Facebook X Instagram Youtube

EVENT

2022.11.14

半世紀ぶり?!芭蕉直筆の絵巻も展示される『芭蕉と蕪村と若冲』

芸術の秋は、ぜひとも美術館へ。さまざまな美術館で、力の入った展覧会が始まるからです。

伊藤若冲《鶏図押絵貼屏風》1797年 福田美術館蔵(前期展示)

今秋、京都の福田美術館と嵯峨嵐山文華館が共同で開催するのは展覧会『芭蕉と蕪村と若冲』です。俳聖と呼ばれる松尾芭蕉が自ら俳句と絵をしたためた《野ざらし紀行図巻》をはじめ、松尾芭蕉、与謝蕪村、伊藤若冲の名品を中心に展示されています。

与謝蕪村《茶筵酒宴図屏風》1766年 福田美術館蔵(通期)

俳句の芭蕉と絵画の若冲を結びつけるキーパーソンは、与謝蕪村。蕪村は若冲と同じ年に生まれた江戸時代中期の俳人・文人画家です。芭蕉に憧れ、顕彰する運動を京都で牽引しました。

本展は美術館の展覧会でありながら、絵画だけでなく俳句という文学にまで範囲を広げた内容です。芸術の秋にふさわしく、教養を深め芸術の世界に浸れる展覧会でした。見どころを美術ライターの明菜が紹介していきます。

芭蕉と蕪村

松尾芭蕉《野ざらし紀行図巻》17世紀 福田美術館蔵(通期)

本展で特にじっくり鑑賞したいのが、松尾芭蕉(1644-1694)の《野ざらし紀行図巻》です。芭蕉が江戸を出発し、故郷の伊賀に帰省する旅の様子を描いた作品です。俳聖としての評価が高まるきっかけとなりました。

松尾芭蕉《野ざらし紀行図巻》(部分)17世紀 福田美術館蔵(通期)

《野ざらし紀行図巻》のユニークな点は、俳句などの文字のほか、絵も芭蕉が自ら描いていることです。旅の途中に見た風景を描いたのでしょうか。芭蕉が絵にも興味を持っていたことがわかる貴重な作品です。

プロの画家並みに絵の技量が卓越している……とまでは言い難いですが、必要なモチーフを取捨選択し、独自の美意識によって風景を伝えようとしているように感じました。

展示風景

その場で原本を読み解くのは至難の業ですが、本展では大きな解説パネルも展示され、現代の言葉で《野ざらし紀行図巻》を楽しむことができます。作品とパネルを見比べながら鑑賞しましょう。

本作は少なくとも半世紀ぶりの一般公開。作品が福田美術館に収蔵された経緯や、もうひとつのバージョンである天理本との違いについては、以前の記事で紹介しました。


▼関連記事:幻の作品が再発見!?松尾芭蕉が自筆した《野ざらし紀行図巻》一般公開へ
記事を読む


与謝蕪村 作品展示風景

そんな芭蕉に憧れたのが、与謝蕪村(1716-1784)です。活動時期は芭蕉と重なっていません。蕪村は20代の頃に江戸で俳諧を学び、北関東や東北地方を旅したあと、42歳頃から京都に定住しました。芭蕉の没後50年頃からは「芭蕉の凄さを再評価しよう」というような顕彰の動きが高まり、京都では蕪村が運動を牽引しました。

蕪村はとにかく芭蕉が大好き! なんですね。そんな蕪村さんにお伝えしたいのが、第1会場である嵯峨嵐山文華館において、二人の作品が隣り合って展示されていること。

展示風景

なんと、芭蕉が「ふる池やかはづ飛こむ水の音」と書いた直筆の書と、蕪村が書いた芭蕉の肖像画が隣に! これを知ったら、天国の蕪村さんは喜びに卒倒してしまうのでは……?


蕪村と若冲

伊藤若冲 作品展示風景

伊藤若冲(1716-1800)は京都錦小路の青物問屋「枡屋」の長男として生まれました。一旦は家業を継ぐものの、40歳で隠居し画家に専念します。

奇しくも、蕪村と若冲は同じ1716年生まれ。また、二人とも京都にゆかりがあり、近くに住んでいたことも。直接の交流があったかどうかは分かっておらず、画風も異なりますが、中国人画家・沈南蘋(しんなんぴん)の絵画を学ぶなど共通点があります。もしかしたら意識し合っていたかもしれないですね~。

伊藤若冲《蕪に双鶏図》18世紀 福田美術館蔵(前期)

本展では、若冲が得意とした動物画や数少ない人物画などを鑑賞できます。若冲の絵はちょっと……レベルが高すぎますね。蕪村や芭蕉も味のある絵を描きますが、絵画の専門家ではありません。同じ展覧会に展示されると、どうしても比較してしまいまして……プロの画家として活動していた若冲の凄さは一目瞭然でした。

細かい所まで描き込まれた鶏にも、大胆な省略が効いた絵にも、圧倒的なパワーを感じました。若冲は主役となるものを画面の真ん中に配置する、分かりやすい構図で描くことが多かったそう。高い技量と画家の自信を感じるエピソードです。

【まとめ】江戸時代中期の芸術を体感しよう!

松尾芭蕉 作品展示風景

俳人の芭蕉と画家の若冲。この二人の作品が一つの展覧会で特集されるのは非常に珍しいことです。二人を結びつける、俳人であり文人画家である蕪村という存在もとても興味深いと思います。

つまり、江戸時代中期を代表する文学と美術を一つの展覧会で楽しめるということ。少なくとも半世紀ぶりの公開となる《野ざらし紀行図巻》をはじめ、俳諧と絵画の作品をじっくり鑑賞しましょう!

展覧会情報

芭蕉と蕪村と若冲

会期:2022年10月22日(土)~ 2023年1月9日(月・祝)
○前期:2022年10月22日(土)~11月28日(月)
○後期:2022年11月30日(水)~2023年1月9日(月・祝)

開館時間:10:00~17:00(最終入館 16:30)

休館日:11月29日(火)(展示替)、年末年始(2022年12月30日~2023年1月1日)

会場:嵯峨嵐山文華館、福田美術館
https://fukuda-art

【写真10枚】半世紀ぶり?!芭蕉直筆の絵巻も展示される『芭蕉と蕪村と若冲』 を詳しく見る
明菜

明菜

  • instagram
  • twitter
  • homepage

美術ブロガー/ライター。美術ブログ「アートの定理」をはじめ、各種メディアで美術館巡りの楽しさを発信している。西洋美術、日本美術、現代アート、建築や装飾など、多岐にわたるジャンルを紹介。人よりも猫やスズメなど動物に好かれる体質のため、可愛い動物の写真や動画もSNSで発信している。

美術ブロガー/ライター。美術ブログ「アートの定理」をはじめ、各種メディアで美術館巡りの楽しさを発信している。西洋美術、日本美術、現代アート、建築や装飾など、多岐にわたるジャンルを紹介。人よりも猫やスズメなど動物に好かれる体質のため、可愛い動物の写真や動画もSNSで発信している。

明菜さんの記事一覧はこちら