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2026.11.9
取材レポート【中之島香雪美術館】東京富士美術館所蔵「魅惑の人物表現」ナポレオンとルイ16世の妹が隣に!?
名画が集まる展覧会。ですが、「名画」があるだけで、「面白い展覧会」になるのでしょうか?
中之島香雪美術館で12月20日まで開催される東京富士美術館所蔵「魅惑の人物表現――人のかたち、心のもよう ジョルジュ・ド・ラ・トゥール、ティントレット、ジャン=フランソワ・ミレー」には、東京富士美術館が誇るコレクションから人物が描かれた絵画が集結しています。
右:ウィリアム・アドルフ・ブーグロー《漁師の娘》1872年 東京富士美術館
東京・八王子市に立地する同館は、日本で有数の優れた西洋美術作品を所蔵する美術館。コレクション形成にはルーヴル美術館の絵画部長を務めた美術史家ルネ・ユイグ氏も関わり、「ルーヴル美術館にあってもおかしくない」とも評される優品が揃っています。
そのコレクションのなかから「人物表現」に焦点を当てた本展も、もちろん名品揃いの展覧会。ルネサンス以降の伝統的な絵画や、印象派・後期印象派など、西洋の巨匠たちが残した作品65点を大阪で鑑賞できます。
左:フランシスコ・デ・ゴヤ・イ・ルシエンテス《ブルボン=ブラガンサ家の王子、ドン・セバスティアン・マリー・ガブリエル》1815-20年頃 東京富士美術館
しかし、会場を歩いていて気づいたのは、名画を見るだけにとどまらない「もっと楽しむ仕掛け」でした。たとえば、こんな意外な共演が実現しています。
意外な人物がお隣さんに!?絵画だから実現した共演
概ね年代順に作品が展示される会場で特に目を引かれたのが、ナポレオンと、ルイ16世の妹であるエリザベート王女の肖像画が隣り合っていたことです。
左:ジャック=ルイ・ダヴィッドの工房《サン=ベルナール峠を越えるボナパルト》1805年 東京富士美術館、右:エリザベート=ルイーズ・ヴィジェ=ルブラン《ルイ16世の妹 エリザベート王女》1782年 東京富士美術館
エリザベート王女は、ルイ16世やマリー・アントワネットと最後まで運命をともにし、フランス革命期に処刑された人物。作品を描いたのは、エリザベート=ルイーズ・ヴィジェ=ルブラン。アントワネットのお気に入りで、彼女の肖像画も数多く手がけた女性画家です。
一方、ナポレオンは革命後に頭角を現し、やがて皇帝となり権力を握った人物。絵画はジャック=ルイ・ダヴィッドの工房によって制作されたもので、ナポレオンの「英雄らしさ」をアピールする作品でもあります。
おそらく相容れない立場の2人なのですが、本展では横並びで展示。その光景を見て、思わず「この2人を隣同士に並べて展示していいんだ!?」と驚いてしまいました。
左:ジャック=ノエル=マリー・フレミー《皇帝ナポレオン1世と皇后ジョゼフィーヌの戴冠式[ジャック=ルイ・ダヴィッドの作品による]》1804-09年頃 東京富士美術館、右:ジャック=ルイ・ダヴィッドの工房《戴冠式の皇帝ナポレオン》1808年頃 東京富士美術館
会ったことがない人物どうしでも、残された肖像画が同じ美術館に収蔵され、横並びで展示されることがある……「歴史の同窓会」とも言えるでしょうか? 運命のいたずらのような出会いを楽しめるのも、本展ならではだと思います。
絵のなかの人物が小さくなっていく?
左:アントニー・ヴァン・ダイク《ベッドフォード伯爵夫人 アン・カーの肖像》1639年 東京富士美術館、アントニー・ヴァン・ダイク《アマリア・ファン・ソルムス=ブランウェルスの肖像》1629年 東京富士美術館
会場を歩きながら、もうひとつ気づいたことがあります。それは、「絵のなかに描かれた人物の大きさ」の変化。古い絵画は人物が大きく、近代に近づくほど人物が小さくなる傾向があるのでは? と感じました。(あくまでも体感の傾向のため、すべての作品で言えるわけではないのですが)
左:ティントレット(ヤコポ・ロブスティ)《蒐集家の肖像》1560-65年 東京富士美術館
ルネサンスやバロックなどの時代には、宗教画や権力者の肖像画など、人物が画面の中心を占める作品が目立ちます。絵を見ていても、画中の人物がこちらを見つめ返し、「目が合う」タイプの作品が多かったです。
右:アルフレッド・シスレー《レディース・コーヴ、ラングランド湾、ウェールズ》1897年 東京富士美術館
一方、時代が下って印象派や後期印象派の作品になると、身近な風景が絵画の主役になるように。人物は風景の一部のように描かれることがあるのですが、ルネサンス期の大画面の肖像画を見た直後だからか、彼らの作品を眺めて「ずいぶん人間が小さくなったなあ」と感じていました。
そして、人物が大→小の間にある、さまざまな「中くらい」の人物が見られるのも、本展の面白さではないでしょうか?
