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EVENT

2023.5.12

色彩に満ちた芸術の世界へようこそ。東京都美術館にて『マティス展』が開催中!

20世紀を代表するフランスの芸術家、アンリ・マティス(1869〜1954年)を知っていますか?20歳を過ぎてから画家の道を志したマティスは、純粋な色彩による絵画様式であるフォーヴィスム(野獣派)を生み出すと、84歳にて世を去るまで鮮やかな色彩と光を探し求めました。

そのマティスの約20年ぶりの大規模な回顧展が、上野の東京都美術館にて開催中です。世界最大規模のマティスコレクションを誇る、パリのポンピドゥー・センターから約150点の作品が来日。油彩やデッサン、それに彫刻などは、すべてマティスの作品という「オール・マティス」の展覧会です。

東京都美術館にて開催中の『マティス展 Henri Matisse: The Path to Color』展示風景。国内での他館への巡回はありません。

法律家の道から画家を志したマティス。モローやシニャックとの出会いからフォーヴィスムへ。

『読書する女性』 1895年冬 ポンピドゥー・センター/国立近代美術館 カトー゠カンブレジ・マティス美術館寄託

1869年、フランス北部の穀物商の一家に生まれたマティス。はじめは法律家の道を目指すも、画家を天職と定めると、1891年にパリへ向かいます。そして画塾でアカデミックな画家のウィリアム・ブーグローに教えを受けると、翌年にはパリ国立美術学校の教授で象徴主義の画家、ギュスターヴ・モローのアトリエに出入りを許されました。

『サン゠ミシェル橋』 1900年頃 ポンピドゥー・センター/国立近代美術館

マティスの絵画を象徴するモチーフである窓が描かれた『サン=ミシェル橋』は、塗り残しがあることから未完であると考えられるものの、構図や鮮やかな配色から数年後のフォーヴィスムを予感させる作品です。

『豪奢、静寂、逸楽』 1904年秋〜冬 ポンピドゥー・センター/国立近代美術館 オルセー美術館寄託

日本初公開の『豪奢、静寂、逸楽』は、マティスのフォーヴィスムへの夜明けともされる一枚。1904年、ポール・シニャックの招きを受けて南仏サン=トロペへ出向くと、新印象派の筆触分割の技法を実験し、光に満ちた理想郷的な風景を描きました。そしてこののちに、筆触を荒々しく変化させるフォーヴィスムの様式へと進むことになります。

内と外の絵画空間をつなぐ。マティスの絵画に見られる「窓」の存在。

『アトリエの画家』 1916年末〜1917年初め ポンピドゥー・センター/国立近代美術館

安定的に制作を続けていたマティスでしたが、第一次世界大戦の勃発を契機に、息子を含む周囲の人々が動員されるなど、孤立した状況に追いやられました。

『金魚鉢のある室内』 1914年春 ポンピドゥー・センター/国立近代美術館

この時期のマティス作品に繰り返し登場するのが、パリのアトリエからセーヌ川の眺めを描いた『金魚鉢のある室内』などに見られる窓です。ここでマティスはアトリエと窓というモチーフを用いることで、内と外を融合させながらひとつの絵画空間を成立させようと試みています。

『白とバラ色の頭部』 1914年秋 ポンピドゥー・センター/国立近代美術館

長女マルグリットをモデルとした『白とバラ色の頭部』は、キュビスムの影響の色濃い作品です。このようにマティスは作風を模索しながら、革新的な造形上の実験を推し進めていきました。

「ニースの時代」から「オダリスク」を超えて。アメリカやオセアニアで獲得した新しい光。

『ニースの室内、シエスタ』 1922年1月頃 ポンピドゥー・センター/国立近代美術館

1920年代にニースへ居を構えたマティスは、それまでより小さなカンヴァスを用いて、小ぶりな肖像や室内情景、また風景画などを次々と制作しました。

『赤いキュロットのオダリスク』 1921年秋 ポンピドゥー・センター/国立近代美術館

この頃、重要なモチーフとなったのが、イスラムのスルタンに仕える女性「オダリスク」です。『赤いキュロットのオダリスク』は、お気に入りのフランス人モデルをイスラムの女性に扮装させ、アトリエを劇場のように飾り付けて描いた一枚です。そこには異国趣味が表れているとともに、どのように人物と空間を違和感なく配するかに注意が払われています。

『夢』 1935年5月 ポンピドゥー・センター/国立近代美術館

1930年代にアメリカやタヒチなどオセアニアへと旅して、新しい光や空間に触れると、さらなる造形上の探求を続けていくようになります。『夢』はアシスタントからモデルとして、1954年より画家の死までマティスの傍にいたリディア・デレクトルスカヤを描いた作品のひとつです。安息する彼女の上半身が画面全体に配置され、造形的だけでなく心理的な充足が示されています。

