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2024.5.16
「伊藤潤二展 誘惑」美人画のような優雅さとグロテスクな要素が見事に融合した世界観が魅力
「伊藤潤二展 誘惑」は、世田谷文学館にて9月1日(土)まで開催されています。この展覧会は漫画家、伊藤潤二の初の大規模個展であり、彼のデビュー作『富江』をはじめ『うずまき』、『死びとの恋わずらい』、『双一』といった代表作の原画が展示されています。
また、この展覧会のために描き下ろされた新作も公開されており、彼の手がけた貴重な原画やイラスト、絵画作品を通じて、伊藤潤二の作品世界の魅力を感じさせること間違いなしの展示となっています。
目次
伊藤潤二作品の魅力
美人画のような優雅さとグロテスクな要素が見事に融合した世界観にあります。彼の物語は、人間の本能的な恐怖心や忌避感を繊細に描き出しながら、日常と非日常、ホラーとユーモアの境界を巧みに行き来する理不尽な展開が特徴です。
ホラー漫画の枠を超えた彼の芸術作品は、その美しさと同時に恐怖を感じさせる、忘れがたい体験を提供します。伊藤潤二作品の魅力を各章ごとに紹介していきます。
序章 JUNJI ITO 〜国際的に熱烈な人気の伊藤潤二作品
伊藤潤二の作品は、その恐怖と美しさが共存する独特なスタイルで、国内外問わず広く愛されています。彼の作画技術は見事であり、典型的な和製ホラーとは一線を画す独自のストーリーラインも人気の理由の一つです。
伊藤自身、アメリカ映画の「ジョーズ」や「エイリアン」から影響を受け、海外の怪奇小説が持つムードあるホラーを追求してきました。彼の作品は国際的にも認められ、多数の海外漫画賞を受賞しており、アジアだけでなくアメリカやフランス、ブラジルなどの欧米圏からも熱烈な招待を受けています。その人気は尽きることがなく、国際的な熱狂が続いています。
第1章 美醜 〜美しさと醜さが共存する独特な世界観
伊藤潤二の描く美男美女は、この世のものとは思えないような妖艶さを帯びています。彼らは時に移り気で、周囲の人々を狂わせることに何のちゅうちょも見せません。内面の醜さが顕在化すると、彼らは恐ろしい異形に変貌します。
1986年、当時歯科技工士だった伊藤は、尊敬する漫画家、楳図かずおにちなんだ「楳図賞」が「月刊ハロウィン」に設立されたことを知り、一作を投稿しました。これが後に彼のデビュー作「富江」となり、美しさと醜さが共存するその独特な世界観と、ユーモラスな描写が織り交ぜられたストーリーは多くの読者に衝撃を与えました。これはその後の伊藤作品の特徴となる要素です。
《死びとの恋わずらい》1997年 ©ジェイアイ/朝日新聞出版
第2章 日常に潜む世界 〜日常の中に恐怖を紛れ込ませるホラー
奇想天外な物語の展開と流れるような筆致で描かれた、唯一無二の世界。このホラーの始まりは常に、平凡な日常の中に静かに潜んでいます。細部までこだわり抜かれたリアリティと、伊藤自身の経験に基づく描写は、観る者の共感を引き出し、想像力を刺激して物語をより身近に感じさせます。
脂っぽいぎとぎとした肌、血がにじむ皮膚、なめくじのようにぬめる質感は、見る者が自分の記憶と結びつけないわけにはいかないほどリアルです。現実世界を精密に描き出したその漫画は、日常の中に巧妙に恐怖を紛れ込ませています。
第3章 怪画 〜観る者に圧倒的な印象を与える緻密な扉絵
物語の扉絵は、まるで異世界への扉のような役割を持っています。各物語のテーマを反映した一枚の絵は、読者の期待を掻き立て、従来の構図のルールを敢えて破ることで感情を高めます。
カラー作品には、透明感を保つために水彩で描かれたものが多い一方で、最近の伊藤作品ではボード上の油絵も頻繁に見られます。様々な筆が使い分けられており、肌の質感や毛の一本一本までこだわりが感じられる緻密さがあります。作中で描かれる異形のキャラクターには、伊藤が幼少期から親しんだ特撮作品の「天然色」が思い起こされる色使いが施されており、これが観る者に空想と現実の境界を行き来させ、圧倒的な印象を与えます。
第4章 伊藤潤二 〜作品群の根底に潜む原体験を振り返る
《伊藤潤二の猫日記 よん&むー》2009年 ©伊藤潤二/講談社
伊藤潤二の作品は、彼の歯科技工士から漫画家への転身というユニークな経歴が色濃く反映されています。その作品群の根底には、「奇妙だけどリアル」という独自の世界観が息づいており、これは彼の原体験に根ざしています。1963年夏、岐阜県中津川市(旧・恵那郡坂下町)で生まれた彼は幼い頃から創造力豊かで、テレビアニメ「悪魔くん」に登場する怪物に魅了されたことから、画用紙で自作の漫画本を作り、積極的に絵を描き始めました。
彼は楳図かずおや古賀新一のホラー漫画に影響を受け、また「ウルトラQ」のような特撮作品やSF小説にも深い興味を持ち続けました。この展覧会では、伊藤潤二の幼少期からの生活を通じて、彼の芸術的素顔に迫ることができます。
伊藤潤二について
1963年、岐阜県中津川市生まれ。歯科技工士として勤務する傍ら、雑誌「月刊ハロウィン」に初投稿した『富江』が「楳図賞」にて佳作を受賞しデビュー。以来、『首吊り気球』『死びとの恋わずらい』『うずまき』ほか発表。
2019年『フランケンシュタイン』でアイズナー賞「最優秀コミカライズ作品賞」を受賞し、2021年『地獄星レミナ』にて「最優秀アジア作品賞」、同作と『伊藤潤二短編集 BEST OF BEST』が「Best Writer / Artist部門」を同時受賞、2022年『死びとの恋わずらい』にて通算4度目の同賞受賞。2023年、アングレーム国際漫画祭にて「特別栄誉賞」受賞。その他、受賞多数。国内外問わず読者から絶大な支持を得ている。
開催概要
伊藤潤二展 誘惑 JUNJI ITO EXHIBITION:ENCHANTMENT
会場:世田谷文学館
開催期間:2024年4月27日(土)~9月1日(日)
所在地:東京都世田谷区南烏山1-10-10
アクセス:京王線 芦花公園(ろかこうえん)「南口を出て右方向」徒歩5分
開館時間:10:00~18:00
(展覧会入場、ミュージアムショップは17:30まで)
休館日:月曜日(ただし4月29日、5月6日、7月15日、8月12日は開館し、翌平日休館)
料金:一般1,000円、65歳以上・大学・高校生600円、小・中学生300円、障害者手帳をお持ちの方500円(ただし大学生以下は無料)
*混雑時は入場制限あり
*5月15日(水)は「国際博物館の日(5月18日)」を記念して入場無料
*オンラインチケットはこちらよりご購入ください
公式サイト:伊藤潤二展 誘惑 JUNJI ITO EXHIBITION:ENCHANTMENT
巡回予定:
会場:兵庫・市立伊丹ミュージアム
開催期間:2024年10月~12月(予定)
〜以後、全国を巡回予定
画像ギャラリー
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東京美術館巡りというSNSアカウントの中の人をやっております。サラリーマンのかたわら、お休みの日には、美術館巡りにいそしんでおります。もともとミーハーなので、国内外の古典的なオールドマスターが好きでしたが、去年あたりから現代アートもたしなむようになり、今が割と雑食色が強いです。
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