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2024.11.27
ダミアン・ハーストの死生観とアートを解説!ゲテモノ? 芸術?
イギリスの現代アートを代表するダミアン・ハースト。1つ前の記事ではダミアンの代表作を紹介しましたが、幅広い作風から「何かしらの共通点」を見つけた方も多いのでは。
この記事では、1990年代から現在に至るまで見る人に「芸術とはなにか?」を問い続けるダミアン・ハーストの頭の中に迫ります。
目次
ダミアン・ハーストを読み解く3つのキーワード
イギリスの現代アートを代表するダミアン・ハースト Damien Hirst, Public domain, via Wikimedia Commons.
(1) 死生観(生と死)
ダミアン・ハーストがプロデュースしたレストランPharmacy 2。薬局がテーマ。 pic.twitter.com/PUoLdhGkpQ
— Nori (@zigzagbangbang) September 13, 2016
ダミアン・ハーストがプロデュースしたレストランPharmacy 2。薬局がテーマ。
『A Thousand Years』ではガラスケースの中に牛の頭やハエ、ウジを培養する箱、殺虫灯が配置されています。
ハエが牛の頭に卵を産む
孵化したウジがそれを食べる
ハエとなって飛び回る
最終的に殺虫灯で死ぬ
…という生と死のサイクルが描かれています。
『Pharmacy(薬局)』では、薬品が効く体の部位をシステマチックに並べることで人体を表現しました。この作品についてダミアンは「人は一生懸命治癒してもいずれ死んでしまう」とコメントしています。
さらに『Who’s Afraid of the Dark?(暗所恐怖症は誰ですか?)』では、ハエを樹脂で固めてコーティングすることで「ハエの一生を自分の人生と重ね合わせる」考え方を示しているそうです。
3つの作品の表現方法は違います。しかし、
「生と死は隣り合わせ」
「生と死は連続している」
「生き物はいずれ皆死んでしまう」
「生物が死んだあとの死体や骨を見た人は、そこに生を見出す」
など、ダミアンは「生と死」を考えるきっかけを与えてくれます。
(2) 芸術は常にその時の社会情勢と関係がある
芸術は常にその時の社会情勢と関係があるという考え Damien Hirst sculpture outside the Tate Modern, London, UK, Public domain, via Wikimedia Commons.
芸術家が作品を作るとき、そのときの社会情勢に影響を受けるのは当然のことです。
例えば、日本でも人気が高い画家のミュシャが『スラブ叙事詩』を描いた背景には、故郷のチェコ(スラブ民族)がオーストラリア帝国に支配された歴史があり、スラブ民族の歴史と誇りを表現しようという想いが原動力になりました。
ダミアン・ハーストは、社会情勢に対して自分がどのような姿勢でいるかをアート作品で表現しています。
例えば『Butterfly Rainbow(蝶の虹)』では、新型コロナウィルスにより社会が最も混乱していた時期に、NHS(イギリスの国民保険サービス)や医療従事者に敬意を表す目的で製作されました。
医療用のメスなどを使って世界の都市を表現した『黒いメスの街並み』は、ワシントン、ローマ、北京、ニューヨークなど、ハーストに関わりのある場所、紛争のある場所、政治的に重要な都市を再現することで「生きている都市の肖像」を表現しています。
ダミアンは『Gone but not Forgotten(なくなったが忘れられなかった)』で「芸術作品は人生に関わるものであるべき」とコメントしており、芸術家として積極的に社会情勢に関わろうという姿勢を明らかにしています。
(3) テクノロジーを芸術に取り入れる
現在ART GALLERY Mでは、Damien Hirstの「Spin Painting」シリーズ2作を展示・販売致しております。
— ART GALLERY M (@ARTGALLERYM0516) November 14, 2023
是非お気軽にお問い合わせくださいませ。#ダミアン・ハースト #DamienHirst #現代アート #artgallery pic.twitter.com/4jAqDzehuz
『Spin Painting』では、モーターで回転する大きなキャンバスに絵の具を撒くという方法を使い、「機械に筆を任せることにより偶然性」を芸術に昇華しました。
『THE CURRENCY(通貨)』では「作品を購入した1年後には、NFT(デジタル作品)か物理的作品のどちらかを選択する」という仕組みを通じて、デジタル時代(NFT)における芸術作品の在り方を問いました。
テクノロジーや機械技術を作品の一部に採り入れる姿勢は、まさに現代を代表するアーティストと言えるでしょう。
日本人になじみ深い『桜(Cherry Blossoms)』
日本人にとってダミアン・ハーストは「桜シリーズの展覧会を開催した人」というイメージが強いかもしれません。
2021年7月にカルティエ現代美術財団で「桜」シリーズの個展が開催されたあと、2022年3月から5月には東京・六本木の国立新美術館でハーストの大規模な個展「ダミアン・ハースト 桜」が開催され、24点の桜を描いた作品が展示されました。
高さ3メートルほどの作品が白い壁に並ぶ様子は圧巻で、桜の美しさや華やかさが話題になりました。
SNSから感想を集めてみました。
ダミアン・ハーストの《桜》むちゃ良かった。作品のスケールが観る者に生命力を伝えてて、強さを感じた。メイキングの映像が会場の1番奥にあって、それを見てからまた作品群を堪能できるのもいい。ベーコンやポロックからの影響についても語られていて、納得。国立新美術館にて、5月23日まで pic.twitter.com/XLgwNwMyjz