ニースからヴァンスへ。画文集『ジャズ』と傑作『赤の大きな室内』の魅力。

『ジャズ』(部分) 1947年 ポンピドゥー・センター/国立近代美術館

1943年、第二次世界大戦による空爆の危機の迫ったニースから、近郊の街のヴァンスへと移ると、「夢」荘に居を構え、のちに画文集『ジャズ』として出版される切り紙絵の連作を制作します。そして1946年には最後の油彩連作である、「夢」荘と庭を主題とした「ヴァンス室内画」を描きはじめました。

『黄色と青の室内』 1946年 ポンピドゥー・センター/国立近代美術館

『黄色と青の室内』は「ヴァンス室内画」シリーズの第1作。単純化された背景に、陶製のつぼや果物、また小型円卓に載せた花束といった、マティス絵画ではお馴染みの事物が描かれています。

『赤の大きな室内』 1948年春 ポンピドゥー・センター/国立近代美術館

一方の『赤の大きな室内』とは、同シリーズを締めくくる傑作です。アラベスク細工の円卓と矩形の円卓、そして床に敷かれた2枚の動物の皮など、2つで1組を成すように事物が配されています。筆描きによる壁の白黒デッサンが、あたかも窓のように空間を切り取るのも見どころです。

幅広い領域に業績を残したマティス。4K映像で見たい『ヴァンス・ロザリオ礼拝堂』。

奥:『オセアニア、空』、『オセアニア、海』 ともに1946年 ポンピドゥー・センター/国立近代美術館

このほか、20年以上もかけて制作された彫刻の『背中』のシリーズや、切り紙絵を原画に作られ、アトリエの壁に設置された大作『オセアニア』なども展示。そのうち『オセアニア』には魚やクラゲ、鳥といった、マティスのタヒチ旅行に基づくモチーフが示されています。

左:『ヴァンス礼拝堂、ファサード 円形装飾《聖母子》(デッサン)』 1951年  カトー゠カンブレジ・マティス美術館 右:『告解室の扉』 1950年 ポンピドゥー・センター/国立近代美術館 ニース・マティス美術館寄託

ラストを飾るのは、1948年から1951年にかけて手がけたヴァンスのロザリオ礼拝堂のためのプロジェクトです。資料やドローイングなどが展示されていますが、撮り下ろし4K映像の『アンリ・マティス ヴァンス・ロザリオ礼拝堂』も臨場感満点ではないでしょうか。

特別上映『アンリ・マティス ヴァンス・ロザリオ礼拝堂』

作品は質量ともに網羅的で、少なくとも国内にてこれ以上のマティス展は当面望めそうもありません。また「色彩の魔術師」と呼ばれるマティスの輝かしい作品を前にすると、湧き上がるような生命力とともに生きる喜びすら感じられます。

『マティス展 Henri Matisse: The Path to Color』展示風景。

絵画、彫刻、ドローイング、また切り紙絵から建築のプロジェクトと、幅広い領域において大きな業績を残したマティスの芸術を東京都美術館にて味わってみてください。

『マティス展 Henri Matisse: The Path to Color』特設ショップ。「マティスの気配を感じる暮らし」を提案するべく、さまざまなオリジナルグッズが用意されています。

展覧会情報

『マティス展 Henri Matisse: The Path to Color』 東京都美術館
開催期間:2023年4月27日(木)~8月20日(日)
所在地:東京都台東区上野公園8-36
アクセス:JR線上野駅公園口より徒歩7分。東京メトロ銀座線・日比谷線上野駅7番出口より徒歩10分。京成電鉄京成上野駅より徒歩10分
開室時間:9:30~17:30
 ※金曜日は20:00まで
 ※入場は閉館の30分前まで
休室日:月曜日、7月18日(火) ※ただし、5月1日(月)、 7月17日(月・祝)、 8月14日(月)は開室
観覧料:一般2200円、大学生・専門学校生1300円、65歳以上1500円、高校生以下無料
 ※オンラインでの日時指定予約制
https://www.tobikan.jp
https://matisse2023.exhibit.jp/

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千葉県在住。美術ブログ「はろるど」管理人。主に都内の美術館や博物館に出かけては、日々、展覧会の感想をブログに書いています。過去に「いまトピ」や「楽活」などへ寄稿。雑誌「pen」オンラインのアートニュースの一部を担当しています。

千葉県在住。美術ブログ「はろるど」管理人。主に都内の美術館や博物館に出かけては、日々、展覧会の感想をブログに書いています。過去に「いまトピ」や「楽活」などへ寄稿。雑誌「pen」オンラインのアートニュースの一部を担当しています。

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