EVENT
2024.7.29
【空想旅行案内人 ジャン=ミッシェル・フォロン】色彩とユーモアの魔術師、フォロンの全貌に迫る大回顧展
東京ステーションギャラリーで、「空想旅行案内人 ジャン=ミッシェル・フォロン」展が、2024年7月13日(土)から9月23日(月)まで開催されています。 20世紀後半を代表するベルギーのアーティストであるジャン=ミッシェル・フォロン。本展では、フォロンの初期のドローイングから水彩画、版画、ポスター、晩年の立体作品まで約230点を展覧しています。
目次
フォロン作品に頻繁に登場するリトル・ハット・マンの彫刻(撮影:筆者)
この展覧会は、日本で30年ぶりの大規模な回顧展です。前回の「FOLON展」は1994-95年にBunkamura ザ・ミュージアムなどで開催され、さらにその前は1970年の大阪万博の年にも開催されました。来年、大阪で再び万博が開催されるのに合わせて、本展覧会も実現しました。
ジャン=ミッシェル・フォロンとは?
ジャン=ミッシェル・フォロンは1934年にブリュッセルで生まれ、幼少期から絵を描くのが好きでした。若かりし日に偶然出会ったマグリットの壁画に感動し、絵画の世界に引き込まれたフォロンは、20歳でパリへ向かい、ドローイングを描きながら雑誌にイラストを提供して生計を立てました。
フォロンが雑誌社に送った作品が注目され始めます(撮影:筆者)
1950年代後半にニューヨークの雑誌社に送った絵が注目を集め、TIMEやTHE NEW YORKERなどの雑誌で作品が採用され、アメリカでの成功がヨーロッパへの進出につながっていきます。水彩画、版画、ポスター、挿絵、壁画、彫刻、映画や舞台美術など、様々な分野で活躍しました。
2000年にブリュッセル近郊のラ・ユルプにフォロン財団を設立し、2003年にはユニセフ大使に任命され、レジオンドヌール勲章を受賞します。2005年にモナコで71歳で亡くなりました。
ジャン=ミッシェル・フォロンの魅力
多岐に渡るフォロンのドローイング、彫刻、水彩画、ポスターなどの作品でその魅力を探ります。
独自のモノクロ世界を表現したドローイング
フォロンは、幼少期から絵を描き続け、ブリュッセルの美術学校で「Less is more(少ないほど豊かである)」という格言に影響を受けました。1955年にパリに移住し、ニューヨークの雑誌に作品を送って成功の糸口をつかみました。
フォロンのアーティストとしての原点のドローイング(撮影:筆者)
1965年にニューヨークでソール・スタインバーグと出会い、独自のモノクロ世界を築き上げました。彼のドローイングはユーモラスで、新しい視点を提供し、後の作品にも影響を与えました。フォロンのドローイングは、彼のアーティストとしての原点であり、世界的に評価されています。
無機質な物体に命を吹き込んだ彫刻
1980年代後半から、フォロンはアメリカ先住民やアフリカのトライバルアートに影響を受けた立体作品を制作し始めました。木材や釘など異素材を組み合わせ、新しい物語を創り出しました。
会場では、リトル・ハット・マンも彫刻も登場します(撮影:筆者)
1990年のメトロポリタン美術館の展覧会を機に、彫刻制作に本格的に取り組み、友人の彫刻家セザールの勧めでブロンズや石を使うようになりました。無機質な物体に命を吹き込み、シュルレアリスム風の親しみやすい彫刻を制作しました。
