STUDY
2022.1.19
【ミケランジェロ】システィーナ礼拝堂『最後の審判』解説&見どころ紹介
システィーナ礼拝堂は、世界最小の国ヴァチカン市国の中にあります。
システィーナ礼拝堂にはミケランジェロの絵画作品の中でも最も有名なものの1つである『最後の審判』があります。
今回の記事では、『最後の審判』がどのような作品であるか、また、何に注目して見るべきかについて紹介していきます。
目次
『最後の審判』徹底解説!
①『最後の審判』はミケランジェロが66歳のときに完成した作品!
Michelangelo, Public domain, via Wikimedia Commons
システィーナ礼拝堂と言えば、『最後の審判』の他にも『創世記』をテーマにした天井画が有名です。
いずれもミケランジェロが依頼を受けて作成したものですが、実はこの2つの作品、同時に描かれたわけではありません。
天井画の『創世記』は1512年に完成したのに対し、『最後の審判』が完成したのは1541年です。
つまり、この2つの作品の間には、約30年もの隔たりがあるということになります。
まず驚くべきことは、ミケランジェロは1475年に生まれ1564年に亡くなっており、15~16世紀の人としてはかなり長生きだったという点です。
『最後の審判』が完成した際にはミケランジェロは66歳だったという計算になるので、かなりの高齢で作業を行っていたことがわかります。
②オリジナルの『最後の審判』は全員全裸だった?
Michelangelo, Public domain, via Wikimedia Commons
実はこのシスティーナ礼拝堂の『最後の審判』は、ミケランジェロのオリジナルでは登場人物はイエス様を含めて全裸で描かれていました。
システィーナ礼拝堂は、ローマ・カトリックにおいて最も重要な場所であるヴァチカンにある礼拝堂です。
全裸の肖像を配置するのはふさわしくないという意見から、1564年に別の画家によって体を部分的に隠す修正が行われました。
しかし、実際のところ天井画『創世記』には、裸の肖像が描かれており、現在においても修正されずにオリジナルの状態を保っています。
なぜ『最後の審判』作成の際には「修正」が行われたのでしょうか。
これは、当時のカトリック教会の歴史的な背景が関係していると考えられています。
ミケランジェロが『創世記』を完成した1512年と『最後の審判』を完成した1541年では、カトリック教会の状況は大きく異なっていました。
というのも、1517年のルターの95ヶ条の命題に端を発した宗教改革の波が、カトリック教会全体を脅かしていたからです。
ヴァチカン市国にあるサン・ピエトロ大聖堂の建設を中心とした豪華絢爛なカトリック教会の出費は、財政負担となって信仰に対する不信感を生むことになりました。
ミケランジェロが『最後の審判』を作成した時代には、カトリック教会は宗教と芸術作品のかかわりについてより神経質になっていたと考えられます。
一方、人間の身体の美しさを信じて芸術表現を追求していたミケランジェロは、「股間を隠せ」という教皇のオーダーを拒みました。
そのため、作品が完成したのちに別の画家によって後から修正が行われたのです。
③『最後の審判』のイエスのモデルは…?
Michelangelo, Public domain, via Wikimedia Commons
システィーナ礼拝堂の『最後の審判』の主役は、なんといってもイエス像です。
中世までのキリスト教政界では、イエス像は決まってやせ細った身体に長く伸びた髪とひげが特徴でした。
しかしミケランジェロの『最後の審判』に描かれているイエスは、若々しく筋骨隆々です。
これは、先述したようにミケランジェロが「人体の美しさ」の表現を追求していたためです。
ミケランジェロの描いたシスティーナ礼拝堂のイエス像には、実はモデルがいます。
モデルと言っても、それは実在した人物というわけではありません。
ミケランジェロは当時のローマで発掘されたばかりであった古代の彫刻『ヴェルヴェデーレのトルソ』をモデルにしたと言われています。
Clockchime, CC BY-SA 4.0, via Wikimedia Commons
ミケランジェロは本来彫刻家であり、自身を画家とはとらえておらず、フレスコ画の作成はシスティーナ礼拝堂の『創世記』が初めてでした。
彫刻が芸術の最高の形式と考えていたミケランジェロは、この古代の彫刻から着想を得てイエスの身体をデザインしました。
この『ヴェルヴェデーレのトルソ』はヴァチカン美術館の中で実物を見ることができます。
ヴァチカンを訪れる際は、システィーナ礼拝堂に入る前に、ぜひこの作品の形をよく見て覚えておいてくださいね。
まとめ:天才ミケランジェロ晩年の作品は逸話の宝庫
ミケランジェロは長生きだったこともあり、その長い人生の中で作品のテイストが変化していきます。
実際に、『最後の審判』はルネサンスからマニエリスムへの過渡期の一例として取り上げられることも多い作品です。
しかし一方で、人体の美しさに対するミケランジェロの探求心は、作品の中に強く表現されています。
気性が荒く頑固者だったミケランジェロのシスティーナ礼拝堂における作品は、逸話の宝庫でもあります。
芸術家の性格や歴史的背景に目を向けながら作品を観ると、違った楽しみ方ができるかもしれません。
美しくて面白い『最後の審判』、ヴァチカン市国を訪れる際はぜひいろいろな角度から楽しんでみてくださいね。

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イタリア・ローマの大学の美術史修士課程に在籍中。3年半勤めた日系メーカーを退職後、2019年から2年半のスペイン生活を経てフリーライター、日英・日西翻訳として活動するかたわら、スペイン語話者を対象に日本語を教えています。趣味は読書、一人旅、美術館・教会巡り、料理。
イタリア・ローマの大学の美術史修士課程に在籍中。3年半勤めた日系メーカーを退職後、2019年から2年半のスペイン生活を経てフリーライター、日英・日西翻訳として活動するかたわら、スペイン語話者を対象に日本語を教えています。趣味は読書、一人旅、美術館・教会巡り、料理。
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