左:テオドール・ジェリコー《突撃するナポレオン軍の将軍》1810年頃 東京富士美術館、右:ジャン=フランソワ・ミレー《鵞鳥番の少女》1866-67年 東京富士美術館
たとえば、ジャン=フランソワ・ミレーの《鵞鳥番の少女》。大きな家畜のお世話はできないけれど、一人前の大人になった気分でガチョウたちの面倒を見てるのかな?
そんな少女に目を引かれつつ、田舎ののどかな雰囲気も感じられ、ゆったりとした時間が流れているよう。主役と舞台がわかりやすく、物語のような一枚なのは、肖像画と風景画の中間的な作品だからかもしれません。
西洋の彫刻×和の茶室
そして展覧会の余韻とともに強く印象に残ったのが、和の空間に展示されたジョー・デヴィッドソンの《ガンジー胸像》です。
ジョー・デヴィッドソン《ガンジー胸像》1931年 東京富士美術館
デヴィッドソンは、写実的な表現を得意としたアメリカ出身の彫刻家。世界各国の指導者や著名人をモデルにした作品が多く、本作では「インド独立の父」として知られるガンジーを表現しました。少し俯いた表情には、優しさや祈り、さらには何者にも屈さない強さを感じます。
人物をそのまま型取りしたかのようなリアリティに溢れるブロンズ像という、西洋美術の王道とも言える本作。それが茶室「中之島玄庵」という和の空間で展示され、洋の東西を超えたコラボが実現しています。
ジョー・デヴィッドソン《ガンジー胸像》1931年 東京富士美術館
そして空間も含めたコラボレーションを見つめているうちに、この展示はもっと多くのものを包含しているのではないか、と思うようになりました。
つまり、本作はアメリカ出身の彫刻家がインド独立の指導者をモデルに制作し、日本の東京富士美術館に収蔵されている作品。それが大阪にある中之島香雪美術館で今回展示されている……と、1つの作品がいくつもの点と点を線でつないでいるように見えたのです。
名画を見る面白さとは?
左:クロード・ロラン(クロード・ジュレ)《小川のある森の風景》1630年 東京富士美術館
さて、あらためて「名画があるだけで、面白い展覧会になるのか?」という問いについて考えてみましょう。
名画はそれ単体で素晴らしいのはもちろんですが、周りにどんな作品があるか、どんな空間に置かれているかによって、発するメッセージが変わるのだと思います。本展を通してさまざまな「意外性」を見つけたことで、「絵画ってこんな切り口でも楽しめるんだ!」と発見がありました。
右:モーリス・ユトリロ《モンマルトル、ノルヴァン通り》1916年頃 東京富士美術館
本展の展示作品は65点。ひとつひとつをじっくり鑑賞するのはもちろん、作品どうしを見比べたり、展示空間との関係を考えたりするのにも、ちょうどよいボリュームです。
展覧会を訪れる際は、目の前の作品だけでなく、その隣や周りにも目を向けてみてはいかがでしょうか? 思いがけない発見が待っているかもしれません。
展覧会情報
東京富士美術館所蔵「魅惑の人物表現――人のかたち、心のもよう ジョルジュ・ド・ラ・トゥール、ティントレット、ジャン=フランソワ・ミレー」
会場:中之島香雪美術館
〒530-0005 大阪府大阪市北区中之島3丁目2−4 フェスティバルタワー・ウエスト 4階
会期:2026年10月10日(土)~12月20日(日)
※版画作品は展示替えあり
◎前期:11月15日(日)まで
◎後期:11月17日(火)から
休館日:月曜日(祝日の場合は開館し翌火曜日休館)
開館時間:10時 ~17時(入館は16時30分まで)
※毎週金曜日は10時~19時(入館は18時30分まで)
展覧会ウェブサイト:東京富士美術館所蔵「魅惑の人物表現――人のかたち、心のもよう ジョルジュ・ド・ラ・トゥール、ティントレット、ジャン=フランソワ・ミレー」
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美術ブロガー/ライター。美術ブログ「アートの定理」をはじめ、各種メディアで美術館巡りの楽しさを発信している。西洋美術、日本美術、現代アート、建築や装飾など、多岐にわたるジャンルを紹介。人よりも猫やスズメなど動物に好かれる体質のため、可愛い動物の写真や動画もSNSで発信している。
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