STUDY
2022.1.25
ミケランジェロ初めてのフレスコ画!?システィーナ礼拝堂『創世記』見どころ紹介
ヴァチカン市国はイタリア・ローマの中にある世界で一番小さな国です。
ローマ・カトリック教会の中心地であり、敷地内の宗教施設や美術館には重要な作品が多く保管されています。
そんなヴァチカン市国の中で最も有名な作品の1つが、ミケランジェロの『創世記』です。
今回の記事では、システィーナ礼拝堂にある『創世記』について、作品の解説と見どころについて紹介します。
目次
『創世記』はミケランジェロの初めてのフレスコ画?
Мікеланджело, CC BY-SA 3.0, via Wikimedia Commons
システィーナ礼拝堂の天井に描かれている『創世記』は、旧約聖書に由来したストーリーで構成されています。
ミケランジェロの天井画のメイン部分では、神が世界を作り、人間を作り(アダム)、楽園追放、ノアの箱舟など、今の世界の成り立ちを説明しています。
フレスコ画としての完成度が高いだけでなく、人体の美しさの表現を追求してきたミケランジェロの魂の宿った作品です。
驚くべきことに、この作品を作るまでミケランジェロはフレスコ画の作成の経験がありませんでした。
彫刻家として活動し、晩年まで「自分は彫刻家である」と強く主張していたミケランジェロ。
経験がないにもかかわらず彼がこの天井画の依頼を受けることになったのは、ライバルたちの罠だったと言われています。
同時期にシスティーナ礼拝堂に隣接しているヴァチカン宮殿では、建築家ブラマンテが建物の建設に携わっていました。
ライバルであるミケランジェロを貶めるため、ブラマンテは当時の教皇にあえてこの大仕事にミケランジェロを推薦したと言われています。
結果的にこのブラマンテの策略は失敗に終わります。
フレスコ画の経験がなかったにもかかわらず、ミケランジェロはこの傑作を完成させ、画家としての才覚を誇示することになりました。
教皇と揉めてローマから逃亡したミケランジェロ
Michelangelo, Public domain, via Wikimedia Commons
ミケランジェロは、絵画の仕事に対してあまり積極的ではありませんでした。
なぜなら彼は彫刻家であると自覚しており、最高の芸術の形は彫刻に宿ると信じていたからです。
システィーナ礼拝堂の『創世記』を見ていても、ダイナミックに体をねじった人物像や実線を用いた明確な絵画表現は、どこか「彫刻っぽさ」を感じさせます。
そんな事情もあり、ミケランジェロはこの作品の制作にあたった1508年から1512年までの期間は、あまり上機嫌ではなかったようです。
もともと起伏の激しく情熱的なミケランジェロですが、特に当時の教皇ジュリアス2世とは、幾度となく衝突を繰り返していました。
ある日、ミケランジェロがシスティーナ礼拝堂で作業をしているとジュリアス2世がやってきて、いつ完成するかを尋ねました。
ミケランジェロは「私が終わらせられたときに終わる」と答え、これに対してジュリアス2世は激怒して杖でミケランジェロを叩いたと言われています。
すぐさまミケランジェロは作品を放棄しローマを去り、作品は数年間手つかずのまま放置されることになりました。
その後ミケランジェロはしぶしぶジュリアス2世と和解し、再びローマにもどって作品を完成させるに至りました。
途中から構図を変更?入口側と祭壇側はこんなに違う!
システィーナ礼拝堂の『創世記』の作品の面白い点の1つとして、ミケランジェロが作品の制作の中で明らかに構図を変えている点があります。
今回は、いくつかあるうちの2点、「メイン8場面の簡略化」と「預言者の身体のサイズ」について紹介します。
メイン8場面の簡略化
Snowdog at it.wikipedia, CC BY-SA 3.0, via Wikimedia Commons
ミケランジェロはこの『創世記』を入り口側から祭壇側(『最後の審判』がある方)に向けて制作しました。
よく見てみると、後半に描かれた神の『天地創造』は最初の頃の作品である『ノアの箱舟』に比べてずいぶんと構成が簡略化されていることがわかります。
これは、ミケランジェロが細かい絵を描くことに疲れてしまったからではありません。
システィーナ礼拝堂の天井は18mの高さがあり、『ノアの箱舟』が完成したときにミケランジェロは、下からでは細かい描写ではメッセージが伝わりにくいということを悟りました。
そのため、それ以降の作品はなるべく構図を簡素にまとめダイナミックさを重視し、遠くから作品を見る人の視線に合わせたのです。
確かに、実際にシスティーナ礼拝堂に行ってみると天井画かなり高いため、『ノアの箱舟』のディテールはほとんど見ることができません。
預言者の身体のサイズ
続いて、預言者の身体のサイズについてです。
メインの『天地創造』両サイドにいる10人の人物像が預言者です。
よくこれらの人物を観察してみると、入り口側(画像右側)の預言者に比べて、祭壇側(画像左側)の預言者の身体が大きくなっていると思いませんか?
人物の表現についても、身体を大胆にねじるような構図が増え、よりダイナミックになっているように感じます。
システィーナ礼拝堂の天井は、40m×13mの大きさがあります。
ミケランジェロが制作にかかった期間が5年ということを考慮すると、芸術家の中で作品に対する考え方が変わっていったのも無理はありません。
“彫刻家”ミケランジェロの傑作フレスコ画
ミケランジェロは絵画制作の仕事に後ろ向きだったとはいえ、このフレスコ画の中には彼の芸術に対する哲学を感じることができます。
ルネッサンス盛期の最高傑作とも言われるこの作品を一人で手掛けている間、ミケランジェロはひどい腰痛に悩まされていたと言います。
情熱にあふれる天才が残した『創世記』、見る機会があればぜひミケランジェロの苦労についても想像してみてください。
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イタリア・ローマの大学の美術史修士課程に在籍中。3年半勤めた日系メーカーを退職後、2019年から2年半のスペイン生活を経てフリーライター、日英・日西翻訳として活動するかたわら、スペイン語話者を対象に日本語を教えています。趣味は読書、一人旅、美術館・教会巡り、料理。
イタリア・ローマの大学の美術史修士課程に在籍中。3年半勤めた日系メーカーを退職後、2019年から2年半のスペイン生活を経てフリーライター、日英・日西翻訳として活動するかたわら、スペイン語話者を対象に日本語を教えています。趣味は読書、一人旅、美術館・教会巡り、料理。
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