら、スペイン語話者を対象に日本語を教えています。趣味は読書、一人旅、美術館・教会巡り、料理。

イタリア・ローマの大学の美術史修士課程に在籍中。3年半勤めた日系メーカーを退職後、2019年から2年半のスペイン生活を経てフリーライター、日英・日西翻訳として活動するかたわら、スペイン語話者を対象に日本語を教えています。趣味は読書、一人旅、美術館・教会巡り、料理。

はなさんの記事一覧はこちら