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2024.1.24
『ミロのヴィーナス』はなにがすごい?作品の特徴と見どころを解説!
ミロのヴィーナスは、古代ギリシャ時代に制作された大理石彫刻です。1820年にギリシャの「ミロス島」で発掘されたことから、「ミロの」ヴィーナスと呼ばれます。
古代ギリシャ彫刻のなかでもっとも有名なものの1つであり、現在はルーブル美術館に所蔵されています。なぜ、両腕のないこの作品が世界でもっとも有名な古代彫刻になったのでしょうか?この記事では、ミロのヴィーナスの歴史背景、特徴、見どころをわかりやすく解説します!
ミロのヴィーナスの歴史背景
ミロのヴィーナス, Public domain, via Wikimedia Commons
ミロのヴィーナスは、ギリシャのミロス島で発見された「ヴィーナス」の彫刻、等身大よりもやや大きい2mほどです。ヴィーナスとは、古代ギリシャ神話に登場する愛の神で、アフロディーテやアプロディーテーとも呼ばれます。(「ヴィーナス」はローマ名、「アフロディーテ/アプロディーテー」はギリシャ名)
ヴィーナスは古代で非常に多く制作されて題材です。『ミロのヴィーナス』以外では、イタリア・ルネッサンスの巨匠ボッティチェッリの『ヴィーナスの誕生』が有名でしょう。誕生したヴィーナスが西風に運ばれ、島に上陸したことによって地上に愛と美が生まれたといわれます。
ボッティチェッリ,『ヴィーナスの誕生』, Public domain, via Wikimedia Commons
「愛」と「美」をつかさどる女神なこともあり、ヴィーナスは一般的に非常に美しい女性として描かれます。恋心や嫉妬心から周囲とトラブルになることが多く、神話の登場人物としてさまざまな物語に登場する女神です。
『ミロのヴィーナス』は、神話の女神にふさわしく堂々とした様子で描かれています。しっかりと前を向く表情や片足を前に突き出した姿勢は、力のある女性であることを伝えていますね。一方で、少しくねらせた体や丸みを帯びた後ろ姿からは優美な美しさが感じられます。
ミロのヴィーナスの特徴
ミロのヴィーナス, Public domain, via Wikimedia Commons
『ミロのヴィーナス』の特徴は、一見不安定にも見える体のバランスです。作品を正面から鑑賞すると、左足から膝、膝から腰、腰から脇腹、わき腹から肩、肩から頭…というように、ジグザクに体の線が構成されていることがわかります。
人体の動きの一場面をとらえた作品にも見えますが、それぞれのポイント(腰や肩など)で過剰に傾いているようにも感じられますね。少しでも傾けば、倒れてしまいそうにも感じられます。しかし、後ろから見ると下半身が完全にヴェールでおおわれていることもあり、不自然さはありません。
ヴィーナスの体をねじった姿勢や前に突き出された左足は、静止した瞬間よりは動作の途中のように感じられます。やや不安定な姿勢で、ヴィーナスがなにをしていたのでしょうか?『ミロのヴィーナス』は、細部を観察すればするほど、謎が深まる面白い作品です。
ミロのヴィーナスの見どころ
ミロのヴィーナス, Public domain, via Wikimedia Commons
『ミロのヴィーナス』の見どころは、失われた両腕です。発見されたときにはすでに両腕ともに欠損しており、ヴィーナスの元のポーズは長年謎に包まれていました。
最新の研究の1つでは、ミロの片腕と思われる「リンゴを持つ腕」が見つかっています。科学的な分析からも一致率が高いため、現在ではこれをもとに元来リンゴを持つポーズをしていたと考えることが一般的になりつつあります。
ヴィーナスが持っていたリンゴはおそらく「不和の黄金のリンゴ」であり、ギリシャ神話の「パリスの審判」という話に登場します。リンゴをめぐって3人の女神ヘラ、アテネ、アフロディーテ(ヴィーナス)が争いを起こす話です。
すでに元来のポーズが解明されつつありますが、ポーズがわからずにいた両腕は、逆説的に『ミロのヴィーナス』の魅力であったと言えます。
美しく信念のある表情で、ヴィーナスがなにを見つめていたのか?それぞれの視点から異なる物語を想像できるからこそ、『ミロのヴィーナス』には人を惹きつける魅力があったのでしょう。
みなさんは、どんなポーズがいいと思いますか?『ミロのヴィーナス』鑑賞の際は、そんな風に想像力を膨らませると楽しいかもしれません。以上、『ミロのヴィーナス』の特徴と見どころ解説でした!
ボッティチェッリの『ヴィーナスの誕生』について詳しく知りたい方は、こちらの記事をどうぞ。
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イタリア・ローマ在住美術ライター。2024年にローマ第二大学で美術史の修士を取得し、2026年からは2つめの修士・文化遺産法学に挑戦。専攻は中世キリスト教美術。イタリアの前はスペインに住んでいました。趣味は旅行で、訪れた国は45カ国以上。世界中の行く先々で美術館や宗教建築を巡っています。
イタリア・ローマ在住美術ライター。2024年にローマ第二大学で美術史の修士を取得し、2026年からは2つめの修士・文化遺産法学に挑戦。専攻は中世キリスト教美術。イタリアの前はスペインに住んでいました。趣味は旅行で、訪れた国は45カ国以上。世界中の行く先々で美術館や宗教建築を巡っています。
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