EVENT
2025.2.28
かぼちゃも水玉も。総数約330点が集結する『松本市美術館所蔵 草間彌生 版画の世界―反復と増殖―』
日本を代表する前衛芸術家、草間彌生さん。故郷である長野県松本市にある松本市美術館は、世界最大級の草間コレクションを誇り、草間彌生ファンにとって憧れの聖地のひとつとなっています。
同館が所蔵する草間さんの版画作品に光を当てた展覧会『松本市美術館所蔵 草間彌生 版画の世界―反復と増殖―』が、京都市京セラ美術館にて開催されます。会期は4月25日(金)~9月7日(日)です。
同館所蔵の版画作品に作家蔵の作品を加えた総数約330点が展示される本展。1つ1つの作品を味わうのはもちろんですが、膨大な数の作品に囲まれ、圧倒され、溺れそうになる体験こそ、草間さんの芸術を本当に"堪能する"ことではないか……と考えており、私も展覧会をとても楽しみにしています。
見どころ①松本市美術館から総数約330点が京都に集結
1929年、長野県松本市で種苗業を営む旧家に生まれた草間彌生さん。花園に囲まれて暮らし、スケッチを日課とする少女でした。
1957年、28歳で単身渡米し、ニューヨークを中心に活動。網目でキャンバス全体を覆う「無限の網(ネット・ペインティング)」シリーズをはじめ、独自のイメージを確立してニューヨークでの基盤を固めました。
約16年間の活動の後、体調や心に不調を感じ、1973年に帰国。この時期の草間さんの作品には「死」を想起させるものが多く、本人の抱える苦しみが表れているようです。
《帽子 (I) 》2000年 ©YAYOI KUSAMA【後期展示】
版画作品が登場したのもその頃からですが、華やかで色彩豊かな作品が多く、「死」とは対照的なように見受けられます。
1993年、草間さんは日本を代表する作家として第45回ヴェネチア・ビエンナーレに参加。その前後では版画制作に積極的に取り組み、現在の評価にもつながっています。
本展は、草間さんが長く取り組んできた版画作品を一度に鑑賞できる貴重な機会です。前期・後期で全点が入れ替えられ、総数約330点の作品に浸れば、彼女のユニークな精神世界を追体験できるかもしれません。
見どころ②初めての版画から近年の作品までを網羅
《靴をはいて野にゆこう》1979年 ©YAYOI KUSAMA【後期展示】
草間さんが版画作品を初めて発表したのは、1979年のこと。同時期の作品は死や苦悩をテーマにしていた一方で、版画では華やかなモチーフが彩り豊かに表現されてきました。
モチーフとなったのは、かぼちゃ、ドレス、ぶどう、花や蝶といった日常的なものたち。私たちの暮らしにも馴染みのあるそれらが、草間さんの世界に取り込まれ、網目や水玉の繰り返しによってカラフルに描き出されています。
《朝のかがやき (TWHIOW) 》2007年 ©YAYOI KUSAMA【前期展示】
また、本展では近年の代表作『愛はとこしえ』シリーズの作品も多数紹介されます。黒色のマーカーペンで100号のキャンバスに描いた50点を原画とした、シルクスクリーンの作品です。本シリーズは2004年から約4年をかけて制作されました。
生き生きとした線によって、画面の隅々まで配置されたモチーフ。画面の外にも世界が広がっていくように感じられます。
草間さんの制作はその後、アクリル画『わが永遠の魂』シリーズ、最新シリーズ『毎日愛について祈っている』へと展開していきます。近年の躍進の起点とも言える『愛はとこしえ』シリーズも、本展の見逃せない作品です。
見どころ③草間芸術と版画の共鳴
《波(1)》1998年 ©YAYOI KUSAMA【後期展示】
草間さんは網目や水玉を増殖させ、キャンバスや空間、立体を同じパターンで覆い尽くす表現で、自身の芸術を切り開いた芸術家です。複製芸術である版画との出会いは、必然だったのかもしれません。
ひとつのモチーフを反復し増殖させる草間さんの表現は、視界が水玉に覆われるという幼い頃の幻覚に由来します。作品において水玉や網目を繰り返すと、それらは空間や自分の体にも広がっていき、自分の体が埋没していく感覚があるそうです。
その感覚を「自己消滅」と呼び、絵画や立体作品、パフォーマンスなどさまざまな手法で表現してきました。
《無限》1953年-1984年 ©YAYOI KUSAMA【前期展示】
ご存知のとおり、版画はひとつの作品を複製できるメディアです。草間さんは版画と出会い、画面上または同一空間のイメージの増殖だけでなく、自身の手を離れた増殖までもを可能にしました。
つまり、版画を単なる原画のコピーではなく、草間芸術の思想にぴったり合った手法として捉えることができます。こうした観点で版画作品を見てみると、彼女の知覚や感覚に少し近づけるかもしれません。
本展は、草間さん初の大規模版画展です。シルクスクリーン、エッチング、木版画、ラメなどさまざまな技法による版画作品を見ることができます。
江戸時代の浮世絵の制作技術を継承する版元と共創した富士山の木版画連作も公開されるとのことで、大充実の展覧会になりそう。この機会に京都へ足を運び、草間さんの芸術世界に浸る一日を過ごしてみてはいかがでしょうか。
展覧会情報
松本市美術館所蔵 草間彌生 版画の世界―反復と増殖―
会期:2025年4月25日(金)〜9月7日(日)
◎前期:4月25日(金)〜6月29日(日)
◎後期:7月1日(火)〜9月7日(日)
※前期・後期で全点入れ替え
休館日:月曜日(4/28、5/5、7/21、8/11は開館)
開場時間:10:00~18:00(最終入場は17:30まで)
会 場:京都市京セラ美術館 新館 東山キューブ
展覧会公式サイト:松本市美術館所蔵 草間彌生 版画の世界―反復と増殖―
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美術ブロガー/ライター。美術ブログ「アートの定理」をはじめ、各種メディアで美術館巡りの楽しさを発信している。西洋美術、日本美術、現代アート、建築や装飾など、多岐にわたるジャンルを紹介。人よりも猫やスズメなど動物に好かれる体質のため、可愛い動物の写真や動画もSNSで発信している。
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