EVENT
2024.9.30
田村久美子個展「YOURSCAPE~あなたが見るセカイ〜」美しさと生命力に満ちた風景を描き出す世界。
ロンドンにてアートを学び、帰国した後に油絵や平面アートの可能性を広げながら、主に自然をモチーフとした作品を油絵具にこだわりをもって描き続ける田村久美子。
美しく瑞々しい色彩と、時にポップでありながら、見る人それぞれの心象を投影するような絵画は、とても心惹かれるもの。田村の最近の個展のレポートとともに創作活動をご紹介します!
目次
個展「YOURSCAPE ~あなたが見るセカイ~」を開催!
「YOURSCAPE ~あなたが見るセカイ~」での田村久美子(撮影:吉村健)
田村は今年9月21日(土)〜9月23日(月・祝)、東京・南青山のイロハニアートスタジオにて、個展「YOURSCAPE ~あなたが見るセカイ~」を開きました。
同展では新作の「landscape」シリーズ7点に加え、近作の「greenscape」シリーズなど、計15点の絵画が公開。会場のスタジオは窓から外の景色が見えたり、観葉植物が置かれたりと、まるでリビングルームのようなスペースということもあって、ともすると入りにくいイメージのあるギャラリーとは違った親しみやすい雰囲気に包まれていました。
「YOURSCAPE ~あなたが見るセカイ~」展示風景(撮影:はろるど)
会場に立ち入った瞬間、まず感じられたのは、美しい色彩を伴う絵画に囲まれると、独特の開放感や浮遊感を覚えたことです。ちょうど山のてっぺんに登って、深呼吸しながら遠くの景色を眺めているような気持ちに近いかもしれません。日頃の生活や仕事での疲れが吹き飛び、気持ちがすっと晴れて、心から「来て良かった!」と思えました。
凹凸のある油絵具の画肌にも注目!代表作「landscape」シリーズの魅力とは?
「YOURSCAPE ~あなたが見るセカイ~」展示風景(撮影:はろるど)
一つ一つの作品を見ていきましょう。「landscape」シリーズとは、地平線が2分割した画面に都市や自然の光景を描いた絵画です。シンプルな構成が目を引くとともに、地平線を通して絵画空間に引き込まれつつ、カンヴァスを超えて広がっていくような魅力が感じられます。
新作の「green ocean 2024』は、中央のラインを挟んで明るい水色と黄緑色の色彩が広がる絵画です。水色の部分は大海原、また黄緑色の部分は緑に覆われた大地を連想させます。そして絵の質感、つまり画肌にも目を凝らしてください。水色は油絵具がやや薄く塗られてマットであるのに対し、黄緑色は油絵具の厚みを感じさせるような凹凸のある質感を見ることができます。
真ん中のラインにも要注目です。一見、同じ色で塗られていると思いきや…?実は金色も用いられていて、光が当たったり、横から角度を変えて見るときらきらと輝き出すのです。そこには太陽のきらめきが込められているように見えました。
作品を見た人が自由に風景を思い浮かべて欲しい
近作の「greenscape」とは、土地の色や匂いなど、山や樹々がつくりだす形によって生まれる風景の輪郭に着想を得て、緑の風景を緩やかな曲線を重ねながら描き出したアクリルによるシリーズ。『greenscape sea 202304』の揺らぐ白いラインは、まるで穏やかな波のようです。しばらく見ていると、良く晴れた日の海の砂浜に立ち、さざなみを前にしている時のような気分にさせられます。
『The starry night』は、今回の個展で初お披露目となった「landscape」シリーズの新作です。タイトルのThe starry nightと聞いて連想するのは、ゴッホの代表作の一つとして知られる「星月夜』。そして『The starry night』においても、上の画面に小さなドットのような星が描き込まれていることが分かります。
油絵のマチエール感を好む田村は、他の材料を入れることなく、筆だけで凹凸感のある質感を表現しています。写真や図版ではなかなか伝わらない絵具の物質感があるのも、作品の大きな魅力と言えるでしょう。
「YOURSCAPE ~あなたが見るセカイ~」展示風景(撮影:はろるど)
田村はあえて私が見てる世界ではなく、作品を見に来た人が自由に世界を思い浮かべたり、風景を連想して欲しいとして、個展のタイトルを自らの造語である「YOURSCAPE~あなたが見るセカイ~」と名付けました。
なお田村は今回の個展の出品作のほかに、花や木を目に見える形だけでなく、目に映る印象として線や色を読み解き、カンヴァスに描きだした「nature」を制作。また浮世絵のモチーフを援用しつつ、独自解釈によって現代の風景と交錯させた、現代版UKIYOEとも呼べる「pop ukiyoe」も描いています。
「アート」を学ぶべくロンドンへ渡った田村。国内のアートフェアや「黒島・福浦アートプロジェクト」にも参加
tagboatartfair2023 展示風景(提供:田村久美子)
長野県で生まれ、幼い頃から絵を描くのが好きだった田村。18歳の時に美術予備学校に通うために上京すると、日本大学芸術学部美術学科に進学します。ただ在学中に「ここはゴールではない」と感じ、より視野を広げるため「美術」ではなく「アート」を学べくロンドンを目指しました。
フレンドリーな仲間とシェアハウスで過ごしながら、絵と英語を学ぶと、水を得た魚のようにロンドンのアートシーンにどっぷり浸かります。ロンドンはアートに対して寛容で、アートと人々が近いことにもシンパシーを覚えました。
渡英中にアーティストとして活動をはじめると、2005年には帰国。そこから東京を中心とするギャラリーで個展を開きながら、国内外のアートフェアに出展して経験を積み重ねます。
2016年には「EnoR(エノアール)」を設立し、ホテルやレストラン内のアートワークを手がけると、千葉県印旛郡栄町のプールサイドを丸ごと美術館にする「SAKAE ART POOL PROJECT」に参加。また町田駅前のブレストクリニックにホスピタルアートとして作品を納入するなどして活動の幅を広げています。