— 光嶋裕介 (@yusuke_koshima) May 16, 2022
ダミアン・ハーストの《桜》むちゃ良かった。作品のスケールが観る者に生命力を伝えてて、強さを感じた。メイキングの映像が会場の1番奥にあって、それを見てからまた作品群を堪能できるのもいい。ベーコンやポロックからの影響についても語られていて、納得。国立新美術館にて、5月23日まで
ダミアン・ハースト『桜』最終日に滑り込み。なんというかここまで強度のある空虚も珍しい。10分で見終わった。大作ばかりでもミュシャの時のようにグッタリする感じも皆無。ただ…
— 石井公二(『片手袋研究入門』実業之日本社より発売) (@rakuda2010) May 23, 2022
①桜の美しさは量と密度
②花見において桜は二次的な存在である
という点において、見事に桜の本質捉えてんだよな。 pic.twitter.com/hkCZTKdtzd
ダミアン・ハースト『桜』最終日に滑り込み。なんというかここまで強度のある空虚も珍しい。10分で見終わった。大作ばかりでもミュシャの時のようにグッタリする感じも皆無。ただ…
①桜の美しさは量と密度
②花見において桜は二次的な存在である
という点において、見事に桜の本質捉えてんだよな。
妻のリクエストで国立新美術館の企画展示、ダミアン・ハースト「桜」を見てきた。その大きさと色彩の鮮やかさにただただ圧倒される次男と私。 pic.twitter.com/n1GKDeegUS
— もよろん (@kohmoyoron) May 3, 2022
妻のリクエストで国立新美術館の企画展示、ダミアン・ハースト「桜」を見てきた。その大きさと色彩の鮮やかさにただただ圧倒される次男と私。
作品のサイズと美しさに圧倒された方、細かな解説やメイキング映像を見て理解を深めた方、ダミアン・ハーストの作品をきっかけに桜の意味を自分なりに考えた方など、人それぞれの感じ方で味わったようです。
なお、2021年に桜シリーズの版画を発表した際は、ダミアンのNFTプロジェクトに協力した出版社HENIから発売され、ビットコインとイーサリアム(仮想通貨)でも購入できることが話題になりました。
柔軟な発想が、時代を芸術に反映させるダミアン・ハーストらしいですね。
ダミアン・ハーストが語る「9億円バナナ」 芸術の本質とは
ダミアン・ハーストは、学校向けアート普及プロジェクト「アート・イン・スクールズ」で、マウリツィオ・カテランの作品《コメディアン》(バナナを壁にダクトテープで貼り付けた作品)を紹介し、大きな話題を呼んでいます。
この作品は2019年の発表当初から賛否両論を巻き起こし、昨年のサザビーズのオークションでは約9億円で落札されるなど、現代アートの象徴的存在となっています。
ハーストは、この作品を選んだ理由について
「《コメディアン》は、芸術が悪評を受ける理由であり、同時に私が芸術を愛する理由だ」と語り、そのユーモアとアイロニーを高く評価しました。
「本物のバナナを使ったこの作品は、完璧でありながら、まさにバナナそのもの。つまり、それは何かの象徴ではなく、時間とともに腐敗し、交換を余儀なくされる。それが明らかであり、滑稽でありながら、真剣なアートなのです」と、ハーストは芸術の本質を問いかけるように説明しました。
また、ハーストはこの作品とともに、19世紀の画家ウィリアム・ブレイクによる《蚤の亡霊》も推薦しています。
古典と現代のアートを並列させることで、芸術の多様性と普遍性を示唆していますね。
「アート・イン・スクールズ」は、2023年に設立された非営利組織で、イギリスの小中高校に高解像度の「アートスクリーン」を設置し、生徒たちが美術館に行かずとも質の高い芸術作品を鑑賞できる機会を提供しています。
すでに試験運用で成果を上げ全国展開が進められており、創設者のウィントン・ロシターは「すべての子どもたちが芸術の変革力を享受できるようにしたい」と意気込みを語り、文化機関や専門家からも支持を受けています。
ハーストによる《コメディアン》の選出は、芸術の価値や意味を改めて考えさせるものとなり、アートが単なる視覚的な美しさだけでなく、挑発や議論を生む力を持つことを示しているでしょう。
ダミアン・ハーストの作品はどこで買える?
ダミアン・ハーストの作品を購入する方法 Stuckist International Gallery 2003 (shark 1), Public domain, via Wikimedia Commons.
ダミアン・ハーストの作品は大規模なもの以外に、私たちが購入できる価格の作品もあります。
実際アート作品の買取会社を調べてみると、ポリマーグラビュールブロックプリント技法の作品が60万円から70万円前後の値段も見つかります。
参照:絵画買取 ミライカ美術 (ダミアン・ハースト It’s a Beautiful Day3)
ダミアン・ハーストの作品は、下のようなところで購入できます。
● YOUANDART(ユーアンドアート)
● SINGULART
まとめ
ダミアン・ハースト=「ゲテモノ」「センセーショナルな作品」というイメージもありますが、作品に込められたメッセージを読み解くと「自分が生きている意味」を問い直すようなアーティストだということがわかります。
他のダミアン・ハーストに関する記事もご覧くださいね!
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セールスライター。マーケティングの観点から「アーティストが多くの人に知られるようになった背景には、何があるか?」を探るのが大好きです。わかりやすい文章を心がけ、アート初心者の方がアートにもっとハマる話題をお届けしたいと思います。SNS やブログでは「人を動かす伝え方」「資料作りのコツ」を発信。
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