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2023.8.28
天才?問題児?ダリの晩年を描いた映画『ウェルカム トゥ ダリ』9月1日(金)全国ロードショー!
20世紀を代表する芸術家、サルバドール・ダリ(1904-1989)。あたためたチーズのように溶ける時計のモチーフで広く知られる画家で、非現実的な光景を絵画で表現しました。現実の物理法則を無視した、夢でしか起こりえないような奇妙な作品に引きつけられ、今なおダリには熱狂的なファンが大勢います。
目次
先がくるんと曲がった長い口ひげが有名な彼について、奇行の数々も語り継がれています。たとえば美術の講演会に呼ばれたのに、まったく関係のない潜水服で登場したことがあります。しかも、そのまま講演を始めて呼吸困難になってしまったそう。
映画『ウェルカム トゥ ダリ』が9月1日(金)より全国ロードショー
(セルフプロデュースもあるとは思いますが、)ユニークな作品や突飛な行動により、自他ともに認める天才となったダリ。美術史に名を残しただけでなく、商業的な大きな成功を収め、いわゆる「遊び」も派手でした。
そんなダリの奇想天外でエキサイティングな晩年を描いた映画『ウェルカム トゥ ダリ』が9月1日(金)より全国ロードショーとなります。美術の映画だからといって、美術の知識はいっさい必要ありません(笑)。
ポップカルチャー全盛期の70年代ニューヨークの空気感を味わえるので、ダリの遊び仲間になった気分で映画を楽しんでいただけたらと思います。美術に明るい人もそうでない人も、刺激を求めるすべての人におすすめしたい作品です!
見どころ①:70年代ニューヨークのエキサイティングな空気感
本作の中心的な舞台となるのが、1970年代のニューヨーク。スペイン出身の画家であるダリは国際的な成功を収めており、もちろんニューヨークでも知らない人はいませんでした。
高級ホテルのスイートルームで、ロックスターやドラァグクィーン、華やかなセレブ、野心に溢れたモデルたちが集い、毎晩のようにダリを囲むパーティーが繰り広げられるのです。
コンプライアンスがありますし、「酒池肉林」以上のことをここで説明するのは控えますが(笑)、映像なのにムンムンとしたにおいが感じられるパーティーです。70年代という時代だからこそのインモラルな景気の良さを感じます。
しかし、パーティーざんまいの日々を送るダリは、個展を開く予定なのにまったく絵を描いておらず……。妻であるガラは大変な剣幕で怒鳴って暴れるし、画廊もダリとガラの支援にお金を使いすぎて疲弊して……。個展まで数日なのに準備が整わないダリが取った行動とは? ある意味でダリらしい発想に、私は大笑いしてしまいました。
見どころ②:ダリとガラの倒錯的な関係
1929年に出会い、1934年に結婚したダリとガラ。本作は70年代を中心に描きつつ、過去の重要な出来事も回想します。2人の出会いのシーンも印象的に描かれるのですが、映像の間の取り方が独特で、おそらく笑いどころのはず……?
ダリにとってガラはミューズであり、ガラ一筋を生涯貫き通しました。パーティーに明け暮れ、若くて美貌が自慢のモデルたちがいくらでも寄ってくるし、ダリも遊んでいるように見えるけれど、本当はガラじゃないとダメなんです。
ガラをモデルにした絵も多く残したダリですが、ガラは単なるモデルを超えた存在。彼女のおかげでインスピレーションを得て、天才的な作品を完成させてきたのです。
そんなガラは若いロックシンガーくんに夢中(笑)。ダリに絵を描けお金を稼げとうるさいのは、若い彼といちゃいちゃしたいからだったりします。もうね、不条理すぎて笑うしかないですよね。
私がこう説明すると、「ガラってなんて酷い女なんだ!」と思われてしまうかもしれませんが、ダリとガラの関係は名前をつけがたいだけで、間違っているわけではないと思うのです。ダリにとってガラはミューズであり、インスピレーションの源泉。ダリの作品も名声も、ガラと出会わなければあり得なかったかもしれません。
作中では、絵を描こうとしないダリに強く意見できるのはガラだけでした。誰もが崇める世紀の天才にも、対等あるいはちょっと下に見て接してくれる人が必要だったのではないか……と、本作を見て感じました。
見どころ③:天才に振り回される純粋な青年
お話は、ダリの人生に巻き込まれた純朴な青年の視点で進みます。アートスクールに通ったものの、自らが画家になる夢を諦めた青年ジェームズが働き始めたのは、ニューヨークにあるデュフレーヌ画廊。
とあるホテルのスイートルームに滞在するダリ夫妻に届け物を命じられたのが、ダリとジェームズの出会いでした。夫妻に気に入られたジェームズは、ダリのアシスタントを務めることに。
圧倒的なカリスマ性を放つダリのそばで働き、パーティーで「酒池肉林」を知ってしまうジェームズ。自身も〈ダリ・ランド〉の一員となり、何もかもが順調に行っているように見えたけれど……?
本作はダリの伝記であると同時に、ジェームズの映画でもあると感じました。きっと素朴な青年なんじゃないかと思うんです……芸術や芸術家に夢を見ていたのではないかと。そんな青年がダリという劇薬を浴びて、人生の軌道が大きく変わってしまう物語でもありました。
ダリのアシスタントを任されるなんて光栄で、有頂天になっても仕方がないことだと思います。しかし、ダリに敬意を抱くジェームズに対し、ダリはジェームズをどのように見ていたのだろう……と、ラスト近くで切なく感じました。
まとめ
ダリの奇想天外な言動や70年代ニューヨークらしい煌びやかな映像が楽しい『ウェルカム トゥ ダリ』。
絵を描くシーンは少ないのですが(笑)、それゆえに一枚の絵を描くことの難しさや複雑さが際立っているように思います。筆を持ってキャンバスに向かうことだけが、絵を描くことではないのだな、と。天才であり続けなければならないダリにのしかかるプレッシャーのようなものも、間接的に感じることができました。
ド派手で刺激的な内容とは対照的な、静かなラストシーンが印象に残り、ふとした瞬間に「あの映画はいったい何だったんだ……?」と考えてしまいます。ぜひ、ダリやジェームズと一緒にパーティーを楽しみつつ、彼らの感傷にも注目していただければ幸いです。
作品情報
ウェルカム トゥ ダリ
9月1日(金)よりヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館、YEBISU GARDEN CINEMAほか全国公開
監督:
メアリー・ハロン(『アメリカン・サイコ』)
出演:
ベン・キングズレー バルバラ・スコヴァ クリストファー・ブライニー ルパート・グレイヴス アレクサンダー・ベイヤー
アンドレア・ペジック withスキ・ウォーターハウス andエズラ・ミラー
2022年/イギリス/英語/98分/カラー/ビスタ/5.1ch/字幕翻訳・渡邉貴子/PG12/
提供:木下グループ 配給:キノフィルムズ © 2022 SIR REEL LIMITED
公式サイト:dali-movie.jp

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美術ブロガー/ライター。美術ブログ「アートの定理」をはじめ、各種メディアで美術館巡りの楽しさを発信している。西洋美術、日本美術、現代アート、建築や装飾など、多岐にわたるジャンルを紹介。人よりも猫やスズメなど動物に好かれる体質のため、可愛い動物の写真や動画もSNSで発信している。
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