2023年には能登半島での「黒島・福浦アートプロジェクト」に参加。能登金剛最南端の入り江に位置する福浦(石川県志賀町)にて、港に面した民家の障子をカンヴァスに見立て、現地での滞在を通して生み出した風景画を制作しました。
地元の方々との交流を深め2年目へと続く予定でいた矢先、元日に発生した能登半島地震によりプロジェクト自体が休止します。中でも黒島地区は地震により甚大な被害を受けたため、海辺の景色そのものも変わってしまいました。しかし「黒島・福浦アートプロジェクト」に参加した田村を含む6名のアーティストとスタッフ、それに住民の皆さんは、再来年の再スタートを目指しています。
田村はプロジェクトへの参加と再スタートに際して、「アーティストとして作品を嫁がせてもらった者として、この地はもう身内です。この場所に導かれてから、何が出来るだろうとずっと考えていますが、時代や災害を繰り返すこの世界で、変わっていくことに寄り添うこと。届いた声に寄り添うことしかできなくても、その声に寄り添うことを続けたいと思います。アートにも出来ることがあるのを知っているので。」と意気込みを語りました。
改めて田村と接していると、自らの作品のコンセプトや制作技法を分かりやすい言葉で語りつつ、真剣な眼差しでアートプロジェクトに対して熱い思いを寄せるなど、アーティストとしての仕事に誇りを持っていることがひしひしと感じられます。
一方で時にジョークを交えながら、常に笑顔を絶やさずに話す様子は、とてもフレンドリーでいつも明るいもの。田村の絵画の美しい色彩は、田村の優しい心の色が反映されているように思えました。
「イロハニアートSTORE」にて作品の販売もスタート!
「YOURSCAPE ~あなたが見るセカイ~」にて。左が田村久美子(撮影:吉村健)
最後に田村の絵画と出会える展示やサイトについてご紹介します。まずはビックなニュースです。「アートをもっと身近に!ユニークなアイテムを取り入れて、毎日をもっとクリエイティブに!」をコンセプトに、イロハニアート編集部が厳選したおすすめ商品を紹介する「イロハニアートSTORE」にて、田村の作品の販売がスタートしました!
「イロハニアートSTORE」
https://irohaniart.base.shop
「イロハニアートSTORE」では今回の個展の作品も販売。ぜひサイトをチェックしてみてください。
10月にはタグボートと銀座三越がコラボして、今年も開かれる「ART FAIR GINZA」に出展。作品は会場だけでなく、オンラインでも販売が予定されています。
「ART FAIR GINZA tagboat × MITSUKOSHI」
場所:銀座三越新館7階(東京都中央区銀座4-6-16)
会期:2024年10月16日(水)~ 10月21日(月)最終日午後6時終了
https://www.tagboat.com/artevent/artfair_GINZA/
また「アートと暮らす。」を謳うFAVORRIC(フェイバリック)からアート作品のアイテムが販売中です。近年制作された『greenscape “kyusyu scenery 202101”』や『Decipher 202108』などのモチーフを取り入れた、ルームサンダルやクッションカバー、フラットサブバックなどを購入することができます。
「FAVORRIC(フェイバリック)」
https://favorric.com/collections/enor-kumiko-tamura
右、田村久美子、左、吉村健。田村久美子のアトリエにて(撮影:吉村健)
なお田村は「イロハニ作家対談コラム」にも登場。これまでの活動や今後の夢などについて大いに語ってもらいました。あわせてご覧ください!
関連記事:世界をシンプルに捉えたい!アーティスト、田村久美子の抱く夢とは?【イロハニ作家対談コラム】
田村久美子 Artist/美術作家 EnoR (エノアール)was established by Kumiko Tamura in 2016.
ホームページ:https://www.kumikotamura.com/
インスタグラム:https://www.instagram.com/enor.tokyo/
フェイスブック:https://www.facebook.com/kumiko.tamura.90/
画像ギャラリー
このライターの書いた記事
-
EVENT
2024.12.02
【大阪】『歌川国芳展 ―奇才絵師の魔力』が開催へ。国芳の名品が大阪中之島美術館に大集結!
はろるど
-
EVENT
2024.11.26
【京都】生誕120年 人間国宝 黒田辰秋―木と漆と螺鈿の旅―日本の木漆工芸を革新した巨匠の世界とは?
はろるど
-
STUDY
2024.11.25
埴輪(ハニワ)とは?成立と発展・美術的な楽しみ方・名作5選紹介!
はろるど
-
STUDY
2024.11.19
シルクロードの終着点「正倉院」に集まったアートとは?歴史や作品を解説
はろるど
-
EVENT
2024.10.24
日本科学未来館『パリ・ノートルダム大聖堂展』タブレットで世界遺産をタイムトラベル!
はろるど
-
EVENT
2024.09.27
国立西洋美術館にて『モネ 睡蓮のとき』が開催!〈睡蓮〉に囲まれながらモネの世界へと没入
はろるど
千葉県在住。美術ブログ「はろるど」管理人。主に都内の美術館や博物館に出かけては、日々、展覧会の感想をブログに書いています。過去に「いまトピ」や「楽活」などへ寄稿。雑誌「pen」オンラインのアートニュースの一部を担当しています。
千葉県在住。美術ブログ「はろるど」管理人。主に都内の美術館や博物館に出かけては、日々、展覧会の感想をブログに書いています。過去に「いまトピ」や「楽活」などへ寄稿。雑誌「pen」オンラインのアートニュースの一部を担当しています。
はろるどさんの記事一覧はこちら