表現の原点でもあった水彩画
フォロンは、1961年に結婚したフランスの画家コレット・ポルタルとの出会いで色彩を取り入れ、1964年から1970年代初めにかけてカラーインクで鮮烈な色彩を探求しました。水彩画にも取り組み、ウィリアム・ターナーの影響を受けた光と透明感のある表現を追求しました。
フォロンにとって、生涯を通じて描き続けた水彩画(撮影:筆者)
イタリアのオリベッティ社のアートディレクター、ジョルジョ・ソアヴィは、フォロンの才能に注目し、様々な仕事を依頼しました。フォロンにとって、水彩画は表現の原点であり、生涯を通じて描き続けた重要な技法でした。
「開かれた絵」を目指したポスター
フォロンは、観る人が自由に入り込める「開かれた絵」を目指し、ポスターを重要なメディアと考えました。オリベッティ社との出会いを契機に、多くの広告デザインを手がけ、企業の宣伝や映画、パラリンピックなどで600点以上のポスターを制作しました。フォロンは、水彩、カラーインク、シルクスクリーンなどを使い、最も効果的な手法を選びました。
彼のポスターには、鳥、矢印、大きな目、リトル・ハット・マンなどのシンボルが使われており、これらのシンボルを通じて観る人を詩的な世界に引き込みます。
展覧会の各章の見どころ
プロローグ 旅のはじまり
展覧会名は、フォロンが制作し実際に使っていた名刺「FOLON: AGENCE DE VOYAGE IMAGINAIRE(フォロン: 空想旅行エージェンシー)」からインスピレーションを得ています。
この章では、フォロンの芸術世界への入り口として、彼が繰り返し描いた日常の変化をテーマにしたドローイングや彫刻作品、そして日常に潜むユーモラスな風景を切り取った写真を通じて、フォロンの思考を探っていきます。
第1章 あっち・こっち・どっち?
旅先で頼りになるはずの道案内の矢印。しかし、フォロンが描く矢印は旅人を混乱させるようにあちこちに向かっています。彼が街や人々を矢印に翻弄される様子を描くのは、自立したアーティストとして前進しようとする強い意志の表れです。
制作初期から登場する“誰でもあり、誰でもない”謎の人物「リトル・ハット・マン」を連れて、フォロンは私たちを空想の旅へと誘います。
第2章 なにが聴こえる?
「耳を澄ませば、世界が動いている音が聴こえてきます」とフォロンは言います。彼の耳に届いていたのはどんな音だったのでしょうか。
柔らかな色使いの水彩画と自由なドローイングのタッチとは対照的に、彼が描く世界は穏やかではありません。フォロンの作品に込められた静かな抗議のメッセージに耳を傾けてみましょう。
第3章 なにを話そう?
フォロンは、観る人が絵と対話することを望んでいました。彼は、世界の「いま」を語りかける手段として、企業や公共団体の依頼で制作した600以上のポスターを絵画作品と同じくらい大切にしていました。
この章では、これらのポスターやアムネスティ・インターナショナルの依頼で制作した『世界人権宣言』の挿絵原画を通じて、優れたコミュニケーターとしてのフォロンの魅力を紹介していきます。
1枚1枚にメッセージ性がある『世界人権宣言』の挿絵原画(撮影:筆者)
エピローグ つぎはどこへ行こう?
「私はいつも空を自由に飛び、風や空と話してみたいと思っています」と語っていたフォロンは、軽やかに世界を旅し、新しい体験や出会いを大切な創作のエネルギーにしていました。
「エピローグ つぎはどこへ行こう?」の会場風景(撮影:筆者)
彼は、この世界の厳しい現実を静かに告発しながらも、その美しさを表現しようとしました。本展の最後では、フォロンが愛した海と水平線を描いた水彩画や、旅先でのスケッチブック、メール・アートなどを展示します。
さいごに
1960年代、フォロンの作品が「ザ・ニューヨーカー」や「タイム」の表紙を飾った頃は、個性的でコンセプチュアルなイラストレーションが求められる時代でした。カラー写真の進化により、リアルなイラストの需要が減少し、独創的な作品が注目されるようになりました。
アメリカでは、ソール・スタインバーグが1950年代に洒脱なイラストレーションで人気を集め、フォロンもその影響を受けて独自のスタイルを確立し、世界中に発信しました。こうした時代背景の中、フォロンの個性的なイラストレーションは多くの人に受け入れられました。
フォロンが自ら名乗っていた「FOLON: AGENCE DE VOYAGE IMAGINAIRE(フォロン: 空想旅行エージェンシー)」の肩書き
開催概要
展覧会名 空想旅行案内人 ジャン=ミッシェル・フォロン
会期 2024年7月13日(土)〜2024年9月23日(月・振)
休館日 月曜日(ただし7月15日、8月12日、9月16日、9月23日は開館)、7月16日(火)
会場 東京ステーションギャラリー
〒100-0005 東京都千代田区丸の内1-9-1(JR東京駅 丸の内北口 改札前)
開館時間 10:00~18:00(金曜日~20:00)*入館は閉館30分前まで
入館料 当日券:一般1,500円/高校・大学生1,300円/中学生以下無料
*障がい者手帳等持参の方は200円引き(介添者1名は無料)
アクセス
JR「東京駅」丸の内北口 改札前
東京メトロ丸の内線「東京駅」から徒歩3分
東京メトロ東西線「大手町駅」から徒歩5分
東京メトロ千代田線「二重橋前駅」から徒歩7分
展覧会HP 空想旅行案内人 ジャン=ミッシェル・フォロン
画像ギャラリー
あわせて読みたい
-
EVENT
2024.09.11
【太田記念美術館】『浮世絵お化け屋敷』の後期展示の見どころレポート!幽霊と妖怪を描いた浮世絵の名品が大集合
はろるど
-
EVENT
2024.08.20
風景をシンプルに描いたlandscape作品で大人気!田村久美子の個展「YOURSCAPE ~ あなたが見るセカイ〜」が、南青山イロハニアートスタジオにて開催!
はろるど
-
EVENT
2024.07.24
六本木ヒルズで一狩り行こうぜ!「モンスターハンター20周年-大狩猟展-」開催
新 麻記子
-
EVENT
2024.07.24
【東京都美術館】大地に耳をすます 気配と手ざわり
はろるど
-
EVENT
2024.07.23
【京都7/19〜】モネのように光に魅せられた画家の大規模回顧展『奥村厚一 光の風景画家 展』
明菜
-
EVENT
2024.07.02
京都7/13〜『嵯峨嵐山かちょうえん』鳥の声を聞きながら絵画鑑賞!
明菜
このライターの書いた記事
-
STUDY
2025.02.13
【東洲斎写楽の正体?】阿波の能役者、斎藤十郎兵衛のもう一つの顔
つくだゆき
-
STUDY
2024.12.30
【スラヴ叙事詩】ミュシャが描いたスラヴ民族の希望と独立の物語
つくだゆき
-
EVENT
2024.12.09
すみだ北斎美術館『読み解こう!北斎も描いた江戸のカレンダー』江戸の粋な暦の世界―隠された「大小」を解読する江戸の楽しみ
つくだゆき
-
EVENT
2024.11.13
【世田谷文学館】漫画家・森薫と入江亜季展|アナログの手描きにこだわる二人の漫画家展
つくだゆき
-
STUDY
2024.10.28
フェルメールブルーと広重ブルー?理想の青への長い道のり
つくだゆき
-
EVENT
2024.09.28
【蕗谷虹児展】少女たちを魅了したモダンガールと詩情あふれる美の世界
つくだゆき

東京美術館巡りというSNSアカウントの中の人をやっております。サラリーマンのかたわら、お休みの日には、美術館巡りにいそしんでおります。もともとミーハーなので、国内外の古典的なオールドマスターが好きでしたが、去年あたりから現代アートもたしなむようになり、今が割と雑食色が強いです。
東京美術館巡りというSNSアカウントの中の人をやっております。サラリーマンのかたわら、お休みの日には、美術館巡りにいそしんでおります。もともとミーハーなので、国内外の古典的なオールドマスターが好きでしたが、去年あたりから現代アートもたしなむようになり、今が割と雑食色が強いです。
つくだゆきさんの記事一覧はこちら